目白からの便り

開拓者としてのキャリア

今週急に気温も下がり、ついこの間まで暑さをどのようにしのぐのかと思案していたことを思い戸惑う。

信州大学での講義も今週から始まった。新しく日本の大学で講義する留学生にとって、将来、日本での雇用の機会をどのように実現すべきかの講座に取り組んでいる。今年の特徴は受講している留学生がまだ来日できずに、カイロやモスクワの自宅からWEBを通じて受講している。年内には来日できる見込みとのことであるが、例年の10月とは異なる環境での秋季講座となる。

留学生にとって、日本での就職にあたってのプロセスをどのように対処したらいいのかはとても悩ましいところであろう。具体的な選考過程で企業が求める面接、エントリーシートやSPIなどの適性検査は日本人学生と同じように課せられその対策に苦労する。選考のテクニックや、適性診断の対策はしたほうが本人たちの安心感にはつながる。だが企業人事の実務担当が知りたいのは、留学生がなぜ日本で学ぼうと思ったのか、なぜ日本企業に自分のキャリアを委ねようと考えているのか、日本の雇用慣行をどのように捉えて自分はどこまで折り合いがつけられるのか、そうした留学生個々人の人間的な想いを人事担当者が知りたいという実情も、日本の産業政策や人口予測などの社会・経済環境変化と日本的人事管理システムの構造を丁寧に説明していきながら伝えたい。

日本の人口が今後急激に縮小していくことは、統計データからも明らかである。1971年から1974年に生まれた「団塊ジュニア世代」が50歳前後になる。この人口のボリュームゾーンがあと15年で生産年齢の65歳を超えてくる。この後には同じような人口の山が存在せず、人口構造は不安定なT字型に縮小し、高齢化比率が高まる。彼ら留学生とどのように企業の中、社会の中で共生できる仕組みに転換できるか、企業システムを調整していく残された時間も残り少ない。

講義で、ひとりの留学生から質問を受ける。「日本の企業は、私たち留学生を受け入れたいと考えているのか不安である」と。経営者や人事担当は少子高齢化とダイバシティー対応をしなければ事業継承が困難になる危機感を持っているが、そのシステム調整にもう少し時間がかかると苦悩している。私は彼女にこう答えた、「皆さんはこれから日本の人口構成が変化する中での開拓者的な存在だと思う。その調整過程の中で開拓者として困難な環境も、窮屈な思いも受け入れることになる。ただ、皆さんの存在が将来の皆さんに続く後輩たちの道標になる。その時、皆さんは組織の中で確実に中核となる役割を担っていると思う」。一人でも優秀な留学生が日本でのキャリアを選択することができればと願う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

2020年10月9日  竹内上人

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