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キャリアデザイン転職支援会社マッケンキャリアコンサルタンツ

マッケンキャリアコンサルタンツ株式会社

中途採用/キャリア転職/キャリア支援/キャリアデザイン/ヘッドハンティング採用コンサルならマッケンキャリアコンサルタンツ。アパレル、欧州系ファッションジュエリー、ラグジュアリーブランド、IT企業、EPSON(エプソン)など大手製造業企業への転職、信州長野へのIターン、Uターン転職をサポートしている会社です。あなたのこれまでのキャリアを知り、これからのキャリアプラン(キャリア形成)を一緒に考え、面接対策、実績の伝え方など転職を成功させる支援(コンサルティング)を行います。大手企業での人事経験と現場マネージメント経験、2つのプロの目で支援。間違ったキャリアチェンジをしないためのサポートでもあります。ひとに向き合い、転職・キャリアデザインに向けてのアドバイス、コンサルティングを長年のノウハウを持つコンサルタントが行っています。

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キャリアデザインや転職のこと【毎週コラム】

ホーム / キャリアデザインや転職のこと【毎週コラム】

2018/04/05

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転職を考えている方へのキャリアデイン、企業コンサルティングや大学の講義を通じて考えてたこと、人事や雇用環境における時代の変化や潮流などについて、弊社代表が事例を通じて考え方を解説したコラムになります。

人事や転職、キャリアライフプラン、キャリアデザインを考える方にとって、ご参考になれば光栄です。

CONTENTS

  • 70歳まで活き活き働き続けること
  • 二十歳の原点
  • ビジネスアスリート(Business Athletes) ― 結果や環境を前向きにとらえる
  • 来た時よりも美しく
  • 後継者の育成
  • 経営のバランス ヤジロベエ
  • リーダーシップ
  • 平凡なる非凡の価値
  • 内発的な動機の大切さ
  • 英国 ピトロッホリーのペンキ職人
  • プロジェクトマネジメントで磨かれること、共感資本の気づきと恩恵
  • リーダーシップに求められる公人性
  • 人を巻き込む力の源泉とは
  • キャリアにおける応援歌
  • 開拓者としてのキャリア
  • コミュニケーションが成立する環境について
  • 感受性の感度を保つことの大切さ
  • 品質管理とキャリア
  • 高倉健さんの言葉
  • 利益共同体と社会共同体 これからの組織の在り方
  • 身支度と仕事の原風景」
  • 成績評価と人事評価について
  • 自分以外のキャリアの存在から得られるもの
  • KY(危険予知活動)とEQの関係について その二
  • KY(危険予知活動)とEQの関係について その一
  • 5S3定(ごえすさんてい)と操典(そうてん) その二
  • 5S3定(ごえすさんてい)と操典(そうてん) その一
  • 経営者、管理監督者のキャリア意識の有効性
  • 回想 自身をマネジメントし、人との良好な関係を促すEQ(こころの知能指数)
  • 4つのリーダーシップ像
  • 育成のための人事評価
  • 環境変化に向き合う姿勢 古からのメッセージ
  • 新しい働き方、ニュータイプの萌芽
  • 知識、経験のデジタル化の意味・・・人事担当者の課題
  • 人格の陶冶 価値あるものについて
  • Essential Worker /エッセンシャルワーカー
  • 試練と向き合う肯定的な価値
  • 働き方を問われて・・
  • 初心に戻り、考え、行動する機会
  • 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず
  • 高校入試の発表と大相撲の千秋楽
  • 雌伏の時
  • キャリアアンカー(Career Anchor)
  • 企業内キャリアコンサルティングの価値
  • マイペース
  • 成績表と人事評価
  • 人事・賃金・ルールの意味
  • つながりから得られるキャリアの価値
  • 失敗から得られるもの
  • 感情の力がもつ可能性
  • Happy new decade! 10年のPlanの可能性
  • 一年の計
  • Christmas 英語穴埋め問題
  • 計画化された偶発理論
  • 信頼を得ること、約束を守ること
  • 収穫祭の時期に考える企業人の身の処し方
  • 転職 新しい職場 90日・180日・365日の過ごし方
  • 留学生の就労意識 日本的経営システムからの突破口
  • 何もしなければ、何も起こらない
  • 感情読解力と感受力の大切さ
  • 思いがけない苦難に向き合う時
  • 視覚化することによる動機付けとリーダーの心構え
  • 感情の力がもつ可能性
  • 仕事の品質について
  • 企業の社会的価値
  • 次世代の人材の育成について 過去の肯定的な評価
  • アポロ13号から学ぶこと
  • 成績表をつけながら、新日本的経営の三種の神器を考える
  • “働く”を学ぶ機会としてのインターンシップ
  • 蚊取り線香から学ぶキャリアの希少性
  • 縄文時代の魅力と柔軟性のあるキャリア
  • お神輿と前期講義の終了
  • コミュニケ―ションの三段階理論と礼儀
  • 共感力の発揮 雨ニモマケズ 宮沢賢治
  • 雇用の多様化に対する3種の神器
  • 分かるということは苦労するということ
  • 優れた行為を導く“Follow your heart”
  • キャリア設計の実践的方法序説
  • 職業意識がもたらす価値
  • 秘密にしておきたい成功のための「戦略的キャリアデザイン論」
  • 映像による学習の効果
  • 自らの価値基準を堅持する為の位階と官位
  • 人生100年時代のそれぞれの役割
  • 試練によって磨かれる人間のしなやかな強さ
  • キャリアにおいて自由を得る為のプランについて
  • 信頼経営 約束を守る
  • キャリア設計の方法と夏目漱石の言葉
  • 文学と人事の関係
  • 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず
  • 人事異動
  • 150年の変化
  • 留学生という社会資本との向き合い方
  • 留学生との交流から学ぶ原理原則(プリンシプル)
  • あなたの働きによって救われる対象は誰か
  • 就活学生のプレゼンテーション
  • 成績表と人事考課
  • 二十歳の君に乾杯、シニア世代に問われているメッセージ
  • コミュニケーション力について
  • 人口急減に向き合う 留学生の雇用環境づくりの処方箋
  • 新聞の切り抜き
  • 謹賀新年
  • 良い年をお迎えください Best wishes for the new year
  • Happy Christmas クリスマス
  • 根は見えねんだなあ  リーダーシップの姿
  • 就活 企業が求める特殊性を知る価値
  • 一流の自動車整備士
  • 困難の中、指針となるEQ
  • リーダーシップの真骨頂
  • 仕事は誰の為に行うものか
  • 道具に対する敬意
  • 英国ペンキ職人の職業意識
  • 困難の中、指針となるEQ
  • 職場の倫理性を保つ仕事の価値
  • 卒業生の訪問
  • キャリアを物語る服の香り
  • リーダーの役割
  • 脳に汗をかくほど考える
  • 天秤(てんびん)が示すキャリアの選択
  • 大学の成績表と人事評価の設計
  • 蚊取り線香とキャリアの希少性
  • 縄文人の魅力と柔軟性のあるキャリア
  • コンプライアンス 抑止力としてのキャリア自立
  • キャリアの羅針盤 Business I (ビジネス アイ)
  • キャリアにおけるリスク
  • 働き方改革について 職場における人間性尊重
  • 恩師から届いた葉書 100歳の労働
  • 人間関係を良好にするための処方箋 EQ(感情的知性・能力)
  • 教育プログラムとしての映像制作と芝居
  • 操典
  • 図書館のコーヒーラウンジ
  • 線香の煙と信頼
  • 採用面接 痛恨のエラー
  • レコードに気づかされるキャリア設計の構造
  • 日本的雇用の有効性 三種の神器
  • 選ばれる側ではなく選ぶ側
  • 新入生の涙
  • 入社式の思い出 新入社員諸君
  • 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず:経験から学習する
  • 熱処理とキャリア
  • 就活 企業を選ぶ力量
  • インターンシップ
  • 独りで渡れ
  • 成績表をつけながら気づく仕事の意義
  • キャリアデザインにおける相手の目線
  • 良質な影響力を発揮するための起点
  • 集団としてのキャリア
  • 独りになること
  • ビジネスアスリート(Business Athletes)=職業競技者について
  • 良い年をお迎えください Best wishes for the new year
  • キャリア設計の手順書
  • 留学生キャリア カフェ Ryugakusei Career Cafe
  • 相田みつおさんの言葉
  • 来た時よりも美くしく...リズム感がある職場
  • バレーボールとコミュニケーション
  • 障がい者雇用支援の構想案
  • 留学生の悩みと中堅・中小企業の活路
  • 「リーダーシップ」と「フォローワーシップ」
  • 何もしなければ、何も起こらない
  • 限界集落と限界企業
  • 「掲示物」が働きかける動機付けの価値
  • キャリアにおける日の名残り
  • 自分の感受性くらい
  • 品質保証と品質管理 キャリアに求められるもの
  • 45年のキャリアが問いかける意味
  • 留学生キャリアカフェ〜日本でのキャリアを考える
  • 障がい者雇用
  • 古事記
  • 成績表と人事評価
  • キャリアデザイン
  • 宮沢賢治
  • 夏目漱石
  • 取扱説明書とチビ太のおでん
  • 共同作業による効用
  • 就職活動
  • 年功賃金
  • 映画製作
  • 連用日記の効用
  • 計画(プラン)について
  • 学ぶ機会
  • 年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず
  • しなやかな強さの生み出し方
  • 働く人の官位相当表
  • 高校入試と大相撲
  • 武相荘 プリンシプルについて
  • 線香の煙とキャリデザイン
  • 自分の成績表
  • レッカー車の到着を待ちながら考えたこと
  • パイは焼いてから食べよう
  • 大政奉還から150年

70歳まで活き活き働き続けること

2021年1月22日

人事制度の見直しの中で人事担当者が思案している領域の一つに定年制に関する課題がある。現在60歳での定年、65歳までの継続再雇用方式の企業が一般的である。今年の2021年4月から適用される改正高齢者雇用安定法(通称70歳就業法)では、その年齢が現行の65歳から70歳までに延長されるシナリオが動き出す。働き手にとっては、生涯キャリアを長く充実していくという積極的な側面と、年金支給などの社会保障のとの兼ね合いで経済的自立の期間が長くなるのではという不安とが交差する。

長く働くこと、働けることは、医療や健康管理の質的向上から前向きな環境変化で歓迎されるべきものであるが、雇用制度と賃金体系の根幹が、実質的に年功ベースで賃金額が上昇する職能給的な色彩を残す多くの日本企業にとっては、50歳以降の賃金設計においてその延長分だけ悩みは多くなる。総額人件費の配分設計を職務遂行能力の兼ね合いの中でどのように設計すれば、世代間の全体バランスと働く個々人のモチベーション、組織の活力を欠損せずに設計できるのか、人事担当者の言葉に詰まる場面に立ち会うことが多い。

大学の講座で、経営戦略の策定プロセスと個々人のキャリアの設計プロセスは、類似していることを重ねて説明することにしている。経営が一定のロジックで戦略の設計と展開シナリオを描き、その遂行のマネジメントサイクルを回すように、個々人のキャリアも同様にその設計プロセスにはロジックがあり、PDCAサイクルを回すことでは大きな隔たりが無いのだと伝える。その意味でキャリア設計はスキル(技能)でもある。人事の実務家の経験から、できるだけ若年時にその能力習得の必要性の意味の理解とスキルの訓練をできればと思う。

一方で現役世代の働き手にとって、働く期間が長期化すればするほど、環境変化に耐えうるキャリア設計力の力量が問われてくる。職業の選択を迫られる年齢に差し掛かる多くの中高年の方との会話の中で、組織における合理的で論理的な計画策定とその進捗管理能力の卓越性を持ちつつも、自らのキャリアのこととなるとあまりにも無頓着で、思考投資せず、定年に近い年齢になって初めて自らの身の処し方に戸惑ってしまっている方が多くいることに気づく。働く期間の長期化、雇用システムの流動化とグローバル化、働き方の選択肢の多様化の進展が現実味を帯びてきている中で、あらゆる年代で早急にキャリア設計に関する人材育成投資をすることが企業にとっても、働き手にとっても組織と個人の健全な成長を促す原動力となるのだと痛感する。そしてその両者のお互いへの気遣いの過程が良質で倫理観を伴う職場風土を構築できるのだと思う。組織も個人も挽回する時間的余裕はまだ十分ある。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内 上人

二十歳の原点

2021年1月15日

成人式の式典が従来の形式を変え、また延期されるという報道に触れながら考えることが多い一週間であった。長女も成人式の予定であったが、コロナ禍の影響で5月に延期されたとのこと。久しぶりの幼馴染と会う機会を逸し、寂しいという気配は痛いほど感じる。

ここ数年、働き方改革に連動する企業の人事制度改定の場に立ち会うことが多い。その論点は人事制度、特に賃金体系に思考が集中する。私の学生時代からの専門は賃金であるため、その大切さを重く受け止め、できる限りその現場に立ち会いたいと願う。基本的変化の潮流である職能給的な仕組みから職務給的な仕組みへの転換プロセスは、丁寧に、正しい人間理解に基づいたシナリオを考え、設計・計画化しなければならない。賃金の配分ルールは、月給や賞与という現実的な貨幣の配分にその姿を転嫁し、働き手の喜怒哀楽につながる。

日本企業の経営者や人事担当者が向き合わなければならない環境変化の設問は、企業毎に濃淡は様々で、それが緩やかであっても、急激であっても、日本人の働き手が今後少なくなること、年齢が高い人の比率が高まること、情報技術の進化に伴い、商品・サービスの市場取引や競合関係のみならず労働においても国境や組織という垣根を希薄化してしまうことであろう。また、今回のコロナ禍の衝撃は、医療分野での試練だけでなく、就労慣行自体にも伝統的な規範を衝動的に浸食し、その変化に瞬間的な自律調整を迫られているのだと思う。情報技術の進化に伴う働き方の変化は未知数が多いが、働き手の絶対数と質の変化は確実に訪れる。人口構成上、団塊ジュニア世代と呼称される1971年から1974年に生まれの世代が、現在50歳から47歳を迎え社会や企業の中で中核的な存在になっている。残り10年から15年で現役世代を超え、活動余力が身体的にも、精神的にも個人差はあるにしてもピークアウトしていく。

これから後期の試験期間に入るが、大学の講義に出席する学生との接点を通じ、オンラインで孤立化された学習環境の中でも、私の学生頃と比較し当時の自分が恥ずかしく感じるくらいに、すこぶる熱心に勉強し、礼儀正しく振舞う20歳前後の彼ら彼女らが15年後には労働力の質量とも極めて制約条件がある中で、社会や組織の中核的存在になり、格闘しながら先達たちの築いた経済規模とシステムを維持拡張する役割を担わなければならないかと思うと胸が痛む。二十歳を迎えた若い方に、現役世代最終章にいる人間として、できうる限り伸び伸びと躍動できる環境づくりの用意を遅滞なく取り組む責任を感じる。京都で学生時代を過ごした自分にとって、「二十歳の原点」は、他者に対して関心を持たないといけないという強烈なメッセージを刻み付けられた歳でもあった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内 上人

ビジネスアスリート(Business Athletes) ― 結果や環境を前向きにとらえる

2021年1月8日

新しい年は丑年で、十二支の二番目の年となる。十二支の思想では、子年に蒔いた種子が芽を出して成長する時期とされ、丑年には慌てず、自らに課したことを着実に前に進め、将来の実りにつなげていくという意味がある。干支を表す動物としての牛に想いを寄せるといつも脳裏に蘇る次の言葉がある。『…焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい、世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。決して相手をとらえて、それを押そうと思ってはいけません。相手は後から後から我々の前に現れ、そうして我々を悩ませます。…」 記憶があいまいなところもあるが、夏目漱石が静養中の伊豆から芥川龍之介に送った書簡に記された言葉である。苦闘した受験生時代に現代国語の問題集の裏表紙に掲載されていた。昔も今も正しい人間理解は変わらないのだと思う。

数年前から、年初の週報に取り上げている「ビジネスアスリート(Business Athletes)」 という言葉がある。仕事を通じ「働く人」の視点と、組織や人々を導いていく「経営者・管理者」の視点の相互理解の一致点としての概念として最も適切な言葉を探し続け、この言葉にたどり着いた。言葉の意味するところを直接的に訳すのであれば、「職業競技者」となる。

今年も年始のイベントである東京箱根間往復大学駅伝競走の中継を見ながらその思いはいっそう深まる。長距離走を目指す関東地域の大学生にとって箱根駅伝は大きな舞台である。この日に向けて練習を積み上げる。そこには強固なトレーニングだけではなく精神的な練達や身体的な鍛錬が求められる。また駅伝というチーム競技から来るチームメイト間の「切磋琢磨による健全な競い合い」や「友愛に満ちた相互の励まし」によりチームとしての純度が高まる。選手以外の大切な役割もある。試合に向けて普段から仲間を気遣い、自らを律し、自己鍛錬し、次の学年への継承(技術や知見)に心を配る。その姿に、企業人・組織人としての職業意識が重なる。私は、大学時代も労使関係という学問を通じ賃金を勉強していた。ある時、指導教官が人事の世界の中にもスポーツの世界と同様に、「爽やかなスポーツ精神」があってしかるべきだと熱心に話されたことを今でも鮮明に覚えている。

「職業」という競技において自身の目標を設定し、それに向けて日々練達し続け、仲間と切磋琢磨する。優れた職業倫理観を厳しい局面におかれた時でも堅持する。キャリアの仕組みの中でもスポーツと同様な「結果」を受け取ることになるが、どのような評価結果でも肯定的に捉え、次の試合へ向けて再び前に向かって進んでいく爽やかな精神さえあれば職業人生も楽しく可能性を感じる世界に変容する。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内 上人

来た時よりも美しく

2020年12月25日

早朝の都内は青空が広がっているが、程よい寒気に身が引き締まる温度に包まれた朝を迎えている。週末に過ごす松本は雪ではなく冷たい小雨がふっているそうである。午前中に車で松本の自宅へ戻ろうと思うのだが、雪にならなければと思う。

愛知県にある自動車関連の製造会社が運営する技能研修所を訪問した時、教室の正面に貼ってあった標語に目がとまった。そこには、「来た時よりも美しく」と黒い毛筆で書き記されてあった。学園長の方に尋ねたところ「仕事の基本ですね、基本的な所作の心の拠り所でもあると言ったほうがいいかもしれません」と温和ではあるが、確信に満ちた語感で話された。施設内のあらゆるものは工場の現場で使われていたものを再利用されていたが、教室や実習室の清掃が行き届いているばかりでなく、一つ一つの備品の置かれ方も整然としている。長く使い込まれた一つ一つの什器類や工具 事務用品の陳列は、芸術品を鑑賞している錯覚に陥る。

製造業でよく言われる3S(整理、整頓、清掃)や清潔、しつけを加えた5Sの徹底はものづくりの現場の基本中の基本である。大学を出て初めての職場で、腕時計工場の人事に配属され、間も無く任された会社紹介ビデオを撮影していた時の風景が蘇える。映像撮影のディレクターの方から「良い工場ですね」と言う言葉に続き、「優れた工場は、職場がきれいなだけでなく、リズム感があるのです。働いている人が楽しそうに踊っているようでしょう」と入社2年目ほどの私に語りかけてくれた。

この「リズム感」という言葉が30年たっても記憶の中に沈殿している。良い職場には、リズム感があると言うすこぶる抽象的な言葉が映像の現場を長年経験者されてきた方の端的な表現方法なのだ。

整理・整頓をしたり清掃したりといった教義的なスローガンの本質はどこにあるのかと思う。それは仕事をするときに自分のためだけではなく他者にとっての最大限の気遣いであり、思いやりの実際的な行動なのであると今になって気づく。そうした職場は仲間に対する敬愛の念に基づいた優れた立ち居振る舞いを一人一人が基本作法のように身につけている。他者に対する敬意を持った気遣いがあれば、職場の中のコミュニケーションは良質なものになる。働く一人一人が、そうした概念まで磨き上げられた時に職場の完成度は頂点を極める。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

I wish you have wonderful holidays!

竹内上人

後継者の育成

2020年12月17日

早朝の都内は、雲一つない快晴となり、ビルの谷間から遠くの山脈まではっきり見通すことができる。気温も下がって、より空気中の透明度の純度も高まっているのであろう。高層ビルに反射する光も強い。

この時期、大学のEQの講座で紹介するいくつかの感情能力の中で自己の中での「他の為に大切な価値観」を持ち続けることの重要性の説明をする過程に入る。この段階になると私の講座も終盤戦になる。これは、直面する仕事や役割を将来に向けての価値創造につなげる感情能力でもある。良質な心持ち、取り組み姿勢は、時間を超えて人に良質な影響を与える。個人の都合を超えた責務を自らに課し、謙虚に実践し続ける姿が、人々に共感の念を与え、次の世代、後継となる者にとっての道筋を示す象徴的な存在になる。

このことを考える時に必ず思い出すエピソードがある。法隆寺の宮大工の棟梁である西岡常一氏(1908-1995)のことである。彼は、千年ももつ寺院の建物を修繕する大勢の宮大工を束ねる棟梁でもある。次の世代の宮大工にとって模範とされる責務を担う。多くの職工の尊敬と心を束ねていく力量が求められる。伝統的な技量を伝えていく重い役割を担う。職工たちの心の支えでもあり、理想として目指す姿でもある。若い職工は西岡棟梁を見習い日々の技量を鍛え、磨き上げてきたのであろう。

先日、伊勢の会社を訪問した機会に、久しぶりに伊勢神宮の内宮を参拝した。早朝6時頃、まだまだ暗い中での参拝である。伊勢で一緒に仕事をする社長とともに暗闇の中の参道を進む。伊勢神宮の社殿は、皇室の御祖先の守り神として仰ぐ天照大御神をお祭りする内宮と、少し離れたところに衣・食・住など産業の守り神としての外宮とに分かれている。この社殿の建築は20年に一度、1300年間繰り返し建築しなおされ続けられている。大切な神事であり、その古い社殿の木材は全国の神社の社殿に増改築用に送られ伊勢神宮とのつながりを支える。こうしたこととは別に、20年間で繰り返し同じ建物を建てることによって、建築の技法が次の世代に伝え、後継者を育てる仕組みとなっている。

ひとりのリーダーの後ろ姿から、職業の大切なエッセンスを伝承し後継者を育成すること、一定期間の繰り返しの作業を仕組み化することによって、後継者を育成すること、どちらも優れた後継者育成のメカニズムである。企業経営者の方にとって、家業を営む方にとって、後継者を育てていくことは、最も大切な経営課題であるが、古の建築の世界でも様々な工夫がされていることは、学ぶべき指針である。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

経営のバランス ヤジロベエ

2020年12月11日

先週、学習院大学の経営学の講義の中で、地方に本社拠点を置きながら、情報機器分野でグローバル且つ大規模に事業展開をしている企業のトップの方をゲスト講師としてWEBでの講義を行った。ご自身の会社のこと、開発者から経営者になるキャリアの流れ、お客様の視点で深く考え、素直な気持ちで向き合うことにより顧客から信頼され、なくてはならない存在になることを希求していた。キャリアとしても事業としても何度も深い危機や、乗り越えされそうもない困難に逃げずに這い上がる美学も感じた。キャリア過程では、そこ沼のような議論と人間的な葛藤も当然のことながら経験したであろう。もがき苦しむ姿は、弱々しさに映るかもしれないが、打たれながらも前に進む姿はかっこいいものでもある。

開発者として世の中にかけがえのない新たな価値を想像し、その後経営者としての道を歩みながら60歳を超えた彼は、経営には組織のメンバーを前に前に押し出していくメッセージと、人間として守るべき倫理観の両輪があるのだと語る。彼の中に内在化する、前者は「創造と挑戦」、後者は「誠実努力」であった。その両方の重りのバランスの中で、優れた人間集団が形成されていくのだと。ちょうど、私たち世代が子供のころに遊んだ「ヤジロベエ*」のようなものである。その両手の広がりが広いほど、安定感が増し、包み込むものも多くなる。ゆっくり、ゆっくり前後左右に揺れながら、機軸はぶれず安定している姿を希求している言葉に経営者としての素朴な熱量を感じる。この絶え間ない継続した連鎖が良質な企業文化を醸成する。

*ヤジロベエは全体の重心が支点(=地面との設置点)よりも下にあるため、安定的に立つことができる。安定性は重心と支点の距離が離れるほど増し、逆に重心と支点が一致すると安定限界となり、立てなくなる

かつて、この週報にも数度引用した京都の家訓がある

『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』 (京都 松栄堂 家訓)

時間の積み重ねの中で、ゆっくりと沁みとおっていき、その組織や人間の規範となる。その意味でもこうした言葉は大切である。言葉は、行動を促し、行動は習慣を形成し、習慣は人格をかたちづくる。組織であれ、個人であれ、こうしたバランスの中で、本来の存在価値を感じながら大きく、広く手を広げて、できる限りの可能性と良質な関係性をじわりじわりと包み込んでいきたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

リーダーシップ

2020年12月4日

この時期になると毎年のように思い出す記憶がある。私が企業に入社したての頃の出来事である。その当時の私は腕時計の製造会社に出向し人事の新米として働いていた。勤続35年の永年勤続を祝う祝会を市内で一番格式があるホテルで行っていた時の風景である。普段の飲み会とは異なり、広々としたホールで立食形式での祝賀会食会であった。その会の後半、社長が絨毯がひかれた床に胡坐を組んで座り出席者を促し車座になってお酒を飲みだした。ホテルの従業員は慌て驚いた様子だったが、その輪がどんどん大きくなり、いくつもの集団ができた。

永年勤続の表彰を受けた社員の多くは長年勤めてきた製造現場の年配の方がほとんどだった。立食で歓談していた形式的な表情だった顔が普段の顔に変わった瞬間だった。大学を出て間もない私にとって衝撃的な出来事で35年以上たった今でもその風景と社長がひとり一人にお酒を注ぎ、ねぎらいの言葉を満面の笑みで接している映像が刻まれている。その時、リーダーの神髄を見たように感じた。合理性の限界を超えた影響力はこうした行動を自然体で起こすことができることなのかと。この行為は決して専門知識と経験、熟練を蓄えても成しえない。

数か月前から、私が所属するロータリークラブの大先輩の方がフォッサマグナ(Fossa magna 意味:大きな溝)について地域の他のロータリークラブを交えた学習会を試みようとしている。フォッサマグナは日本の地溝帯で東日本と西日本の境目となる地帯である。かつては日本列島を分けた海であり、地質の隆起や堆積によって今の地形に至っている。その西端境界線に「糸魚川静岡構造線」があり、その線上にポツンと私の自宅がある松本市(長野県)が置かれている。こうした不安定な地形の上で、先人たちは様々な地殻変動に伴う地滑りや、地震などの自然災害をたくましく乗り越え今日に至ってきている。彼は、私たちが向き合っているコロナ禍も先人たちと同じく必ず乗り越えていく長い歴史の一部になるのだと語る。そして、乗り越えてきた歴史を考え、人々に希望と前に進む力を伝える機会ができればとその実現に向け、粘り強く、関係するあらゆる人に謙虚に柔和に尽力する。

12月を迎え、キリスト教の教会歴では待降節( Advent)に入りクリスマスを迎える季節にはいった。今年はコロナ禍の中、例年と異なるクリスマスシーズンと向き合うことになるかもしれない。厳しい局面に対峙しその艱難と格闘している人、不安な日々を過ごしている人も多いのだと思う。聖書の中の彼は、その生誕から短い生涯をかけて弱く、苦しむ側、弱い側にある隣人にそのすべてを奉仕(Servant)してきた。2020年12月、様々なタイプのリーダーシップを感じることができ勇気づけられる。

日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

平凡なる非凡の価値

2020年11月27日

今週、世界的な規模で事業展開をしてる旅行・運輸企業で役員をしている方とゆっくり話す機会があった。業界的には極めて厳しい環境の中にある中で今までの取組が功を奏し同業他社と相対的比較ではその打撃の深刻度は軽微であるとのこと。社内の議論の中で、ともするとそうした自社の優位性を活かして競合企業に一気に攻勢をかけようという論調が闊歩する中、彼はこの非常時の困難な時こそ連携して業界全体が再起をするために何ができるかも同時に考えなければならないと語る。

自然災害など不可避的なことにより、仕事失ったり、変わったり、そうした環境変化のストレスから職場や家庭においてのハラスメントなどを誘引してしまい厳しい環境と向き合うこともある。他に話すことをためらい、誰にも理解することができないであろう本人だけが痛みと耐え続ける深い精神の火傷をおった出来事が積み重なっていくこともある。その一方で、結婚や出産、試験の合格、昇格や昇進など、喜ばしい出来事もある。どちらにしても、それぞれは、過去のことでもあり、今日はまた新しい一日が始まるということも事実である。

毎日毎日を驕ることなく、謙虚に、なんとか乗り切り、積み重ねていく、そうした、恐ろしく平凡な日常の連続に非凡なる今があるのだと。労使関係を専門にする恩師がよく講義の中で、『職業人の平凡なる非凡の価値』を論じていたのを思いだす。『職業能力蓄積の視点では、単調な日常の作業時間の積み重ねと、様々な困難な課題をなんとか乗り切りかわし、現在まできたこと自体が非凡な力になっているんだよ』と。あーそうなんだ、自分自身、一日一日をヨタヨタしながらもなんとかやっていること自体が非凡なことなのかとその言葉を思い出すたびに勇気づけられる。

EQ(こころの知能指数)の感情能力の中に「楽観力」がある。希望や機会、事態が好転する可能性を信じ、自分から前向きな展望をもつ力の大切さを問いかける。今までの時間を乗り切ってきたこと自体が非凡であるという自信をもって、今日からの新しい時間がもたらす可能性にむかって、おぼつかない足取りでも姿勢を低くし、一歩でも前に向かって歩むことができればと願う。その姿勢が新たな自分自身に対するイノベーションを起こし、困難を乗り切り人間的に成長する良質な機会となるのだと。

そして、冒頭に紹介した彼のように厳しい状況に向き合っている時こそ自社のことのみならず業界全体、働く仲間のことに心を配るといった職業倫理の精神を失わないことが、何年か後にその人やその企業の価値にきっとつながるのだと思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

内発的な動機の大切さ

2020年11月20日

妻の机の上に同僚の先生からもらったというメッセージがおかれていた。ムーミンの話にでてくる、ミーという娘の言葉。高校の先生の間のコミュニケーションも、ほのぼのしているとほほえましく感じる。

『迷わないことが強さじゃなくて
怖がらないことが強さじゃなくて
泣かないことが強さじゃなくて
本当の強さって
どんなことがあっても
前をむけることでしょう
前をね。』
(ムーミンの話にでてくる ミーの言葉 独特の得意顔のミーのイラスト付き)

ムーミンの中には、スナフキンという放浪する青年も登場するのだが、彼もとってもいい言葉を残す。今回、ミーもいいこと言っているんだと感じ入る。どんな境遇におかれても、内面から湧き出る前に向かうエネルギーだけは、大切にしなければ改めて心に誓う。

EQ(心の知能指数)の感情能力の中に内発的な動機付けというものがある。報酬や見返りなどの外因性によるものではなく、個人の希望やビジョン、関心や価値観、責任感や達成意欲など内部から湧き上がるエネルギーの大切さが、目的に向かう原動力なのだと問いかける。大学の講義や企業研修で紹介する時は、「内面からのやる気スイッチ」と補足説明する、このスイッチ、心の底から湧き上がる良質なものが望ましい。「空回りせず」、人の気持ちに染みとおる影響力を発揮できるような「やる気スイッチ」のボタンが理想でもある。

今週、進行性のある視覚障害と向き合う大学生とそのサポートをしている方が都内の私の自宅を訪れてくれた。今後のキャリアをどのようにすべきか、どういった会社に入るべきかの相談に来たのだが、話を重ねていくうちに、私自身が事業を起業した時の動機の大切なミッションに想い気づかせてくれた。前職で取り組んできた障害者雇用の経験を活かして、自分は、障害者雇用促進法で定められた法定雇用率を企業の枠組みを超えた仕事の循環モデルの新しい枠組みを提起することを事業ロードマップの目標の一つにしていたのだと。日常の仕事に追われ、大切なことへのエネルギーが希薄しかけていた。彼らの偶然の来訪に心から感謝する。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

英国 ピトロッホリーのペンキ職人

2020年11月13日

ずいぶん昔になるが、イギリスの旅行先のスコットランドの中部のピトロッホリー(Pitlochry)で、今でも鮮明に残る記憶がある。その村の駅で列車を待っていた時に、3人のペンキを塗る仕事をしていた人たちに出会う。駅のホームを側面のブロックに白いペンキを塗っていた。それが、とても楽しそうなのである。一人はホームの上で、安全のため列車の通過を確認する役割、他の2名が、下塗りと本塗りの分担を定め、少し間隔をあけ、並んで白いペンキを塗る。ホーム上の男性は、大きな声で歌いながら、時々線路上を歩きながらペンキを塗る2人に笑いながら声をかけている。いかにも楽しそうだ。こんなに楽しそうに仕事をする人たちが世の中にいるのかと記憶として刻み込まれた。

以前、国際産業関係研究所(同志社大学内)の月例研究会に出席した時のこと。当日の発題者は、研究所長である石田光男先生であった。恩師でもあり、久しぶりに懐かしい講義を聴く。論点を極端に要約すると、経営計画の良質性の有無は除き、「労働支出と賃金との間の交換ルール」において、企業はどのように生産性を高めていくかを調査した結果、結論は年功賃金であっても業績は上がる場合もあるし、成果主義をとっても業績は下がる場合もある。人事にとって、悲しいことに、労働とその対価の交換メカニズムだけでは、生産性の高低の因果関係を解き明かすことができないのだと。長期的・持続的な視点で、生産性が高い組織特有の仕組みはどこにあるのか、一方で生産性が改善されない組織には何が欠けているのか。実務を預かる人間にとって、できるだけ論拠をともなって、個別組織に適した処方性を描きたいと願う。

あのピトロッホリーのペンキを塗る職人の労働現場を思い返すと、生産性が高いのか否かを超え、明らかに労働を楽しんでいる。そこには仲間との協調と、上役の監視を離れても仕事への倫理観が保たれている。労働の主体性を働く現場にゆだねつつも、組織の期待を過度な労働者間の競争を避け、浸透させることが人事政策の要諦なのかと私にとっての企業内人事政策のアイコン(icon)になった。彼らは、仕事の後、みんなでパブ(Pub)に行き、一日の労をお互いに称えたに違いない。そして、次の日もお互い誘い合って、きっと意気揚々と働く現場に赴く。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

プロジェクトマネジメントで磨かれること、共感資本の気づきと恩恵

2020年11月6日

早朝の松本は4度、寒気が空気中の水分を振り落とし、北アルプスの山々は秋を超えて冬の様相を見せ始めている。いくつかの山頂はすっかり白色におおわれている。今年は登山はあまりできなかった後悔を抱く。これからの冬は健康維持の為できる限りスキーで身体能力を維持したいと願う。今年も白馬五竜のゲレンデのシーズン券を冬の怠惰な誘惑と決別する決意を込めて購入した。

ここ1週間の間で幾人の方からメッセージもらったプロジェクトマネジメントに関する取材動画のコンテンツがあった。タイトルは若者向けだが、私の話は極めてオーソドックスな人事視点でお伝えした。寄せられたメッセージは自らの苦境を吐露する内容も多かった。その言葉を追いながら我がことのように共鳴する。社長業も組織でありながら共通項が多い(24分 以下 URL、要約原文を抜粋)

【影響力を発揮するプロジェクトマネジャーの要件】

1.謙虚であること

・既存の業務プロセスの現状と困りごとを共感を持って理解することができる力量が必要になります。

2.大きなビジョンで人を巻き込むこと

・主人公は国内、海外問わず現場のメンバーになります。公的な大義名分を形成する力量が必要になります。また、親和性のある良い質問を丁寧に重ね、現場の主体性を引き出す力量が求められます。

3.継続的に忍耐出来ること

・プロジェクトマネジメントは最初は勢いがありますが、徐々にその色彩を失ってしまう危険性があります。伝道師のように忍耐強く苦労し続ける力量が必要になります。プロジェクトは組織横断的であるがゆえ、組織が有するポジションパワーを持ち得ない立場にあります。如何に共感資本を発揮できるかが重要です。

プロジェクトマネジメントを担う場合、時々孤独になる。個人の力量が試される瞬間でもある。経営的な期待は大きいが、援軍は少ないかもしれない。時には感情的になり、責任を他に転嫁したくなる衝動にもかられるかもしれない。ただ、自分自身の生身の力量が問われ、そして磨かれる貴重な時間でもある。真摯で忍耐強い取り組み姿勢は、必ず生涯の大切な援助者と共感者の出会いをもたらす。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

リーダーシップに求められる公人性

2020年10月30日

昨日、学習院大学の経営学講座でゲストスピーカーを講師としてお招きして講義の収録を行った。今年は感染症対策の環境の中でウェブを経由しての講義が続く。講師の方は、世界トップクラスの規模を有する外資系製薬会社の日本法人の責任者の方であった。製薬業界では企業規模の面でも新薬開発投資額においても日本企業はグローバル競争において圧倒的な劣勢を強いられている。

出来る限り講演者の方の人物像に近づくよう幼少期から青年期、どのような職業人生を今まで歩んできたのかを語ってもらい、その上で経営における持論やご自身の人生観についてお話しいただいた。内容はとても印象的なものであり、収録された映像記録が私自身の貴重な経営の教科書にもなると確信した。 この方は、大学を卒業して以来、半世紀にわたり一貫して外資系製薬業界でキャリアを積まれてきた。現在に至るまでいくつかの企業を経験されているがキャリアのフィールドの一貫性と一つ一つの経験の塊はすこぶる重厚なものであった。キャリアにおける一貫性のある物語が大切な事は極めて重要な育成プロセスであるが、この方はそれを実践していた。

様々な環境の中で経営者として自分自身を律する行動指針として自ら課した10の遵守原則を伺いながら、私の中ではモーセの十戒のような語感で身体に染み込んできた。組織のトップとして、ひとつ一つ丁寧に言葉を重ねていく語りを通じて「私人」から「公人」に変容していく過程を感じた。あまたな経験を通じて磨き上げられたの大切な言葉の全てを紹介できないのだが、「実ほど 頭を垂れる 稲穂かな」のスライドが差し込まれていた。謙虚であることを自戒のように静かに引用する姿に、経営者としての完成形を悩みながらも希求し続ける修行者としての造形物に触れたような心境になる。来週、この講義を聞く学生は恵まれていると思う。私の役割はこのリアルな経営者の実践哲学のひとつひとつから、学生が自ら能動的に自分に課せられたミッションや果たすべきビジョンに気づく環境をどれだけ工夫できるのかだと自らに言い聞かせる。

講義後、昼食をご一緒しながら、経営とは二つの要素が相互に機能しあって良質化するものだと改めて感じた。「良質な組織マネージメントの仕組み」と「発信者としての組織リーダーの共感を誘引する人間性」が共になければ成立しないのだ。人事の実務家として、これからも組織の仕組みを丁寧に築き上げることに苦労することと、組織リーダーの健全な選出と育成プロセスの希求の両輪をバランスよく回していくことの大切さを問いかけられた機会であった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

人を巻き込む力の源泉とは

2020年10月23日

仕事をご一緒する名古屋の経営者の方との会話の中で、心に残った言葉に出会う。その言葉は木材加工の業界新聞の冒頭、協会トップから経済環境が厳しい中の経営者へのメッセージとして添えられていた。

“If you want to go fast, go alone.  If You want to go far, go together.”

『速く行きたいなら、一人で行きなさい。遠くへ行きたいなら、みんなで行きなさい』

アフリカで長く伝わることわざとのことである。アルゴア米国元副大統領が、ノーベル平和賞授賞式スピーチで引用したのだが、正確な出典は定かでない。

この言葉を考えながら、脳裏に蘇った場面がある。かつて、企業研修の事務局で対応した時の日本人海洋冒険家の講話であった。その冒険家は、VENDEE GLOBというヨットで世界一周をするレースにチャレンジをしている。単独で無寄港、無補給という厳しい条件のレースに向き合っている。

出発地はフランスの港でそこから南アフリカを回り、オーストラリアと南極の間を抜け、南アメリカの最南端を通り、再びフランスの港に戻るというレースである。講演の時に話された内容では前回のレースでも途中でヨットの生命線ともいえるマストが暴風の中でその風圧に耐えきれずに折れケープタウンに引き返すことになった。言葉で表すことができない悔しさであろう。彼が講演中何度も言葉にした、「何もしなければ、何も起こらない」、と言うメッセージがいつまでも脳裏に刻まれる。彼は、自分のチャレンジが困難な場面に向き合っている人、特に子供達が夢を持ち、自分を取り戻す機会になればと挑戦し続けるのだと。今年も11月にこの大会は開催される。そしてこの日本人海洋冒険家は出場する。

リーダーシップを考える時にとても大切なことは、その人が持っている知識の絶対量ではなく、とてつもない純粋な情熱のエネルギーに裏付けられた実践の積み重ねである。自分自身と格闘することによってのみ得られる「力の源泉」である。その純粋なエネルギーが他者に共感を届け、支える人の輪ができる。ヨットの航海は単独であるが、そのプロジェクト自体は多くの仲間によって支えられる。冒険家であっても、研究者、実業家、あらゆる職業に従事する方にとって、何かにひたむきに真剣に向き合い続けることによって、他者を巻き込むことができる。周囲の空気に流され、漠然と漂流し続けるのではなく、自ら舵を握って、風をとらえ、仲間を信じ、自分の内面からくる言葉を羅針盤として、駆け抜けていくことが、自らを鍛錬し、人を勇気づける。今日もそうしたことを少しでも実践する一日でありたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

キャリアにおける応援歌

2020年10月16日

『もはや絶体絶命 どうせ敵うはずはないない そんな考えはくだらない 勝負はここからだ 大逆転は起こりうる』

長野県内の地方紙のコラムに地元の高校の書道部によって大きな台紙に描かれた力強い書道の作品が、記事とともに取り上げられていた。若い前向きなエネルギーがあふれる言葉で、未来への可能性を断固として信じる意気込みが伝わる。作品は永禄三年(1560年)の織田信長軍と今川義元軍の戦いがモチーフになっているとのこと。この高校の書道部は、高校書道の甲子園とよばれる「書道パフォーマンス甲子園」で優勝をしている実力校でもある。かつては女子高等学校で、古くは戦時中に男装の麗人と呼ばれた川島芳子(よしこ)氏や、芸術家の草間彌生(やよい)氏がいる。

私が、大学の講義や企業研修でもよく取り上げるキャリア理論のひとつに1999年にジョン・D・クルンボルツ(John D. Krumboltz)氏らが提唱した「計画された偶発性理論」(Planned Happenstance Theory)がある。キャリアの8割は予期しない出来事や偶然の出会いによって決定され、その予期しない出来事を受動的に待つのではなく、主体的に創造できるように積極的に行動し、周囲の出来事に気を配り、自分にとって望ましい環境変化を意図的に起こりやすくする機会の可能性づくりに目を向けることの大切さを促す。このキャリア理論に初めて触れる学生や企業の受講者の反応は毎回好意的であり共感的である。そればかりか、講義を行いながら自分自身へ動機づけしているような錯覚に陥る。

「計画化された偶発理論」を実践する上で大切な姿勢が以下の5つある。㈰好奇心:継続的に新しい学習の機会を求めること。㈪持続性:失敗にあきらめず、前向きに努力し続けること。㈫楽観性:新しい自分にとって都合の良い機会は必ず来ると信じ、ポジティブに考えること。㈬柔軟性:固執したこだわりを捨て、柔軟に信念、概念、態度、行動を変えること。㈭冒険心:可能性を信じ、リスクを取っても行動を起こすことに躊躇しないこと。

コロナ禍の影響が続く中、ビジネスやキャリアにおいて困難な局面と向き合っている方も多いのかと思う。冒頭の書道部の可能性を信じて突き進むエネルギーを、確立したキャリア理論と合わせて自己に内在化させることは、前にむけて恐れず歩み続ける強烈な応援歌となる。失うことによって得られることは多くある。失うことをただ恐れ、落胆するだけでなく、新しい可能性の切符を手に入れたと考える思考をできる限り多くの場面で持ち続けたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

開拓者としてのキャリア

2020年10月9日

今週急に気温も下がり、ついこの間まで暑さをどのようにしのぐのかと思案していたことを思い戸惑う。

信州大学での講義も今週から始まった。新しく日本の大学で講義する留学生にとって、将来、日本での雇用の機会をどのように実現すべきかの講座に取り組んでいる。今年の特徴は受講している留学生がまだ来日できずに、カイロやモスクワの自宅からWEBを通じて受講している。年内には来日できる見込みとのことであるが、例年の10月とは異なる環境での秋季講座となる。

留学生にとって、日本での就職にあたってのプロセスをどのように対処したらいいのかはとても悩ましいところであろう。具体的な選考過程で企業が求める面接、エントリーシートやSPIなどの適性検査は日本人学生と同じように課せられその対策に苦労する。選考のテクニックや、適性診断の対策はしたほうが本人たちの安心感にはつながる。だが企業人事の実務担当が知りたいのは、留学生がなぜ日本で学ぼうと思ったのか、なぜ日本企業に自分のキャリアを委ねようと考えているのか、日本の雇用慣行をどのように捉えて自分はどこまで折り合いがつけられるのか、そうした留学生個々人の人間的な想いを人事担当者が知りたいという実情も、日本の産業政策や人口予測などの社会・経済環境変化と日本的人事管理システムの構造を丁寧に説明していきながら伝えたい。

日本の人口が今後急激に縮小していくことは、統計データからも明らかである。1971年から1974年に生まれた「団塊ジュニア世代」が50歳前後になる。この人口のボリュームゾーンがあと15年で生産年齢の65歳を超えてくる。この後には同じような人口の山が存在せず、人口構造は不安定なT字型に縮小し、高齢化比率が高まる。彼ら留学生とどのように企業の中、社会の中で共生できる仕組みに転換できるか、企業システムを調整していく残された時間も残り少ない。

講義で、ひとりの留学生から質問を受ける。「日本の企業は、私たち留学生を受け入れたいと考えているのか不安である」と。経営者や人事担当は少子高齢化とダイバシティー対応をしなければ事業継承が困難になる危機感を持っているが、そのシステム調整にもう少し時間がかかると苦悩している。私は彼女にこう答えた、「皆さんはこれから日本の人口構成が変化する中での開拓者的な存在だと思う。その調整過程の中で開拓者として困難な環境も、窮屈な思いも受け入れることになる。ただ、皆さんの存在が将来の皆さんに続く後輩たちの道標になる。その時、皆さんは組織の中で確実に中核となる役割を担っていると思う」。一人でも優秀な留学生が日本でのキャリアを選択することができればと願う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

コミュニケーションが成立する環境について

2020年10月2日

10月に入り大学でも新しい学期がスタートする。一足早く、学習院大学では秋学期の講義が始まっている。春季と同様にオンラインの講義になる。学生のことを考えると、できれば数回はリアルな対面式の講義をしたいと思うが、オンラインとリアル講義が無秩序に構成されると履修する学生も、受講場所の制約の関係から戸惑うのかと思う。一方、東北大学、横浜国大、信州大学では、留学生を中心とした講義を担当しているので、この10月入学の生徒を受け持つことが多い。コロナ禍の関係で来日できないまま母国で講義を受講する留学生の生徒も加わる。日本での初めての授業に向き合う学生たち、文化や慣行も異なる環境に直面して彼らはどのような気持ちでいるのであろうか。

後期課程では「日本的経営とキャリアデザイン」、「組織におけるリーダーとしてのEQ(心の知能指数)」にフォーカスをあて15回の構成で講義を行う。日本企業の雇用慣行、雇用システムの理解と、どのようにそのシステムと自分を調整していくのかに焦点をおいた講義を計画する。また、人事の実務的な視点から、日本での企業インターンシップを行う上でのケース・事例を通じて実践的な指導を試みる。留学生をインターンシップとして受け入れた企業自身が、彼らを通じて、ダイバシティーマネジメントに覚醒し、グローバルな視点での組織マネジメントを行う上での起点になればと願う。

大学で講義をするようになって、5年が経過する、例年、最初の講義は彼らの不安そうな顔が痛いほど感じられる。1年生は18歳〜19歳なのだから、まだ高校を卒業して間がない。精神的には世界の辺境で、学習をスタートする最初の授業である。私が経験で身に着けたことは、初期段階は、できるだけアクティビティを伴った内容を中心に授業運営を行う。履修する学生間での親和性を高める様々な仕掛けを少しずつ身に着けてきた。チームビルディングがその後の講座の内容を学習する上で大切であることを私自身が学習した。形式的なレクチャーを避け、時々自分は芸人なのかとも思う時がある。

コミュニケーションが成立するためには、信頼関係の構築が前提になる。いくら良質な情報をもっていても信頼関係が不在であると、コミュニケーションは成立しない。信頼関係を構築する上での前提はなにかというと、自分自身をできる限り正直に、誠実に相手にさらけ出すことから始まる。人は得体のしれないものには警戒するのが常である。となると、コミュニケ—ションの技術を身に着けるという最初の課題は「自分は何者か」ということを自分自身が正しく理解し、それを第三者にどのように伝えるかという手段を学ぶことなのであろう。講義を通じて、「自分は何者であるか」ということを自ら振り返り、歩んできた自分自身の道程を味わうことができることに感謝する時間でもある。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

感受性の感度を保つことの大切さ

2020年9月25日

友人を訪ね昨夕より群馬県の草津に来ている。早朝の草津は暑い雲に覆われ、小雨が降り続く。宿の外へ出ると、昨夜からの雨で森全体を包む空気はしっとりとした湿度で身体を覆う。時折、白い霧に視界が遮断される。秋の気配を感じる冷気に包まれた朝となった。確実に季節は弛緩した身体を引き締めていく。前職の仕事を通じて知り合った企業の人事出身の友人は現在この草津の地で大型ホテルの責任者をしている。夕食をとりながら人のマネジメントの難しさと可能性について意見交換をする。

普段使用している連用日記に挟み込まれている切り抜きに目が留まる。その切り抜きは、7年前に事業を始めた時に掲載された地方新聞の「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイである。ちょうど、朝日新聞の「天声人語」のようなものである。「天声人語」であれ、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、切り抜かれ手元に置くようにしている。そしてしばらくすると、いつしか自分の中で整理され外される。なぜかこの切り抜きだけ、創業した当時の自分自身のこれからの不安の余韻とともに役割を終えずそのまま残っている。

現在のオフィスは渋谷の表参道近くにあるが、友人は私が起業して間もない頃、その当時九段にあったオフィスを訪ねてくれている。起業して4年間ほど、出費をできる限り抑えるためにオフィスに寝袋と、前職の先輩から好意で譲り受けた登山用のテントを張って寝泊まりしながら、企業の枠組みを超えた横断的な人事のインフラの構築と中小規模企業の雇用基盤の強化を支援する仕組みができないものかと格闘していた。結局、今もその答えに行きつかないまま時間を積み重ねている。

先の切り抜きには以下の文字が綴られている『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。この層では約40%が非正規雇用となる。絶対的水準が低いことに加え、雇用安定性も喪失している。このコロナ禍の中で雇用の実情はどのようになっているのかと思う。良質な雇用の創出と提供を行うメカニズムの構築の壁はすさまじく高いが、日常の営みや仕事を通じて、自分以外の人の痛みを感じられる感受性くらいは持ち続けたい。そのことが、前に進む選択を果敢にチャレンジする原動力となる。小さなチャレンジでも継続するときっと理解をしてくれる人の支えと突破口が見えてくるのであろう。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

品質管理とキャリア

2020年9月18日

ある打ち合わせの場面で品質についての話題になった。その話題は、事業会社に在籍した時に、品質保証体系と連動した「業務の分掌」を策定するプロジェクトでの苦労の記憶を覚醒させた。商品やサービスを提供する時、その出来栄えの目標を定めて、その水準を継続的に維持することが求められる。人間はその安定した時間の積み上げによって商品やサービスの供給元の会社に信頼感を寄せる。この会社、この組織、この人から出される「何か」は安心して受け入れることができるという感覚を形成する。その時間軸が長期化すればするほど、信頼度は累積的に堆積し、絶対的な企業ブランドとして競合の追随を許さなくする。長い年月を経た伝統に裏付けられたブランドにはそうした努力の積み重ねが世紀を超えて蓄積され、そのブランドが放つ価値が受け手側の脳裏に刻印される。

「品質」には二つの視点が必要だと思う。受手が期待する品質水準(目標品質)を定めることと、その品質水準が目標幅から逸脱しないように管理し、機動的・自律的・主体的に修正プログラムが発動されるように「仕組み化」することである。その役割を明記する機能の一つが、組織の役割と責任を全社的に体系化した「業務分掌」となる。目標品質を定めるプロセスの起点は受け手の期待値に集中することが大切である。商品やサービスでいえばお客様の期待値となる。顧客の期待に無頓着な企業側からの独善的で一方通行の提供価値は淘汰され、やがて消滅する。注意深く、わが身を振り返り、受け手の期待値を知ろうとする継続的な努力が不可欠なのである。

多くの企業で、品質に関する思想は高く掲げられるが、実際を観察すると、二次的、補完的な処置がとられていることが多い。組織人事的にも品質を担当する人材が経営の重責や職場の中での中核を担うケースに出逢うことは少ない。品質管理は、最終的に人づくり、組織風土に連鎖し、ブランドを対外的に認知させていく機能でありながら現実的な取り扱いは後手に回る。発生した品質トラブルに対して、事後処理の作業を行いながら、消極的な反省を繰り返すのではなく、積極的に攻めて目標品質を突破する活力が求められる。

キャリアに関しても類似している。それぞれの人がもつ職種や役割、立場に期待される価値の目標水準を定めることなく、漠然と時間の流れに身を任せていると、他者からの信頼を喪失する。自身のキャリアの買い手の存在から目を背けないことである。品質管理の話題は、自分自身が仕事を通じて、社会に対して担うべき役割について真摯に向き合い、その言動や立ち居振る舞いにおける良質さを常に向上させ続けるための内在的なメカニズムを面倒がらずに保守、鍛錬する大切さを思い出すきかっけになった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

  

竹内上人

高倉健さんの言葉

2020年9月11日

『・・・最後に若干提言を書き加えたい。現在、障害者個人が各々自立して民間企業で活躍することがノーマライゼーションの観点から大切なことは周知のことである。重度の障害者を持ってる方全員にこれを求めていくことは非常に難しいと思う。最近各地域に障害者をもつ父兄、支援者の方々が中心となって障害者の生活面でのケアもできる作業施設設立の動きが盛んになってきた。しかし、経営的に事業展開するのが非常に厳しいのも現実である。こういった施設に対して官庁、民間が業務発注すれば、発注元の雇用率にカウントできるようなしくみが法的に整備できないだろうか。そういった作業施設では仕事がないことが障害者本人、支える人々にとってもつらいことである・・・』 1997年8月 日本障害者雇用促進協会 発行「障害者とともに働く」より抜粋。

今から約25年前の34歳の頃に寄稿した文章である。今週、人事担当者向けの講義資料を準備する際に本棚に眠る古びた雑誌に目が留まり読み返した。この寄稿は、前職で障害者雇用担当者として、知的障害者雇用促進を目的とし、防塵服のクリーニング工場を重度障害者多数雇用事業所施設の適用を受け設立した時のものである。10名の新規知的障害者雇用、3億円の設備投資。社内の起業家公募制度を活用して取り組んだ。そして、この障害者雇用の取組に関する提言・体験手記で労働大臣賞を受賞した。

当時は法定障害者雇用率(民間企業適用)が1.6%から1.8%に変更される時期で(2021年3月21日から現行2.2%から2.3%に引き上がる)、対象も身体障害者から知的障害者に適用拡大された(2018年4月から精神障害者も雇用が義務化)。こうしたことから最近では、世間の関心も、経営者の認知も高くなってきている。それでも、企業内の障害者雇用担当者の方達は、厳しい企業環境の中、経営の理解と支援を受けようと、今でも必死に孤独な戦いをしているのだと思う。

障害者の雇用環境のインフラの構築が、私が自身のビジネスをスタートする起点になっている。事業方針の中に、障害者の働く小規模施設に民間企業から仕事を受け渡すインフラを構築したいということを示した。本当に実現できるか妄想に終わるのか、心が常に揺れ動く。現在の人材ビジネスは、多くの転職を希望する候補者の方や、企業の人事の方を知ることができる。自分の妄想を実現するために少しでも多くの理解者を得るためには最適な環境である。

『できるかできないか、そんなことはどうでもいい、人間は何をしたかではなく、何をしようとしたかが大切なんだ』、こんなようなセリフを映画か、取材の時に俳優の高倉健さんは語っていた。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

利益共同体と社会共同体 これからの組織の在り方

2020年9月4日

大型の台風の影響もあるのか、常念岳の山頂の姿は朝の陽の光で浮かび上がっているが、穂高岳方面は、分厚い灰色の雲で覆われている。今までにない巨大な台風だという。厳しい暑さの後陣も強敵である。

人事の先輩との会話で、「ゲゼルシャフト(Gesellschaft)」と「ゲマインシャフト(Gemeinschaft)」の話になった。かつて学生時代に習った言葉である(テンニース:Ferdinand Tönnies、独社会学者)。ゲゼルシャフトは「利益共同体」、「ゲマインシャフト」は「社会共同体」として今も脳裏も刻まれている。人間集団を利益や生産性をベースにした関係で構築されているとした「ゲゼルシャフト」に対し、家族や地域といった人間的な関係をベースに構成されるとした「ゲマインシャフト」があり、企業などは利益の獲得や分配を前提とした「ゲゼルシャフト」の代表的な事例であると学んだ。

企業は「利益共同体」であると言いつつも、日本企業は終身雇用的な労働慣行、職能給をベースにした年功賃金(年功序列)、企業別組合といった人間関係性に基づく組織形態が国際企業間競争力の強さの源泉として評価された。まさに「社会共同体」としての性格を醸し出し、個人の利害関係と組織の利害関係を重複させる巧みな取り組みが試みられてきた。「社会共同体」的な組織が競争関係における企業間取引において劣勢を強いられるというわけではなく、それ自体が企業の強みになった。

近代化が進む初期段階の日本企業の職場は、企業の中に親方が軸となる小集団の「組」がそれぞれの工程の生産を担い、その「組」は親方を中心とした極めて強い人間的な結束に基づく、社会共同体的な組織であった。一方で、お互いの「組」がその生産性を競い合い、出来高賃金の分担額を奪い合う利益共同体としてのメカニズムが小集団間で機能していた。人間のもともと持つ「群れ」をなして生活をしていくという本能的な欲求と、相手との格差を競い合う闘争的な本能が併存する性格を巧みに利用したマネジメントのスタイルでもある。

これからの組織・人事のメカニズムを考える時、どの階層の集団や個人に利益共同体的な機能を持たせ、どの階層に社会共同体的な機能を持たせていくのかとという組み合わせの巧みさが、健全な闘争心の本能を維持させ、活きいきとした活力を喚起するとともに、極めて人間的な安らぎと、労働による精神的、肉体的な回復を図るシェルターとしての機能の提供を促していくのかと思う。いずれにしても組織・人事の制度設計の難易度はますます興味深い次元に突入する。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

  

竹内上人

身支度と仕事の原風景」

2020年8月28日

明日、早朝の出立なので深夜にこのコラムを書いている。この2週間、今年度唯一となるデジタルでないリアルな講義の機会を信州大学から頂く。ゲスト講師で招いた経営者の「かけがえのない存在になる」こと、「身近な人に寄り添う」ことを経営の持論とするメッセージの余韻に浸る一週間であった。

『服はしょせんうわべだと人は言う。その人の現実を繕い、ときには偽るものだと。服ごときに人生のすべてを注ぐのは愚かなことだ。が、服は、人を支えもする。受け入れがたい現実を押し返すため、はねつけるためにも服はある。そうした抵抗、もしくは矜持を人はしばしばその装いに託す。服は折れそうな心をまるでギブスのように支えくれる重要な装備でもあるのだ』。数年前に掲載された朝日新聞のコラムの切り抜きが連用日記からこぼれ落ちる。

私の顧客企業の多くが、外資系ファッション業界である。多くのブランドの人事の方とお会いした。今まで私の人生の中で、疎遠であったラグジュアリーブランドの店舗も訪れたり、丁寧に案内もいただいたりした。また、それ以上に多数の転職を考えているファッションの仕事に携わる方と会った。その機会を通じ、それぞれの方から服に対する深い想いとか、人生の中での位置づけなどについて教えてもらう。高価な服であっても、作業服であっても、大切なことはどのような想いで、身にまとうかであり、正しく装うかである。

服についた香りも同じである。服には、仕事を通じて染み込んだ匂いがある。それぞれの服にその人の仕事を通じての記憶としての匂いがある。私にとって服に染み込んだ想い出の匂いは、工場から漂うオイルと切削機から漂う焦げくさいのほのかな香りであった。今でも製造会社の工場見学に行く機会があるとその香りに引き寄せられ、30年ほど昔に引き戻される。

私は製造業で人事のキャリアをスタートした。入社して半年間、製造現場への実習にでた。腕時計の工場の回路基板、コイル巻き、ムーブメント(駆動体)組立、外装組立、出荷検査、冶具・工機職場と、工程ごとの職場で働いた。現場の作業長や班長、先輩・同僚の方から様々なことを学んだ。仕事の後に飲みにも誘ってくれた。皆、配属が人事だと知っているから、「俺たち製造のことも意識して人事の仕事をしてくれや」と励まされた。私の人事屋としての判断基準の原点は、この体験にある。自分の心を支える服、その服に記憶として染み込んだ香り、これらがキャリアの原風景であり、原動力でもある。困難に立ち向かう時の戦闘装備でもある。自らがよって立つ装いと香りを振り返る週末にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

成績評価と人事評価について

2020年8月21日

早朝の松本はとても涼しい空気に包まれる。うす青く、いくつかの薄い雲が横たわる。この週報を書き上げる早朝の時間は、過ごしやすく朝の散歩の途中ベンチに腰掛け、原稿の下書きを眺め文字の並びの組み合わせに思案を重ねる。お盆を過ぎると朝夕は秋の気配を感じるのはいつもの年と変わらない。

今年の夏はコロナ禍の影響で大学の講義の日程も内容も例年と異なり大きく変化した。オンラインを中心とした対面ではあるがインターネットを通じた形式への授業構成の変化は自分自身にとっても様々な気づきを得ることができた機会でもある。後期もすべての大学でオンライン講義に移行する気配の中、幸運にも今週と来週にかけて、信州大学で夏季集中講座の機会を頂く。「実務家からみた経営学」と題し、経営の講座をオンラインではなく、リアルな現場でできるのが嬉しい。長野県内の経営者の方をゲストスピーカーでお呼びし、ご自身の経営哲学や持論にについて率直に語ってもらう。私が学生だったら、履修したかった講義の形態を経法学部の学部長の先生と相談しながら構成する。

私の講義は通常、講義やゲストスピーカーのインプットに基づき、少人数でのグループワークを通じて学生自らが、学生相互の意見交換や、全体共有を通じて課題の理解を深めていく。オンラインであってもリアルな講義であっても、その分、それぞれのプロセスを通じてよく生徒を観察しなければ、個人の評価は判断しがたいという悩みがある。会社の人事評価も同じだが、人に対して定量的・定性的に評価をする難しさを痛感する。出席率や小テストは、数値化されているデータだが客観的な評価のプロセスの精度を高めるだけでいいのかという漠然とした悩みが取り除けない。なぜ評価をするのか、目的に合致した評価項目や評価プロセスをどのように取り入れるべきかの設計が難しい。

一方で会社の人事評価はその答えが明快である。会社の評価の人事的な狙いは組織目標に適合する人材を長期的に育成、誘導することにその重きが置かれている。実際の職場では、個人の成果判断や,言葉を選ばず実態を述べるとすると、上司部下の人間的組み合わせによる恣意性が残ってしまうことも現実である。しかし、多くの企業で働く人事屋の心意気は、そうした現場の実情を超えたところにある。公平感(fairness)は組織倫理の観点から外せない視点だが、それ以上に賃金体系の設計やその運用の意図の拠り所は長期的な事業戦略の実現に寄与する人的資源開発にある。また組織価値や企業ブランドのクオリティを高める実践者を励まし続けるところにある。人事には、将来に向かってのメッセージが織り込まれなければならない。

企業で長年にわたり人事屋として実務を担っていた自分の大学における提供価値は、組織にこれから参入する学生達が、どうすれば組織適合能力を身につけ、ひとり一人が活き活きと活躍できるのかという命題に対して、授業設計を行い、その習得度を評価体系に内在化させていくことにその答えがあるのだと思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

自分以外のキャリアの存在から得られるもの

2020年7月31日

コロナウイルスの広がりで心を痛めている方、不安と向き合っている方が多いのかと思う。見えないものとの戦いはしばらく続きそうである。明日早朝に都合があり今週はこの夜の時間に週報を書いている。

オンラインを通じての企業研修やセミナーの現場に立つことが多くなってきている。参加者もオンラインの操作に慣れてきているのがわかる。大学とは異なり、職業によって生計を立てている人たちとの会話は自分自身の仕事に対する感性を磨く上で不可欠な機会でもある。仕事と様々な不安と葛藤を抱きながらも真摯に対峙する働き手のリアルを体感できる。そうしたキャリアに関する研修を行いながら自分の中でも考えが深まることも多い。ここ数回連続して研修の場でメッセージの中核においたことがある。それは、自己の能力蓄積を個人のスキルや知見・見識だけに止めるのではなく、如何に周囲の力を借りることができるかという可能性をひとりの人間がどれだけ持てるかということである。

単に多くの人を知っているということではなく、ひとり、ひとりの方と信頼関係の絆で結ばれているかどうかということが問われる。仕事はひとりでは完成し得ない。ビジネスパーソンだけでなく、たとえ職人であっても、研究者であってもモノや価値を生み出す過程においては、有償無償の形態は様々であるが誰かの援助と関係性が必要である。自分の力量を超えた仲間の絶対量がその人の可能性を広げていく。そして、そこには経済的なやりとりを超えた世界がある。

誰かが自分に仕事を頼む時、その人、個人が持っている経験や能力だけではなく、その人につながる多くの良質な仲間の存在を無意識のうちに感じて信頼を寄せていく。自分を支えてくれる仲間を得る源泉は、損得勘定や経済的な恩恵の有無だけでなく、それ以上にその人とつながることが、第三者にとって将来のキャリアの可能性を広げてくれるという予感と期待からくる。あるいは何か自分が困った時に必ずこの人が手を差し伸べてくれるという安心感による。それは組織における階層的な上下関係を超える。

こうした信頼関係は、一つ一つの仕事が自分以外の人にどれだけ価値があるかということを問い続けながら仕事を積み重ねることによって得られていくのだと思う。キャリアを学ぶということは、人間としての在り方に行き着いてしまう。その答えを探すには自分自身と対話する機会と時間を持つことしか得られない。時間がかかる地味で面倒な作業でもある。しかしながら自分自身との対話の時間が多い人は、人に対する思いを寄せることができるのだと思いを深める。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

  

竹内上人

KY(危険予知活動)とEQの関係について その二

2020年7月24日

全国的に 新型コロナウイルスが再び広がりつつあり、経済活動と感染予防の両立や比重の置き方にどうバランスを取っていくのか経営者の方にとっても働き手にとっても困難な局面が続く。

『先週の週報から・・・事故を起こさない為の活動であるが、事故というのは身体に外的な傷を負わせるものだけでなく、仕事上の小さなミスを起こさないことでもある。その意味では優れた生産性向上活動でもある。・・・』  KY(危険予知活動)は、中央労働災害防止協会が全国のけん引役となっている。この団体は、労働災害防止団体法に基づき1964年に設立され、厚労省所管の認可法人から2000年に特別民間法人となった。

経営においても、キャリアにおいても危険とは隣り合わせでもある。私がマネジメント研修で使用する書籍に「カモメになったペンギン」(ジョン・P・コッター)がある。著者はリーダーシップで著名な研究者でもある。英文タイトルは、「Our Iceberg is Melting」(John.P.Kotter)。邦文タイトルだけだと中身が類推できないが、話の筋道は英文のタイトル通りペンギンたちの暮らす氷山が溶け出し崩壊する危険がありその対策に打ち出す様々な個性を持つペンギンたちの行動を描いた物語である。

人間は、自分にとって起こりつつある不都合な予兆に対して、「正常性バイアス(Normalcy bias)」が働く。バイアス(bias)とは、偏見、先入観の意で、問題が発生せず、普段と変わらず正常な状態がきっと続くであろうという偏った意識が働くという意。氷山で暮らす多くのペンギンも同じである。危険と隣り合わせていても、自分たちは大丈夫、今までも大丈夫だったからこれからも変わらず安泰が続くという正常性バイアスが働くのである。もう一つは、もし何か危険と具体的に対峙することになると、その対応の為に面倒な仕事や厄介な組織内調整プロセスが発生し、自分がその渦中に入ることを避けたいという衝動にかられる。余計な感情を使いたくないという感情的逃避がおきる。そして、せっかく稼働し始めた行動を促す感情のスイッチをオフにしてしまう。周囲にある豊富な知識や経験が仮にあったとしても活用できない主要な部分に感情の不使用がある。

KY(危険予知)の活動や行動は、何も事故や災害だけの危険回避に適用されるものだけではなく、企業の事業成長やキャリアの可能性への未対応といった積極的機会の損失にもつながる。「知識」とその知識にアクセスする為の「EQ/感情」のバランスにより危険予知に対する正しい行動に移れる。。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。   

竹内上人

KY(危険予知活動)とEQの関係について その一

2020年7月17日

早朝の名古屋の天気は、灰色の雲に覆われ、今日も長い梅雨の雨が降りそうな気配である。

今年になり何度か企業研修で EQ (Emotional Intelligence 心の知能指数)をベースにした管理職研修や社員のキャリア向上の為の研修を実施してきている。直接的に管理職研修や自律的・主体的なキャリアプログラムを実施したいのだが、問題はより深刻で自己理解や他者理解が苦手で適切な対話(コミュニケーション)が上司・部下双方とも一歩的になったり、相互理解できないまま不十分な状況に陥ったりすることが多いのだとも実感する。自分自身も人事担当者として、人材育成をスローガンとしての「OJT」として職場に一方的に委ねてしまってきた反省も抱く。

EQのプログラムで、他者理解のテーマで話している時、相手の気持ちを瞬時に理解し適応する能力について、受講生から、これはKYですねと言われた。もちろんその意味は、「空気が読める、読めない」の意である。しかしながら、私が企業に入社した時には、「KY」は、この意味で使われることはなく、「K:(きけん)危険・Y(よち)予知」*の活動としての記憶が深い。職場における危険性の情報を共有することで、予測できる災害の発生を未然に防止させるための活動でもある。朝会などの場や安全衛生の為の職場内パトロール活動を通じて、職場の安全性を高めるための活動である。先週の週報で取り上げた「5S3定(ごえすさんてい)」の活動とも連動する。*KYT:危険予知訓練(Training)とも言う。

KYは安全性確保の為だけではなく、やはりQCDの向上との関連が高い。不安全行動や不安全環境は、仕事の品質向上やコスト削減、作業標準時間低減にもつながる。多くの会社では安全衛生委員会が組織され、安全パトロール隊が編成され定期的に社内巡回し不安全環境や動作を点検する。時には、チェックを受ける側だけではなく、自分自身が安全衛生委員会メンバーになり、安全衛生パトロールの一員として職場内を回り、その価値を自身に刻み込まれることもある。私も同じような経験をしてきた。

職場内の安全では、現状把握を行い不安全個所や動作の抽出をする。なぜ、そのような状況や行為を放置してきたかという要因の分析を丁寧に実施し、QCでいうところの「真因」を探りだす。その上で、対応策を立案・実施するとともに、後戻りしない為の標準化を行う。事故を起こさない為の活動であるが、事故というのは身体に外的な傷を負わせるものだけでなく、仕事上の小さなミスを起こさないことでもある。その意味ではKYは、優れた生産性向上活動でもある。そうした、予兆は働く仲間の表情にも表れ、管理者はその微弱な感情の電波も受診しなくてはならない。 (次週の週報に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

5S3定(ごえすさんてい)と操典(そうてん) その二

2020年7月10日

明日の早朝、伊勢に出立する予定があり、少し早めにこの週報を書いている。松本市内も梅雨時期の為か湿度が高く、深夜でも蒸し暑さを感じる。

「5S3定(ごえすさんてい)」活動について、先週から触れている。5S3定の意味については、ホームページにバックナンバーを掲載しているので、先週のコラムを見ていただければと思う。先週の最終節より、・・・『環境リサイクルの仕事、彼らは、新型コロナウイルスの時も休むことなく、私たちの生活インフラを生命の危険と向き合いながら懸命に守ってくれていた、まさに必要不可欠な職業人であるEssential Worker (エッセンシャル ワーカー)なのである。 (次週に続く)』・・・

構内見学から戻って全体発表会の中でコメントを最後に求められた。私はここで、『みなさんの仕事は、生活のライフラインを死守するエッセンシャル ワーカーであると感じた』と伝えた。ホワイトボードに、その言葉を書いた後、少し躊躇しEssential Contributor(エッセンシャル コントリビュター) と書き直した。コントリビューターとは「貢献者」の意で、危険とも向き合い、肉体的にも負担がかかる仕事であることをどう表現したらいいか戸惑い、「社会生活に必要不可欠な職業的貢献者」という表現に言い直した。あまねく職業には価値があることは言うまでもないが、こうした直接的に私たちの生活のライフラインを守る仕事には特異な感覚を私はもつ。

もう一つ私がお伝えしたのは、「操典(そうてん)」という言葉である。「操典」とは明治時代からの軍事用語であるが、各兵種の教育、戦闘方法の指導教育・運用書である。司馬遼太郎氏の「坂の上の雲」という書籍でこの言葉を知った。1885年(明治17年)に来日した独陸軍のメッケル(Klemens Wilhelm Jacob Meckel)参謀少佐の影響を強く受けた日本陸軍が取り入れた歩兵運用教書である。環境リサイクルの仕事は危険と隣り合わせである。ひとつの行為自体が磨き上げられていなければ事故につながる。それゆえ、一つ一つの作業所作の練度の高さが求められる。そうしたことから、この職業の作業標準の語感は「操典」に近い印象をもった。

仕事には仕事を通じて出来上がった、芸事などで使われる「道(どう)」と言うものがあると思う。その形(かた)を突き詰めていく練達のプロセス自体が技術や知識を極めるだけでなく精神も鍛練する。それぞれの職業における「道」を究めるということ自体が、凡庸な日常の中で、仕事におけるロマンを感じさせる。私にとって、仕事や職業についてとても大切なことを気付かせてくれた成果発表会であった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

  

竹内上人

5S3定(ごえすさんてい)と操典(そうてん) その一

2020年7月3日

早朝の松本は薄い雲に覆われ、天気は少しづつ崩れてきそうである。

先週末に支援をしている環境リサイクルの会社で「5S3定(ごえすさんてい)」活動の成果発表会に呼ばれた。製造業に属した方であれば馴染みの言葉でもあり、QCD(品質・コスト・納期)を守るための基本だが、他の産業に属していると聞きなれないかもしれない。私の会社から、長年モノづくりの管理・監督経験があり、大先輩にあたる方に指導をお願いしていた。5Sとは、

整理(Seiri せいり):必要なものと必要でないものを区別する 整頓(Seiton せいとん):必要なものをすぐに取り出せ、活用できる状態にする 清掃(Seisou せいそう):必要でないものを廃棄する  以上の3つで3S(さんえす)と呼ぶ 清潔(Seiketsu せいけつ):整理・整頓・清掃された状態を保つ 躾(Shitsuke しつけ):習慣づけして守り、職場慣行に熟成する(ルール化も含め) 3Sまでが、実現すべき目標状態を示し、最後の2つのSでその状態を維持することを促す。

3定(さんてい)とは、5Sの整頓の目標とする状態を示した基準であり、 定位:定められた場所に部材や治具工具などのモノを置くこと(定位置) 定量:上記の置くモノは一定数量を保つこと 定品:定められたモノを置くこと  を意味する。私も新入社員の頃、現場実習先の腕時計の製造部長に厳しく5S3定は指導された。さらに、凡庸とした私は、灰色の作業服の袖のボタンをはずしていれば叱られ、机に腰かけると怒鳴られた。所作に留意し、『来た時よりも美しく』を徹底された。(職場は、帰社する時は、出社した時よりも美しくなっていることの意)。袖のボタンは、工作機械への巻き込み防止であり、机などの寄りかかりは転倒防止である。安全意識が先のQCDに一層の磨きをかける。

会社に到着すると、今回の成果発表会を担当する若い課長の方がにこやかに出迎えてくれた。作業の後なのか、額には汗のしずくが流れる。派遣した指導者の方も、若い社員と同化していたのが印象に残る。2階の大会議室に案内されるのだが、社員の方はスリッパをはくことなく階段を昇降する。差し出されたスリッパをはく自分が気恥ずかしくなる。「環境リサイクル」の仕事、彼らは、新型コロナウイルスの時も休むことなく、私たちの生活インフラを生命の危険と向き合いながら懸命に守ってくれていた。必要不可欠な職業人「Essential Worker (エッセンシャル ワーカー)」なのである。 (次週に続く)

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

経営者、管理監督者のキャリア意識の有効性

2020年6月26日

早朝の松本は薄い雲に覆われ、少し肌寒さも感じる。日中の気温は高くなりそうであるが、朝はまだその予兆を感じさせない。

キャリアコンサルティングを長年、研究・指導している方とお話しする機会があり、人事の領域に事実やデータを記録し、変化を分析するといった「サイエンス(科学)」の感覚が定着しない背景についての話題となった。経営者も人事責任者も人や組織に関して「情」の観点が強く働き、数値的分析の重要性にたどりつかないことが多い。総額人件費管理や要員構造分析の観点から職種別、事業別の人員構成を試算することは受け入れやすいのだが、個々の人材がどの程度のモチベーションで組織に貢献しているかという課題になると、解決策の出口を失ってしまうのではないかとためらう。

ものづくりや優れたサービス提供に対して定評がある日本的品質管理ではあるが、「ヒト」の領域になるとその精彩さを急激に曇らせてしまう。人事の役割としてデータや事実を収集し、それらをいくつかの視点で分析をし、その背景にある要因分析を行う。ここまではなんとかたどり着く。厄介なのはその先である。経営計画の動きと連動した人事施策に翻訳し直せるかという課題と、継続的にその人事データを読み解き、時系列変化を追い続ける持続力である。組織の大小は問わず、働き手の就労意識の変化は職場のいたるところで起こっている。その予兆や微細な救難信号をどれだけ鋭敏な感性で嗅ぎ分け、その処方箋を正しく描き、組織を巻き込んで展開できるかということが問われる。

丁寧な事実に基づいた検証と目標到達の動きとの連動性をとるプロセスは組織だけではなく、個々人のキャリア形成プロセスにも起こりうる。キャリアの最終的な責任者は自分自身であり、自己の職務遂行能力や職務遂行に関するモチベーションの状態を正しく実証的に把握し、キャリアゴールを目指す上での有効な対応策を立案し継続して実行しなければならない。

こうしたことを考えると、人事課題に対しデータに基づいた科学的な対応策たどりつかない背景のひとつとして、個々人のキャリア開発に対する科学的アプローチや向上意識の不十分さも影響しているのかとも考える。特に経営者や管理者の人たちが、自らの現状を正しく認識し、どのような将来キャリアを自らが描くのかという感性を研ぎすませることにより、その意欲や熱量が組織全体に浸透していくのだと思う。そうした環境が、人事課題に関する感度を高める。経営者、管理監督者に対する良質なキャリア設計支援やコンサルティングの必要性を改めて感じる機会となった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

回想 自身をマネジメントし、人との良好な関係を促すEQ(こころの知能指数)

2020年5月19日

今朝の名古屋市内は灰色の雲と弱い雨に包まれている。市内も徐々に日常を取り戻しているようだ。

1996年7月に講談社から『EQ 心の知能指数』と言う書籍が発行された。心理学の研究者で科学ジャーナリストのダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)という方が書かれた本である。私の書籍棚にもこの白いハードカバーに覆われた本が他の心理学関係の本とともに静かに並んでいる。書籍の中では知能指数:IQ(Intelligence Quotient)が高い人が必ずしも社会で人々に良好な影響力を発揮し、なにかしらの価値や貢献を果たしているというわけでなく、「優れた感情の使い手」もその価値創出の担い手になっていると提唱する。(米国では1995年”Emotional Intelligence” という表題で出版:Bantam Books)

その書籍の存在を知らない2000年頃、私は前職で人材育成を担当していた。私が37歳の頃、今は故人となった当時の社長から管理監督者として、どのような身の処し方をすべきかということを研修プログラム化して欲しいという指示を受けていた。彼の言葉では「人間学」のような内容だという。この難題に答えを出すことができず、中国古典や新田次郎氏の雪中行軍の書籍を映画化したものを題材にした研修化など試行錯誤を繰り返した。ある時、湖が一望できる湖畔の本社管理棟の7階にある社長室に呼ばれ、「竹内君、世の中に“EQ”というものが最近評価されているようだから、調べてみたらどうかアドバイスをもらった。」この時、私はこのEQという言葉を初めて耳にした。

それ以来20年間、EQについて、キャリア支援の現場、企業研修や大学講義の中で関わってきている。自己の感情の様々な特性を個性(パーソナリティー)の一部として変えることができないという考えを改め、適切な訓練により、戦略的なキャリア上の資源として開発できる能力であると考えるようになった。企業で創出される製品やサービスの出来栄えや品質について多くの労力と投資をする一方で、人事屋として、それらの企業価値を生み出す経営資源としての「人」に対して、専門能力や知識の取得、技能訓練などのIQに関わる領域に人材開発の中心軸を当てすぎてきたのだと反省もした。

自分自身を励まし、人を勇気づけ、人の心遣いを素直に受け止められる気持ちの平静を保つことは、良質な人間関係と仕事を通じての価値を生み出す貴重な原動力になる。感情を可能な限り数値化・分析し、適切な訓練と自己鍛錬により人間的な成長を促し、仕事の品質も向上する。人事屋としてキャリアの現場でEQの概念を活用していく意義を確信するようになった背景である。20年前、この大切な気づきを与えてくれ、この分野に携わる多くの人たちとの交流の機会を与えてくれた故人に心から感謝している。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって豊かな一週間でありますように。

竹内上人

4つのリーダーシップ像

2020年6月12日

明日の早朝に出立しなければならない予定があり、今週は一日早くこの週報と向き合っている。天候が崩れ、松本市内は激しい雨に打たれたり、少し小降りになったりと繰り返している。

大学の講義で、グループワークをすることが多いのだが、その後に必ずリーダーシップのタイプをレビューするように加えている。WEBをベースにした講義になっても、会議システムのグループ分けの機能を使い、少人数でのグループ討議と全体会議を組み合わせながら、できるだけ学生が能動的に講義に関わることができるようにと工夫を試みる。

講義後半の時間を少し使い、当日のグループワークに学生一人一人がどのように向き合ったのかを振り返るようにしている。主体的に取り組んだのか、受動的だったのか。議論では牽引したのか、調整役の立場だったのか。また別の視点で、各々の判断にあたって、柔軟的に対処したのか、自説に固執したのか、論理的な筋道を大切にしたのか、メンバーの感情を汲み取って判断したのか。これらの観点でリーダーシップの区分を16分割し、4つのリーダーシップ像に分離し、自己理解を促す。

4つの類型とは、司令官型リーダータイプ(Commander Leadership)、親方型リーダータイプ(Master Leadership)の、参謀型リーダータイプ(Bureaucratic Leadership)、そして支援型リーダータイプ(Servant Leadership )に区分し、それぞれのグループ活動の自分の他者への関わり合い方や、そこでの意思決定のスタイルを振り返るようにしている。どのタイプのリーダーシップが正解と言うわけではなく、学生一人一人のリーダーシップの本籍を理解し、将来に向けて、局面局面で適した行動や立ち居振る舞いができる気づきになればと願う。

新しい時代に直面しているのでは、と多くの人が感じているのであろう。特に新型コロナウィルスによって人々が物理的に離れたところで共通の目的に向かって仕事をしていく環境では相互の信頼関係が欠かせない。その時に必要な事は「共感資本」というべきお互いの信頼関係に基づく相互補完的な関係がより強く求められる。確かな答えがない世界の中で、人々の英知を集め、一定の方向に向かうのはデジタル的に算出された答えではなく、合理性の限界を超えてもその方向に向かっていこうとする共感力に依存する。誰かの為に自分は何ができるのだろうと思い続けることが、人間集団の中で相互の信頼関係の土壌作りの原点になる。「私がこうしたいという世界から、あなたの為に何ができるのか」と考える時間的な余白を一日の中で少しだけでも持つことによって調和が取れたチームができるのだと思う。

日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が豊かな一週間でありますように。

竹内上人

育成のための人事評価

2020年6月5日

   

今朝の松本は、薄い雲と青空が絶妙に重なり合う。北アルプスの稜線は、かすむような湿り気で覆われ、気温がこれから上がっていくことを予感させる。昨夜は夕食後、あまり身体を動かしていないこと気づき、少し家の近郊を歩いてみるともう冷気を感じない。そのうち近くの小川に蛍が飛び交うのであろう。

人事制度改定や運用の現場に立ち会うことが多い。そうした人事の話題の中で、覚醒された記憶がある。3年前になるが、外資系企業人事の友人と食事をした時に会話の中で話題になった「ノーレーティング(No Rating) 人事評価の廃止」という試みである。実は、私はこの言葉をこの時、初めて聞いた。自分なりにあれこれと調べてみる。巨大なグローバル企業も長年提唱してきた「9ブロック(業績×能力:Valuesのマトリクス評価)」を手放し、ノーレーティングに移行しているという。

ノーレーティングは、昇給原資の配分を現場マネジメントに委ね人事評価の裁量権を大幅に委譲するというものである。極端に表現すると、職場の昇給原資の総額(キャッシュ)を管理職に渡し、金額配分自体を職場に委ねるということである。確かに刺激的である。従来の人事評価制度における大きな枠組みは、人事部門が査定区分や視点を全社的に標準化し、その枠組みの中で総額人件費の制約との葛藤の中で、絶対評価という旗印を挙げる一方で相対評価の落としどころの間を行き来するものであった。

とてつもなく手間がかかるMBO(目標管理)の硬直的な目標設定とライブ感のないフィードバック面接を現場だけに委ねてきた弊害は、企業人事に長く携わってきた私も深い反省をもつ。内部調整コストが肥大化し、目標設定自体が賃金に直結してしまうことを恐れ、その制度の意思と反しチャレンジングな目標をためらう惨状は打破すべき経営課題でもある。一方で、現場の「人の評価能力の脆弱性」にも何度も遭遇する。管理者の育成支援に経営も人事も手が回らないジレンマに悩む。

「年功賃金」という古ぼけた日本古来の評価制度が散々な目にあって肩身が狭い思いをして久しい。多分に誤解もある。「年功」とは、もちろん年齢給ではなく、歳を重ねるとともに、働く人の技量が高まっていくことを前提としている。上司は、歳とともに部下の経験・技量を高めていく人材育成の重い責任を負わされる。人事評価を働き手を区分する思想で使うのか、働き手を育てることを前提にするのかによって、査定会議での会話の質も変わるのであろう。ノーレーティングの3年後の現状にも興味があるが、それ以上に、部下をどう評価育成すべきかに悩まれている管理者を励ますことに力を注ぎたい。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。今向き合っている困難を克服する取り組みに灯りがともりますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

竹内上人

環境変化に向き合う姿勢 古からのメッセージ

2020年5月22日

暦の上でも立夏を過ぎ、夏に向けて、新緑の勢いと、農家では、田植えや種まきなどの畑仕事が本格化している。環境に不自由さを感じつつも、夏の日が持つエネルギーの高まりは、素直に取り入れたい。

今週、ある方との会話の中で興味深いことが話題となった。日本には神社や寺院に参拝する際に心身を清めるための習いに、手水舎(ちょうずしゃ)で手を洗い、柄杓に直接口をつけず、手で受けて、口に水を含みすすぎ、再び手を清める。最後に手で触れた柄杓(ひしゃく)の持ち手の柄に水を洗い流し清める。

神殿の前でも、深く頭を下げ、それぞれの想いの願掛けや願いのお礼を言葉を発せず、心の中で静かに唱える。こうした長い歴史の中で続く慣習は、かつての疫病対策の古の人たちの知恵の中から生まれてきたのであり、そうした記述が古書などにも記載されているのだと。諸作法の背景には様々な説もあるのだと思うが、私には自然に腑に落ちる。

企業や組織におけるルールや規則の中でも特有な所作に出会うことが多々ある。それらは、何らかの事柄や想いに対する防護的、積極的な行為を促すためのメッセージでもある。私たちがルールや規則、仕事の進め方の慣習などを見直す時に留意しなければいけないことは、そうした過去から受け継いできた仕組みや慣習の背景にある先達の方々の工夫や格闘の事実や教訓を正しく理解し、未来の人たちに伝わりやすい言葉で翻訳し直す努力を疎かにしないことである。「変化の送り手」にとっても、「変化の受け手」にとっても、先達からの価値の連鎖に基づく積み重ねがないと、その言葉は空虚になり、関係は脆弱になる。身になっていない借り物の言葉は避けることだ。

世界中を席巻している出来事は、私たちの意識や行動の変化を促すであろう。そうした中でも、今を保護的に考えるだけでなく、将来に向けて、この機会をより有効に発展的に考える姿勢が、「組織にとっての経営戦略」、また「個人の自己研鑽や働き方」にとって大切だと思う。人間的な関係や、価値を創出するプロセスにおいて、新しい情報伝達やコミュニケーションの変化を次の成長に向けて取り込む大切な機会であると積極的に評価し、それらが持つ本質的な価値を考え抜き、新しい価値に昇華していくことが必要なのだと思う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。今向き合っている困難を克服する取り組みに灯りがともりますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

竹内上人

新しい働き方、ニュータイプの萌芽

2020年5月15日

この時期の松本は、晴天が多く、特に今週は青空に恵まれた。北アルプスの稜線は、時折かすむような湿り気で覆われ、日中の気温が上がっていくことを予感させる。早朝も冷気を感じない。確実に夏に向かって季節は移り変わっている。

仕事や交友関係の中で、インターネットを経由してのコミュニケーションの機会が日常的になってきている。大学の講義、打ち合わせ・会議、面接など、対人的な接点の場が圧倒的にITを媒体とすることとなった。移動時間が極端に少なくなり、また会議などの開始時間も、デジタル空間では定刻通り始まり、定刻通り終了する。便利で、すっきりした効用も多い。

このようなコミュニケーションの進め方が、しばらく続くといつしかそれが習慣化してくるのがわかる。緊急事態宣言が終息し、この後、幾度か行動の制約を余儀なくされる時期に向き合うことになると予測するが、その後の日常においても、果たして従来のような働き方や学び方のスタイルに戻るのかというと、後戻りはできないのだろうと思う。

今回の新型コロナの影響で、雇用の現場や働き方はその性格を大きく変容させつつある。あらゆるモノづくりの現場、価値創造や加工の職場で、自動化・省人化の取り組みが進む。人事管理についても、適材・適所・適時・適量供給の発想が、「内部(社内)労働市場」から「外部労働市場」との協業・共有のハイブリッド化が加速する。そして、長年その堅牢さを誇ってきた日本的人事システムの骨格である「職能給」が「職務給」へ、「就社型」から「就職型」へと枠組みが変容するだろう。今後は、より個人のキャリアの専門性が問われることになる。

働き手にとって、意識の変化が求められる。若い世代は新しいデジタル環境での学習スタイルに慣れてくる。孤立した環境でも仲間とつながり共感関係を構築する。その結果、こうしたニュータイプ、新種の次世代人は従来とは異なる就労意識や価値観を働く職場に持ち込む。彼らが生み出す新し価値のアイデアやスタイルの供給、変革は加速度を増すだろう。その反面でデジタルが進むほど、きっと、人間的な関係づくりの補完機能としての感受性能力の要求が高まってくる。それは企業内のコミュニケーションだけでなく、小売りなどにおける接客や、医療、介護、あらゆる分野で変化する。新しい枠組みの中で、ニュータイプの人口比率が高まる日はそう遠くなく、彼女ら、彼らを期待をもって歓迎したい。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。今向き合っている困難を克服する取り組みに灯りがともりますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

知識、経験のデジタル化の意味・・・人事担当者の課題

2020年5月9日

二十四節でいうところの立夏を超える。松本城の公園にある藤棚もこれからが見ごろである。5月に入り少しずつ、陽の日差しも強くなってくる。屋内で時間を過ごすことが多くなり、持て余し気味の身体の為に外での散歩も日中は汗ばむことに加え、皮膚に太陽の光がじわじわと吸収されるのがわかる。

4月の下旬から、大学の講義もスタートし始めた。今年はインターネットを使った講義形式に様変わりしている。最初にスタートした東北大学では、google classroomを活用しての対面型授業となった。講義テキスト等を自分の講座に投稿し授業時間に通信回線を通じ生徒と対面型講義を行う。来週から始まる横浜国立大学や学習院大学もシステムは異なるが、しばらくはインターネットを利用した講義になる。

コロナウイルスの感染予防で働き方が大きく様変わりしている。会社では、物理的な移動を避けデジタルな空間での会議や面談が行われ、学校では学生が自宅から講義に参加する。高校教諭をしている妻も、自宅でホワイトボードにプロジェクターで教材を投影し、配信用としての授業を動画で収録している。大学に入学した長女も2週間前からインターネットを使った講義がスタートし、自宅でPCの前に向かう日常になっている。コミュニケーションの仕組みが大きく様変わりしたことは確かである。

今から600年ほど歴史をさかのぼり、1440年頃にドイツ人 金細工師のヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg1398-1468)が金属活字を使用した活版印刷技術を発明した。それより以前に中国では、木版印刷での印刷も始まっていた。印刷技術の革新と普及により、既存の情報を保持できた者の社会的、経済的な特権を劣化させ、情報特権階級を介さず広く社会に情報が伝播しやすくなり、社会秩序と社会階層の変化を誘発した。

知識・経験のデジタル化の「使い手」があらゆる職業に広がった意味は深い。個人の持つ経験値や熟練度、知識や見識といった価値がデジタルに変換、瞬時に水平方向で共有され、電子データとして蓄積され、時間的な融通性が高まる。情報の発信者はいかに良質で共感的な情報コンテンツに仕立て上げるかに苦心し、情報の受け手は、供給者を場所と時間的な制約を受けずに選別する権利を有することができる。情報的価値を、既存の組織の枠組みで調達する必要性が低下し、個人のキャリアも所属組織を超え、普遍的・多層的な供給が可能になる。組織にとっても有益な人的資源を広範囲に調達する意欲が高まる。人事担当者は、いかに彼女、彼らを内部に取り込むか、組織内の制度設計も含め可能性が広がる。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

人格の陶冶 価値あるものについて

2020年5月2日

見えない不安と恐怖とに対峙ながらも、この連休は天候も良い日が続いている。今朝の松本も快晴を確信させる空が広がり、王が頭の山頂の稜線がくっきり浮かび上がる。この時期、登山の基礎体力づくりの為に登っているのだが、人との接点が少ない近郊の登山道を歩いていいものか思案もする。

長期の休暇にはいると、繰り返す習慣がある。書棚に一冊の古ぼけた文庫本があり、何度となく引き出されるため、そのくたびれ方も悲哀が漂う。「学生に与う」と題された河合栄治郎氏の著作である。この本の紹介は、以前にもこの週報でも紹介した記憶がある。河合氏は当時の東京帝国大学の経済学部の教授であり社会政策・労働経済研究の第一人者でもあった。学生にこうあってほしいという氏の願いを込めたものでもあるが、広く働く人にも絶賛された書籍でもある。1940年6月15日に日本評論社から出版され、戦時下の統制が厳しくなる中、河合氏は1942年に一切の文筆活動を禁止され、1943年には出版法違反にて有罪判決、翌1944年に亡くなっている。

本は27章から構成され、その時の気持ちに素直に反映して、気になる項目をめくる。気になる箇所は赤鉛筆で印がつけられ、すぐに目に入る。第一部「価値あるもの」の中に組み入れられている「教養」の項に目が留まる。教養とは、『自己が自己の人格を陶冶(とうや)することがすなわち教養である』と記している。多くの本を読み、音楽や芸術の知識を蓄えることが必ずしも教養ではないと言う。続いて、『雄々しいが惨ましい(いたましい)人生の戦いである』と続く。

困難な環境や避けられない病に直面して、その境遇をどう受け止め、どのように自己の滋養として胎内に吸収していくかが問われる。人格を陶冶すること自体が、艱難や試練を受け入れることでもあるならば、忍耐を覚え、練達を試み続けることが大切なことなのであろう。真っ向勝負をすると疲れ果ててしまうこともある。時々、息抜きしながらまた元の道程に戻ればいい。続けることによって希望も生まれる。キャリアも仕事の熟練度も、特に逆境の過ごし方で磨かれ方が異なるように思う。専門能力を超えた仕事を通じての他者への深い影響力は、その困難への向き合い方の積み重ねの質にあると思う。

いつもと異なる5月の連休、75年ほど前、53年間の生涯を人格の陶冶を課しながら自由を堅持し、国家の抑圧にも屈せず、言葉で自由を全うし、学生や広く多くの人に愛情をもって語りかけ、信念をもって格闘した研究者の心意気に深い敬愛の気持ちに励まされる。

今日一日が良い一日となりますように、今まで経験をしたことがない困難に向き合っている方、深い悲しみ向きあっている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

Essential Worker /エッセンシャルワーカー

2020年4月24日

今朝の松本は、再び訪れた寒気に包まれているが、朝の日差しの勢いは日に日に強くなってきている。雲の上に突き出た北アルプスの頂上付近はその光を反射している。

ニュースを通じ、”Essential Worker “(エッセンシャルワーカー)という言葉を聞くようになった。私にとっては、耳慣れない言葉であるが、「働き手」を表現する言葉として語感が心地良い。コロナウイルスの対応で、医療や介護、物流や輸送、治安や防災、生活必需品の販売、家庭排出物の収集と焼却、電気・ガス・水道等の社会インフラの仕事を担っている「働き手」に敬意を込めて表現する明るい言葉である。

先日、これらの仕事をしている知人に同じように、その感謝の気持ちとともに投げかける。気恥ずかしく思うが、自分の仕事を社会が必要としてくれていると直感的に感じるという。この言葉を投げかけられ、日常の仕事の価値に気づかされ、働く職場へ出向く自らの背中を押されるのだと。

研究社の新英和中辞典を開いてみる。私は考えながらその言葉の意味を探る時、紙の辞書をめくる。
“essential”とは「欠くことができない」、「必須の」、「なくてはならないもの」と書かれてある。そこに添えてある引用例文も興味深い。Sleep and good food are essential to Health (睡眠と栄養は健康にぜひとも必要だ)/ It is essential that we should act quickly(我々が直ちに行動を起こすことが肝要だ)。引用例文と和訳の言葉の選出に編者の想いを感じ、語感を刺激する。辞書のその上の行に目を移すと、”essential” ラテン語の「存在すること」の意。と記され、訳語は「本質」、「真髄」と記されている。

「エッセンシャルワーカー」と世間で表現されている職種が、私たちの日常生活において欠くことができない本質的な機能であることに疑う余地はなく心からの敬意を感じる。一方で、直接的に生命や生活インフラを支える仕事以外に従事している「働き手」の気持ちに想いは広がる。

働く自由を制約され、孤立する中でも、自らに課せられた役割を、自宅の食卓の片隅で、子供の玩具に囲まれたリビングで、家から抜けだし駐車中の自動車の中でと、見えないところで格闘しているあまたの「働き手」の息遣いを感じる。もっと深刻な事態に陥り息をひそめている働き手も多いのだと思う。人間はあまねく相互依存的であり、”essential” なのだと思う。そうゆう戦いの中に私たちは今それぞれの役割を果たすべく存在している。友愛という言葉の大切さを感じる。

今日一日が良い一日となりますように、今まで経験をしたことがない困難に向き合っている方、深い悲しみ向きあっている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

試練と向き合う肯定的な価値

2020年4月17日

昨日、緊急事態宣言が全国に適用され、事態の深刻さを身近なところで感じる。事業経営において影響を直接受ける業種もあるし、じわじわとその恐怖と戦慄を感じている事業者もいる。働き手もその不安や緊張を全身で浴びる。医療や介護、行政職の従事者は献身的にこの局面と昼夜向き合っている。学生にとっても授業開始が遅れ、慣れない遠隔授業で不安の中での新学期と向き合う。また、生活費の重要な収入源であるアルバイトができず就学継続の不安と戦っている学生の心境を想う。

こうした厳しい試練の問いかけにも私たちは、必ず訪れる次の社会機能の回復、経済の成長段階に向けての備えを怠らないようにと自らを鼓舞する。会社であり、家庭であり、どのような規模の組織でも、責任ある立場の人にとっては、構成員の気持ちを感じ、不安を与えず前に進む立ち居振る舞いとリーダーシップの真価が問われる。また、メンバーも同様にリーダーや同僚、家族を支えるフォロワーシップが不可欠である。

何か答えを探すように過去の連用日記を読み返してみる。3年前のこの時期の記述に優れた日本刀の企画展を鑑賞したことに触れていた。

日本刀というのは、鉄の塊を叩き、平たく延ばす単純な工程ではなく、そのプロセスは極めて手の込んだものである。熱し、急冷し、叩いて砕き、重ね合わせ、また叩く、そうした骨の折れる作業の連続である。こうして手にかけた結果、優れた日本刀が生み出される。

試練の連続の中で、人は時間を積み重ねていく。その過程を通じて、人間的な厚みが出る。外見は同じでも、厳しい局面に遭遇した時に立ち居振る舞いに歴然とした違いが出る。発する言葉から私心を感じさせない。試練や苦難の歴史は、その人の心の中に積み重ねられ、深く沈殿していく。

同じページに法隆寺・東大寺の宮大工の西岡常一棟梁の話し(伊丹敬之2007)に木を削る「かんな」の記事が挟んであった。刃には「甘切れ」が大切だと。硬すぎては木と衝突し、刃が折れてしまうし、柔らかすぎると、削るという機能自体を喪失してしまう。木それぞれに合わせた「しなやかさ」により、良い削りができる。

そうしたしなやかな強さは、その刃のつくり方と日々の丹念な仕事の後の手入れの繰り返しの時間の積み重ねから生まれてくる。人もたくさんの苦難と試練に向き合う、その時の向き合い方と手入れの仕方が大切なのであろう。できれば避けて通りたい出来事から、何かを教訓として学び続ける人と、重圧から逃避し、記憶から抹殺する人では、同じ叩かれ方をしても人間としての風味風合いに違いが生じる。

今回の試練と向き合う人たちを特定の企業や組織を超えて、同じ社会を営む同僚として感じ、この苦難や試練を大切な将来の機会に繋がる希望の為の修練の場であると少しでも笑顔で、前向きにとらえたい。

今日一日が良い一日となりますように、今まで経験をしたことがない困難に向き合っている方、深い悲しみ向きあっている方に希望がありますように。良aい週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

竹内上人

働き方を問われて・・

2020年4月10日

今朝の松本は、寒気に包まれ、遠くに美ケ原の山頂あたりから流れてきた雪のかけらが市内にも漂い、小さく陽の光に反射している。

松本市内の桜前線は、今は、松本城周辺が最も見ごろになっている。例年は国内外から多くの観光客が訪れ賑やかなのであるが、今年はひっそりした静寂に包まれている。松本市内の桜前線は、この後しばらくすると、少し高台の城山公園に移る。さらに1週間後はもう少し標高が高いアルプス公園に伝わり、4月末には、美ケ原高原への登山口である三城牧場から少し上った広小場にある二本の桜の木にたどり着く。毎年、五月連休の時期に登山シーズン前の準備運動を兼ねて確認する場所でもある。

自然がもたらす風景は、昨年と全く変わらないのだが、人がかかわる情景は大きく様変わりしている。豊満に膨らんだ桜の一つ一つの花を凝視してその思いは一層深まる。

環境が許される働き手にとっては、自宅での仕事の比率が高くなっているのであろう。私自身の仕事の比率も対面での仕事量が大幅に減少し、WEB会議システムを活用した機会が増えている。対面を通じてのコミュニケーションの価値と同様に、各々離れた場所で同じPCのスクリーン上に映し出される出席者の資料を眺めながら、画面を通じて会話をする。チャット機能を使ってメモをとる。メモ自体が、そのまま出席者と瞬時に共有される戸惑いや文言解釈の誤解の不安も感じながら。4月から開講する予定だった春季課程の大学での講義も教務課の方から、5月からWEBを使った授業配信の準備をしていると日々その進捗の案内が届く。

日本の賃金体系の主流である職能給は、主として「人」に対しての価値を評価して処遇がなされてきた。こうして多くの職場で、物理的に離れた場所で組織にとって大切な価値を協業的に創造する活動は、今まで以上に出来栄えやアウトプットの品質結果が問われることになる。また、そこに至る合理的で共感的なプロセスの系譜を問われる。管理職に課せられたマネジメント能力も部下や関係者の感情の内面を離れた場所からどれだけ同じ視点で想像できるかが問われる。

厳しい環境を、新しい創造的な価値創出プロセスの探求の機会としてとらえ、固定化された制約条件に縛られず、あらゆる職種に労使で、従来と異なる概念や仕組みで、如何に同じ機能や成果を演出できるかを積極的に考える機会になればと思う。
働き方改革の本質的な答えの糸口が、今まで経験したことのない環境から課せられた問いかけのひとつかもしれない。

今日一日が良い一日となりますように、今まで経験をしたことがない困難に向き合っている方、深い悲しみ向き合う方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

初心に戻り、考え、行動する機会

2020年4月3日

今日の都内は気温は低いものの、青空が広がり、ガラスで覆われた高層ビルに強い光が勢いよく反射している。

今週、4月1日は多くの会社で入社式が行われた。企業や組織の人事担当者は、前例のない環境下で新社会人式を迎え入れる努力を懸命にしていたのであろう。

毎年、4月の入社式の時期に決まって新聞の広告記事を楽しみにしていることがある。ご存知の方も多いかと思うが、酒造会社が出稿する広告記事である。昔は山口瞳氏、現在は伊集院静氏の寄稿による。
筆者の方が体調を崩された後なので、不安な気持ちで購読している電子版の日本経済新聞の紙面をめくる。見慣れた文体でその「令和の社会人に乾杯。」は、今年も続いていた。

『…(略)…たしかに素晴らしい国と、人々が今日まで歩んできた。この脈々たる流れも偶然か?いや私はそう思わない。それぞれの時代にみな懸命に生きてくれたに違いない。アジアの片隅の、この国で人々は少しでも前へゆたかにと汗を流し、向かい風に立ってきた。そして何より、いつも新しい人が、新しい力を与えてくれた。…(略)…』

私が入社した1986年の新社会人へのメッセージは、「ゆっくり、ゆっくり」だった。失敗を恐れず自分に課せられた仕事を丁寧に、誠実に、真摯に向き合えと。何事にも迂闊な私にとって、この言葉にずいぶんと救われた。

もう一つ、入社式の時期に必ず思い出す言葉がある。入社式の式典が終わった後、役員が会場から立ち去り、体育館に取り残された20歳後半の経験未熟な採用担当の私とこれから職業生活を始める大勢の新入社員との式典後の弛緩した空気感の中で私自身への自戒の言葉として伝えている言葉がある。

「焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい、世の中は今期の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。決して相手をとらえて、それを押そうと思ってはいけません。相手は後から後から我々の前に現れ、そうして我々を悩ませます。・・・」 記憶があいまいなところもあり、誤った個所があるかもしれないが、夏目漱石が静養中の伊豆から芥川龍之介に送った書簡に記された言葉である。

どのような環境でも周囲の人に良質で次につながる前向きな言葉をかけられるかが大切なのだと思う。社会においても、人間の価値は昔から変わらない。日常の仕事や役割に向き合う立ち居振る舞いは、誠実に努力することの積み重ねなのだと。特に長く経験を積んできた私のような年代の人間にとって、次の世代に少しでも模範となるよう、希望と励ましが与えられるよう意識できればと願う。4月のはじめ、何歳になっても初心に戻る機会に感謝する。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず

2020年3月27日

今朝の都内は、薄く灰色の雲が見上げる空を覆っている。例年にない環境の中でも桜は見ごろの時を迎える。普段の年であれば日中も夜も桜の名所には多くの人の訪れるのであろう。

桜の時期なると「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」*1(唐代詩人 劉希夷:りゅうきい 651-680 「白頭を悲しむ翁に代わりて」の第四節)の詩の一句が蘇る。今から35年以上も前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウスで、恩師である中條毅先生から新入生に語られた言葉であった。中條先生は私の記憶では今年で100歳になるのであろうか、同志社大学最高齢の名誉教授でもある。

今でもその場の空気感とともに覚えているのが驚きでもある。100人ほどが入る大教室で、私はちょうど後方の窓際の桜を眺めるのに都合の良い席に座り、この経験豊富な教師の言葉を雅楽の音色のようにぼんやり聴いていた。

中條先生は、自叙伝である「ウシホから産業関係学への道」の中でご自身の歩みについて、戦時中に海軍の軍人として乗艦されていた駆逐艦の潮(ウシオ/ウシホ)*2からの労働力政策の研究領域である産業関係学の道に進み、その研究に生涯を貫き通した歩みを振り返っている。
中條先生の熱意は、大学を超え企業・経営者団体、労働組合、政治に携わる方へ労働研究の率直な議論の場を押し広げようとしていた。私は学生時代、先生の推薦でその研究機関(当時は、「京都労働経済文化研究会」、現在の「国際産業関係研究所」の前身)で会報の編集などの事務のアルバイトをしながら、「働く」ということを、労働者、経営者、政治・社会の視点から考え、体験する機会に恵まれた。

変わらずに地道にやり続けることから開けてくることがある。どのような職業でも、たとへ、会社や職場は変わっても、一貫した職業の系譜を保持し、長く続けることからにじみ出てくる気概は、知識を超える。仕事におけるキャリアを極める一つのモデルでもある。あれもこれもと、移ろい易い気持ちを深く問いただし、一貫した仕事や理想の積み重ねを繰り返していく姿勢そのものが大切な価値であるのかと心に刻み込まれる。

入学式が順延になったり、入学式自体が取りやめになったり、今春の新入生にとっては不安で焦燥感を感じながら日々過ごしているかと思うと気持ちも痛む。学生ばかりでなく経済の先行きに戸惑う働き手にとっても事態は深刻である。どのような境地にあっても、凡庸としているとすぐに人の一生は老いに至る。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷にて 竹内上人

*1 「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず(ねねんさいさいはなあいにたり、さいさいねんねんひとおなじからず):毎年毎年、花は変わることなく咲く。人の世ははかなく変わりやすいのに比べ、自然は変わらないのたとへ」
*2 駆逐艦ウシホ:1930年進水、太平洋戦争の開戦から終戦(1948年解体)までその任を完遂

 

高校入試の発表と大相撲の千秋楽

2020年3月20日

今朝の都内は、少し雲の塊が点在するが、青空に恵まれ、例年より春の気配も早くあたたかい日になりそうである。今日の「春分の日」の祝日から三連休が始まるが、コロナウイルスの影響もあり旅行などの遠出の計画が立てづらく、どのような休暇にするか思案されているかとも多いかと思う。

昨日、長野県の高校入試の合格発表があった。多くの方にとって初めて向き合う選抜を前提とした試験なのかと思う。3月10日に行われた学力試験と中学時代の内申書を中心に、高校によっては、面接や志願理由(自己PR文)や作文(小論文)、実技検査なども参考にして総合的に合否判定が示される。

私自身も同じように40年ほど前にツメ入りの学生服を着こんだ自分自身の高校の入学試験の光景と合否発表の情景が鮮明に脳裏を横切り試験というものは、人生の中でこうも記憶に刻み込まれるものかと驚く。人によっては、中学への入学の段階で受験する方もいるだろうし、その後大学へ進学する人は大学入試に直面する。社会に入る時にも同じように入社試験や、公務員試験などと人生は試験の連続である。

試験は、企業に入っても私たちを悩ませ、入社後は昇格試験に続く。多くの企業で昇格試験を通じて処遇(賃金)と連動した「格」の評価を行う。毎年あるものではなく、概ね「係長」や「主任」といったリーダー職的な役割を担う位置づけの段階と、「課長」などの管理職として経営の補佐層として職場をマネジメントする立場になる時に行われるのが一般的なタイミングである。企業によっては、役職自体を給与体系上の「階層」として処遇体系にダイレクトに連動しているケースもある。それぞれの体系に関しては企業がおかれた経営環境や過去の経緯に委ねられるので、利点も課題も内在化する。4月は企業での定時人事異動や組織変更が行われる会社も多い。ちょうど3月の中旬を過ぎるこの時期、内示を受け、戸惑ったり、新しい役割に期待を持ったりしている方も多いのではないだろうか。

明日の日曜日、大相撲の三月場所が千秋楽を迎える。今年は通常とは異なり無観客で行われている。あと二日、ウイルスの感染した力士が出ず、滞りなく三月場所が進むことを願う。

スポーツの世界は企業社会以上に厳しい。前場所の成績によって、新しい場所の「格」が毎回変わる。その明確な選別が力士の絶えない緊張感と応援するファンの期待を引き出す。それによって、相撲自体の内的な活力を刺激し続けるのであろう。降格する力士も、降格によって自らの鍛錬の欠落を振り返り、返り咲きを誓う。年とともに力量が落ちつつも一つ一つの立ち合いに真摯に向き合い、降格していきながらも「相撲道」という道を究めていく。終身雇用的な労働環境や職能給的に緩やかな賃金上昇カーブに慣れてしまった日本企業に勤務する企業人にはそうした気持ちにはなかなか至らないのであるが、こうした力士の精神性を学んでみるのも大切なことかと思う。4月を迎えるこの時期、桜の花を例年とは違った環境で鑑賞しながら、どのような環境であっても新しい年度の抱負を前向きに考えてみたい。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

表参道にて 竹内上人

 

雌伏の時

2020年3月13日

今朝の伊勢は薄い雲に少し覆われながらも青空が広がっている。3月の早朝とは思えないあたたかな空気に包まれる。今年の桜も例年以上に早く咲きそうとのことである。

私が大学4年生、就職活動をしていた1985年9月に為替調整を国際的に連携する「プラザ合意」が行われた。その後、急激な円高に為替が誘導され「円高不況」に突入した。入社は1986年4月であったが、その後円高による輸出産業の深刻な環境の変化の中で1987年ごろから生産数量が減少し、配属された腕時計の工場では一斉休業が行われるようになった。

腕時計工場の製造ラインが止まり、大規模に人材の再配置が行われた。私は新米の人事担当者だったのだがかなり深刻な状況になっていることが理解できた。経験豊富な工場長の補佐として、配置転換や異動のための面談補佐を事務方として行っている場面の記憶が鮮明によみがえる。

ある面談で、製造減少にともない工場部門から他職場に配置転換が予定されている女性工員が、慣れない仕事に携わることは望まないこと、また、なぜ自分が異動しないといけないか、上司や同僚に対する不平を延々と語っていた。その時、普段温厚な工場長が凄まじいばかりの叱責をしたことを覚えている。会社が厳しい局面に立っているときに自分のことだけ考えるのではなく、組織や同僚のために何ができるかを考えるべきであると本気で怒っていたことを今でも覚えている。

また、直属の総務部長は人情味深い方であった。彼は、当時は許されていたタバコを吸うことができる通路エリアで、新人の私をつかまえて、危機的な状況に直面した時こそ人事に携わるものは、とにかく落ち着いて、平然と、にこやかにしていることだ。できるだけ会社に住職のように居て、どっしりと構えていることが大切なんだと。

その後、政府の低金利政府もあり、1988年頃から一転してバブル景気に突入し、大量採用時代に突入する。「雌伏」と言う言葉がある。力を養いながら、次に向けて力強く踏み出していくために力を貯める姿勢である。

今世界で起こっている様々な出来事は歴史的に見ても記憶に残る環境変化になると思う。こうした時にどのように組織に対し、同僚に対し向き合うべきかという事はとても大切な経験になる。自分が主体的にできること、仲間を支えること、そうした気遣う気持ちの持つ時間を少しでも長く保持すること、そうした姿勢が問われる時なのかと35年前の出来事を思い返しながら週末を迎える。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

キャリアアンカー(Career Anchor)

2020年3月6日

今週は寒さが戻り、風も強い日が多くあったが、今朝の都内は、雲一つない淡い水色に覆われている。高層ビルに反射する朝の光もその光量が一層強い。、

この数日、機会がありキャリア理論に関する勉強を続けている。その中で、エドガー・H・シャイン(Schein,E.H. 1928年- )のことを学びなおす機会があった。彼は、組織と個人の関係性を踏まえたキャリア発達理論や組織心理学の研究者として、人事の仕事に携わる者にとっては、何度か耳にするキャリア研究者の一人である。

シャインが提唱した理論の中で「キャリアアンカー(Career Anchor)」という概念がある。個人がキャリア上の選択や大切な判断や決断を迫られた時に、その選択や判断・決断の根底を形成する拠り所となる自己概念を示すものであり、その特性から8つに分類した。アンカーと命名された所以は、船が波や海流に流されないように錨(アンカー)を降ろしてその位置に停泊するように個人のキャリアにも様々な職業上の選択や判断・決断の根拠となる錨があるというものだ。その錨が人間に行動における原理原則を支える。
私たちを取り巻く様々な環境変化や人間関係において対処すべき課題に対して、こうした行動の原理原則となる拠り所がきちんと機能をしているか否かで、自分らしさを堅持して、環境や時流に流されず、周囲の雑音にも動じない存在感を示すことができる。そしてキャリア上の判断の適格性を保証する。

原理原則という言葉を代表する人物として、特に戦後処理から高度経済成長の初期にわたり活躍した白洲次郎という人物がいた。白洲氏は、戦後処理に吉田茂首相の側近として、GHQとの折衝に携わるのであるが、GHQ側からの印象は、「従順ならざる唯一の日本人」と称された人物である。特定の個人なので、人によって評価は様々なのであろうが、私の心情とすると、「格好の良い人物」の最右翼として位置づけられる。

白洲氏も物事の判断基準として彼自身の定めた原理原則を大切にしていた。時として、周囲の空気に迎合して、平凡なる日常生活を過ごす身からは、なかなか厳しい基準である。些細な日常生活の所作にもこの原理原則は息づくのであろう。日常の所作に配慮を欠いた弛緩した生活を続けていると、大切な判断の時にその実行が危ぶまれたりもする。

シャイン氏が提唱したキャリアアンカーの理論も、この原理原則と同じような概念として私の中には投影される。何故この仕事を選択したのか、仕事に対峙する時にどのような原理原則で立ち居ふるまうのか、仕事を通じてどのような価値を創造し、他に対して何で貢献するのか。仕事と生き方は切り分けられないところがあるし、連続した時間の流れの中で分断すると自己矛盾を起こす。できれば一貫した原理原則、流されないキャリアアンカーを意識して仕事や日常と向き合いたい。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

表参道にて 竹内上人

(補論)
白洲氏のキャリアアンカーは、シャイン氏の提唱した8つのキャリアアンカーの何に該当するかを思案したが、一つに絞り込めず、「起業家的創造性」、「自律・独立」、「純粋な挑戦」などを連想した。どうしても特定できず、キャリアアンカーを複数持つ者もあるのではという印象をもつ。
8つのキャリアアンカーは以下の通り、「専門・職能別コンピタンス」、「全般管理コンピタンス」、「保障・安定」、「起業家的創造性」、「自律・独立」、奉仕・社会貢献」、「純粋な挑戦」、「生活様式」。

企業内キャリアコンサルティングの価値

2020年2月21日

今朝の名古屋周辺の空気は、肌に心地よい冷たさである。週末を迎える松本のような冷気は感じられないので、私にとっての名古屋の朝は暖かいと感じるのであろう。今年の冬は例年になく温かい。

連用日記に挟んである新聞の切り抜きが目に留まる。以前にもこの週報で紹介したことがある京都のお線香を家業とするお店の家訓である。

『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)

家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。

それ以来、この言葉が、「働く人」のキャリアの在り方と重ね合わせられる。昨年から始めた学習院大学の経営総論の講座でも、段階的に経営理論を学びながら、個人のキャリアの考え方と重ねて解説する。経営戦略の設計プロセスとキャリアデザインの設計プロセスは極めて類似している。

先日、キャリア理論の専門家の方との話を通じて、企業におけるキャリアコンサルティングの価値を再確認する機会があった。厚生労働省は、働き方改革の施策の一つとして、「企業内キャリアコンサルティング」の導入を推進している。キャリアコンサルティングとは、働く人のキャリア形成や職業能力開発の助言や指導の役割を担う。

私は、ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考える。正しい経営戦略を有している会社は、市場から求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、働く人たちの職業倫理も高い。

個人が向き合うキャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとって、所属する組織にとって、より頼りにされる卓越した人材になる。これは、持って生まれた素質ではなく、習得できる技能なのである。企業内で経営を担う人材が、経営戦略を考えると同様、キャリア設計の方法を重ねて考え、社員への伝授する試みは、企業経営にとっても重要な価値に昇華する。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

名古屋にて 竹内上人

 

マイペース

2020年2月14日

今週、娘が受験のため長野から上京して、東京の自宅に滞在している。いくつかの大学を併願し、今日も志望校の受験日だという。朝の6時、寝込んでいる自分を起こしてほしいと頼まれる。

都内の大学周辺の朝、真剣な表情で歩く受験生を見かける時期でもある。多くの受験生はセンター試験が終わり、自己採点の結果に喜び、悩みながら前期・後期日程の受験計画に向き合っている頃なのだと思う。私の大学受験は今から凡そ40年程前に遡る。若いころの記憶なので今でも当時の心境は鮮明に覚えている。

『友人の読んでいる雑誌、参考書が気になることがあります。友人の受験対策の方が優れているように見えることもあります。また友人に提示された数学の難問にこだわって、貴重な時間を費やしてしまうこともありうることです。それは夏休み頃までなら、それなりの収穫もありますが、「河中に馬を変えることなかれ」という諺があるように、いまここで今まで君のたどってきた勉強方法を変えてはなりません。「A君は難関校に入った、よくやったな」という話を耳にしたことがあるでしょう。そして、自分の進路を選ぶとき、つい難易ランキングを気にしてしまうものです。大切なことは何大に入ることではなく、大学で何を学ぶかということです。そこに、自分が生涯拠り所にする専門分野がどんな形でおかれているかも大切です。人それぞれに性格も違いますし、そこから発する持ち味も違うものです。日本の社会が貧しかった頃はともかく、今後の社会で、君たちの幸福は学歴だけでは決まらない。私はそう思います。・・・(中略)・・・受験への道はひとりで行く道です。他の人と比べるのではなく、マイペースで一歩ずつ進みましょう。』

これは、当時、ある新聞に掲載された数学者の寺田文行先生(早稲田大学 故人)のコラムである。40年たった今もその切り抜きをとってある。私が通学していた高校は自宅から片道2時間以上かかる田舎にあった為、塾などには通うことができず、受験勉強はもっぱら「大学受験ラジオ講座」に頼っていた。寺田先生は数学を担当していた。参考書も「寺田の鉄則シリーズ」という分かりやすい参考書を執筆していた。早朝5時、雑音が入る放送をカセットテープに録音し、その後、何度も繰り返し聞いた。後で知ったのだが、私がラジオ講座を聞いていたころ、重度の障害をもったご子息が亡くなった頃と重なる。寺田先生は、その時期ラジオ放送の数学講座を通じ、受験生を勇気づけ、力強い言葉を発していたことになる。

私は職業を選択する岐路に向き合っている方々の支援をする仕事に携わっている。これから実社会に出ていく大学生であれ、企業で豊富な経験を積んだ方であれ、少しでも時間の許す限り、人事屋としての経験に基づいた支援ができればと思う。こうした方と向き合う時に、寺田先生の言葉にある他の人と比較することなく、自分自身の進むべき道を考え、選択することの大切さが染み込んでくる。

マイペースは自分の意志に基づく具体的な行動でもある。仕事の面接を受ける側の者は、選ばれる側だけではなく、選ぶ側でもある。就職や転職の先にある、それぞれの方にとって大切な何かを一緒に考えながら応援したい。そして、娘もマイペースで今日の受験を淡々と通り抜けてほしいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

成績表と人事評価

2020年2月7日

長野県の飯山にき、二つの国立大学の合同プログラムとして、留学生のためのキャリア設計のための合宿研修を行ってる。昨夜からかなり冷え込み、今朝は思い雪雲が低く居座り、積雪も深くなっている。アジアからきている留学生はこの雪の多さに驚くことであろう。

秋季(後期)課程は、横浜国大と東北大、学習大学を合わせて7講座を担当した。学習院大学は日本人の学生が主であるが、他は、留学生の生徒の数が圧倒的に多い。会社の人事評価も同じだが、定量的・定性的に評価をする難しさを痛感する。出席率は、もともとも数値化されているデータだが、出席率が高ければよいのかと、もちろんそうではない。できるだけ多面的にと提出レポート、授業での参画度なども加えて評価の客観性を試みる。しかしながら、学生に対して、なぜ評価をするのか、何を評価項目とすべきか、どのような評価プロセスを取り入れるべきか毎回悩みが尽きない。

企業の人事評価はその答えが明快である。評価の人事的な狙いは組織目標に適合する人材を長期的に育成、動機付けすることに重きが置かれている。実際の職場では、上司の主観的な判断や,「好き嫌い人事」があるのも現実であるが、企業人事担当の心意気は、もう少し異なるところにある。業績評価に対する公平感(fairness)は組織倫理の観点から外せない視点だが、それ以上に賃金体系の設計やその運用の意図の拠り所は長期的な事業戦略の実現に寄与する人的資源開発におかれている。また組織価値の品質を維持する企業理念の実践者を励まし続けるところにある。

私が多くを受け持つ留学生の実態に再び目を移してみると、文科省は、東京オリンピックが開かれる今年、2020年には留学生30万人計画を打ち出している。現在、留学生の日本就労率は、30%と低いが、絶対数の高まりとともに、確実に職場に異文化の人材が流入する。日本の雇用環境から、労働人口の絶対数の減少を多国籍人材で補わざる得ない実情もある。

こうした留学生の今後の推移を考えると、企業における人事屋として実務を担っていた自分の大学における役割に気づく。将来、日本の組織に多数入り込んでいく留学生達が、どうすれば組織適合能力を身につけることができるのかという命題に対し授業設計を行い、その習得度を評価体系に内在化させていくことにその答えがあるのだと。それと同時に日本人学生に対しては組織におけるキャリア競合者が急激に多国籍化していく事実を伝え、その上での備えと行動指針を考える場の提供を痛感する。

本日午前中予定している講義の内容は日本的経営のリアルをできる限りわかりやすく解説し、組織におけるキャリア形成の考え方と向き合い方について深く考える機会を提供できればと願う。

ただ、就職を希望する留学生には、選ばれるという視点で自らの個性と特異性を日本人に合わせ過ぎず留学生自身も企業を選ぶ立場なのだという強い意思をもつことの大切さを伝えたい。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

長野県飯山にて 竹内上人

人事・賃金・ルールの意味

2020年1月31日

早朝の都内は、この週報を書きながら、少しずつ変化し、薄いやわらかなオレンジ色を帯びた色合いの空から澄みとおった青く輝きを帯びた空間が広がりつつある。青空が占める空間が多いので、都内の今日はきっとよい天気に恵まれるのだと思う。

日本の大手企業を中心として構成され、財界の総本山ととされる経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)のトップである中西宏明会長(日立製作所会長)は、今年の春季労使交渉において、経営側の指針として、労使の立場の違いはあるが、「日本型雇用システムの見直し」について解決すべき課題があり、労使の立場の違いはあるが、よく話し合いながら進めていく必要性について語っている。

私自身が最近、企業経営者や人事部門の責任者から人事制度の見直しについての相談を受ける機会が多くなった。私は人事屋として、「人事・賃金制度は、組織間のコミュニケーションのパイプライン(伝達媒体)」のようなもので、トップの事業成長に向けての決意と、働き手に対する期待行動の願いを反映するものだと感じている。

中小企業の場合は、賃金制度自体が存在しない場合もあり、経営者は賃金台帳を観ながら社員ひとり一人の顔を思い出しながら、時には家族の事情を思案しながら個別賃金額を定めていく。企業が成長し、所属する社員の数が多くなり、社外から多くの社員を募らなければならなくなる段階で、新しくチームに加わる働き手に、経営トップが創業以来、大切にしてきている社員に対する期待値を「人事・賃金にかかわるルール」を通じて伝達する必要に迫られる。組織が大きくなりトップマネジメントが、一人ひとりの社員と直接接点をもつ機会が物理的に少なくなればなるほど、期待値の伝達手段としてのルールの重要度は高まる。

それぞれの企業には、時間の積み重ねの中に出来上がってきた慣行やルールというものがあり、それが会社の成長やモチベーションの原動力になってきている。会社がその企業特有のキャラクターを構成している源泉を外部の人間が一般化されたファッショナブルな思想で安易に乗り換えてしまう事は自らの企業のアイデンティティーを失う危険も伴う。その個性化を喪失した時、企業特有のオリジナリティーがあいまいになり無機質な人間の集合体になる。

人事屋は脚本家のようなところがある。人事・賃金制度の改定という物語の筋道をどのように時間軸で展開していくのか、そこには映画や芝居と同様に伝えたいメッセージを受け手の感情に訴えるストーリーが必要である。優れた映画や芝居は、観客が何かを感じ取り、次の行動を促されるエネルギーを与える。人事・賃金制度もそれに似たようなところがある。

今年、退官する指導教員の最終講義が2月5日に予定されていて出席をしようと思う。今でも印象に残る先生の言葉として、『竹内くん、経営や人事はやっぱり文学の世界で、深い正しい人間理解が欠かせないと思う』と。大学の近くにあった「わびすけ」という古ぼけた喫茶店での風景が今でも脳裏に焼きついている。35年ほど前、20歳を少し越したばかりの当時の自分にはピンとこなかったが、今となってはその心根を持つことが実務家のとても大切な視点であると感じている。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

つながりから得られるキャリアの価値

2020年1月17日

早朝の伊勢の空はまだ日が昇る前なのだが、薄い雲の間からオレンジ色の光が差し込みだしている。昨夜、夜空を見上げたらオリオン座もくっきり映し出されていたので、きっと良い天気になるのかと思う。

企業研修を講師として研修の現場に立つ機会も多い。大学とは異なり、職業によって生計を立てている人たちとの会話は自分自身の仕事に対する感性を磨く上で不可欠な機会でもある。学生との対話では感じられない仕事と様々な葛藤を抱きながらも真摯に対峙する働き手のリアルを体感できる。

キャリアに関する研修を行いながら自分の中でも考えが深まることも多い。ここ数回連続してキャリア設計に関する研修の場でメッセージの中核においたことがある。それは、自己の能力蓄積を個人のスキルや知見・見識だけに止めるのではなく、如何に周囲の力を借りることができるかという総合的な可能性をひとりの人間がどれだけ持てるかということである。単に多くの人を知っているということではなく、ひとり、ひとりの方と信頼関係の絆で結ばれているかどうかということが問われる。

仕事はひとりでは完成しない。職人であっても、研究者であってもモノや価値を生み出す過程においては、有償無償の形態は様々であるが誰かの援助が必要である。自分の力量を超えた仲間の絶対量がその人の可能性を広げていく。そこには経済的な損得を超えた世界がある。誰かが自分に仕事を頼む時、その人個人が持っている経験や能力だけではなく、その人につながる多くの良質な仲間の存在を無意識のうちに感じ信頼を寄せていく。自分を支えてくれる仲間を得る源泉は、経済的な恩恵の有無だけでなく、それ以上にその人とつながることが、第三者にとって将来のキャリアの可能性を広げてくれるという予感からくる。あるいは何か自分が困った時に必ずこの人が手を差し伸べてくれるという安心感による。それは、組織における階層的上下関係を超える。

良識な集団としてのキャリアの関係性を構築するためには仕事に向き合う誠実な姿勢が求められる。それは、一つ一つの仕事が自分以外の第三者にとって価値があるかということを問い続けながら仕事を積み重ねることによって得られていくのだと思う。こうして考えるとキャリアを学ぶ基礎は、人間としての在り方に行き着く。その答えを探すには自分自身と対話する機会と時間を持つことしか得られない。時間がかかる地味で面倒な作業でもあるが、自分自身との対話の時間が多い人は、人に対する想いを寄せることもできる。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

失敗から得られるもの

2020年1月17日

寒い日が続いている。週末は天気が崩れるという。受験生が向き合う環境が滞りなく迎えることができればと願う。

今週の初めの成人の日、私はこの日に掲載される伊集院静さんが執筆している飲料会社の企業広告を毎年楽しみにしている。かつては山口瞳さんであった。この企業広告の存在は、私が社会人として初めて企業に勤めるようになった時の社員寮の同期が教えてくれた。それ以降、この時期に伝えられる文章を真っ先に探して確かめる。あれから35年近くが過ぎる。

今年のメッセージは、「君の個性に乾杯」と記されていた。

私が特に心を奪われたの箇所は、『…まず古い考えを取り払え、あるように見える“ワクからはみだせ”、それが二十歳の可能性だ。…但し、品性を忘れるな。自分の為だけに生きるんじゃない。…そして元気に歩くんだ…』

この二十歳の方に対するメッセージは、毎年のことながら自分自身に対して問いかける。新しいことに挑戦すると、必ずしもうまくいかないことに直面する。その恐怖から自分自身のチャレンジを思いとどまってしまうこともある。

所属するロータリークラブの諸先輩方から学ぶことは多い。経営の先達の方と話すと、仕事は失敗の連続だと感慨深げに話される。それぞれの分野で継続して事業を担われているのだから成功の体験の方が相対的には多いはずである。ただ、うまくことが運ばない出来事は、ご本人たちにとって記憶を超えて心に刻まれ、深く内省するからその印象が強く残り続けるのであろう。誰にも責任を転嫁できない立場と葛藤を垣間見る。

仕事においてうまくいかない時に、誰かが支えてくれ、支援を得たりすることがある。当初の目論見から乖離して、絶望的になった時、新しく強い絆を生み出すこともある。そうなる場合とそうならない場合の違いは何なのか。

その時に、品性を忘れず、仕事は自分の為だけにするものではないという言葉が深くしみ込んでくる。失敗ということは実は、存在しないのではないかと思う。受け止め方であり、そこに至る人と人との関係性の中での産物であるように思う。うまくいかない出来事から次への足場ができることもあるのだ。

心から、どんな時でも、元気よく歩いていきたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、過去の避けられない災害から、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

伊勢に向かう車中にて 竹内上人

感情の力がもつ可能性

2020年1月10日

今朝の都内は薄い雲で低く覆われている。今週もこの季節には似合わない暑い日が続いていた。今日は、少し天気が崩れることもあるのか気温も高くはならないだろう。

東京のアパートの壁に新聞の切り抜きがピンでとめられている。時々、ぼんやりとその存在に目を向ける。ピンを外して読み直すときもあるし、自らが身を乗り出し、眺めることもある。その切り抜きは、5年前に事業を始め時に掲載された地方新聞の一面の最下部にある「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイのひとつである。

朝日新聞の「天声人語」のようなものであり、私は、「天声人語」、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、無造作に壁にピンでとめている。そして壁の切り抜きは、いつしか自分の中で整理され外される。だが、この切り抜きだけ長くその役割を終えず残っている。

『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。相対的貧困率は、国民生活基礎調査の貧困線では年収122万円(2012年)と定められている。

身の回りで起きる私たちの心を痛める現実に向き合うことは難しい。先日、オフィスへ戻る道すがら、急に振り出した雨に遭遇した。さいわい、折り畳み傘を持参していたので雨をしのぐことはできたものの、交差点で信号待ちをしている初老の男性は雨に打たれたままであった。交差点を待つ間だけでも雨除けをと迷いながらも傘を差しだした。快く受け入れてくれ少しの雑談を交わす。躊躇する感情を抑え、声をかけることができた自分自身が救われた。

社会でも職場でも、声を掛けるべき仲間は、自らの周り多くいる。日常の営みを通じて、仕事を通じて、自分以外の人の気持ちや痛みを感じられる感情能力もつこと、少しの勇気をもってその感情を相手に伝えていくことが、相手以上に自分自身にへの滋養となる。

感情能力(Emotional intelligence Quotient:感情能力の指数)が良好なコミュニケーション、チームビルディング、リーダーシップに活かされることを体系的にまた実践的に理解し、活用する講義を横浜国立大学や東北大学など複数の大学で5年ほど続けている。最近は企業でもその機会をいただく。経営者や人事担当者の問題意識の背景の深さを重く受け止めながら人事屋として長く組織内外の関係性のマネジメントに従事してきた自己責任としてできる限り果たしていきたいと思う。

人事の実務家として痛感するのは、人と人をつなぐのは、デジタルとしての情報伝達ではなく、感情を体温とともに誠実に伝えていくことによりその質量は重厚になるという経験である。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

Happy new decade! 10年のPlanの可能性

2020年1月3日

あけましておめでとうございます。新しい年が、皆様にとって豊かな年となりますことを祈念いたします。

早朝の松本の外気温は摂氏-4度で冷え込んでいる。松本平を取り囲む山々の山頂に少し雲がかかっているが、澄み通った青空の占める割合が圧倒的に占有して、美ケ原王ケ頭(標高2,034m)を超えて昇ってくる陽の光の強さが新年の始まりの号砲のようで励まされる。

西暦2020年という新しい年に入るにあたり、海外での新年のあいさつで「Happy new decade!」という言葉に触れる。”decade” (dékeɪd)は10年間という意味で、新しく始まる2020年代を希望をもって祝うという意味なのであろう。日本人では習慣的に1年間を区切りとして目標を立てたり、振り返ったりすることはよくあるが、10年間の期間で見通すことは稀である。

この“decade”とい言葉に触れながら、今年の年始は、10年の時間の塊で未来を予測したり、計画したりすることの楽しみを感じている。1年での計画は当然ながらその実現可能性の視点から現実的な目標の形状になるか、長期の目標の細分化された一過程になる。これはこれで、現実的な自己統制の枠組みでは、とても大切な時間軸である。一方で10年後の到達目標や計画を考えるともう少し想像的な要素が加わり楽しさが増す。発想が長くなった分だけ、自由になり希望的な要素も加わる。

自由で希望的な目標を自己の中に熟成させ続けることで、これからの10年の間、より広い枠組みで自分にとって都合のよい偶然に出くわす可能性が増す。可能性はおそらくすべての人に平等であるから、自分が出会うべき「機会」を見逃がさない、と「計画化された発理論(Planed Happenstance Theory」の提唱者であり、キャリア理論の師である故クルンボルツ博士(John Krumbolt)は示唆するであろう。

自らのプランを立てることは、他人のプランで日常を占有されない為にも大切であり、その主体的な行為の積み重ねが責任感を醸成し、人格を磨く。新しい10年を最大限の想像力で目標とプランを描き、主体的に楽しく時間を積み上げていきたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人

一年の計

2019年12月27日

今朝の都内は早朝から霧雨のような細かな雨に包まれているが気温は高くない。
企業で働いている方には今日が仕事納めの方も多いかと思う。今年最後の残務に決着をつけ、一年でたまった不要な書類を整理し、職場で協働して大掃除を行う。そして挨拶会を行い、みんなで一年の労をねぎらい、年末年始の帰省のなどの道中の無事を祈り、休暇のプランなどを取り交わす。

今年はどのような一年だったか、これから大晦日まで少し振り返る機会も楽しみでもある。この週報も2016年から始めて4年目になる。今年初めて、一回も欠かすことなく毎週金曜日の早朝に書き続けることができた。例年は、数回どうしても書くことができない朝もあった。

この週報は、自動機能で送付していない。何かの機会でご一緒した方に限り、私個人のアドレスから送付している。時々、返信メールをいただき、久しぶりにやり取りをすることも楽しかった。

職業人にとってのキャリアの概念をポジティブに表現する良い言葉がないかという問いを今年の年初に箱根駅伝で競い合う選手の姿を観ながら考え、「Business Athlete(職業競技者)」という言葉を思い浮かべた。

働き手は、それぞれのキャリアの競技種目と所属チームを選び、そこで鍛錬を積み重ね、仲間と励ましあいながら、個人と組織で、練習の成果を競い合う。目標に達成する時もあるし、目標に届かない時もあり、次の機会にその挽回を挑む。スポーツ競技と少し異なるのは職業上の人事評価では、「結果」と「プロセス」の両方で行われる。結果の出し方も問われるところが心地よい。企業や組織は、できる限り良質な結果とプロセスの期待値を評価指標に組み込み、想いを所属員に伝えていくべきである。

年末年始が仕事の大一番で忙しい方もいるだろう。休暇に入った方にも、仕事の山場に挑む方にも、人事屋として、今年のゴール地点で心からの声援を送りたい。

どうぞ、良い年をお迎えください
Best wishes for the new year

 

Christmas 英語穴埋め問題

2019年12月20日

今朝の松本は少し雲がかかり、寒い朝を迎えている。日の出前の美ケ原の空と稜線の境がくっきり映し出される。気温はマイナス4度ほどだが、寒暖計の気温ほど冷気を感じない湿感がある。冬至ももうすぐそこまで来ている。一年で最も日の長さが短くなる瞬間であり、その日を境に日ごとに昼の時間が長くなるカウントダウンの瞬間でもある。クリスマスがこの日に定められたのも、古の人たちが、そうした光と明るい変化の瞬間と重ね合わせたのかと思う。

私の週報では、この時期の定番の題材になる。数年前に公立高校で英語教諭をしている妻が授業でつかった小テストから。

So this is Xmas. And what have you done?
Another year over, a new one just begun. And so this is Christmas, I hope you have fun, The near and the dear one, the old and the young. A very merry Christmas and a happy new year. Let’s hope it’s a good one without any fear … (1971 John Lennon and Yoko Ono)

And So this is Christmas and what have ( ) done? と二回目のフレーズに続いていく。

設問: ( )内の適切な語句を入れよ。

一年が過ぎるのは、本当に早いし、自分の身の回りのことで精一杯になり、他の人のことを気遣う余裕もないあわただしさの中で時間が過ぎていくのだが、この( )の語彙選択は一年を振り返るのには意味深い。

小テストを眺めていると、妻が、サンタクロースはトナカイのそりにひかれて世界中を忙しく配達しなければならないのだが、トナカイは英語で何というかと質問する。 不用意にルドルフ(Rudolph) ?と答える。そんなことはなく、Reindeer*が正解である。続けて妻からのレクチャーで、トナカイは、アイヌ語(tunakkay:トゥナカイ)が語源だという。北欧の言語かと思っていた。アイヌの言葉が親しまれる語感をもって今なお私たちの生活になかに息づいているのに希望を感じた。(*北米ではCaribou)

今週は、3大学で私の講座の12人留学生がある企業の人事部で提案型インターンシップを体験している。今日の午前中がその成果発表会である。私も出席することにした。昨日の人事担当者との電話では、素晴らしい取り組みだとのこと、どんな発表になるか楽しみだ。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

With best wishes for Merry Christmas!

松本の自宅にて 竹内上人

 

計画化された偶発理論

2019年12月13日

昨夜の松本駅では週末に向けて冬山に入山する重装備の登山者も幾人かいた。今朝の松本は寒気も一層感じられる。おそらく氷点下であろう。

今年も残すところわずかになり、大学の講義も1月末に向けてどのように最終段階に持っていくか思案する日々が続く。秋学期は、特に東北大学、信州大学で進めている日本国内で就職を目指す留学生の為のキャリアデザインに関する講座の内容が充実してきた。新たに取り入れた日本企業における留学生が遭遇する事例・ケースに基づく討議は、日本的な雇用慣行の理解を促す意味ではレクチャー形式と比較して有効だと感じた。
横浜国立大学においても、留学生のキャリアプログラムの内容は積み重ねられ、定期的に首都圏の大学を越えた「留学生キャリアカフェ」にその留学生の力を借りながら開催できる段階に進んできた。

彼らとの交流はとても興味深く、少子高齢化が加速度を増す日本の雇用環境の中での輝く原石を産み出す可能性の源泉であるとも感じている。丁寧に、丁寧にその良質なメカニズムを育て上げていきたい。

今後は、留学生の良質な就業体験の機会を提供できるように企業人事の方とその実現の可能性について駒を進めていきたい。できるだけ、体裁だけ整えたインターンシッププログラムではなく、留学生にとっても、企業にとっても価値ある機会にしたいと考えている。

大企業だけでなく、地方にありながらグローバルな視点でその活路を見出そうとしている優良な企業に対してもその可能性を探りたい。きっと留学生にとって経営の根幹を実践体験するよい機会になり、それはまた新たな事業成長の可能性を模索する企業経営者にとっての非日常的な刺激になるはずである。その柔軟な定着化のために、グローバル経験が豊富なシニアの方々の力を遠慮なくお願いしよう。

進む方向が明確であれば、少し面倒でも一歩踏み出すと新しい可能性に遭遇する。意識することで会うべき人と会うことができ、会わなければならない人が自分を発見してくれる。機会はすべての人に均等に付与される。そうした自分自身に起こる化学反応の機会を楽しみたい。
「計画化された偶発理論(Planed Happenstance Theory)」、今年の5月、このキャリア理論において偉大な提唱者をおくった年でもる。彼が残した、可能性を拡張する理論の実践を大切に継続したい。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人

 

 

信頼を得ること、約束を守ること

2019年12月6日

今朝の都内はどんよりとしたグレーの雲と寒気に包まれている。太陽の陽が差し込まないビル街は、より一層寒さを感じさせる。

昨日は、「長野県プロフェッショナル人材戦略拠点(一般社団法人 長野県経営者協会)」が主催する転職者情報交換会で、社会人のためのキャリアについて講演をする機会を得た。長野県の取り組みは、キャリアに関する情報提供だけでなく、生活・移住に関する支援と連動し、加えて転職した方への継続的なフォローを行うところにその先進性がある。単独企業で転職者の定着化の為のフォロープログラムを企業横断的に支えているのは、企業の人事採用部門のみならず、組織へ新たに足を踏み入れた新参者にとっても心強いであろう。さらに長野県の産業労働部の産業立地・経営支援課と企画振興部の信州くらし推進課が連携してこの活動を下支えし、重厚で安定感ある構造になっている。

こうしたこともあり、今週は、長野県内に転職した方々へどのようなメッセージを伝えたらよいかを考え続けた一週間でもあった。

長い人事経験を通じ、採用時に非常に優秀だと思われた方が、職場配属後に失速してしまうことが時々ある。調和しなかった原因として組織にも本人にもそれぞれ正当な言い分がある。双方の立場での正当性が、生身の人間関係にひずみをもたらすことになる。「信頼関係」が築けないまま時間が経過する。

新しい職場に配属された方が、今までの経験と知識を最大限活かして、豊かなキャリアを継続できることが、個人にとっても組織にとっても最も好ましいことである。組織は畢竟、人間的な関係性の中で成立している。それゆえ、その間を取り持つ「信頼」という安心して相手に自らをゆだねる相互依存の関係性がどのように初期の段階で醸成していくかが、転職者のその後の行く末を方向付ける。

「信頼」という言葉を考える時に、偶然にも今回の講演会の機会を与えてくれた方との共通の接点をもつ経営者の存在と言葉を思い出す。前職で私が人事課長だった時に、その方が様々な場面で講演する資料作成を手伝った。彼は、講演原稿の打ち合わせのたびに、「経営」の前提となるのは、複雑な理論ではなく、極めてシンプルで基本的な所作でもある「約束を守る」ということだと繰り返した。

お客様に対して、取引先に対して、地域社会に対して、従業員に対して、株主・投資家に対して、それぞれに課せられた約束を守り続けることから企業価値としての「信頼」が醸成されるのだと。

この言葉は、人間的関係においても同様なのだ。職場の上司に対して、同僚に対して、仕事を通じて関わる協業者に対して、そして自分自身に対して、「約束を守る」ことの重たさとその継続的実践の貴重さを求める。登壇し、会場に集まった転職者へメッセージを伝えながら、そのすべての言葉を自分自身に言い聞かせていた。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷の自宅にて 竹内上人

 

収穫祭の時期に考える企業人の身の処し方

2019年11月22日

今朝の都内は灰色の雲に覆われ今にも雨が降り出しそうな様相を呈している。ミストのような細かなものが体にまとわりつく。その為か、寒さも気温以上に皮膚を通じて体内に染み込んでくる。

寒い現実と直面しながらも、この時期は収穫の時期でもある。自宅の部屋の壁に「落穂拾い( Millet 1814-1875)」の小さなポスターを額に入れて掛けてある。『春に種をまき、苗を植えて、雑草を取り、肥料をあげて、あとは神様が注いでくれる雨や陽ざしの風の力を待って、そうやって大切に育てた作物を収穫してくれた人に感謝していただく穀物は本当においしい (E.S 2016)』。 労働の対価、恵みとして得られる収穫物に感謝する時期でもあるのだが、この「落穂拾い」の絵には旧約聖書から伝わる様々なメッセージも込められている。農主は、小麦や大麦といった穀物を収穫する時にこぼれ落ちてしまった落穂を拾い集めずに、充分な収穫を得ることができない寡婦や貧農の人たちに残していくべきだと気遣う。

世界で最初の収穫感謝日は、17世紀の米国までさかのぼる。1920年9月、英国からメイフラワー号に乗って海を渡った人たちは、到着した土地で新しい仕事を始めた。その年の冬は非常に厳しく、その半数が飢えや寒さで亡くなってしまう。春になり、人々は、昔からそこに住んでいる先住民の人たちに助けられて、土地を耕し、種をもらい、作物を育て秋に収穫を得ることができ、そのことを感謝して最初の収穫感謝(Thanks giving)が行われたといわれている。

誰かのために労働の糧を譲り、収穫物を残しておく、こうした労働を通じた精神における良質さを、ひとり一人が直面する現実の厳しい環境の中で堅持するのはなかなか困難を伴う。自身のキャリア設計をする上で、他者に対してどのような貢献するかということを意識することも同様に難しい。

昨日、学習院大学で人事関連領域のいくつかのテーマに取り組むプロジェクトの中間発表会があった。私も6名の大学生チームの支援者として参画している。チームの主題はシニア(高齢者)雇用の日本リアルを解きほぐす内容である。学生達の発表はよく考えられていた。高い職位を担ったシニアが、定年前後、組織を離れる背景を実在者のインタービューを通じその心の葛藤を解き明かそうとしていた。発表を聞きながら、「落穂拾いの農園主」のことを考えた。企業人として管理職位を担った人たちが、まだ組織に残って働きたいという想いと、キャリアの機会を自分が育てた後輩の為に譲るべきだという美学が入り混じり企業人としての最後の瞬間と向き合っているのではと胸が痛くなる。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷の自宅にて 竹内上人

 

転職 新しい職場 90日・180日・365日の過ごし方

2019年11月15日

早朝の松本は2度、寒気が空気中の水分を振り落とし、透明感ある朝日が反射する北アルプスの山々を見通すことができる。常念岳の山頂はすっかり白色におおわれている。今年は山登りはあまりできなかった後悔を抱く。来年は計画的に登山計画をたて、易きに流されず、実行したいと願う。

転職して間もない方から、新しい職場での出来事を伺うことが多い。一生懸命に仕事に向きあう気持ちが強い人ほど新しい職場に自らを適合させようと格闘している。そんな新しい環境に着任した人へ送りたい人事屋の目線で感じたことについて考えてみる。

「最初の90日間の過ごし方」

最初の90日間は、仕事を進める上での良い人間関係を構築する期間になる。そのためには、この会社がどのような背景で事業成長をたどってきたかということを会社の内側の空気を敏感に感じ取りながら理解を深めていく期間である。様々なルールや職場慣行に戸惑うことが多くあるであろう。転職の人たちを受け入れる企業は新しい考え方や価値、改革を期待し、評価して採用を試みるのだが、職場の中で日々のマネジメントをしている人たちは、彼ら、彼女らなりに既存の業務プロセスを進めていくことに自信と誇りを持っている。

それぞれのやり方や職場のルールというものが、新しい人から見ると違和感を感じることもあるだろう。特に着任後3週間ほどが過ぎると少し職場の雰囲気にも慣れてくるので逆にそれが気になってくる。ここで焦ってはいけない。きっと特異、理不尽に映る職場の慣行やルールにはその会社や職場が経てきた歴史的な背景があると理解した方が良い。もしかすると微妙な職場構成員の関係の中で仕事のスタイルが出来上がっているかもしれない。冷静に客観的に現状を整理し出来る限りそのいきさつを調べあげることが大切である。

創業経営者がマネジメントする会社であれば、より丁寧にその会社の生い立ちであるとか、経営者がどのような気持ちでその会社を立ち上げ、苦労して、今日に至ったのか、経営者の目線で考えてみることだ。

「次の180日目までの過ごし方」

うまく人間関係を構築して新しい職場に同志として、仲間として受け入れられることを実感できたら、最初の90日間で整理していた現場把握に基づいて、問題や課題の整理と重要性を評価する。もし、不幸にもその実感が得られなければ、もう一度、最初の90日間でやるべき人間関係の信頼づくりをはじめからやり直せばいい。
現状把握の過程もできれば単独で行うのではなく、90日間で築き上げた人間関係を土台にして一緒に取り組めるように相談をしていくことが肝要だ。その相談のプロセスを通じて、新しい発見も得られるであろうし、相談をすることによって、同僚や上司、部下に対して敬意を払うことになる。敬意を払う人に対して、人は決して軽んじない。

この要因分析のプロセスを通じて、概ね、取り組み課題が明らかになってくる。心強いのはこの取り組み課題の明確化に同僚や上司、部下の共同意識が醸成されているという事実である。出来る限り自分の手柄ではなく、軽口を慎み、共同で考えてきたという意識になりきりことである。

「最後の365日目までの過ごし方」

何とか1年間を過ごすことができそうだと実感を得られる時期である。この頃には、深い人間理解に基づいた会社、事業、職場の問題・課題の明確化と、なぜそのような解決すべき問題と、達成すべき課題に至ったのかという要因分析に基づいた取り組み施策の着手段階に組織活動として入っていることが望ましい。1年間を通じて新参者は、極端に遠慮する事は必要ないが、同僚や上司、部下との協働意識をもった姿勢や立ち居振る舞いを意識して過ごしていくことである。

焦る気持ちをひたすら抑え、ひとつひとつの事象について、組織として取り組める環境をつくれれば、その後の数年はきっと充実した時間を積み上げていくことができるであろう。その過程を通じて、その人の風格を際立たせ、職場にその人の風味を醸し出す。

『・・・焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい。世の中は根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません・・・』
苦闘した受験生時代に現代国語の問題集の裏表紙に掲載された芥川龍之介に送った夏目漱石の手紙の一文が蘇る。昔も今も正しい人間理解はそんなに変わらないのだと思う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人

 

留学生の就労意識 日本的経営システムからの突破口

2019年11月8日

都内の早朝は、澄み切った青空が広がっている。肌に感じる気温は、秋の深まりをより一層感じられるが、強い日の日差しは気持ちを励ます。

東北大学では、留学生を対象としたキャリアの実践講座を日本の経営システムを学びながら、前期・後期で継続して行っている。この講座はインターンシップ希望者のみならず、日本で就労したいという意思がある留学生が履修している。内容が就活に役立つ為なのか日本人学生も数名交じって履修している。今週、講義の中で、日本の企業がなぜ、海外からの留学生の採用が拡大していかないかというテーマでグループディスカッションをした。私は彼らの答えに感心した。よくわかっているのである。

理由の上位には、どのグループも「短期的に出身国へ帰国してしまう心配」、「短期で他企業へ転職してしまうリスク」があげられていた。この心配は日本企業の人事担当者の共通の心配事でもある。3年から5年くらいで転職をされてしまうと、初期の人材育成投資が終わり、これから実践的な活躍をしてもらいたいというタイミングで貴重な人材を失うことになる。

逆の立場で視点を移すと、日本企業は昇給もなだらかなカーブを描く「職能給的な給与体系」で査定幅を拡大するものの基本的には変えていない。また、「職務給化」への意識は高まりつつあるものの機動的配置の利便性を支える職務転換(ジョブローテーション)時の給与設定の整合性に不都合が生じる懸念から踏み込めない。更に長期的な雇用慣行の労使双方の心理的契約(Life-time Commitment)から雇用調整時に起こる人材の過度な内部留保の硬直性からも社外の雇用流動化インフラの脆弱性から突破口を見いだせないでいる。職務価値や時価貢献度評価の要素を引き出す「役割給」的な色彩を反映しているのは、非組合員に該当する管理職クラスの給与グレードが主流で限定的でもある。そして、若年者の人材確保は「新卒一括採用、4月入社」で社内外において秩序が保たれている。

こうした日本企業の人事システムは今までの内部労働市場を基軸とした高度な労働生産性を確保する上では有効に機能してきており、現在もすべてを否定するべきものでもない。しかしながら、グローバルに雇用情報が公開され、SNSなどを通じてその実情が共有化される傾向が強まる現在において、20歳代後半から30歳前後で高度な就労意欲と高い自己効力感を期待する人材層に対しては、あまりにも魅力的に映らず、留学生のみならず、日本人学生にとってもダイナミックな成長の可能性の期待感を充足させない。

昨日、行った学習院大学の経営総論の講義でも、「終身雇用的な労働慣行」、「年功的な給与体系(職能給)」、「企業別組合」といった日本的経営と位置付けられる企業・組織か、その反対側に位置する企業・組織のどちらを就職先として選択したいか設問では、70%の日本学生が後者を選んだ。女子学生の比率も半数ほどいるのである。

大企業は、優秀な人材を新卒採用市場でも優位的に確保できているので切迫感は低い。だからこそ、今、中堅・中小企業はチャンスでもある。早く組織内部の様々な環境を多様化・多国籍化に対応できるようにしていくことだ。必ず良質な外国人が吸い寄せられる。日本人学生にも魅力的な存在になるだろう。その時、大企業よりグローバルな人材獲得競争では中堅・中小企業の方が優位に立つ。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷 表参道にて 竹内上人

 

何もしなければ、何も起こらない

2019年11月1日

早朝の都内の空には雲がなく日中の快晴を予測できる。今日から11月が始まる。昨夜はキャリアに関係する講座に出席するために渋谷のスクランブル交差点から少し先のところにある建物を出て帰宅の途についた。ハロウィンでもあり、ニュース映像でよく流されるように渋谷のスクランブル交差点の周囲は若者の混雑と熱気に包まれていた。若い人たちがもっているその行き場を模索するあふれるばかりのエネルギーを感じる。

帰宅し、本箱の書籍やノート類を整理していたら半分に切り取られたノートの切れ端が出てきた。数年前、ある企業研修会のサポートをしていた時に、講演でお呼びした日本人の海洋冒険家の方の言葉のメモであった。その方は、ヨットで世界一周をするレースにチャレンジをしていた。しかも単独でどこの港にもよらない無寄港、無補給という厳しい条件の中でのレースに向き合っていた。

出発地は、フランスの港でそこから南アフリカを回り、オーストラリアと南極の間を抜け、南アメリカの最南端を抜け、再びフランスの港に戻ってくるというレースである。レース途中でヨットの生命線ともいえるマストが暴風の中でその風圧に耐えきれずに折れてしまい南アフリカのケープタウンに引き返すこともあり、表現できない悔しさを積み重ねている。彼が言葉にした、「何もしなければ、何も起こらない」、と言うメッセージがメモに記されていて、目が留まる。

何度も生命の危険と向き合いながら積極的に究極のヨットレースに立ち向かい続ける姿から発せられると、至高の言葉となる。何かに真剣に取り組み格闘している人から感じられる言葉の重みである。

リーダーシップを考える時にとても大切なことは、その人が持っている知識の絶対量ではなく、良質な目標に向かうエネルギーに裏付けられた実践の積み重ねである。自分自身と格闘することによってのみ得られる「力の源泉」である。第三者の引用ではなく、その人の実体験に基づく言葉によって、人は合理性の限界を超えた影響力を感じ、その人についていこうという衝動に駆られる。このことは冒険家であっても、研究者であっても、実務家であっても同じである。何かに真剣に向き合い続けることによってのみ行き着く場所がある。

「何もしなければ、何も起こらない」

キャリアにおいても周囲の空気に流され、漠然と漂流し続けるのではなく、自ら舵を握って、風をとらえ、自分の内面からくる言葉を羅針盤として、駆け抜けていくことが、自らを鍛錬し、人を勇気づけることができる。今日もそうしたことを少しでも実践する一日でありたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷 表参道にて 竹内上人

感情読解力と感受力の大切さ

2019年10月25日

今朝の都内は雨が強く降り続けている。低気圧の影響で大雨の予想でもある。被災地での復旧が続く中での降雨で、その地にいる方々の不安を想う。

今日は午後から長野市にある信州大学の工学部のキャンパスで企業人事の方を対象にした高度外国人材の雇用環境整備に関する講義と実践的なワークショップを行う。人事部門が今後の人口構造の変化推移と雇用環境の予測を分析し、どのようにトップマネジメントの経営課題認識につなげるかの実務者としての展開施策について考えていく場である。

長野市周辺は過日の千曲川の氾濫で、甚大な被災を受けている地でもある。少しでも平常な日常の中で次の時代の雇用環境と社会基盤の主要な担い手である外国人材の雇用について積極的な想いを具体的な人事施策へつなげる場としたい。この週報をお送りしている方の中には、私と同じ人事領域で職務を担っている方も多い。ご関心がある方は連絡をいただければと願う。

10月からスタートした大学での後期講座では、IQ(知能指数)の反対側に対峙するEQ(Emotional Intelligence Quotient:感情指数)をベースにおき、リーダーシップやコミュニケーション、チームビルディングに関連した講座をいくつかスタートさせている。

EQを8つに分解した感情のコンピテンシー(能力)について、自らの行動パターンをレビューしながら自分のものにしていく。その最初に学ぶ感情コンピテンシーが、「感情の読解力( Enhance Emotional Literacy)」 という自分自身の感情について、単純な感情状態から複雑なものまで、正確に認識し、解釈する感情の能力である。

仕事において、部下をマネジメントし、実務能力を場面、場面で適切に活用するために、自分の感情の状態をコントロールにできるか否か大切な分岐点でもある。その為に第一に自分の感情が、その時どのような状態になっているかを、冷静に、正確に、客観的に把握することが求められる。仕事だけではなく、人生のあらゆる場面においても、自分の感情と相手の感情を感受することは、相互理解の第一歩でもある。自分の感情が自己の管理下に置かれず、本能のまま発信されてしまうことの危うさを避けるための能力である。

山に登るときの判断も非常に難しいものであるが、山の中腹の雲の上にはどのような空間が存在しているかということを冷静に見極めることによって安全な登山ができる。登山では、地図を読む力である読図力や天気図を読みこむ力があれば、適切な判断で、適切な行動をとることができる。感情においても同じようなことがいえる。自分自身の感情の地形図に、移り変わる感情の天気図を重ねて、瞬時に正しく読み取る力(感情読解力:リテラシー)があれば、快適な、職業生活を楽しむことができるというものだ。

自分自身の感情の中身を冷静に知ること、自分の周囲にいる職場やお客様との接客の場面において、気持ちの中にある感情の変化を適切に知る力は、次の正しい行動をとる上での前提条件になる。

今回のような広い地域にわたって被災した方々の気持ちや感情を異なる場所で日常生活や仕事に従事する者が、時空を超えて感受することは、その人の一日に言動に何か大きな、そして大切な違いをもたらすのだと思う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

渋谷 表参道にて 竹内上人

思いがけない苦難に向き合う時

2019年10月18日

今週に入り、急に気温も下がり、松本市の自宅では、早々にストーブを焚く。ついこの間まで暑さをどのようにしのぐのかと思案していたことを思い戸惑う。今朝の都内は天気も崩れ、小雨が舞い路面が濡れている。

今週は、自宅のある松本駅から新宿駅をつなぐJR中央線の復旧工事が長引き運転再開の目処が立たないので、篠ノ井線で松本駅から長野駅回りで都内に向かうことにした。ローカル線のタッタッタと定期的に刻む金属音が心地よい振動とともに体内に染み込んでくる。時々、パーンという高音の警笛を鳴らす。特急列車と異なる感覚に揺られ、もちろん電化された列車なのだが、あたかも汽車に乗っているような感覚を受ける。

途中の車窓の景色は確実に秋を感じさせる鮮やかな色合いが山間部の山あいを染める。このまま、途中下車をしたくなる誘惑に駆られる。田毎の月で知られる姨捨の駅を通り過ぎる。篠ノ井線では千曲川を眼下に見下ろす高い位置にあり、今もスイッチバック方式の駅舎になっている。

ここから列車に揺られ、千曲川を挟んだ善光寺平の景色を眺めていると、今回の台風の深刻な影響を重く感じる。車窓から堤防決壊の様子は伺うことができないが、千曲川の川幅いっぱいに広く黄土色に変色し、河川の畑が泥で覆われている。この近辺には報道映像で幾度も流れていた水没した北陸新幹線の車両基地もある。

抵抗できない自然災害に向き合わなくてはならないことは、自分自身も含めて等しくどの人も可能性はあるのだろう。自然災害のみならず、与えられた様々な困難とどのように対峙するか。どのように向き合うべきか、心の持ち方を考える時間を与えてもらったのだと自分自身に積極的に問い直す機会であった。

ラグビーワールドカップで来日し、台風の影響で試合が中止になり、被災地で復興支援のボランティアをしているあるカナダ選手がインタビューに答えていた。「このことはラグビーとは異なる大切なことを考えさせてくれる」。自らのためではなく、他の誰かのために感情を用いることから得られる希望を感じる。

今日一日が良い一日となりますように、大切な方を失い、深い悲しみの中にある人に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望につながりますように。

都内にて 竹内上人

視覚化することによる動機付けとリーダーの心構え

2019年10月11日

大型の台風が近づいているので、週末の天候は本当に心配である。この原稿を書いている時間が早い時間なので、朝の天候の状態は視覚で確認できない。少し心配なのはこれから都内から伊勢に移動する予定であることだ。今回は短時間での滞在にして早めに戻ることを予定している。

10月からスタートした大学の留学生向けの秋季課程において、私の成績評価の25%は出席率にしている。毎回、「自己紹介カード」に小さな丸円のカラーシールを貼る。それぞれ、ひと学期15講座あるが、生徒のカードに毎回異なる色合いのシールが並べられていく。出席することによる小さな達成感が、学習意欲につながるモチベーションリソースになる。秋季過程ではシールをカードに張り付ける作業を本人に任せている。自分で出席のシールを貼るという単純な作業を他者に任せないことも大切な動機付け要因だと前職で学んだ。

取り組んでいることの可視化は、人間の動機喚起にポジティブな影響を与える。日本の製造業の現場には極めて巧みな「掲示物」が張られている。工場内や社員食堂に掲示されている様々な「掲示物」には、個人の業績以上に、職場工程ラインごとの歩留まり率や改善件数の実績推移、合理化効果のコストダウン額の寄与度など、本当に工夫された「掲示物」が張られている。これが作業チームや工程単位での競争意識を鼓舞するかの様に描かれている。これが日本のモノづくりの現場の優れた生産性と、品質向上のマジックなのだ。成果の認知プロセスを個人からチームへバランスよく配分することにより、組織としての良質な情報の交流を促す。

査定や昇格昇進という個人評価の反映物としての個別動機付けも大切であるが、働く仲間と工夫して、小集団の価値を高めていくことやお互いが切磋琢磨をしていく試みは、職場の秩序や倫理観、優れた組織活性化の原動力になる。

工場長や経営者、管理職のやるべきことは、そうした「掲示物」の前を通る時には、常に立ち止まり、思慮深い表情をしながら真剣に向き合う所作を欠かさないことだ。その風景は鮮明に働く人の脳裏に刻印され励まされる。

私も生徒から授業の後に返されるカードを指さし確認しながら、注意深く扱うよう心がけたい。その行為自体が、生徒の為というより、私自身が講義に向き合う意義と責任を心に刻みこむ大切な訓練の場なのである。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

感情の力がもつ可能性

2019年10月4日

今朝の都内は薄い雲で低く覆われている。今週もこの季節には似合わない暑い日が続いていた。今日は、少し天気が崩れることもあるのか気温も高くはならないだろう。

東京のアパートの壁に新聞の切り抜きがピンでとめられている。時々、ぼんやりとその存在に目を向ける。ピンを外して読み直すときもあるし、自らが身を乗り出し、眺めることもある。その切り抜きは、5年前に事業を始め時に掲載された地方新聞の一面の最下部にある「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイのひとつである。

朝日新聞の「天声人語」のようなものであり、私は、「天声人語」、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、無造作に壁にピンでとめている。そして壁の切り抜きは、いつしか自分の中で整理され外される。だが、この切り抜きだけ長くその役割を終えず残っている。

『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。相対的貧困率は、国民生活基礎調査の貧困線では年収122万円(2012年)と定められている。

身の回りで起きる私たちの心を痛める現実に向き合うことは難しい。先日、オフィスへ戻る道すがら、急に振り出した雨に遭遇した。さいわい、折り畳み傘を持参していたので雨をしのぐことはできたものの、交差点で信号待ちをしている初老の男性は雨に打たれたままであった。交差点を待つ間だけでも雨除けをと迷いながらも傘を差しだした。快く受け入れてくれ少しの雑談を交わす。躊躇する感情を抑え、声をかけることができた自分自身が救われた。

社会でも職場でも、声を掛けるべき仲間は、自らの周り多くいる。日常の営みを通じて、仕事を通じて、自分以外の人の気持ちや痛みを感じられる感情能力もつこと、少しの勇気をもってその感情を相手に伝えていくことが、相手以上に自分自身にへの滋養となる。

感情能力(Emotional intelligence Quotient:感情能力の指数)が良好なコミュニケーション、チームビルディング、リーダーシップに活かされることを体系的にまた実践的に理解し、活用する講義を横浜国立大学や東北大学など複数の大学で5年ほど続けている。最近は企業でもその機会をいただく。経営者や人事担当者の問題意識の背景の深さを重く受け止めながら人事屋として長く組織内外の関係性のマネジメントに従事してきた自己責任としてできる限り果たしていきたいと思う。

人事の実務家として痛感するのは、人と人をつなぐのは、デジタルとしての情報伝達ではなく、感情を体温とともに誠実に伝えていくことによりその質量は重厚になるという経験である。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

仕事の品質について

2019年9月27日

今朝の都内は青空が広がっている。秋晴れの空が広がっていくことを予感させる。

今週は企業研修でつかう品質教育のプログラムの更新をしていた。資料を準備する過程で私自身が事業会社に在籍した時に、品質保証体系と連動した機能・組織業務分掌体系の策定プロジェクトでの苦労の記憶を覚醒させる。

組織の外に向けて、商品やサービス、あらゆる付加価値を提供する時、それぞれに対する出来栄えの目標を定めて、継続的に供給することが求められる。人間はその安定した時間の積み上げによって信頼感を寄せる。この会社、この組織、この人から出される「何か」は安心して受け入れることができるという感覚を形成する。その時間軸が長期化すればするほど、信頼度は加速度的に増し、絶対的なブランドとして競合の追随を許さなくする。伝統的に裏付けられたブランドにはそうした努力の積み重ねが世紀を超えて蓄積され、ブランドがもつ価値に対する基調となる思想が昇華し受け手側の脳裏に刻印される。

「品質」には二つの視点がある。受手が期待する品質水準(目標品質)を定めることと、その品質水準が目標幅から逸脱しないように管理し、機動的・自律的・主体的に修正プログラムが発動されるように「仕組み化」することである。
その目標品質を定めるプロセスの起点は受け手の期待値、商品やサービスでいえばお客様の期待値となる。顧客の期待に無頓着な独善的な提供価値は淘汰され、やがて消滅する。注意深く、わが身を振り返り、知ろうとする継続的な努力が不可欠なのである。
多くの企業で、品質に関する大義名分は高尚であるが、実際の資源や経営者がとる時間配分を観察すると、二次的、補完的な処置がとられていることが多い。人事的にも品質に卓越した人材が組織経営の重責を担うケースに出逢うことが少ない。最終的に人づくり、組織風土に連鎖し、ブランドを対外的に認知させていく機能でありながら現実的な取り扱いは異なる。起こるべくして発生した品質トラブルに対して、事後処理の作業を行いながら、消極的な反省を繰り返す。

キャリアに関しても類似している。それぞれの人がもつ職種や役割における提供価値の目標水準を定めることなく、漠然と時間の流れに身を任せていると、他からの信頼感を喪失していく。品質教育の資料を作成しながら、自分自身が社会に対して担うべき役割について真摯に向き合い、その言動や立ち居振る舞いにおける良質さを常に向上させ続けるための内在的なメカニズムを面倒がらずに保守、鍛錬する大切さを思い出すきかっけになった。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

企業の社会的価値

2019年9月20日

今朝の都内は心地よい光が放射線のように届いている。週末は近づいてくる台風の影響で天候は崩れるというが、前回の台風で被害にあり、復旧が進んでいない地域の方のことを思うと天気予報が外れてくれないかと願う。

都内の大学では夏季休暇も終了し、今週から後期での通常講義が始まった。半期ごとの履修科目の講座もあれば一年通期で構成している講座もある。必須科目で、私が担当する講座を二年ほどかけて履修する過程の学生もいる。

今週からスタートした学習院大学での後期の最初の講義は組織間関係についてであった。企業集団、企業グループ、系列の意義、クローズドネットワークからオープンネットワークへの潮流とそれを阻害する組織と人間心理のしがらみ、また価値創造プロセスでの「垂直統合型の事業形態」と「水平分業型の事業形態」の利点と課題について設問を通じてグループで議論しながら理解を深める。再来週からは、特に留学生が主たる受講生である横浜国大、東北大学、信州大学でも講義が始まる。秋入学の割合が多い留学生にとっては、日本を訪れ、大学に入学したばかりの新鮮な気持ちを教室に持ち込んでくる。

先日、土木・建築業界で人材育成、特に企業内大学校の基盤づくりを人事部の方と一緒に取り組んでいる会社の大阪工場を訪れた。大型の工作機械が折り重なるように並び、鋼(はがね)の塊がクレーンで移動する工場である。そこで不思議な風景に出会う。作業現場をすれ違う方が、自分の胸に右手をあて、少しの笑みと、軽い会釈で行きかうのだ。

工場を出て案内していただいた方にあの動作、しぐさの意味はなんでしょうかと問いかけると、いつから始まったかわからないが、「どうぞ、ご無事に」という意味を込めてのメッセージが込められているという。近くにいても声が聞き取りにくい鋼が重機で釣り上げられ、体に感じる重厚な振動とともに加工される現場で、言葉を超えて、働き手が同じ同僚思いやる仕草にその会社がもつ企業風土のあたたかさを感じた。

土木業界において、橋梁などの社会インフラ資本整備の事業は営利事業としての価値以上の「働く意義」を社員が直接的に感じるのであろう。災害復旧の現場に近ければ近いほど、その感覚は深くなる。そのリアルな体験談を踏まえた事業説明の言葉は企業に所属していない私にとっても励まされ、働くことの大切さのメッセージに変容する。採用活動でも学生にそのことを伝えているのであろう。

企業が事業収益だけでなく、なにか社会的な側面に深くかかわろうとする姿勢は、若い年代の方にとってこの上なく大切なメッセージとして確実に届く。そして、その積み重ねが企業に対する信頼感と在籍する誇りにつながっていく。体系的な人材育成・教育プログラムを凌駕する大切なメッセージである。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

次世代の人材の育成について 過去の肯定的な評価

2019年9月6日

今朝の都内は薄い雲で低く覆われている。少し前の早朝からの湿度が高い暑さは幾分和らいできた。それとともに少しずつ朝のくる時間が遅くなってくるのを感じる。

次世代の人材育成について、企業経営者の方から話を聞く機会が増えてきた。経営の補佐層というべき部門長や課長をどのように育てていくかは、経営者にとってとても気がかりでもある。

前職の人事部に在籍していた時に、次世代の経営幹部を育成するプログラムの設計と運営に5年ほどかかわった。自分自身が、経営や一個人としての経営者のあり様について、深く考える時間であった。ある時、日本で重鎮と評される経営学者との会話の中で、深く脳裏に刻印された言葉がある。「竹内君、経営戦略は漠然とした願望ではなく、過去の積み重ねの延長線上にあるものだし、あるべきもの」だと。

経営戦略は、将来のなりたい姿、到達目標を描いて、そこに向かう為の変革シナリオではないのか。この経営学者の言葉の意味を理解するまでかなりの時間を要した。

転職を試みようとする候補者の方との面談でも今後の方向感の設定に戸惑いを感じられている方が多い。私は、単なる経歴の棚卸ではなく、今までの経歴の本質や概念を考えることを促す。これにより、現状を単純に是認する保守的な考えではなく、過去の時間の積み重ねの意味を深く考え、整理することによって、連続性のあるひとり一人にとって特異で且つ重厚な価値の存在にたどり着く。

働き手である私たちは、これを原点として、自らのキャリアの価値の最も適切な買い手の探索作業を惜しみなく苦労し、買い手の困りごとにあった仕様に微修正する。このプロセスは限りなく積極的な自己肯定の延長線上にある。キャリアデザインと経営戦略の策定プロセスは、同じ道程を踏まえるべきだと考えるようになったきっかけだった。

同様に経営者にとっても自社の会社の成長の中核となる人材の育成は、自らの会社の経営戦略や大切にしてきた企業風土と価値観を自分自身と同じように積極的に肯定的に感じ、行動する人材の到来を望む。さもなければ企業としての連続性が失われる。ただ、単純な言語を超える過去の経営の積み重ねを丁寧に伝え、将来を切り開く人材育成につなげるプロセスには時間がかかる。大切なことは、小規模でもできるだけ早く着手することである。そして、次世代の人材との交流の過程で経営者自身も深く考える機会を与えられる。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

アポロ13号から学ぶこと

2019年8月30日

早朝の都内は、グレーの厚い雲に覆われている。長雨のせいか少ししっとりとした空気に包まれている。今週も不安定な天候が続く一週間が続く。

8月は大学が夏休みの期間に重なるので、企業研修の依頼を予定に入れることが多い。新入社員研修にしても管理職研修にしても、可能な限り表面的なスキルの速習をするのではなく、職業人としての担うべき役割とその鍛錬の方法について考える機会提供を試みる。古風な方策かもしれないが、頼りになる人物を育てるには堅実な方法である。

研修では、よくケースを活用する。今週は、「アポロ13号」のケースを活用して、チームビルディングについて学んだ。
1969年7月20日にアポロ11号が月面に着陸し、ニールアームストロングとバズ・オルドリンが月面に降り立った。続いて、アポロ12号のビート・コンラッドとアラン・ビーンが月面に着陸した。
そして、1970年4月11日(土曜日)午後1時13分、ケネディ宇宙センターからアポロ13号が打ち上げられる。

アポロ13号は、アメリカの宇宙開発計画が順調に推移していた中で、宇宙空間での酸素タンクの爆発事故によって、絶望的に危ぶまれた深刻な状況を克服し、無事3人の飛行士の地球への帰還を果たした実話である。実話はその後に加筆された部分がある可能性があるが、事実に基づいているので、組織における人間の行動美学をリアルな感覚で、自分の実行動と思考特性と対比しながら振り返ることができるし、物語自体を脳裏に刻むことにより研修での気づきを持続させる。

物語の主要人物である、首席飛行実施責任者のユージン・クランツ氏の組織をけん引する姿から、自己の思考と行動特性を検証する。その当時の彼の年齢は36歳。宇宙飛行士自体をキャリアの目標にしながらもそれが果たせず、管制官の仕事に就く。

現場の飛行士のことを我がことのように感じ、NASAのすべての英知と総力を結集して、困難な局面を乗り切る。キャリアの可能性は、様々な偶然も影響する。しかしながら現在与えられているキャリアの現実には、それぞれの理由と背景がある。多くの方の支えでその役割を担っている時間の積み重ねがある。

今日、担う仕事に対する目標や価値を見失うことはしばしばある。他社と比較して見劣りがすると悩むこともある。主席飛行実施責任者のユージン・クランツも宇宙飛行士を送る側になった。

私たちが向き合う仕事には、今に至った時間の積み重ねの中における偶然であるが必然として担うことになった役割でもあり、直接的ではないにしても間接的に支えてくれる人の存在を積極的に受け止めることでもある。今の仕事に真摯に向き合うことは、その偶然を超越した必然とエールを送る応援者に包まれていることを感じ格闘することなのかと思う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

成績表をつけながら、新日本的経営の三種の神器を考える

2019年8月23日

早朝の都内は、薄い雲に覆われ、今までの耐えられないほどのしっとりとした空気の質感とは異なり、窓を開けても、幾分ではあるが心地よい外気を感じられるようになってきた。

ここ数週間、講座をもっている3つの大学の春季(前期)課程の採点に取り組んできた。講座数が少し増え7講座を担当することになった一方で、4年の年月が積み重なってきたので、プログラム自体の標準化も進み、春季は効率的に講義を進めることができた。

私の講座は講義と演習を行いながら課題の理解を深めていく為、よく生徒を観察しなければ、個人の評価は判断しがたいという悩みがある。

会社の人事評価も同じだが、人に対して定量的・定性的に評価をする難しさを痛感する。出席率や小テストは、数値化されているデータだが客観的な評価のプロセスの精度を高めるだけでいいのかという漠然とした悩みが取り除けない。なぜ評価をするのか、目的に合致した評価項目や評価プロセスをどのように取り入れるべきかの設計が難しい。

一方で会社の人事評価はその答えが明快である。期間業績に対する個人の実績に対する評価の公平性、客観性は組織倫理の観点から外せない視点だが、それ以上に、会社の人事評価の狙いは組織目標に適合する人材を長期的に育成、誘導することにその重きが置かれる。賃金体系の設計や運用の拠り所は長期的な事業戦略の実現に寄与する人的資源開発にある。また組織価値や企業ブランドの品質を高める現場の実践者に仕組みを通じて励まし続けるところにある。

長年にわたり企業で人事として実務を担っていた自分の大学における提供価値は、日本の企業組織にこれから参入する学生達が、どうすれば組織適合能力を身につけ、ひとり一人が活き活きと活躍できるのかという命題に対して、授業設計と習得度評価の体系の工夫に価値がるのだと思う。

今日は、都内で留学生教育学会(JAISE)の年次総会に出席する。プログラムの中のパネルディスカッションで「これからの外国人との協働・共生」について話をする機会をいただいた。生産労働人口が急激に減少する中、今後、日本企業は、外国籍社員を経営の貴重な実践力として活用することが避けられない。今回、「新日本雇用紀行」として、企業人事、転職支援、留学生教育のそれぞれ私が携わる現場で感じた風景と将来に向けての雇用課題に対する処方箋としてどのような取り組み施策が必要か、「人事制度」、「社内公用語」、「外国人就労支援」の3つの視点で「新日本的経営の三種の神器」の提唱を試みたいと思う。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

“働く”を学ぶ機会としてのインターンシップ

2019年8月16日

送りお盆の記憶は、たいてい夏休みに過ごしていた祖父母の家の前で燃やす送り火の記憶である。焚火からでる白い煙にのって、先祖の霊はお墓に戻るという慣習をその言葉の通り感じていた。感覚的には今もその気持ちは変わらない。幼少期から経験し続けている長い記憶の積み重ねは、身体の中心部までしみ込んでいる。

私の前期講座を受講していた留学生の女子生徒が、顧客企業である外資系ラグジュアリーブランドで夏休み期間中、インターンシップ(就業体験・実習)で就業を始めた。たまたま、親しい人事の方との好意によりその機会を得た。

以前の週報で、日本の雇用市場で、海外からの留学生に雇用の機会が少しでも仕組みとして構築できればと綴った。いきなり日本企業で働くより、日本に進出している外資系企業から就労の経験の機会を得られれば留学生にとって、少しは異文化体験も緩和され、馴染みやすいのかと感じる。

授業で学ぶことができない体験を学生時代に企業で経験することは、とても重要なのだと思う。私自身も学生時代、担当教官の紹介で、労働組合のナショナルセンターの書記局で大学2年生の時からアルバイトをした。大学の専攻が労使関係だったので、私にとってはとてもリアルな現場だった。当時は、今の連合という横断的なナショナルセンターができる前で、同盟、総評、中立労連、新産別と主要な労働組合の全国組織には4つあり、その中の京都同盟の事務局で働いた。19歳の当時から、人事や労働、雇用のリアルな世界に入り込んだことになる。

大学の講義の現場で、論理的な枠組みや知識・情報を伝える以上に、実体験の場は学ぶことが大きいと思う。これからもビジネスでの打ち合わせの場面で顧客企業の人事の方とお会いする時は、インターンシップの可能性を繰り返し相談しようと思う。
「先生、とっても楽しい!皆さんとてもいい方ばかり・・!」彼女の嬉しそうなメールを読んで自分も励まされる。

企業人事にとっても、新卒学生の採用環境が大きく変容する中で、実践的なインターンシップは今後とても重要なコミュニケーションパイプラインとなる。人材採用は、企業の生命線であると今でもそう確信する。私の大学卒業後、人事の最初のキャリアが採用であった。経営トップ自らとても高い関心事をもちサポートを受けた記憶が今でも鮮明だ。学生との接点は最優先で出張ってくれる。遅い時間に学生から送付された葉書に工場見学の呼び込みをしていると、…当時はインターネット環境での採用ではなく、葉書と電話かけのアナログ的な採用活動が主体であった…、通りがかった役員が「俺も電話をかけてやる」と自ら学生に電話をしてくれた。入社したての新人の私はその積極的な姿勢に驚いた。そして、会社も勢いよく成長していた。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

移動中の車内にて 竹内上人

 

蚊取り線香から学ぶキャリアの希少性

2019年8月9日

8月に入ったと思うともう来週からはお盆にはいる。帰省の時期で故郷の実家に戻りゆっくり過ごされる方も多いと思う。お盆の時期、実家に戻ると蚊に悩まされるといった記憶が強い。しかしながら今年の夏は、都内にいても、松本の自宅にいる時も、あまりに暑いのかまだ蚊に刺された記憶がない。実家でもそうであって欲しいと願う。

私の実家は、愛知県の昔の地名でいう三河という地にある。三河の地も東と西に分かれ、現在、実家があるのは西三河になる。名古屋まで列車で40分ほどかかるところである。少し行くと港がある。海が近く、夏のこの時期は気温の高さに加えて、湿度も高いので、信州の気候に順応したわが身は、最初は悲鳴をあげるが、しばらくすると身体もそのじっとりとした空気になれてくるから不思議である。

実家の蚊よけは、相変わらず、香取線香である。我が家は伝統的に緑色のものを使い続けている。寝る時に火をつけ、朝まで煙を醸しだし、蚊を寄せ付けない。老夫婦の暮らしなので、電気式のものでもいいものかと思うが、やはり煙が出ないと効かないと信じているらしく頑なに変えない。この煙とにおいも年老いた両親には大切なのだ。銘柄も、子供のころに脳裏に焼き付いた「金鳥の夏、日本の夏」のものである。最近はめったにコマーシャルを見ないので、今も放映さえているか定かではない。

金鳥の蚊取り線香だが、これは登録商標であるようだ。生産会社は大日本除虫菊株式会社という。金鳥のシンボルマークに描かれている鶏は古の言葉の「鶏口となるも牛後となるなかれ」からとっているとのこと、小さな存在でも大きな組織に飲み込まれずに、特徴を出し先頭を目指し、必要とされ続ける存在になるのだという意味が込められている。

こうした企業戦略のみならず、個人のキャリアにおいても多数に埋没されない希少性が大切である。必要とされる価値に注意深く神経を割き、他に簡単に代替されない存在価値を探し出し、それを研ぎ澄ませる。大切なことは、自分本位になり過ぎないことである。生計を立てる上でキャリアが経済的取引関係における対価としての価値を求められる以上、その買手がいなければならない。個人の想いが基礎にありながら、キャリアの買手の購買意欲との調整を注意深く図ることが大切である。キャリアにもマーケットインの思想に基づく希少性を際立たせていく。

大学が夏休みに入るこの時期、企業研修を担当する機会も増える。その対象が管理職であっても、新入社員であっても「お客様(他者)を起点とした発想」の大切さを伝えようと試みる。リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、そこには必ず自分以外の存在との関係の中で成り立つものだからである。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

縄文時代の魅力と柔軟性のあるキャリア

2019年8月2日

連日の猛暑が続いている。暑さに加えて東京都内に湿度の高さは、亜熱帯の気候を感じさせる。ベトナムに出張に行っている知人から、東京よりハノイの方がはるかに過ごしやすいという便りが届く。松本で打ち合わせがある為、今週の週報を松本に向かう特急列車の中で書くことになった。

信州に入ると、八ヶ岳への登山口である美濃戸口から,茅野市街に続く街道沿い、標高が1000mほどに、尖石(とがりいし)遺跡という縄文時代の遺跡があり、そこに茅野市尖石縄文考古博物館がある。ここには、幼少期学んだ社会の教科書で覚えのある国宝の「縄文のビーナス」と平成26年に新たに国宝指定された「仮面の女神」という二つの土偶が保存、陳列されている。考古学にロマンを感じる方には、とっても魅力的な聖地でもある。

縄文時代は、私にとっても生活スタイルの観点からとても魅力的な時代である。その後の農耕文化が栄える弥生時代と比べて、狩猟が中心の縄文人は、定住せず、自由に居住地を移っていた。個人の所有感の意識が田畑を耕しだした弥生人と比較すると、希薄で自然と共生している感覚が強かったのだと思う。

縄文的な生き方ができればと、時々感じる。ニュースで凶悪な事件を知るたびに憂鬱になるのだが、そうした心が痛むような事件が、縄文時代は少なかったそうである。農耕文化が始まり、田畑の所有権が定まってきた弥生時代から、利権を巡っての事件などが発生するようになる。

日本は産業構造が大きく変わり、価値を生み出す産業軸が多様に変化し始めている。働き手もどこで、自らの力を発揮するのが最適なのかと考える時代でもある。弥生時代のように、その地にとどまり、価値を積み上げていくことも大切な観点でもあるが、恵みの可能性が多そうな機会にむけて積極的に移動していくことも大切な考え方でもある。副業・兼業の可能性も少しずつ高まってきている。労働を考える時に、一定のしがらみに縛られ過ぎずに、柔軟に活躍の場を選択する機会が多かった縄文的な働き方もキャリアを考える大切な価値観だと、はるか遠くの長い年月を経てきた「縄文のビーナス」のことを思い浮かべながら考えた。

実は、私は実物と対面したことがない。いつも「縄文のビーナス」と「仮面の女神」は、全国の企画展に招かれていて不在であった。出張中は、レプリカがその役割を担う。彼女たちも、この時代になっても定住せず、全国を飛び回って働いている。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

特急あずさの車中にて 竹内上人

 

お神輿と前期講義の終了

2019年7月24日

今朝の都内は久しぶりに晴天に恵まれ、強い日差しに包まれている。今まで天候が不安定な日々が続いていたので、梅雨明けの宣言が期待される。

今週は天神祭りというお祭りが、松本の中心部の深志神社という古い神社で行われた。社伝によると元和元年(1615年)大阪の陣の戦勝帰陣に際し、当時の松本城の城主小笠原忠真公の命により山車舞台を造らせ社前に曳き入れたのが、その祭りの始まりとされている。

私は、この深志神社を活動の起点とする神輿の会に属していて、幾度かお神輿を担いで市中を回ったことがある。残念ながら最近は都内での滞在が長くなり、その活動への参加がままならない。
お神輿は、江戸前担ぎで、掛け声「えっさ、オイサ」に合わせて神輿を揺らしながら担ぐ。神輿を担ぐ時に感じることは、小頭の威勢のよい合図で、重たい神輿を、息を合わせて持ち上げ、街角を上手に横切り、鳥居などに触れないように神輿を下げたりしながらスムーズに練り歩く組織マネジメントの優れた出来栄えである。さらに感心するのが、神輿を蔵から出し、組立て、納める作業の段取りの良さだ。この所作とリーダーシップが卓越している。

大学の前期講義も今週で終了した。講義の構成に日本企業の組織マネジメントの要素を組み込んでいる。私の講義は、横国大や東北大では留学生が中心なので、少しでも日本特徴となる組織マネジメントの要諦を触れてもらえればと考えて構成した。日本企業の特徴として組織性(役割分担)、共同性(一体的行動)、後継性(標準化・伝承)という伝統的な3つの資質があると感じている。前期の講義では、こうした側面を、日本的雇用の象徴としての三種の神器(終身雇用・年功序列・企業別組合)の功罪を通じ、グループ討議の中で議論し考えてもらえるように工夫した。人事屋として30年間を超える年月を企業の中で過ごしてきたが、留学生の議論はかなり興味深いものであった。神輿の一連の所作を見渡すとこれらの日本的経営の神髄が随所に組み込まれていて、日本的経営を学ぶ体験学習には最適なのかと感じる。

留学生には、神輿を担ぐだけでなく、蔵出し、担ぎ、蔵納め、直会までの一連の経験を体験し、日本的な組織マネジメントのエッセンス考えるプログラムができたらと夢が膨らむ。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

コミュニケ―ションの三段階理論と礼儀

2019年7月18日

今朝の都内は夜中に雨が降ったのか路面が濡れている。今年は春先に初夏を感じさせる気候が続いたかと思うと、長い梅雨の時期に入ってしまった。暑さには覚悟が必要だが、夏の到来が待ち望まれる。

企業研修のプログラムの打ち合わせをする機会があり、グローバルコミュニケーションで必要な要件は何かということについて考える機会があった。グローバルという冠がついているので、そこには言語(端的には語学力であり、英語の力量を指す)の問題と、多様性(Diversity)を受け入れる能力が思いつくのだが、コミュニケーションを担う力という観点で考えてみると、そんなに問題は簡単ではない。私が企業研修や大学の講義のプログラムを組み立てる際、構成するのは、「コミュニケーションの三段階理論」である。

私は、コミュニケーションが成立するには、3つの段階があると思う。ひとつめは、「伝える力」である。これは件の企業研修のプログラム設計において、海外にある販売・製造現地法人とのビジネス上のコミュニケーションや、ガバナンスを行う上で「英語力」が日本の企業人には総体的に欠けているという切実な危機意識からくる。伝えるための言語の習得意識の喚起は不可欠である。また、日本人同士であれば、敬語も含めた話し方や表現力もこの「伝える力」に入る。
また、日本国内において多国籍な人材とのコミュニケションツールとしての「やさしい日本語」のビジネス適用も最近の強い関心事である。

2つめは、相対する人間関係における「感受性」である。相手から発信される微細な心情情報を受信、解析し、自己の感情を最適な状態にマネジメントする能力である。相手の心の変化を瞬時に且つ的確に読み取り、自己の心情をコントロールし、適切に対応させることができる感情のマネジメント力である。こちらは幾度か大学での講座の内容を通じてご紹介しているEQ (Emotional Intelligence Quotient:こころの知能指数)の卓越性に裏付けられる。EQ以外にもMBTI (Myers-Briggs Type Indicator) のように性格を16タイプに分けその違いと特徴を理解し活用するといったものもある。どれも適切に取り入れ活用すると「感情の優れた使い手」となり、優れた話し手となる。

3つめは、外交的関係性(Diplomatic Relationship)を理解し構築する能力である。相手にとって自分が有益な存在になるような関係性を演出する能力である。自国の首相も外交、内政で苦戦しているのであろう。3つのコミュニケーション能力の中で最も難易度が高い。①相手の困りごと、立場を理解し、同じ視点で考えること、②相手の期待値に適合する価値を提供できる要素を自己の保有能力や関係資本(人脈・ネットワーク)から抽出し提供すること、などである。前職で次世代リーダー育成のプログラム担当をしていた時に一橋大学の経営組織論の先生が「ディプロマシー:Diplomacy」というボードゲーム(第一次世界大戦前の緊張した関係にあるヨーロッパを舞台にした覇権を巡って争うボードゲーム)をプログラムに取り入れていた意図を今になって深く理解した。

ただし、「コミュニケーションの三段階説」はあくまで技術的な領域である。人間である以上、人間的な関係を良好に築く上で基礎となるのは、他者に対する礼節であり、礼儀である。「礼」を逸してしまうと技術はいくら鍛錬しても機能しない。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

共感力の発揮 雨ニモマケズ 宮沢賢治

2019年7月11日

早朝の伊勢市内は、厚い雲に覆われているが、昨夜から降り続いた雨も上がりその湿度に音が吸い込まれるような落ち着いた朝を迎えている。

先日、何気なく連用日記を開いていて、2年前に花巻に旅行に行った時に入手した宮沢賢治の一文が書き写されているのに目が留まった。宮沢賢治で頭に浮かぶのは、「注文の多い料理店」、「銀河鉄道の夜」などの物語であり、あの「雨ニモマケズ」という散文である。

『雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル 一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジョウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ…』

その重厚で思慮深い言葉の流れの中で、私が心を引き付けられ、静かに励まされるのは、後半の部分である。

『・・・東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ  ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ・・・』

30年以上経験した企業人事の仕事を離れ、現在の職業に就いてから、キャリアにおいて節目と向き合っている多くの方と会う。本当に深刻な場面に直面している方も多い。世間的には大変な売り手市場でありながら、個別企業では企業業績の悪化により人員の合理化施策に向き合っている方もいる。50歳近辺以降の方たちの雇用情勢は、30歳代の若手と比較するときわめて厳しい現実もある。人事屋としては、豊富な経験をより活かせる企業横断的な雇用環境の仕組みを提供できないかと思案と工夫の速度を速めなければと思いを深める。

宮沢賢治の散文の原本は、小さな手帳に数ページにわたり、丁寧にという感じの文字ではなく、気持ちに任せてという勢いの文字で書かれている。そのバランスの悪い文字の形が、切実さを感じる。

「共感」することにより励まされることがある。失意から立ち直ることもできる。職場を超えて、具体的な業務支援はできなくても、「共感」の相互交流が行き交う組織は厳しい環境でもしなやかな耐久性をもつ。そして、このことは管理監督者の職場マネジメント力の優劣に委ねなくても同じ働く仲間として、社員ひとり一人でできることでもある。

今日一日が良い一日となりますように、深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

雇用の多様化に対する3種の神器

2019年7月5日

今朝の都内はどんよりとした雲に覆われているが雨は降っていないがしっとりした湿度に包まれている。

雇用形態の多様化にどう向き合うかは、企業経営にとって重要な取り組み領域になってきている。
その主たる処方箋として、外国籍労働力の確保が避けられなく、また日本で学ぶ留学生の就労確保に向けた努力が求められる。

背景にはかねてより懸念されている2つの深刻な懸念事項による。ひとつは抑止力が効かない日本の人口減少であり、もう一つは65歳以上の比率の高まりにともなう年齢構成の高齢化である。

絶対的労働生産人口が減少するという事態と逆らうことができない肉体的な劣化と将来の余白が少なくなることによる無限大の可能性の希求を導く気力の減少は、一般的な感情を持つ生物としての自然の摂理でもある。

この2つの難題に対して、日本の経営者はどのように労働生産性を維持しつつ働き手の量と質を確保できるか苦心する。労働集約型の雇用構造を持たざる得ない業界や、雇用獲得競争力の劣勢を余儀なくされている中小の企業規模の会社にとって事態は深刻度を増している。
単純化された定年延長施策にその解を求め過ぎるのは危険なことだと思う

先日、長野県にある信州大学で半日の時間を費やして、留学生雇用促進に関する講義とワークショップセミナーを行った。出席者の多くは企業の人事担当者である。前述した労働環境の確実な変化に直面し最前線でどのような施策が今取れるのかという事について最も危機感持っている人たちである。
私自身その熱意にとても親近感を持つ機会でもあった。

講義の中で発する自分自身の言葉とワークショップを通じて人事部門の参加者との会話の流れの中で、まだ企業の生産性が確保できている今現在に取り組むことができる施策について精一杯その必要性を経営の重要な責任を持つ人たちに訴求する役割の重要性を感じた。

外国籍の働き手を企業組織の中に有効に取り組む施策として、人事の実務家として、3つの切り口があるのだと考えを深め、今はかなり確信を持ってもいる。

それは、表題の「新たな雇用課題解決の三種の神器」とも言えるものである。「日本語の簡易化」、「職能給から職務給への段階的な移行」、「海外経験豊富なシニアエグゼクティブの活用」であり、ここ10年ほどの時間軸でとることができる現実的な取り組み施策である。

これらの施策課題は実務ベースで実現する為にそれほど多くの時間的な猶予を与えられていない。

「働き方改革」の提示される重要な課題は長時間労働の是正であるが、その真逆に位置付けられる「雇用形態の多様化」にどのように組織を柔軟な構造に変容させるのかという課題もより深刻である。

こうした変化に私たち一人ひとりの働き手がどのように肯定的に捉え、柔軟に、積極的に自分自身の自己変革を図る気持ちに変えることができるかが大切である。そして人事担当者はその親身な支援者になるべきである。

今日一日が良い一日となりますように、特に深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

分かるということは苦労するということ

2019年6月28日

今朝の都内は広く灰色の雲で覆われている。台風も近づき週末に向けて天候は不安定になりそうである。

近代批評を確立した小林秀雄氏の言葉を思い返す機会があった。40年近く前、小林秀雄氏の文章は大学入試問題によく出題されていたので当時、問題集の中に登場してきた氏の文章と格闘した記憶がある。難解な文脈構造という印象があった。最近ある機会で再び氏の次の言葉に触れる機会があった。「分かるということは、苦労することである」。

私たちの周囲に起きるすべての事象は、単純そうに映し出されることでも実は複雑な背景を抱えている。特に人間にまつわる出来事の多くは実は解きほぐしきれない難解な構造が複雑に絡み合う。

人事の仕事に携わりながら、深い人間理解の必要性を痛感する。人事労務の諸課題に向き合ったり、人事制度を構築する時も分かりやすく伝達性の高い仕組みの構築を目指すのだが、そこに関わる人間集団の深い理解がなければ、核心となるメッセージをその仕組み移植することはできない。

簡潔な論理を組み立てる上で大切なことは、「ミクロ分析の重要性」や「真理は細部に宿る」という格言に至るような教訓に向き合うことでもある。この膨大な地道な作業を踏まえないと、分かるという領域に至ることは困難なのかと思う。誠実に、ささやかに、ゆっくり、少しづつ、確実に、その真実に近づいていく。

正しく事実をとらえて、正確に記述することの困難さは私自身も大学時代の卒論制作で学んだ。選んだ卒論が、「八幡製鉄の賃金体系の変遷」であった。製鉄所における賃金の分配ルールの背景にある労使の人間的な取引の事実を労働運動史や配布された情宣ニュースから記述し直すという暗く、じめじめした、地味な作業の繰り返しで大学の最終年度を過ごした。

「わかるということは苦労すること」であるいう前述の小林秀雄氏の言葉は、自己肯定的にまた、概念的にまとめて表現することに逃避しがちな自分自身への警告でもある。実は正確にはなにもわかっていないことが多い。言葉の響きの良さや、勢いはあるが中身が浅薄なのである。そんな勢いで行動を起こすと深い痛手を負い、誤った判断をすることになりかねない。

これは企業における技術者のモノづくりでも同じ原理でありように思う。優れた技術者はある製品や技術を開発する時に丁寧な実験を納得のいくまで繰り返し行い、素データと格闘し、恐ろしく深い思いでメカニズムの原理を脳から汗が出るほど考えつくし、製品や新要素技術を産み出す。寝ている時に考え、起きては実験という塩梅である。その過程を通じて良質な製品開発へとつながる。

事実に向き合い、理解を深め、適切な行動を取ることは、極めて慎重で謙虚な姿勢が求められる。

今日一日が良い一日となりますように、特に深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

優れた行為を導く“Follow your heart”

2019年6月21日

今朝の都内は厚い雲で覆われて強い日差しの光は遮られ、梅雨の時期特有の湿度の高い空気に包まれている。この湿度も生態系にとっては大切な潤いを与えてくれるのであろう。光のない環境から与えられる機会について考える。

今日何をすべきかについて、不安や戸惑いを覚えることはどのような立場の人間にも共通して日常的に起こりうる事象である。あるいは同僚や知人の戸惑いや困難にその支援の策を得られないまま呆然とする時を過ごすこともある。

今週は、ある友人が私の講座の中で話をしてくれる機会があった。“Follow your heart” が大切なのだと。その日の行動や行為の意思決定は自分自身でしか決めることはできない。自分の気持ちに従っている限り意識・意欲も高くなる。自らの気持ちに誠実に反応して、良質な意思決定や行為の繰り返しがあらゆる局面でできればと願う。

人間は家族であったり、職業上の組織であったり、自発的な奉仕の集団であったり、様々な形態の集まりの中に所属する。

その集団や組織を取り巻く環境が危機的な状態にあっても、逆に有頂天になりそうな順風満帆な状況にあっても指導者や管理監督者のみならず、その集団に所属する一人ひとりが、与えられた役割に忠実に、優れた立ち居い振る舞いができることが望ましい。

「操典」とは、軍隊における用語で、各兵種・兵法の教育及び戦闘における典拠書を示す。日常、緊急時において、取るべき行動の根拠、拠り所になる。日常生活における操典の備えの可否と良質さが、そのひとの異常時の立ち居振る舞いの鮮やかさや、安定感あるたたずまいを周囲に醸し出す。そうした空気をもつ人や組織に人間は吸い込まれていく。

良質な決断や優れた立ち居振る舞いを維持するためには、深い思考の積み重ねが必要である。その為には、寄って立つ自分自身の考えや行為の原理原則となる「操典」を所持する努力を日常の中で怠ることのないように努めなければならない。特に困難な局面に向き合う時はその最適な訓練の場となる。
平凡を非凡に努めることによりその力量は着実に磨き上げられる。

今日一日が良い一日となりますように、特に深い悲しみと困難、不安に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

キャリア設計の実践的方法序説

2019年6月14日

伊勢市内は、山の頂に低い雲がかかる朝を迎えている。私が暮らす信州の山とは異なり、柔らかい形状の山に落ち着きを抱き、またこの地が持つ神聖な空気に心が和らぐ。

昨日、講座をもつ学習院大学のキャンパス内で守衛所から講師控室のある建物に向かう道の両脇に並んでいる立て看板に目が留まる。大学の哲学会が主催する講演会の案内だった。そこには、『「家訓」研究から見えて来ること』と書かれている。

私の担当するこの大学の講座が「経営総論」であり、実業の世界にいる自分の役割として、特に経営理論をより実践の場面に適した形で分かりやすく伝えることに毎週思案する。なんとしても聞きたいと思い講演日程を予定表に書き込む。

記憶の中に深く沈殿している家訓がある。それは、京都のお線香を家業とするお店の家訓で私自身が自己の会社の経営に戸惑いを覚える時に思い出される言葉でもある。企業のありかただけでなく人としての立ち居振る舞いにも通じる。

『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)

家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。

この言葉が、「働く人」のキャリアの積み重ねの在り方と重ね合わせられる。企業研修を担当する時、そこで働く人が、自分自身のこれからの働き方の基本デザインをどのように描いていけばいいのかを考えてもらう要素を組み込むことが多い。受講生は普段使わない領域なので私の問いかけに多くの場合戸惑う。現在の会社での役割を積極的に肯定しつつ、これから先どのように自己のキャリアを磨き上げていけばいいのか、普段は表に出すことをためらうこの厄介な難題を物置小屋の奥から引っ張り出される。

私は、ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考えている。正しい経営戦略を有している会社は、市場からも求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、また働く人たちの職業倫理も高い。
個人が向き合うキャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとってより頼りにされる卓越した人材になる。

そしてこれは、持って生まれた素質ではなく、あきらかに後天的に習得できる技能なのである。企業経営がそうであるように、活動の沈滞を市場や顧客に転嫁した瞬間にその組織の自律性は劣化する。成長を急ぐあまり、論理の飛躍した経営判断をすることによって手痛いしっぺ返しを食らう。生身の人間のキャリアも他者にその自己の不活性化の原因を転嫁した瞬間に輝きを失ってしまう。また、論理的に物語性がない職業選択をしたとたんに脱線をしてしまう。混沌とした職業環境に落ち込んで途方に暮れている方の救援活動も行いつつ、こうしたキャリアに関する実践的方法の気づきや学びの場を提供したいと強く願う。

線香であるから、おそらく香りが伴うのであろう。良質なプロセスで創り上げられた線香の香りは、多くの支援してくれる仲間を引き付ける。そして変わらない香りを醸し出し続ける「信頼」が長い時間の積み重ねとともに揺ぎ無く築かれる。

今日一日が良い一日となりますように、特に深い悲しみと困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

職業意識がもたらす価値

2019年6月8日

今週は、都内のいたるところでリクルートスーツに身を包んだ学生の集団に遭遇した。講座を担当する大学の構内でも着慣れないスーツに自分を合わせこもうとする姿に少し心が痛む思いを感じる。
就職活動をしている学生にとっては、6月の初旬は実質的な内定先企業を確定し、試行錯誤した職業選びの節目となる。まだ活動中の学生にとって焦りは募るばかりであろう。

企業を選ぶ側の学生も、学生を選ぶ側の人事も、長い神経戦を繰り返す時期でもある。厳しい神経戦の中で学生にとってもキャリアの意識の中には、「職種」の概念が薄くなる。どの企業を選択するのか、受け入れてもらうのか、というところに神経のほぼすべてを注ぎ込むのが精いっぱいで仕方がないのであるが、入社後も基準となる職業観をもつことなく、受動的に付与された専門的な経験を積み重ねることになる。

幅広いローテーションの中で多様な経験を通じた適材適所を突き詰めていくことが応用動作と論理的思考に長けた人材育成にすこぶる有効であることは確かであるが、願わくば、基準となる専門領域を鏡にし、幾つかの職種と格闘することができればその経験の質は一層深いものになる。

「就職」という言葉が構成される本来的な意味は、やはり生涯歩むべき「職業」に就くという意味が語源としてあるのであろう。たとへ、本来の思考や想いと異なる職業についていたとしても、意識として自分の基軸となる職業は何かということを考え続けることが大切だと思う。職業意識を持つことが、組織と正しく向き合う自己を確立する。

自己を規定する職業意識を持ち合わせないと、所属する会社を離れざる得なくなった時にキャリアにおける自己規律と規範を失うことになり途端に迷走する。企業にとっても単に年齢を積み重ねてしまった職業貢献意識に乏しい依存体質の人材を抱え込むことにもなる。

担当する大学の一つの講座で、私の知人の力を借りて学生に自己のキャリアと職業観について語ってもらう講座を今年から初めて取り組んでいる。その言葉をグループ討議を通じて、自己への内在化を試みる。
先日、私自身も深い気づきを得た。他にとって良質な変化を導く起動は他者にあるのではなく自己の中にあるのだと。起動することにより自らが苦労することが分かっていても、敢えて深い倫理観に支えられた専門的な職業意識が、その難題と向き合う起動スイッチをおす。艱難と試練は、必ず練達と希望を導く。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

秘密にしておきたい成功のための「戦略的キャリアデザイン論」

2019年6月1日

今朝の都内は少し薄い雲があるものの、雲の合間から強い日差しが差し込みガラスで覆われたビルに反射している。5月の終わりとはいえ、今日も初夏の気候を感じる一日となりそうである。

表題が少しユニークな週報になった。昨日、私にとっては初めてとなるインターネットを活用した学習システムとしてe-learningのプログラムが公開された。そのタイトルでもある。

この4年間、横浜国大や東北大学での留学生向けの講義科目にキャリアデザインの講座を設計して授業を積み重ねてきた。日本企業における人事・雇用環境を理解した上で、どのようなキャリア設計や構成の仕方が必要かという視点と、キャリア設計の合理的なステップに基づいた講義を行ってきた。講義の最後には、学生一人一人の”BusinessIPlan”(ビジネス アイ プラン 「自分事業計画書」)を作成する。

また、今年の4月より学習院大学でも「経営総論」の講義を担当する機会を信頼している先生から与えていただき、私にとって経営戦略策定のロジックとキャリア設計のロジックの融合の価値について一層深く考え、その大切さを確信するようになった。

長い企業人事経験と現在担っている雇用流動化が急速に進むリアルなキャリア市場における現場支援の経験から、できる限り迷走しないキャリア設計のスキルを働く個々人が持ち合わせるべきだと考える。

私がキャリア支援を担当する大企業の経営企画専門職の方でも、会社の業務で経営計画を立案推進する際にはきわめて合理的な判断を行うにもかかわらず、ご自身のキャリアになると途端に博打のような選択肢を選ぼうとする。その度に、キャリアにおける主戦場となるキャリアドメイン(領域)やキャリア競合者との相対的優位性分析などの外部環境分析、ご自身の積み上げられてきたキャリアリソース(資源)に関する積極的な評価に基づく内部環境分析を行うことを促し、賭け事の世界から引き戻す。

リアルな対面面接での支援や、大学の教室での伝達には物理的、時間的な制約がある。IT環境を活かした情報伝達の手段を有効に活用することの意味性と可能性をe-learningの教材を作成するプロセスを通じて改めて感じた。自分自身の講義を自分自身で受講できるのもとても新鮮である。

今回、長きにわたって私の重い腰を上げさせ、プログラムの実現を促してくれた友人と不慣れな映像教材コンテンツの制作に優れた技量と撮影プロセスで心温まる励ましを与えてくれた友人に心から感謝したい。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

映像による学習の効果

2019年5月24日

今朝の都内は青い澄み渡った空気に包まれている。今日も初夏の気候を感じる一日となりそうでる。

昨日から、ある方の勧めで「人事屋からみたキャリアデザイン(設計)のプロセス」を、e-learning(Webを通じた学習方法)の教材にしてみたらという提案に興味をもち撮影に取り組んでいる。
今まで、人事の実務経験や大学での講義、実践的に転職希望者への支援をしていく中で積み重ねられた気づきを教材化しようと試みる。個人がリアルな現場の中で伝えていくことの価値は大切であると確信しているが、物理的、時間的な制約条件に悩む。しかしながら、こうしたITの技術をベースにした学習方法は、その伝達範囲を凌駕する。

ちょうど大学の講座でも映像を活用した講義がいくつか試みているので、学生に指示するだけでなく、自らも体験する機会は貴重だと感じた。

大学では、「EQ (Emotional Intelligence Quotient心の知能指数)」の講座を横浜国立大学と東北大学で、主として海外からの留学生を対象にした講座中に組み込み担当している。4月から進めてきているので、クラス学生間の交流もだいぶ馴染んできている。留学生が中心だが、日本人の学生も少人数交じっていて、異文化、言葉の壁を乗り越えて積極的にグループワークなどに取り組んでいる姿が頼もしい。

3年前より、春季課程でのEQ講座は、秋季課程で行ったEQ基礎講座のアドバンスコースとしての位置づけとして、映像を使用したグループ活動をプログラムに組み込んで展開している。EQの概念の理解を深めるために、半期で3本の短編のビデオ映像を制作する。

それぞれのクラスでは、処女作となる第一作目の映写会(発表会:プレゼンテーション)を行った。㈰上映前の監督・主演俳優・女優の挨拶、㈪上映、㈫上映後の映像解説とプレゼンテーションは続く。毎年どのような内容になるのか期待が半分、不安が半分であるが、結果は予想をいつも私の想像を上回る。学生たちの力量の高さに驚愕を覚える。

今回のテーマは、感情を正しく理解する能力と、習慣的な(癖となってしまう)感情反応のパターンをマネジメントする能力の2つのEQ Competency(感情能力)を取り上げ、5分間の映像化を試みた。一つのグループ(講座では映画製作会社)は、概ね5名から6名の学生で構成され、監督、助監督、俳優などのキャスティングを予め設定して制作する。私からは、脚本シナリオの展開のフレームワークだけ提示する。

講義でそれぞれのEQの概念を座学で学ぶことも大切だが、基本概念を理解した学生たちが、その内容を自らのアイデアで映像という作品に仲間と相談しながら創り上げていく効用も理解を促す。実際の理解浸透に関する評価は7月の最終プレゼンに委ねられるが、 学生の意気揚々として取り組んでいる顔をみると、期待も膨らむ。楽しさを通じて実効的に理解が深まる為の仕掛けを講座に中にどのように織り込むべきかという責任も感じる。

30年以上前、学生時代、映像ではないが演劇を通じて、専攻で学んだことを舞台化した経験がある。「能力主義人事制度導入」に対する労使交渉をテーマにした。労使のそれぞれの視点で理解が深まったし、芝居を創り上げる過程で人間的な関係ができた。私は脚本担当だった。労働組合の委員長役は、上場大手企業の人事部長、青年部長役兼舞台監督は、朝ドラや大河ドラマにも頻繁に出演する俳優になった。

映像加工に多彩なアイデアを織り込み、編集ソフトを駆使する学生の卓越した力量が企業組織で活かせる経験として学生一人一人が内在化できるように自分自身もその体験と経験を通じて苦労したい。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

自らの価値基準を堅持する為の位階と官位

2019年5月17日

 

今朝の都内は強い日差しが差し込みビルの壁面やガラスに反射して四方八方にその輝きを届けている。新緑の中の強い光も気分を爽快にするが、高層ビルのガラスに反射する陽の光からも強いエネルギーを感じ気持ちも高揚する。

何気なく、長女の国語のガイドブックのページをめくった時「官位」に関する一覧表を解説するページがあった。官位については、深い知識がなく、「大納言」とか、「中納言」などの言葉の意味合いを知らずに今まで過ごしてきた。ページ両面を使って、「官位相当表」というマトリクス表で解説が加えられていた。これが人事の視点で眺めると興味深い。

職能給制度に支えられた戦後日本の賃金制度は、担っている仕事の種類によって支払われるものではなく、それぞれの働く人の経験や能力によって位置づけられた職能資格に対して処遇され、組織の中での異動、再配置、育成の為のローテーションを個人に付与された賃金額に手を加えずに組織の都合によって柔軟に配置できる仕組みを作り出した。また、働き手にとっても、それぞれのキャリアの確固たる軸をさまざまな仕事を経験することによって自らに最適な職種を見出す機会の多様性を得られた。

この「官位一覧表」を眺めながら、すでにはるか平安時代以前の古から、日本は職能給だったのかと気付かされる。官職としての「太政大臣」は、資格としての「位階」は「正一位」か「従一位」の位階をもつ人材が任用される。「少納言」はというと、少し下がって、「従五位の下」という位階を持つものが任用される。軍事を司る近衛府の「少将」という官位を担う位階は、「正五位の正」が相当する。

学生時代、さまざまな会社の賃金体系の歴史を紐解きながら、日本の労使関係のエッセンスを探ろうとしていたが、そもそも、その原型は、この官位任用の仕組みにあったと知り、その歴史の長さと人々の意識の根底にあり続けた「人」が仕事の価値を生み出すという考え方の重さを痛感する。

四月の人事異動を経て一カ月余りがたつ、新たに任じられた役割は自分を鼓舞するものであったり、意気消沈させるものであったりするかもしれない。周囲の評価は冷静に受け止めながらも、過度な高揚も動揺もするべきではない。今まで果たしてきた組織や共同体としての社会への貢献や誠実なる献身は歴然とした事実である。それを積極的に評価し、今後の役割を見失うことなく、自らの価値基準としての「官位」や「位階」を定め、人格を磨き続けることをためらわないことだ。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

人生100年時代のそれぞれの役割

2019年5月10日

 

今朝の伊勢の空は広く澄み透る青空に覆われている。今日は気温も上がりそうである。また、この週末は良い天気に恵まれそうだと期待も膨らむ。

今週のいくつかの大学でのキャリアに関する講義の中で、職業従事の期間を含め長く人生を見通した視点でのキャリアについてテーマにした課題を題材にした。

政府も平成29年に「人生100年時代構想会議」を立ち上げ、人生100年時代を見据えた経済社会システムの基盤を整備する活動に取り組んでいる。生命科学的な寿命が100歳を超える割合が一般的になるかどうかは、断言することはできないが、60歳を超えても活力に満ちたシニア世代の方々が多くなってきている実感は自分自身の周囲を見回しても確信する。

良質な長い人生を生き抜いていくためには、生活面での穏やかな営みと、社会との接点につながる職業についても基本的な考え方を持つべきなのかと思う。

私はある時から、人生100年の生涯を四半世紀(25年)に分けてキャリアを考えるようになった。
25歳までは、誰かに支えられ、育て上げられる見習いの立場として、自立に向けた基礎体力・思考力・人間性を形成・磨く続ける時間。
50歳までは、一人前として、独り立ちし、自立した人間としての立場で、自己の将来構想に基づき、鍛錬と練達を繰り返しながら責任ある職務提供を通じて人格を磨き上げていく時間。
75歳までは、社会や人から与えられた経験や教訓を、次の世代の人に繋げ、自ら定めた構想の完結に向けてただひたむきにチャレンジする時間。
75歳からは、幸運にも与えられた時間として、人生を深く振り返り、これまでのプロセスの途上にあって奮闘している人をあたたかく励まし、人格的な支援や、もしそれまでの人生で経済的に恵まれたのであれば、直接的な支援を通じて良質な社会秩序や環境を保ち続けることの誠意を尽くす時間。

古の先人たちが、人生を春夏秋冬に例えて示してくれたように、大きな周期として、自分の歩む役割が人生の長い道程の中でもあるのではと思う。一概に25年という年数で固定する必要はなく、それぞれの人に課せられた立場や環境条件の中で、自らの役割を感じ取り、自分自身の歩みの道程を捉えてみればいいのだ。

こうした実現には職業を通じた循環サイクルの良質な基盤の有無が不可欠だ。人事の実務家としての私自身が誠意を尽くす領域の環境整備の課題もまだ多い。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

 

試練によって磨かれる人間のしなやかな強さ

2019年5月3日

 

早朝の美ケ原山頂付近の稜線は、今この瞬間に薄い雲を突き抜けるように5月の強い力を有する朝日を背にくっきりと浮かび上がってきている。新しい「令和」という元号に代わり、この景色も新鮮な気持ちにさせてくれる。この時期は、夏の登山に備えて、残雪もなくなる三城牧場から茶臼山(2006 m)、美ケ原を経て、山頂の王ケ頭(2034m)まで登ることが通年の習慣になっている。連休の前半の天候に比べ、この週末は良い天気に恵まれそうで、外での活動もしやすい。

昨年も大学の登山部のグループが、百曲がりのコースを相当な重装備を詰め込んだリュクを背負って隊列を組み、登山の訓練をしていた。恐らく何度か往復するのであろう。最後の部分は急斜面を直登していた。こうした訓練の積み重ねによって、難度が高い山登りの為の身体を鍛え上げ、仲間を助け合う友愛の精神を磨き上げているかと思う。

人は訓練によって鍛錬され、人間としての力量がついてくる。同時に苦しい局面を真摯に向き合うことで人に対する友愛の気持ちを育み人間的な厚みが出る。外見は同じでも、厳しい局面に遭遇した時に立ち居振る舞いに歴然とした違いが出る。発する言葉から私心を感じさせない。苦難や試練の歴史は、その人の心の中に積み重ねられ沈殿していく。自らを律する厳しさや強さをもちながらも様々な背景や事情を抱えた人を包み込むしなやかな優しさを兼ね備えていく。

法隆寺・東大寺の宮大工の西岡常一棟梁の話し(伊丹敬之2007)に木を削る「かんな」の紹介がある。刃には「甘切れ」が大切だと。私は、いまだにその語感が持つ意味をつかみ切れていない。硬すぎては木と衝突し、刃が折れてしまうし、柔らかすぎると、削るという機能自体を喪失してしまう。木それぞれに合わせた「しなやかさ」により、良い削りができる。

しなやかな強さは、日々の丹念な仕事の後の道具の手入れの積み重ねから生まれてくる。人もたくさんの苦難と試練に向き合う、その時の向き合い方と手入れの仕方が大切なのである。避けて通りたい出来事から、何かを教訓として学び続ける人と、記憶から抹殺する人では、同じ叩かれ方をしても人間としての風味風合いに違いが生じる。人が向き合う苦難や試練は、大切な将来の希望に繋がっている。

新しい「令和」の時代でも、希望がもてる良質な日常の積み重ねを静かに力強く過ごしていきたい。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

 

キャリアにおいて自由を得る為のプランについて

2019年4月26日

 

今日の都内は低く雲に覆われ、湿度が高い朝を迎えている。今週末から暦の上では長い連休に入る。ゆっくり休養する計画をもたれている方、あるいは旅行に行かれる方も多いのかとも思う。その一方で、この時期だからこそ、仕事が忙しくなる方もいる。

5月のこの時期の習慣で、よく書棚から引き出される古い書籍があった。今年は4月に入る頃から移動時には携帯するようになっている。大学での講義の付帯資料としてその著者の想いのいくつかの個所を抽出し、大学生の年代の若い人にとって大切だと思われる言葉を、自分の経験を加味して講義のスライドに差し込んでいる。

「学生に与う」と題された河合栄治郎氏の著作である。河合氏は当時の東京帝国大学の経済学部の教授であり社会政策・労働経済研究の第一人者でもあった。すでに絶版されているようで大きな本屋でも、ネット書店でも探し出せず、かろうじて中古本で求めるしかない。学生にこうあってほしいという氏の願いを込めたものでもある。
この本は、1940年6月15日に日本評論社から出版された。戦時下の統制が厳しくなる中、河合氏は1942年に一切の文筆活動を禁止され、43年には出版法違反にて有罪判決、翌44年に亡くなっている。53歳であった。

個人的には、その中の第二部「私たちの生き方」の中に組み入れられている「日常生活」の項を読むのが好きだ。そこに綴られている言葉にとらわれる。『・・・何よりも大切なことは一定の計画(プラン)を立てて規則正しく生活することである。プランをたてるなどとすると、縛られて窮屈だという人があるが、自分のプランで動いていない人は、多くは他人のプランで動かされているものである。・・・』と冒頭から手厳しい。その後一日の模範的な生活の組み立て方に続く。暴飲暴食をしてはなぜいけないかとか、スランプの時にはどうしたらいいかということにも触れている。経験則に従ったきわめて実用的な手引きなのである。

生涯の仕事をどのように積み重ねていけばよいか、キャリアを設計するということもある意味で窮屈な事でもある。しかしながら誰にも拘束されずに自らの意思をもって歩むということはすこぶる「自由」でもある。自らに課したプランや原理原則に従うことは、実は他人に自らの「自由」を奪われないということである。窮屈なことも自分を感じる大切な時間でもある。

今から75年ほど前、国家のプランにも屈せず、言葉で自由を全うし、学生に語りかける愛情ある責務を全うするために信念をもって格闘した研究者の心意気に深い敬愛の気持ちを感じる季節を再び迎えた。今年はこの書籍を例年とは異なり、能動的に活用できることに感謝しつつ。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

信頼経営 約束を守る

2019年4月19日

今朝の松本は薄曇りの空が広がっている。都内と比べるとやはり肌寒い。昨夜遅く松本市内に戻ってきた時に松本城の桜は最も見ごろであると全盛の勢いでその存在を浮かび上がらせていた。

今週の学習院大学の経営総論の講義で、社会の中での企業価値について学ぶ機会があった。参考図書として学生に示してある書籍に描かれた図柄は懐かしい記憶を刺激するものであった。その中には、企業が責任を果たすべき対象としてのステークホルダーとして、「株主」、「顧客」、「取引先」、「従業員」、「地域社会」、「政府・行政」、「NPO・NGO」の7つの対象が描かれている。

今から15年ほど前、前職で人事課長をしていた当時、会長(故人)と同行して様々な講演会の現場に出向いたことがしばしばあった。当時は長野県経営者協会の会長もされていたので、経営に関する講演を依頼されることが多かったのだ。講演に先立ち資料の準備を事務方として指示を受けながら携わった。私にとって、経営を担う方の想いに直接触れる貴重な経験でもあった。

講演で使用するスライドの用意で指示された中に「信頼経営」という言葉と先に挙げたステークホルダーに企業が果たすべき役割について必ず差し込まれていた。
会長からは、企業を取り囲むように、「顧客」、「従業員」、「パートナー(取引先)」、「投資家」、「社会」、の5つのステークホルダーを描くように指示された。

講演では、それぞれの利害関係者に果たすべき責任について、長い経営実践の中で実例を交えて丁寧に語られていたのを今でも鮮明に覚えている。講演の最後には、企業はこれらの方々との「約束を守る」ということが最も大切であることを伝えられていた。

法律、ルール、契約などの経営活動の仕組みの中で定められた遵守事項だけでなく、企業が示した目標や理念で定められた事柄や規範はすべて第三者に対する約束であり、その約束を守ることが経営にとって最も大切なことであるのだと。他者や自己に対する「約束」を守りぬく思いの強さを演壇のそででスライド操作をしながら感じていた。

「約束を守る」とは、難解な経営論理ではなく、極めて簡素な言葉であるだけに脳裏の奥底に今も沈殿している。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

キャリア設計の方法と夏目漱石の言葉

2019年4月12日

 

今朝の伊勢は薄い雲に空全体が覆われているが、風もなく穏やかな朝を迎えている。ここ数日、強風が吹いたり、地域によっては降雪があったり、春を迎える気候の不安定な一週間であったが、週末以降は安定した春らしい気候になりそうで楽しみである。

今週から、大学での新学期が始まった。今まで担当してきた2つの大学に加えて、今学期から学習院大学で新たに通年講座(経営総論)が加わる。経営の基礎的な論理を紹介しながら、キャリアの設計のプロセスを重ね合わせて講義を進めていこうと思う。

今までの経験から、事業戦略や経営管理の仕組みの構造化や策定プロセスは、働く人のキャリア設計のプロセスとの類似性が高いと考えるようになった。企業が顧客に提供する、「商品やサービス」といった価値と、働く人が企業や社会に提供する「労働」という価値は、その定義化、創造プロセス、信頼関係の持続的構築化を通じて、相手にとってかけがえのない存在となる。

企業が陥る、つくり手の都合による一方的な押し売りに近い商品化と同様に、個人もやりたいこと、できることに焦点を絞り込み過ぎたキャリア設計は、相手にとっては、価値の押し売りでしか映らない。自分の持ち味や理想を明確化することはもちろん大切だが、キャリアの買い手の困りごとや要求ニーズを冷静に探り合わせることも同じように大切である。

新しい環境に加わる方との場面に立ち会うと必ず思い出す言葉がある。入社式の式典が終わった後、役員が会場から立ち去り、体育館に取り残された20歳後半の経験未熟な採用担当の私とこれから職業生活を始める大勢の新入社員との式典後の弛緩した空気感の中で私自身への自戒の言葉として伝えた。

「焦ってはいけません、頭を悪くしてはいけません、根気づくでお出なさい、世の中は今期の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。決して相手をとらえて、それを押そうと思ってはいけません。相手は後から後から我々の前に現れ、そうして我々を悩ませます。・・・」 記憶があいまいなところもあり、誤った個所があるかもしれないが、夏目漱石が静養中の伊豆から芥川龍之介に送った書簡に記された言葉である。

企業においても、社会においても、人間の価値は昔から変わらないように思う。良質な計画とマネジメントの仕組みを構築しながら、取り組みにあたっての立ち居振る舞いは、誠実に努力することの積み重ねなのだと。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

文学と人事の関係

2019年4月5日

 

今朝の都内は、澄み切った青空が広がっている。桜も見ごろの時を迎え、今日は日中も夜も桜の名所には多くの人の訪れるのであろう。できれば自分も江戸の桜名所を訪れ、ひそかに水筒に忍ばせた般若湯も舐めながら鑑賞したいという衝動に駆られる。

一昨日、仕事を早めに切りあげ、下北沢のある書店を訪れた。知人の大学生がここでアルバイトをしているとのこと。とても個性的な書店でもあり店内で飲み物を飲みながら本と触れ合うことができる。

最近は書籍を買う場合にITの利便性に頼ってしまうが、目的を持たずに多くの書物のある空間に身を委ねるのはとても大切のように感じる。自分の嗜好に基づき類似性の高い書籍を自動的に提案される世界とは異なり、世の中にこのような視点で物事を考えている人たちがいるのかという主張に遭遇する場面でもある。それぞれの背表紙に書かれた書籍の題名に反応する。

人事の仕事に長くたずさわっていると、人の組み合わせにより様々な作用・反作用が生じるのだと気づく。人を採用する時、人事異動に伴う人の配置をする時、そして昇格昇進を決める時に、仕組みとしてのプロセスを経て出てくる答えに対して感覚的に違和感を覚えることもある。

いつだったか、二十数年前に大学の恩師との会話で、労使関係の専攻学科がかつて文学部の中に所属していたことについて話題になった。人事はまさに文学の世界だと感嘆を込めて話されていたことを思い出す。だから人事管理の専門課程が文学部にあることはとても大切な意味合いを持っているのだと。

人の感情や行動に関する深い人間理解がないと、組織管理をする上での誤りを犯す。人間は必ずしも経済的に合理的な行動や判断をとるとは限らない。素朴なライバル心や嫉妬を年齢を重ねても幼児のように抱くものである。
基準化、標準化された合意形成プロセスに基づく答えに対して、安易に服従するのではなく、人間的な感情・感性に基づいて反応、行動することを棄却しないことも大切である。

この意味で人事の諸課題は、まさに人間関係が交差する文学の世界の延長線上にその答えが格納されているのかと痛感する。自然科学の世界でも社会科学の世界でも科学である以上一定の論理が必要であり、大きな逸脱は避けるべきである。ただ現実的な実践の場面において、最終判断を下す前に深い人間観察に基づく思慮に基づいた選択をすべきであろう。理想をいえば、大切な人事案件に関しては即断即決ではなく、一晩くらい寝かせ、思考が熟成した上で判断することが望ましい。

マネジメントをする立場の人は、経営やマネジメントにおける専門書のあれこれを読む一方で、時には文学の世界にも自己の時間を割き、正しい人間理解の修養の場をもつことも必要なのだと感じる。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず

2019年3月29日

今朝の都内は、薄い灰色の雲が満遍なく空を覆っている。都内の桜もいたるところで咲き始めて春の到来を感じさせる。今年は都内や松本などいくつかの場所で、花見を堪能しようと思いが巡る。。

週末を過ごす松本は標高が600メートル弱である。市の中心部にある松本城の天守閣の最上階が620メートルなので、松本を訪れ、お城に上るとちょうどスカイツリーの高さにいることになる。

市街地から100メートルくらい登ったところに城山公園という市民公園がある。松本城の桜が散るとこの公園の桜の見ごろになる、また更にその奥にあるアルプス公園は、標高が800メートルで、城山公園の桜が散りかけると、アルプス公園の桜が見頃になる。

さらに美ケ原高原への登山道の途中にある「広木場」(1580m)には、一本の桜がある。毎年登山シーズンの初めに体を慣らすために5月の連休にこの登山道を登るのだが、ちょうどそのころ桜が満開になっている。誰もいない山の中に凛として咲き誇る一本の桜の様子を毎年見て、一年の無事を確かめる。

桜の時期なると「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷)の詩の一句が蘇る。今から35年以上も前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウスで、恩師である中條毅先生(現同志社大学最高齢の名誉教授)から新入生に語られた言葉であった。今でもその場の空気感とともに覚えているのが驚きでもある。凡庸としているとすぐに人の一生は老いたどり着いてしまう。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。

中條先生は昨年、自叙伝である「ウシホから産業関係学への道」を執筆発行された。戦時中に海軍の軍人として乗艦されていた駆逐艦の潮(ウシオ/ウシホ)*からの労働力政策の研究領域である産業関係学の道に進み、その研究に生涯を貫き通した歩みを振り返っている。

変わらずに地道にやり続けることから開けてくることがある。どのような職業でも、長く続けることからにじみ出てくる気概は、知識を超える。職業におけるキャリアを極めるモデルでもある。あれもこれもと、移ろい易い気持ちを深く問いただし、一貫した仕事の積み重ねを繰り返していく姿勢そのものが大切な価値であると心に刻み込まれる。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

*駆逐艦ウシホ:1930年進水、太平洋戦争の開戦から終戦(1948年解体)までその任を完遂

 

 

人事異動

2019年3月22日

仕事の打ち合わせで今週はベトナムを訪れる。予想したほどの暑さもなく、ハノイの街を移動する。車の間を多くのオートバイが行きかう様子に驚くが、しばらくするとその風景にも慣れてくる。とにかく若い国なのだ。人口も増加している。その分だけ活力に溢れた空気に包まれる。

3月も中旬に入ると、会社の事業年度の締めにあたることと、新年度のスタートのタイミングで、方針大会やキックオフといった重要な社内イベントが重なってくる。合わせて4月1日付けの組織変更が発表が行われる。多くの企業人のみならず官庁に働く方のすべからく、自分の行く末を深く考える時期でもある。

新しい組織図を眺め、自分の選択は正しかったのかという自問自答をする時期でもあるのだ。長年、企業の人事をやっていてつくづく感じるのは、自分のキャリアは自分の意思で描き、その責任を負う自覚を持つことが大切だということである。社内の昇進や昇格は、個人の能力や努力という因子と合わせて、事業や会社の成長ステージや、組織の中における人と人との組み合わせにより、配置が決定されていく。

組織に留まることも、離れることも、結果について他責にしてもなかなか突破口が見出せない。キャリアは自分の意志に基づき付き合っていくことが大切なのである。長い視点で考え、できる限り計画的に自分のライフアンドワークバランスの最適解を目指すべきである。突発的な感情に基づく行動は決して良い結果につながらないケースが多い。キャリアとライフスタイルの理想的なシナリオを想い続けている延長線上に、偶発的に自分にとって好都合な機会と遭遇する。これはキャリア理論でも「*計画化された偶発理論」として提唱されている。

自分のビジネスをスタートさせるにあたって、短期的な転職支援ではなく、できる限り長期的なキャリアサポートを通じて、働く方一人ひとりの力になれればと考えてきた。また、そのつながりによるコミュニティの形成により様々な選択肢の広がりと事業創出の可能性を試みようと格闘している。年齢、性別、所属企業・組織を超えて、理想とする雇用環境整備の考え方性に理解をいただける仲間を探し続ける。想い続けていれば、都合のよい偶然が身に周りに起こることを信じて。

(*計画された偶発性理論( Planned Happenstance Theory)
計画された偶発性理論(英語: Planned Happenstance Theory)とは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が提案したキャリア論に関する考え方です。個人のキャリアの多くの部分は、予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていこうという考え方。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

ハノイにて 竹内上人

150年の変化

2019年3月15日

都内はまぶしい陽の光に包まれて、今日の天気のすこぶる快適なことを予感させる。

今週はいくつかの雇用に関する会議の場に出席することが多かった。会議での意見のやりとりを聞きながら想いをめぐらす。日本の雇用環境をデータ(総務省)でみると失業率は年平均で2016年、17年、18年の3か年で、3.1%、2.8%、2.4%(米国同時期比較 4.9%,4.4%,3.9%)で好調に推移。一方で非正規雇用比率は37.5%,37.5%,37.3%(対全就業者)の水準で横ばい。正規雇用と非正規雇用とでの賃金格差は、1.3倍(30-34歳時点)、1.9倍(50-59歳)の差となり開きは大きい。世代を超えた影響として、少しデータが前のものになるが、子供の相対的貧困率は16.3%(2012年)で年率増加傾向。特にひとり親世帯の相対的貧困率は54.6%の水準(厚生労働省 国民生活基礎調査)という状況となっている。

給与水準の正規・非正規の差は「職能給」に準拠する日本的雇用システムの影響が大きい。失業率が良好な状態が続いていることはとても明るい気持ちにさせるが、経営者の視点では、人材確保が困難になっていることにもつながるので緊急の課題でもある。特に中堅、中小規模企業にとって人材確保は経営の最重要課題でもある。人事屋としては雇用慣行のバランスをとりつつも労使の都合も配慮しつつ少しずつでも「職務給」的な雇用システムへの移行を試み労働力確保と就業機会の機動性と可能性の拡充を高めなければと考える。

一方で、雇用の現場における不安定化、世代を超えた労働力再生産機能の劣化が深刻な状況になりつつあることにも留意をしなければならない。こうした状態が長く続くと、ひとり一人の働く人の日常生活を想像するに、さすがに日本の強みである人的資源競争力の優位性にも見劣りが出てくるという危機感を感じる。

大政奉還をした年は、1867年である。現在から約150年前の出来事である。この間、日本の人口は3,300万人から1億2,000万人に急激に増加した。その反動に今直面している。幾多の困難に直面しながらも、資本主義と民主主義を希求してきた時間でもある。豊かな環境を社会構造的に得てきた半面、この期間に徐々に高まってきた労働コストと年金・医療・地域行政維持のための社会保障費の拡大スピードに、付加価値の増殖の速度が追いつかなくなってきたことも、雇用現場に厳しい現実が問われた背景でもある。

社会インフラのコストを抑制することは、家計のやりくりと同様なかなか難しい、低コストで維持できる効率性ある循環型社会の構築を意識しながらも、積極的に付加価値を増やすことを考え続けなければならない。労働資源の将来成長に向けた機動的で且つ多様性ある最適配置の環境整備は急務である。

迫りつつある労働力の量と質の構造の変化に対して、産学官の連携した役割の期待は大きいが、家庭や職場において、将来を見据えて一人ひとりが日々の環境を効率的にできる小さな取り組みや心がけはいくつもあるように思える

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

留学生という社会資本との向き合い方

2019年3月8日

 

都内は透明感ある空気に包まれている。昨日までのどんよりとした空模様から透き通った空へと変容していて、窓から見える近隣のビルに突き刺さる朝日の光の切れ味が際立つ。

「異なる価値観の人たちと、楽しく真面目に深く交流することで、若い世代にそれぞれの判断の基軸となる原理原則が確立されていくことになる。そしてそれは多様化に質高く対峙する社会資本としてもとても大切なような気がする。」

先週の週報のこの部分に親和性を感じられて、大学で留学生教育を長い期間担ってきた先生から返信をもらう。留学生教育に携わって、わずか4年弱であるが、少しでも諸先輩方の問題意識に近づいたのかと安堵する。

国際的な視点からみると、相対的に均質化された日本の社会の中で、変化の兆候を感じ、健全な意見の対立に謙虚に、明るく、前向きな気持ちで向き合い、改革の道筋を構想し、仲間を集め、現実的に進めていくことの素養を二十歳前後で修養する機会の一つの場として、日本で学ぶ多国籍の留学生の資源を活用することが良質な基礎教育に極めて有意義であるとの思いを深めた。

こうした人材育成の着眼点は、学校教育現場だけの課題ではなく、絶え間ない経済成長、多様化・国際的関係の中で仕事と向き合わなければならない企業における管理監督者、社員一人一人にとって大切な基礎力になる。基礎力がないと積み上げてきた経験に基づく実学も応用反応しない。

先日、東北大学で開かれた留学生教育学会の会議に出席した。私に課せられた課題は企業人事の実務家としての視点、大学での留学生教育の現場からの視点、流動化が進む転職市場からの視点の三つの視点に立ってそれぞれの現状と問題の構造と処方箋案について率直に自らの考えを述べることであった。

現実的なモデルの一つとして、留学生と豊富な国際的経験を積んだシニアエグゼクティブの融合による経営・組織支援構想の枠組みついても初めて提言してみた。

迫りつつある労働力の量と質の構造の変化に対して、大学、企業、行政のそれぞれの立場で果たすべき役割の重要度は重みを増している。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

留学生との交流から学ぶ原理原則(プリンシプル)

2019年3月1日

 

 

都内は昨日から冷たい雨が降り続いている。数日前の春のような暖かさが再び来ないかと願う。

昨日は、都内郊外にあるセミナー施設にいた。昨年12月から日本人の学生、社会人に向けての海外大学院進学を促すためのプログラムを文部科学省の委託事業の取り組みをしてきている。留学を目指す日本人学生と日本国内で学ぶ留学生との交流研修を通じて、海外留学に関する個々人の目的意識を深化させるプログラムとなっている。留学上の手続きを共有することはもちろんだが、なぜ留学するかの本質的な問いに自分の固有の考えを持ち、応えられるように促す。

横浜国立大学、大阪大学、東洋大学と3回にわたって行い、昨日からはその最終プログラムの合宿形式の講座となる。プログラム開発と展開に情熱を傾けている先生の努力により実現した。

教室に集まった参加学生の一人ひとりと話をする。なぜ海外の大学院をチャレンジするのかについての想いの強さに聞き手も勇気づけられる。

現在、日本には約30万人の留学生がいる。大学(院)で学ぶ留学生が約半数の15万人ほどで、年々増加している。留学生就労の問題もあるがこれだけ多くの留学生が日本で学んでいる環境をうまく活用できれば日本のグローバル化、広い意味でのダイバーシティー(多様化)の対応力向上にとってはとても貴重な国家的なリソースに転換できる。

異なる文化や異なる言語の人たちとのコミュニケーションを行うことによって日本の学生も国内にいながら多様化のリアルに接することができる。留学生にとってもより密接な日本人との接合点を通じて日本を深く学ぶことにもなるであろう。

異なる価値観や異なる背景と思った方と接する事はとても大きな刺激になる。その中で自分自身の大切にすべき価値観というものが確立してくるのであろう。同質性の中ではなかなか気づかなかったオリジナリティーも浮かび上がってくる。そして、それぞれの自我やオリジナルな原理原則が研ぎ澄まされる。

原理原則(プリンシプル)という言葉からは、白洲次郎氏がいつも脳裏を通り過ぎる。白洲氏は、戦後処理に吉田茂首相の側近として、GHQとの折衝に携わるのであるが、GHQ側からの印象は、「従順ならざる唯一の日本人」と称された人物である。白洲氏は、物事の判断基準に彼自身の定めたプリンシプル(Principle)を大切にしていた。 プリンシプルとは、「原理・原則」、「公理」、「行動の基準」、「根本方針」の意である。

時として、周囲の空気に迎合して、平凡なる日常生活を過ごす身からは、なかなか厳しい指摘である。同質性がゆえに生じるあいまいな空気の中で、時流に流され判断して思慮に欠ける行動をとってしまうことが幾度かある。その折々に自分自身のプリンシプルの脆弱に後悔する。

異なる価値観の人たちと、楽しく真面目に深く交流することで、若い世代にそれぞれの判断の基軸となる原理原則が確立されていくことになる。そしてそれは多様化に質高く対峙する社会資本としてもとても大切なような気がする。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

あなたの働きによって救われる対象は誰か

2019年2月22日

 

あたたかくなったり、急に冷え込んだりと寒暖の差が身体の体温調整機能を活性化してくれる。表参道のあたりも少し肌寒い朝を迎えている。 連用日記に挟んである新聞の切り抜きが目に留まる。以前にもこの週報で紹介したことがある京都のお線香を家業とするお店の家訓である。  『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』 (京都 松栄堂 家訓) 家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。 それ以来、この言葉が、「働く人」のキャリアの在り方と重ね合わせられる。今月は、いくつかの民間企業の研修を受け持った。若い世代の方々を対象にしたキャリア研修と題されたプログラムである。多くの働く人が、自分自身のこれからの働き方の基本デザインをどのように描いていけばいいのかを感じる機会でもある。現在を肯定しつつも、これから先、このまま歩んでいけばいいのか、普段は表に出すことをためらうこの面倒な宿題を研修の場によって、物置小屋の奥から引っ張り出される。 私は、ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考える。正しい経営戦略を有している会社は、市場から求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、働く人たちの職業倫理も高い。 個人が向き合うキャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとってより頼りにされる卓越した人材になる。EQ(Emotional Intelligence Quotient)という便利な感情マネジメントの道具もある。 これは、持って生まれた素質ではなく、後天的に習得できる技能なのである。企業経営がそうであるように、活動の停滞を市場や顧客に転嫁した瞬間にその組織の自律性は劣化する。成長を急ぐあまり、論理の飛躍した経営判断をすることによって手痛いしっぺ返しを食らう。生身の人間のキャリアも他者に自己の不活性化の原因を転嫁した瞬間に輝きを失う。 混沌とした職業環境に落ち込んで途方に暮れている方の救援活動も行いつつ、こうした気づきや学びの場を提供したい。4月から新たに学習院大学で経営総論の講座を受け持つ。経営の基本的な枠組みを実感をもって考える時間にする為、学生のキャリア設計のプロセスを重ねていくいくことをシラバス(授業計画書)に明記した。企業が最初に問われる「顧客は誰か」という出発点をキャリア設計の最初の質問と最終講義の質問にしたい。「あなたの働き(キャリア)によって救われる対象は誰か」と。 今日一日が良い一日となりますように、災害により、非常な困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

都内にて 竹内上人

 

 

就活学生のプレゼンテーション

2019年2月15日

今週は気温はともかく,冷気が皮膚を通じて浸透するような感じの寒い日が続く一週間であった。大学の講義が終わり成績表も提出した。これからの二ケ月間は少し時間的にも余裕が生じる時期である。毎年4月に向けて自分自身のキャリアについて、ビジネスのことを内省し春の到来とともに一気呵成に取り組みたいという決意が高まる。

ここ数週間、企業内研修の機会が続いた。キャリアに関するテーマや組織効率性を高める為の基盤構築としてのEQ(感情の知能指数)プログラム、次世代のリーダー育成塾。また、企業内大学校の構想をもっている会社の設立準備委員会の場など、組織における人材育成について重層的に考える。

経営や人事の方にとっては、来年度予算を策定しながら、人材育成は、「教育」という概念ももつ一方で企業の長期的成長を促す「投資」であり、どのように具現化していくべきかについてあれこれ悩み格闘している時でもある。

企業研修の場や会議の場を通じて再確認したことがあった。それは経営資産としての「ヒト関係性資本の質」の大切さである。所属する社員の一人ひとりが組織の理念やビジョンに共感するとともに、自分自身のキャリアプランと重ね合わせてともに成長していくという意識をもった共同体をどのように構築できるかである。人材育成の目的を組織や働く個人のどちらかに偏り過ぎてもいけない。その両方を満たすための取り組みの連続なのである。その重複度が高い組織が、高いモチベ―ションと誠実な職業倫理を有する個人を引き付ける。

昨日、目黒にある大学で、ゼミ発表の場に同席する機会を得た。学生のとりあげたテーマがビジョンや企業バリューの共有をどのように組織活性化や組織生産性につなげていくかについて掘り下げていた。就活をしながらの3年生は、着慣れないリクルートスーツに身を包みながら、生産性の高い組織には良質なコミュニケ―ションと相互信頼関係が基盤となる職場形成の場が必要不可欠であることを訴求する。彼らが来春に選択した働く職場の現実であってほしいという切実な願いが、パワーポイントのプレゼン資料から痛いほど伝わってくる。

人事や職場の管理監督者は、採用した彼らをどのように育てあげるかという重責が伴う。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

成績表と人事考課

2019年2月8日

この時間の都内は、まだ夜の余韻に包まれていて、天気がどうなるか予測できない。近くのコンビニにコーヒーを買い求める為、外に出たが少し風がつよい。

今週は、大学の秋季課程の学生の成績評価をつけるのにあれこれ悩みながらの一週間であった。シラバスの授業計画書では、出席率25%、レポートと小テスト25%、授業での参画度25%、プレゼン発表・テスト25%という構成で成績をつけることにしている。

授業の構成がグループワークに基本をおいているので「授業での参画度」を成績に組み込んでいる。どのようにグループワークに積極的にかかわったのか、まとめ上げる時に傍観者にならずに協力的なスタンスを維持し続けることができたか、結果を急ぐあまりに乱暴なまとめ方をしていなかったかなどという観点で観察する。ひとつの講座では新たに360度評価も組み込んでみた。民間企業の評価でいうところの「プロセスの評価」である。

日本企業で「人事考課」を行う企業は少なくなり、直接的に「基本給・本給査定」や「賞与査定」を行うことが一般的である。専門的な話になるのだが、「人事考課」とは、能力、業績、勤務態度・意欲などを客観的に数値化したものであり半期ごとに直接処遇に連動させずに人物評価を行う。その数値データは、昇給や賞与査定、昇進・昇格の判断根拠に連動させる。人を評価する仕組みが二階建てになる。人事の流行は「人事考課」は廃止し直接、MBO(Management By Objectives) といわれる目標管理に基づき結果成果に着眼した評価や、「役割評価」という職責をかなり細かく定義・市場価格と整合をとり「職務」、「職責」や「成果」をベースに評価することが一般的になっている。さらにノーレイティング(No Rating)といった評価システムを現場マネジメントの裁量に完全委譲し個人の行動を直接的、瞬間的に評価する動きが加速している。

企業のブランドは最終的には「私」を超え、「組織という公(おおやけ)」のために上司が見ていないところでも職業倫理に基づき勤勉に働く、良質な人の集団が存在するか否かである。小売りの現場においても、良質なお客様は、かならず販売員の心根の透明性を見抜くものである。そうした行動の評価を丁寧に読み解き続けることは手間のかかることであり、苦労を伴う。
それぞれの企業が社員ひとりひとりの一挙手一投足に関心をもち続けることが、たたずまいのある職場や売り場を創出する。社員も顧客もその空間のもつ空気感を瞬時に感じ取り企業の値踏みをする。企業トップのみならず、人をマネジメントする立場にある者の発する言葉や立ち居振る舞いが、働くひとり一人のその一日の所作の質感を左右する。

組織が「働く人」を評価する意味をよく考えてみたい。公平に評価し、適正に賃金を配分するということが基本ではあるが、「働く人」を勇気づけ、仕事に対するモチベーションと倫理観を堅持し、前を向いてもらうように支援していくというメッセージを伝える貴重な場でもある。人事の役割は重い。

今日一日が良い一日となりますように、特に困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

二十歳の君に乾杯、シニア世代に問われているメッセージ

2019年2月1日

 

今朝の都内は、体に感じる冷気は冬本番の感を訴えるが、空は快晴でとても気持ちの良い朝を迎えている。明日から、受験生はセンター試験、試験前の緊張感と向き合っている。

今週の初めの月曜日は成人の日。毎年決まって新聞の広告記事を楽しみにしている。酒造会社が出稿する広告記事である。昔は山口瞳氏、現在は伊集院静氏の寄稿による。
新聞の紙面をめくっていると、私にとっては見慣れた体裁でその「二十歳の君に乾杯」は続いていた。今年の表題は。「ヤンチャでも、困った大人でもかまわない。」であった。

『・・・(略)・・・そこで提案だ。君だけはつまらない大人になるナ。ヤンチャでも、困った大人と言われてもかまわない。君の身体の中にある夢を、情熱で、君だけの大人を獲得するんだ。その個性が活きれば、この国も、世の中をもっとまぶしくなるし、未来がひらけくるんだ。これだけは覚えていてほしい。真の大人は自分のためだけに生きない。お金がすべてと決して思わない。品性を得ることは人生最大の宝物だ・・・(略)・・・』

品性を問われたメッセージはおととしもあった。

『・・・(略)・・・自分一人が良ければいい生き方はダメなんだ。お金で手に入るものは薄っぺらなものなんだ。卑しい行為はダメだ。大切なものは品性だ。ひとつひとつ学んでいけば、いつか誰かのために生きることができる素晴らしい自分に出逢えるはずだ。・・・(略)・・・』

私は、職業柄、多くのキャリアの選択の岐路に立つ方と会う機会が多い。特に実業の世界で様々な経験を積み上げてきたシニアな年齢に差し掛かる方との対話の場面が多々ある。日常生活における経済的な役割の負担は低減してきた年代の方々である。共通して受け取るメッセージは、他者への貢献に対する責任感である。

品性を磨き上げ、次になすべきことに対峙してる方々とお会いする度に、彼らと一緒に、練達を積み重ねてきた経験、見識、力量を次世代に循環できる仕組みを構築することが、企業人事から社会での人事を目指す自分にとっての活動の励ましとなる。

な方を失い深い悲しみに向き合っている方に、経験したことのない困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内から松本に向かう車中にて 竹内上人

コミュニケーション力について

2019年2月25日

 

今朝の都内は、穏やかな日差しが差し込んできている。昨夜遅くに雪交じりの雨が降っていたので心配だが、杞憂に終わった。松本の自宅に電話すると雪が3センチほど積雪があるようだ。

今週は企業研修のプログラムの打ち合わせをする機会がいくつかあり、グローバルコミュニケーションで必要な要件は何かということについて考える機会があった。グローバルという冠がついているので、そこには言語(端的には語学力であり、英語の力量を指す)の問題と、多様性(Diversity)を受け入れる能力が思いつくのだが、コミュニケーションを担う力という観点で考えてみると、そんなに問題は簡単ではない。

私は、コミュニケーションが成立するには、3つの要素があると思う。1つ目は、「伝える力」である。これは件の企業研修のプログラム設計において、海外にある販売・製造現地法人とのビジネス上のコミュニケーションや、ガバナンスを行う上で「英語力」が日本の企業人には決定的に欠けているという切実な危機意識からくる。反対に、留学生や、外国籍社員に対して日本企業が期待する「日本語力」も同様である。
そして、こうした語学力をベースにし、分かりやすく構造化された言語情報を適切な場面で適切なルートを通じ、適切な方法で伝達するという「伝える力」である。

2つめは、相対する人間関係における「感受性」である。相手から発信される微細な心情情報を受信、解析し、自己の感情を最適な状態にマネジメントする能力である。相手の心の変化を瞬時に且つ的確に読み取り、自己の心情をコントロールし、適切に対応させることができる感情のマネジメント力である。こちらは幾度か大学での講座の内容を通じてご紹介しているEQ (Emotional Intelligence Quotient:こころの知能指数)の卓越性に裏付けられる。適切に取り入れ活用すると「感情の優れた使い手」になることによる組織関係性の良質化につながる。

3つめは、外交的関係性(Diplomatic Relationship)を理解し構築する能力である。相手にとって自分が有益な存在になるような関係性を演出する能力である。自国の首相も苦戦しているのであろう。3つのコミュニケーション能力の中で最も難易度が高い。①相手の困りごと、立場を理解し、同じ視点で考えること、②相手の期待値に適合する価値を提供できる要素を自己の保有能力や関係資本(人脈・ネットワーク)から抽出し提供すること、などである。前職で次世代リーダー育成のプログラム担当をしていた時に一橋の組織論の先生が「ディプロマシー:Diplomacy」というボードゲーム(第一次世界大戦前の緊張した関係にあるヨーロッパを舞台にした覇権を巡って争うボードゲーム)をプログラムに取り入れていた意図もそこにあると理解する。

1つ目が「言葉という情報伝達力」、2つ目が、それを包む「感情能力」、3つ目が共感・共鳴する「関係性構築能力」、どれも等しくコミュニケーションが成立するには大切な技術である。難しいテーマだが、技術である以上能力開発が可能でもある。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

人口急減に向き合う 留学生の雇用環境づくりの処方箋

2019年1月18日

 

今週のはじめ、信州大学で留学生雇用の現状と今後の雇用施策に関して長野県内の人事の方にお話しする機会を得た。同じ場には長野県内の企業に就職した留学生の卒業生の方や内定を決めた留学生の方からの「日本の就活」についても併せて紹介された。彼らの慣れない日本の就活での奮闘努力ぶりに励まされる。

大政奉還をした年は、1867年である。2019年の現在から約150年前の出来事である。幾多の困難に直面しながらも、資本主義と民主主義を希求してきた時間でもある。豊かな環境を社会構造的に得てきた半面、この期間に徐々に高まってきた労働コストと年金・医療・地域行政維持のための社会保障費の拡大スピードに、企業や社会の付加価値の増殖の速度が追いつかなくなってきたことも、現在、雇用現場に厳しい現実が問われている経過でもある。

また、生活環境の向上に加えて、殖産興業・富国強兵といった全体主義的な社会政策にも後押しされ、日本の人口もこの間 約3、000万人から約1億2,000万に驚異的に膨張し、経済基盤を支えてきた。しかしながら、現在は、その揺り戻しとしての人口急減にも直面している。

社会インフラのコストを抑制することは、家計のやりくりと同様なかなか難しい、低コストで維持できる循環型社会を意識しながらも、積極的に付加価値を増やすことを考え続けなければならない。そのための労働資源の将来成長に向けた機動的な最適配置の環境整備は急務でもあり、労働人口の絶対量が今後急激に低下する対策として、海外から日本に就労の機会を求める人材の力を得ることは不可避だと感じる。

その一方で、多国籍の良質な労働力の受け入れ態勢が遅々と進まない企業内部環境調整の堅牢な壁と格闘している人事の方々に同じ人事屋として深い同情心と仲間意識を抱く。企業の外から手助けできればと願う。

個別企業の要員構造分析をすると、企業自体が「限界集落」のような「限界企業」に陥る危機にそう遠くない将来直面することが明らかである。比較的、企業規模が大きな企業の方が問題は深刻なのかもしれない。私が知る限り、機転の鋭い創業経営者の企業の方が、その危機対処に敏感である。

人事的な処方箋について、ここ数年いくつものアイデアを考えてきた。その実践を今後、人事屋として総括的に試みていきたいと期待が膨らむ。

信州大学での講演会の会場で、身に着けていたロータリークラブのバッチに気づき、参加していた3名の留学生が私のところに来て、ロータリークラブが提供するロータリー米山奨学会の奨学金を受けて日本で勉強したのだと嬉しそうに話してくれた。3名とも日本での就職を予定している留学生であった。奨学会への寄付が、身近に感じられた瞬間でもあった。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

今日一日が良い一日となりますように、大切

 

新聞の切り抜き

2019年1月11日

みなさま

返しきれないメールに追われ、朝に近い時間になってしまった。今日は企業研修の講師をしなくてはならず、少しでも眠ろうと思う。まだ陽が昇らないので、外の天気の様子は皆目わからない。

連用日記の最初のページにいくつかの切り抜きが挟み込まれている。今週のはじめ、その一枚が、何かの拍子で日記から抜け落ち目に留まる。
その切り抜きは、5年前に事業を始めた時に掲載された地方新聞の一面の最下部にある「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイである。

「天声人語」であれ、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、私の日記に挟まれる。そしていつしか、自分の中で整理され外されていく。
だが、なぜかこの切り抜きだけ、役割を終えずそのまま残っている。

『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

少し前の調査だが、厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。相対的貧困率は、国民生活基礎調査の貧困線では年収122万円(2012年)と定められている。また、この層では約40%が非正規雇用となる。絶対的水準が低いことに加えて、雇用安定性も喪失している。

大学で労使関係を学び、企業で人事畑を歩み、5年前に独立してキャリアの支援を事業として営んでいる。もう何十年も雇用の現場に近いところで仕事をしていることになる。良質な雇用機会の提供をできる仕組みづくりに少しでも関わりたい。それが自分の事業の出発点である。古ぼけた新聞の切り抜きは、色あせても当時の想いを時間を超えて運んでくれ原点に立ち戻らせてくれる。

今日一日が良い一日となりますように、大切な方を失い深い悲しみに向き合っている方に励ましがありますように。また、困難に向き合っている方に希望がありますように。良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

謹賀新年

 

2019年1月4日

 

「爽やかなスポーツの精神 ビジネスアスリート について - 2019」

みなさま

新年あけましておめでとうございます。
今朝の渋谷付近の天候は、快晴で爽やかな冬晴れの空が広がっている。今日が仕事始めの方も多いと思うが初日の天気がいいと気分も爽快になる。

幼少期のお正月の過ごし方として、元日は実業団によるニューイヤー駅伝、2日から3日は箱根駅伝と正月三が日は、午前中からお昼過ぎまで実家の居間では毎年テレビ中継が流れていた。父親自身が実業団でニューイヤー駅伝に出場していたこともあり、80歳を超えた今でも所属企業の後輩たちの走りを毎年楽しみにしている。

今年は、長年の間、観戦したかった箱根駅伝を直接見る機会を得た。お昼過ぎに復路のゴール地点である東京大手町の周辺を訪れる。ものすごい大歓声の中各大学の選手が最後の力を振り絞り、ゴールに突入する。選手もそうだが、応援する側の学生や同窓生たちの姿も気力に満ち溢れている。

選手ひとり一人が、絶え間ない仲間との切磋琢磨を通じた日常を送りながら自身を練達し続けてきたことを知るからこそ共感するのであろう。
私自身にとっても、今回、その現場にいたことを幸運だったと感じる。そして、彼らはゴールと同時に来年に向けて準備を始める。終わりが瞬時に始まりになる。

5年ほど前からBusiness Athlete (ビジネスアスリート) 「職業競技者」という概念を考え続けている。人事を長く担い、人事評価の仕組みの中で、働く人たちが良い評価をもらったり、昇進や昇格をしたりする場面に立ち合い、自分自身の意向に沿わない人事を辛酸を味わいながら受け入れていく場面を多くみてきた。その一瞬一緒に喜んだり悲しんだり悔しい思いを感じてきたことであろう。もちろん自分自身もその渦中にあった。

私は、大学時代も労使関係という学問を通じ賃金を勉強していた。ある時指導教官が人事の世界の中にもスポーツの世界と同様に、「爽やかなスポーツの精神」があってしかるべきだと熱心に話されたことを今でも鮮明に覚えている。

「職業」という競技において自身の目標を設定し、それに向けて日々、練達をし続けること。仲間と共に切磋琢磨をすること。優れた職業倫理観を厳しい局面におかれた時でも堅持すること。職業上のルールの中でスポーツ競技と同じような「結果」を受け取ることになるが、どのような評価結果でも肯定的に捉え、次の試合へ向けて再び前に向かって進んでいく爽やかな精神さえあれば職業人生も楽しい世界に変容する。

年初を迎え、私自身の今年のテーマとして、このBusiness Athlete (ビジネスアスリート) 「職業競技者」の体系化と働く人にとっての自己修練と雇用機会を提供できる環境構築に貢献できる一年でありたいと誓う。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一年が皆様にとって、豊かな一年となりますように。

都内にて

 

 

良い年をお迎えください Best wishes for the new year

2018年12月28日

 

この週報を書いている時間の都内は暗く、今日の天気の様子は伺うことはできないが、天気予報では晴れとのこと、年末年始は冬型の気圧配置になり、寒い年越しになりそうである。

今年も瞬く間に時間が過ぎた一年だった。自分自身も多くの人と会い、今まで経験したことのないことに取り組み、学ぶことの多い年であった。その過程を通じて、多くの方にお世話になり、学んだのだとしみじみと振り返る。新しい年は、今、与えられた機会を積極的に活用し、変化を主体的に喚起し、人事屋としての新しい一年を着実に刻んでいきたいと願う。

連用日記について
昨年末購入した3年の連用日記。1990年から続けているので、28年間続いている。連用日記の初年度の今年は、対比する前年分が無い為、物足らなさを感じたが、新しく始まる一年は、昨年との同日との対比ができることが楽しみである。昨年より1年ほど成長した自分を日々、振り返ることが書き残せるよう新しい年の始まりのスタートの号砲を少しの緊張感を持ちながら待つのも心地よい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。穏やかな心休まる年末年始となりますように。また、新しく始まる一年が皆様にとって、平和で豊かな時間となりますように。

良い年をお迎えください
Best wishes for the new year

都内にて 竹内上人

 

 

Happy Christmas クリスマス

2018年12月22日

 

早朝の松本の外気温は低いが、マイナスにはなっていない。この時期としては暖かな朝を迎えている。
明日は冬至。私にとって、昼と夜の時間の長さの分岐点のこの時期がもっとも期待が膨らむ。これから、昼がだんだんと長くなる境界線、新しい季節に突入する前夜でもある。歴史的に新たな救世主を祝うクリスマスがこの時期に位置付けられているのも意味があるのであろう。
高校で英語教諭をしている妻が授業でつかった小テストが食卓に置かれてあった。

So this is Xmas
And what have you done?
Another year over
And new one just begun
And so this is Xmas
I hope you have fun
The near and the dear one
The old and the young

A very Merry Xmas
And a happy New year
Let’s hope it’s a good one
Without any fear
・・・・・・・・・・・
So this is Xmas
And what have ( ) done? と最後のフレーズに続いていく。
(1971 John Lennon and Yoko Ono)

( )内の語句を入れよとの穴埋め問題。 (    ) 内は you

一年が過ぎるのは、本当に早い。身の回りのことで精一杯でもあるが、この ( you ) の語彙選択は一年を振り返るのには意味深い。
今年は何ができたのであろう。できれば誰かにつらい、寂しい思いをさせていない一年、少しでも励ましができた一年であればと願う。

With best wishes for Merry Christmas!

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

 

根は見えねんだなあ  リーダーシップの姿

2018年12月14日

早朝の伊勢はまだ陽の光が差し込まず、天気の状態は判断できない。天気予報では、晴天の予報。年末に向けて、少しずつ慌ただしくなる。

企業研修などでリーダーシップについての講座を持つことが多くなった。リーダーシップは様々な立場で多様な発揮を求められる。実際に組織の階層の立場にある方も、組織ではないが多様な方々に影響力を発揮しないといけない立場にある方も同様である。もちろん家庭においても同様の風景に直面する。

私は、前職の会社に入社後、すぐに関連子会社の腕時計の会社に出向した。最近は見ることがなくなったALBA(アルバ)ブランドの時計を生産していた。そこでサラリーマンとして、人事の仕事につくことになる。

人事部の居室の近くにある社長室の壁にかかってあった額の中にある言葉にいつも目がとまった。そこには独特なユニークな毛筆文字で、

『花を支える枝 枝を支える幹 幹を支える根 根は見えねんだなあ 相田みつを』

と書かれてあった。

何かの機会に社長に尋ねたことがある。その時の答えは、記憶が確かではないがおおむね次のようなことであった。ものづくりにはいろいろな人が関わっている。しかし仕事をしている人の中では、商品企画や開発設計など、比較的、周囲に注目され脚光を浴びる仕事をする人もいるし、地道に自分に与えられた仕事を丹念に行い続けている人もいる。いろいろな人の手を通じて腕時計は作られているのだと初老になりつつある社長は笑みを携え、とても大切なことを仕事に就いたばかりの私に伝えようとしていた。

当時の私は、その地道な仕事を丹念に行い続ける人のイメージを製造現場にいる人のことだと感じていた。

入社後半年間、腕時計工場の中で実習をしていた体験からそう感じたのである。工場の中はとても居心地が良かった。何しろ毎日やることが明確で、やるべき作業の質をいかに高めていくか、また昨日よりもより多くの加工品を作り出すことができるかという素朴な目標を立て作業をする楽しさがあった。一方で時々、工場の中だけの空間にいると世間から隔離されたような感覚にも陥った。身体を作業用防塵コートで身を包みながら仕事をしていると外界との関係を断ち切られたような焦燥感にも駆られることもあった。

だから社長は常に自分の心に周囲に普段接することができない人たちのことを考えていくことが大切であるということをその額の中の文字を見るたびに思い起こしたのではないかと感じた。それは、ひとつの象徴的な行動でもあった。

相田みつおさんの額が社長室にかかっていることを製造現場の管理職の方は見る機会があったに違いない。そこで彼らは社長が自分たちのことを忘れていないのだと確認し安堵する。そして製造現場の仲間にその安心感を持ち帰る。良質な人間関係が組織の隅々まで届く。日常的に接点がない人たちの気持ちを考え続けていくことが組織のリーダーの役割だと感じた。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

就活 企業が求める特殊性を知る価値

2018年12月7日

 

早朝の都内はグレーの雲で覆われているが、雨はすっかり上がった様子である。外の冷気は心地よい。部屋の窓からではどのような天気になるか確定できないが、予想では、天気も徐々に回復しそうである。昨日は終日雨模様だったので、今日は陽の光も待ち遠しい。

昨日から信州大学でも留学生を対象にしたキャリアの実践講座がスタートした。信州大学は、キャンパスが学部毎複数に分かれる為、インターネット回線で複数会場を同時並行で行う。最も遅い5限目だが、日本で就職を試みる熱心な生徒が参加していた。彼らの日本での就活は難易度が高いと思うと、その期待に応えたいという気持ちが強くなる。

同じ空間にいない方を対象とするネット授業はとても学ぶことが多い。場所が異なる方とライブ感覚を持ちコミュニケーションをとることは、大学だけではなく、ビジネスにおいても一般的になりつつある。同じオフィスの中だけでなく、出張先や在宅で協業する仲間と効率的に、生産的に仕事を進める機会が増えつつある。

先日、社内のプロジェクトの進捗をテレビ会議で4ケ所を接続しておこなった。1カ所は移動中の新幹線の中というとてもタフな環境である。利便性の高いテレビ会議のシステムにも助けられる。きめ細かいな感情の変化を受け取ることが困難な状態の中で、良質なコミュニケーションを保っていくかという事は、従来にはない新しいコミュニケーション能力が必要なのだと痛感する。

大学の講義ではなぜ日本で学び、就職したいのかという動機や、どのようなキャリアプランを持っているのかについて、不安げな表情の中から一人一人率直に話を聞く。

キャリアを設計する上で大切な事は自分が何をしたいのか、どうありたいのかということを掘り下げることに加えて、留学生一人一人が日本で事業展開する企業から何を求められるのかということを想定することが大切な準備作業だと伝える。

自分自身が持つユニークな特質性を求める産業や企業を留学生側から選択をしていくという初期の段階のキャリア設計が重要である。「留学生」、「外国人」と言う一般的な概念ではなく、国籍も含めてのユニークさとの整合性がある産業や企業を予め能動的に選択することである。

個々の企業がそれぞれの事業戦略の展開において求める特殊性を調査分析し、自らが持っている属性の適合性を合理的に紐づける。求められる基本的な要件の関連性が高いかどうかをあらかじめ絞り込む戦略的なプロセスが重要である。そのストーリーを構想できれば、実際の面接の場面においてのコミュニケーションについても盤石になる。もともと求めているのだから相思相愛なのだ。大切なポイントは相手が求めている要望や期待、困りごとが何であるかということを十分に察知し、それに対する良質な対応力を兼ね備えていくということである。

来週以降の講義ではそのことをうまく生徒に伝えていきたい。彼らを心底求めている産業や企業は日本に必ずあると思う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

一流の自動車整備士

2018年11月30日

 

早朝の松本は、冬の訪れを感じさせる冷気に包まれている。北アルプスは、低く垂れ込めた雲でその圧倒的な輪郭を望めない。
冬の備えをしなければと早々に自家用車のタイヤを冬用に履き替えた。これから、長野に転職に来られる方にもタイヤの履き替えの話をする。

「お客様のお車を自分の車を扱うように、作業指示書を事務方から受け取って、お客様の車に歩いて向かう時から整備が始まる。知識も大切だがその心を持つことだ」 (一流のメカの心得)

自動車関連の会社を経営している経営者の方から伺った話を引用させていただいた。リーダーシップについて考える時、私たちは他者に対するリーダーシップをイメージをするが、この言葉を何度も読み返すにあたって、自分自身に対するリーダーシップについても等しく大切なことのよう感じるのである。

正しく仕事をすること、学生であれば正しく勉強するとはどういうことなのか。

大学の講義においても、企業研修においてもリーダーシップをテーマに講義の構成を考えるのだが、基本的にはその対象は他者に軸足が置かれている。

しかしながらよく考えてみると、他者を牽引する優れたリーダーシップを発揮する為には、自らの言動や立ち振る舞いを良心に基づいた誠実な努力を積み上げた所作に磨き上げ、正しい方向に向かった動機付けを自らに働きかけなければならないのだとつくづく思う。

様々な困難や試練や悩みに直面して毎日と格闘している人の方が圧倒的な大多数である。
リーダーシップとはまさにこうした局面に立たされている人にこそ強い武器としてその身に備わっていればと願う。

今日は勤労感謝の日、サービス業に従事する方は、普段と変わらない日常がスタートする。
職場に向かう歩みの第一歩が、自分自身を引き締めるそうした出立の機会であればと願う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

困難の中、指針となるEQ

2018年11月23日

 

今朝の都内は、青い空と薄い雲が入交り、気温も低い。都内の住処のベランダから高層の建物を仰ぎ見る。建物の持つ頑強な建築美を感じる。高い建物をみると山に登りたいという衝動にかられる。

先日、北アルプスの蝶ヶ岳(標高2,677m)に登った。常念山脈の南側に位置する。その日の松本・安曇野平の空は雲で覆われてた。登山届を提出する三俣の登山口では、霧雨になっていたので、合羽を着こんで登り始めた。しばらく、霧の樹林帯を登り続けたが、中腹までいくと、次第に霧の中から抜け出すことができ、ちょうど雲海の上、雲ひとつない空間に出る。

下から見ている山頂の様子と実際に雲を突き抜けての登りきってしまうと、こんなにも風景が異なるものなのかと、そのギャップに驚く。

10月からスタートした横浜国大と東北大学での秋季講座の中で、IQ(知能指数)の反対側に対峙するEQ(Emotional Intelligence Quotient:感情の能力) にベースにおき、リーダーシップやチームビルディングについて学ぶ講座がある。いつも留学生が9割を占めるのだが、今年は日本人の履修生がかなり多いのに驚く。

EQを8つに分解した感情のコンピテンシー(能力)について、自らの行動パターンをレビューしながら自分のものにしていくプログラムである。最初に学ぶ感情能力が、「感情リテラシー( Enhance Emotional Literacy) という感情について、単純な感情状態から複雑なものまで、正確に認識し、解釈する力である。

人間関係において、自分の感情を適切にコントロールにしていくかは大切な要件である。自分の感情や相手の感情が、その時どのような状態になっているかを、冷静に、正確に把握できるか。自分の感情が意識下に置かれないまま、まさに雲の中にあり、状況がわからないような状態で、立ち居ふるまうことの危うさを避けるための能力である。

山に登るときの判断も非常に難しいものであるが、山の中腹の雲の上にはどのような空間が存在しているのかということを冷静に見極めることによって安全な登山ができる。登山では、地図を読む力である読図力や天気図を読みこむ力があれば、適切な判断・行動をとれる。感情においても同じである。自分自身の感情の地形図に、移り変わる感情の天気図を重ねて、瞬時に正しく読み取る力(感情読解力:リテラシー)があれば、良好な人間関係を楽しむことができる。自分自身の感情を冷静に知ること、職場の同僚や上司、お客様との接客の場面において、感情の変化を適切に知る力は、次の正しい行動をとる上での指針になる。

キャリアコンサルタントの仕事をしていると、難しい人間関係に対峙し、自らを傷つけるほど深く悩む方が多くなってきていることを痛感する。底が見えない困難向き合う時、少しでも、その霧の中を抜け出す力を伝えていきたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

リーダーシップの真骨頂

2018年11月16日

早朝の伊勢の空は薄い雲が所々に点在する。陽が出ないこの時間帯では詳細な天気は予測できないが、きっと快晴の空に恵まれるのであろう。。

大学の後期の講義では、EQ 「こころの知能指数(Emotional Intelligence)」(Daniel Goleman 1995) を基礎においた構成で、Business Communication やLeadershipについて理解を深める講義に取り組んでいる。企業人事の仕事に長く従事してきた経験の中で、組織で影響力を発揮する責任者の多くは、職務に精通しているだけでなく、人の気持ちを察し、励まし、仲間との連携を促し、倫理的に職務に向き合うように導くことが長けているとつくづく感じる。

こうした能力は、持って生まれた「人柄」といえばそれで話が終わってしまうのだが、訓練によって開発されるべき可能性があるのではないかという望みを強く持っており、生徒にEQ効用を少しでも伝えたいと願っている。

EQの講座は3講座あり、基礎講座は、EQの基礎的な構成とそれぞれの理解を深める。中級講座では、基礎講座で学んだ、EQの各要素を生徒たちが主導して理解を深めるビデオを制作する。そして総括となる応用講座では、EQを他者に伝える為のトレーニングプログラムをチーム活動で組み立てる。またそれらの活動を通じて、学生一人一人が自らのリーダーシップのスタイルを振り返るように構成し、EQとの関連性を深く考えてもらう機会としている。

リーダーシップの概念では、司令官型(Commander Leadership)、親方型(Master leadership)、参謀型(Bureaucratic Leadership)、献身型(Servant Leadership)の四象限を考案した。簡単な分類技法を活用して生徒自ら振り返る。

毎年この時期なると鮮明に思い出す風景がある。企業に入社して一年目のちょうど今頃の時期、腕時計の製造会社に出向し、人事の新米として働いていた。
事務局として、勤続35年の永年勤続を祝う祝会をホテルで立食形式で行っていた。その会の後半、社長が床に胡坐を組んで座り、出席者を促し、車座になってお酒を飲みだした。ホテルの従業員は驚いた様子だったが、その輪がどんどん大きくなり、いくつもの輪ができた。永年勤続の表彰を受けた社員の多くは、勤続年数が長く、時計製造に長年勤めてきた製造現場の年配の方がほとんどだった。立食で歓談していた形式的な表情だった顔が、普段の顔に変わった瞬間だった。大学を出て間もない私にとっては、衝撃的な出来事で、30年以上たった今でもその風景と、当時の社長が、ひとり一人にお酒を注ぎ、ねぎらいの言葉を、満面の笑みで接している映像が刻まれている。リーダーの神髄を見た。合理性の限界を超えた影響力はこうした行動を自然体で起こすことができることなのかと。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

 

仕事は誰の為に行うものか

2018年11月9日

 

部屋の壁に「落穂拾い( Millet 1814-1875)」の小さなポスターを額に入れて掛けてある。『春に種をまき、苗を植えて、雑草を取り、肥料をあげて、あとは神様が注いでくれる雨や陽ざしの風の力を待って、そうやって大切に育てた作物を収穫してくれた人に感謝していただくお米は本当においしい (E.S 2016)』。 労働の対価、恵みとして得られる収穫物に感謝する時期でもあるのだが、この「落穂拾い」の絵には旧約から伝わる様々なメッセージも込められている。
農主は、小麦や大麦といった穀物を収穫する時にこぼれ落ちてしまった落穂を拾い集めずに、充分な収穫を得ることができない寡婦や貧農の人たちに残していくべきだと・・・。

世界で最初の収穫感謝日は、17世紀の米国までさかのぼる。1920年9月、英国からメイフラワー号に乗って海を渡った人たちは、到着した土地で新しい仕事を始めた。その年の冬は非常に厳しく、その半数が飢えや寒さで亡くなってしまう。春になり、人々は、昔からそこに住んでいる先住民の人たちに助けられて、土地を耕し、種をもらい、作物を育て秋に収穫を得ることができ、そのことを感謝して最初の収穫感謝(Thanks giving)が行われたといわれている。

誰かのために労働の糧を譲り、収穫物を残しておく、こうした精神における良質さを、ひとり一人が直面する現実の厳しい環境の中で堅持するのはなかなか困難を伴うことでもある。
キャリア設計やゴール設定をする上で、他者に対してどのような貢献するかということを意識することも同様に難しい。
過日の4月1日の「新入社員諸君」の記事を思い出した。「・・・自分だけの為に生きるな。仕事は誰かのためにやるものだ。・・・(伊集院静 2016.4.1 Suntory)」

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

ジャカルタにて 竹内上人

 

道具に対する敬意

2018年11月2日

 

今朝の都内は快晴。太陽の光がとてつもなく強い。ビルの窓ガラスには光の反射の勢いが「今日は晴れだぞ」と叫んでいるようである。快晴の朝は、気分も高揚する。

今、日経新聞の「私の履歴書」はバイオリニストの前橋汀子さんが執筆されてる。還暦を迎える歳に至り、高価なバイオリンを購入したとのこと。そのバイオリンがご自身のモチベーションリソースを刺激して、更に自分を鼓舞できるのだと書かれていた。

道具が自分のキャリアを刺激し励ますことは実感できる。すべての働く人にはそれぞれ使い込んだ道具を持っている。道具にこだわりをもち、丁寧に扱い、磨き上げることは、仕事に対する礼儀でもある。

そうした磨かれた道具をみて、人物は評価される。この方は信頼できる方なのか、きちんと仕事をしてくれるのか。

筆記用具からパソコン、専門的に仕事で使う検査測定機器、医療機器、工具類、社用車など、道具を使って日々の仕事を行っている。多少傷ついていても、修理し補修して丁寧に扱うとそれが重厚な年輪となり、味わいとなる。

私が入社して間もなく時計工場の紹介ビデオの撮影に工場を案内した時、カメラマンの方が、この工場は美しいリズムが流れていますねと話された言葉を今でも覚えている。

日本の精密工場の職場は、すこぶる整理整頓(3S・5S)が進んでいる。作業員の工具も丁寧に保守され、定位置に折り目正しく置かれている。だから高品質な製品を生み出し続けるであろう。私は結果ではなく、そのプロセスの良質性で、仕事の品質を管理することの大切さを学んだ。

快晴の週末、自分の使っている道具や身の回りを整理して、敬意と感謝を込めて、触れてみようと思う。きっと仕事に向き合うモチベーションが高まるはずである。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

英国ペンキ職人の職業意識

2018年10月26日

 

朝6時少し前、今朝の松本は、深い静寂に包まれた霧の中にある。霧の深さが浮かぶ程度のかすかな明るさ。いつもは望める美ケ原高原の王ケ頭の山頂(2034m)もその存在すら感じさせない。

昨夜、都内から特急列車に乗り込み松本に戻り、駅近くにあるスコッチウィスキー専門のPUBを訪れる。そこでは、前総理の小泉純一郎氏かと見間違えるオーナーに会うことができる。

ずいぶん昔になるが、旅行先のスコットランド中部のピトロッホリー(Pitlochry)という村で、今でも鮮明に残る記憶がある。その村の駅で列車を待っていた時、3人のペンキ職人に出会う。駅のホームの側面のブロックに白いペンキを塗っていた。

それが、とても楽しそうなのである。一人はホームの上で安全のために列車の通過を確認する役割、他の2人が、下塗りと本塗りの分担を定め、少し感覚をあけ、並んで白いペンキを塗る。ホームの上の男性は、大きな声で歌いながら、時々線路上を歩きながらペンキを塗る2人に声をかけている。いかにも楽しそうなのである。こんなに楽しそうに仕事をする人たちが世の中にいるのかと、痛烈な記憶として刻み込まれた。

東北大学での講義で日本企業の特徴として、日本的経営のテーマを取り上げる。終身雇用、年功序列、企業別組合、少しづ時代の環境変化に伴い変化を余儀なくされているが、長期的な視点での雇用保障の概念と、経験年数に基づき支払われる賃金体系の思想は今も根強く残る。これらは、日本企業の成長の源泉ともいわれてきた。

ただ、冷静に考えると、経営計画(戦略)の良質性の有無は除き、「労働提供と支払賃金との間の交換ルール」において、企業はどのように生産性を高めていきたかというと、年功的マネジメントであっても業績は上がる場合もあるし、成果主義をとっても業績は下がる場合もあるという結論に至る。

人事屋にとって悲しいことに、労働とその対価の賃金交換メカニズムだけでは、生産性の高低の因果関係を解き明かすことができないということになる。

長期的・持続的な視点で、生産性が高い組織特有の仕組みはどこにあるのか、一方で生産性が改善されない組織には何が欠けているのか。実務を預かる人間にとって、論拠をともなって組織に適した処方性を描かねばならないのであるが、往々にして、その面倒な手順を踏むことを避け、社会に流布されるファッショナブルな出来合いの処方をしてしまう。そうすると症状に適合せず職場の静かなる痛いしっぺ返しをくらうことになる。

あのピトロッホリーのペンキを塗る職人の労働の現場を思い返すと、生産性が高いのか否かという視点を超えて、明らかに労働を楽しんでいる事実があった。そこには仲間との協調と、上長の監視を離れても、仕事に対する倫理観が保たれていることを感じさせる。労働の主体性を働く現場にゆだねつつも、組織の期待を過度な労働者間の競争関係に求めず浸透させることが人事政策の要諦なのかと私にとっての人事政策のアイコンになっている。

彼らは、仕事の後、みんなでパブ(PUB)に行き、グラスを傾け一日の労をお互いに称えたに違いない。そして、次の日もお互い誘い合って、意気揚々と働く現場に赴く。 今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

 

困難の中、指針となるEQ

2018年10月23日

 

今朝の都内は、青い空と薄い雲が入交り、気温も低い。都内の住処のベランダから高層の建物を仰ぎ見る。建物の持つ頑強な建築美を感じる。高い建物をみると山に登りたいという衝動にかられる。

先日、北アルプスの蝶ヶ岳(標高2,677m)に登った。常念山脈の南側に位置する。その日の松本・安曇野平の空は雲で覆われてた。登山届を提出する三俣の登山口では、霧雨になっていたので、合羽を着こんで登り始めた。しばらく、霧の樹林帯を登り続けたが、中腹までいくと、次第に霧の中から抜け出すことができ、ちょうど雲海の上、雲ひとつない空間に出る。

下から見ている山頂の様子と実際に雲を突き抜けての登りきってしまうと、こんなにも風景が異なるものなのかと、そのギャップに驚く。

10月からスタートした横浜国大と東北大学での秋季講座の中で、IQ(知能指数)の反対側に対峙するEQ(Emotional Intelligence Quotient:感情の能力) にベースにおき、リーダーシップやチームビルディングについて学ぶ講座がある。いつも留学生が9割を占めるのだが、今年は日本人の履修生がかなり多いのに驚く。

EQを8つに分解した感情のコンピテンシー(能力)について、自らの行動パターンをレビューしながら自分のものにしていくプログラムである。最初に学ぶ感情能力が、「感情リテラシー( Enhance Emotional Literacy) という感情について、単純な感情状態から複雑なものまで、正確に認識し、解釈する力である。

人間関係において、自分の感情を適切にコントロールにしていくかは大切な要件である。自分の感情や相手の感情が、その時どのような状態になっているかを、冷静に、正確に把握できるか。自分の感情が意識下に置かれないまま、まさに雲の中にあり、状況がわからないような状態で、立ち居ふるまうことの危うさを避けるための能力である。

山に登るときの判断も非常に難しいものであるが、山の中腹の雲の上にはどのような空間が存在しているのかということを冷静に見極めることによって安全な登山ができる。登山では、地図を読む力である読図力や天気図を読みこむ力があれば、適切な判断・行動をとれる。感情においても同じである。自分自身の感情の地形図に、移り変わる感情の天気図を重ねて、瞬時に正しく読み取る力(感情読解力:リテラシー)があれば、良好な人間関係を楽しむことができる。自分自身の感情を冷静に知ること、職場の同僚や上司、お客様との接客の場面において、感情の変化を適切に知る力は、次の正しい行動をとる上での指針になる。

キャリアコンサルタントの仕事をしていると、難しい人間関係に対峙し、自らを傷つけるほど深く悩む方が多くなってきていることを痛感する。底が見えない困難に向き合う時、少しでも、その霧の中を抜け出す力を伝えていきたいと願う。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

職場の倫理性を保つ仕事の価値

2018年10月12日

 

今朝の伊勢の空はどんよりとした雲に覆われている。肌に触れる冷気が秋の到来を確信させる。

数日前に国際産業関係研究所の10月の月例研究会に出席する。京都の同志社大学内で行われるこの研究会に出席する為、母校を訪れると、今から30年以上も前の大学時代のゼミの風景が目に浮かぶ。当時のゼミは、クラーク記念館というレンガ造りの古い建物の中で行っていた。建物の価値になんら関心をもたなかったが、今振り返ると、重要文化財という歴史的建造物の中での貴重な体験であった。

この建物の前に立つと必ず思い出す風景がある。大学の専攻は労使関係であった。あるゼミ発表の場で、同じ4回生の女子学生から配偶者控除と家事労働の社会的評価に関する発題があった。家庭内での労働の対価は一体誰が報いるのか、精神的なねぎらいの言葉という道義的な取り繕いではなく、経済的価値としてどのように報いるべきものかということだったと思う。

ゼミは20人くらいの人数だった。女子が半分を占め、議論は白熱する。女性の自立性、社会進出における機会確保の観点から、家事労働自体の役割分担の前提が女性であるという単純化された構造に立って発言する男子の立ち位置自体が、そもそも許されないのだと糾弾され、男子学生は圧倒的な劣勢に置かれた。

労働力を再生産する拠点となる家庭における様々な価値ある労働、食事、洗濯、掃除、育児、地域社会への義務に対する対価はどのように評価されるべきなのか。女性の社会進出を妨げる障害になりうるか否かという議論の前に、そもそも、君たち男子は、家事を分担する気があるのかということを問われていたような空気だったと思う。家事労働は、、人間の営みにおいては、基礎となるかけがえのない価値でもあり、男性も女性も共同して果たすべき労働である。

こうした労働は、家庭に中だけでなく、共同体組織としての働く職場にも同様に存在する。一緒に働く同僚が少しでも気分よく、快適に仕事ができるように職場の美化に気を配る、サーバーの中に放置されたデータを効率よく使えるようにひと手間かけて整理する、自らが不在の時にも第三者や後輩が自分の仕事をスムーズに対応できるように作業標準書を常に工夫改善しながら更新していく。これらの仕事は、自分の為でもあるのだが、同僚や組織にむけての行為でもある。職務要件書や目標管理記述書には表現しづらい。

しかし、職場という社会的な共同体で仲間のために汗を流す労働について、どのように評価し、どう報いるのか、適切に対処することは、組織全体の倫理性を担保する上で極めて大切な経営の立場にある者の責務でもある。

今日一日が良い一日となりますように、特に大切な方を失い、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

 

卒業生の訪問

2018年10月5日

今朝の都内は薄曇りで、ひんやりとした冷気が心地よい。

今週から大学の後期課程の講座もスタートした。後期の授業は横国大も東北大も、リーダーシップやチームビルディングにフォーカスを絞る。その中心にEQ(Emotional Intelligence)をおく。後期は、新たに週末を過ごす松本にある信州大学でも4講座の留学生向けのキャリア講座を行う。

人間の持つ感情を、可変的、開発可能な能力として捉え、自分の感情を知り、それをうまく使い使いこなしていく、さらにその感情を他の人たちの為に捧げていくことの大切さを学ぶプログラムである。感情能力をベースに置きながら、キャリアをどう展開したらいいのか、チームや家族をどうつくり、どのようにファシリテートすべきか、メンバーや家族に継続的なモチベーションを持ってもらうためにどう立ち居ふるまうか、小さな実践的なエクササイズを繰り返す。企業人事での経験と、転職市場でリアルな雇用の現場で感じた経験を活用していきたい。

昨夜、2年前に横国大で私の授業を履修した男子学生がオフィスを訪ねてくれた。彼は大手シンクタンクに就職し、グローバル案件に関するコンサルタントの仕事を取り組んでいる。講座を受講している時も、自分の考えと意見をはっきり述べ、グループ討議でも、良い間合いのリーダーシップを発揮していた。今、仕事がとても楽しいという。内定をもらったシンクタンクに行くか事業会社に行くか悩んでいた時に相談を受けた時のことも思い出す。

シンクタンクの仕事とは別に、留学生の仲間と、週末を活用して様々なテーマに関してのビジネスプランを検討している。特定の企業内での固定タスクを超えて思考力を磨き上げる為だと。プレゼンをしてもらうが出来栄えがすこぶるいいのに感心する。無駄が少なく、客観的データに訴求力がある。

歓談の後、近くで食事をする。ご馳走してくれるという。幸運にも高い給与をもらっているから大丈夫だと。
卒業した生徒に食事をおごってもらう機会は、初めてであったが、とても嬉しく感じた。私の人材ビジネスのアドバイスもお願いした。これからは彼らのような若い方の言葉を謙虚に聞く側になっていくのだと思う。大学での機会を通じ、世代を超えたつながりをもてたことは、貴重な財産になっている。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

キャリアを物語る服の香り

2018年9月29日

 

二週続けて伊勢で週末を迎える。今朝は、澄み切った快晴の空が広がっている。大型の台風が気がかりだが、今日は良い天気になりそうである。

『服はしょせんうわべだと人は言う。その人の現実を繕い、ときには偽るものだと。服ごときに人生のすべてを注ぐのは愚かなことだ。が、服は、人を支えもする。受け入れがたい現実を押し返すため、はねつけるためにも服はある。そうした抵抗、もしくは矜持を人はしばしばその装いに託す。服は折れそうな心をまるでギブスのように支えくれる重要な装備でもあるのだ』。数年前に掲載された朝日新聞のコラムの切り抜きが連用日記からこぼれ落ちる。

私のクライアント企業の多くが、ファッション・ジュエリーの業界である。多くのブランドのクライアント企業の人事の方とお会いした。今まで私の人生の中で、足を踏み入れたことのないラグジュアリーブランドの店舗も訪れたり、丁寧に案内もいただいたりした。また、それ以上に圧倒的な多数の転職を考えているファッションやジュエリーのお仕事に携わる方とお会いした。その機会を通じ、それぞれの方からファッションに対する深い想いとか、人生の中での位置づけなどについて教えてもらうことが多くあった。高価な服であっても、作業服であっても、大切なことは、どのような想いで、それを身にまとうかである。また、どのように丁寧に扱い、正しく装うかでもある。

服についた香りもしかりだ、服には、仕事を通じて染み込んだ匂いがある。それぞれの服にその人の仕事を通じての記憶としての匂いがある。自分にとって服に染み込んだ想い出の匂いは、工場から漂うオイルのほのかな香りであった。

私は製造業で人事のキャリアをスタートした。入社してすぐに半年間、製造現場への実習にでた。腕時計の工場の回路基板、コイル巻き、ムーブメント(駆動体)組立、外装組立、出荷検査、冶具・工機職場と、工程ごとの職場で働いた。現場の作業長や班長、先輩・同僚の方から様々なことを学んだ。仕事の後に飲みにも誘ってくれた。皆、配属が人事だと知っているから、人事に戻ったら、「俺たち製造現場のことも意識して仕事をしてくれや」と励まされた。私の人事屋としての判断基準の原点は、この体験にあるのであろう。

自分の心を支える服、その服に記憶として染み込んだ香り、これらが、キャリアの原風景でもあり、原動力でもある。困難に立ち向かう時の戦闘装備でもある。自分の装いと香りを振り返る週末にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

 

リーダーの役割

2018年9月21日

今朝の伊勢市(三重県)は、静かな雨が降り続く朝を迎えている。9月も下旬に入ると朝の日の出の時間が確実に遅くなっているのに気づく。今年の強烈な夏の暑さも、忘れてしまうような秋雨である。

はやいもので、来月の10月からは、大学の秋季の講義が始まる。後期の授業は、リーダーシップと感情能力としてのEQ(Emotional Intelligence Quotient)の講座とキャリア設計の講座を軸に構成している。特にいくつかあるEQの講座の一つにチームビルディング(Team Building)に焦点を置いた講座を考えている。人があるチームを率いる立場に立った場合どのように立ち居ふるまい、どのように良質なチームを構築するかについて深く考える機会にしたい。
他の人と一緒に仕事をすることは、仲間との共同作業を通じて感じる楽しさや支援の心強さを感じる反面、相互理解をしあうことの難しさに戸惑うことになる。

チーム(Team)をうまく構成し、運営していくためにはどのようなことが必要なのか、より実践的な視点で授業を進めたい。企業で積み重ねてきた人事屋として、日本の組織が働く人に求める基本要素を可能な限り伝達することに注力したい。特に生徒の大半が留学生だということを考えると、日本企業のリアルな職場で求められる要求事項のあれこれについて、並行して学べる場になればと願う。

組織の規模を問わず、リーダーとして意識すべき観点として留意すべき視点として、私は、「組織性」、「共同性」、「後継性」、「成長性」が大切であると考えている。
「組織性」とは、組織図を構成する機能組織との関連性の理解と相互の立場を尊重しつつも補完する姿勢を怠らない優れた立ち居振る舞いであり、「共同性」とは、同時進行的に進む仕事と人のマネジメントの血の通った最適化であり、「後継性」とは、自己の業務の見える化、標準化によってほかの人に仕事のノウハウ・コツ・ツボを愛情をもって継承していくおおらかな奉仕の心境であり。「成長性」とは、その組織に所属することによって得られるキャリアと人間性の将来へのリアリティアある成長の予感の意識的な付与である。

授業を進めながら、自分もうまくできてこなかったのだと、深い自覚と反省の連続の冷や汗をかきながらの授業になるはずだ。現在の立場でも同じように失敗と反省を繰り返す日々なのだから。

良質な組織づくりは、相手へのリスペクト(Respect 敬意)と自己へのサスペクト(Suspect疑念)がなければ成り立たないのであろう。すこぶる厄介な難問であり、修養の機会でもある。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

(お知らせ)
9月より都内のオフィスを九段から表参道(〒150-0002東京都渋谷区渋谷1-1-7 セントラル渋谷246 9階)に移転しました。青山学院大学の向かい側、青山通り沿いになります。

伊勢にて 竹内上人

 

 

脳に汗をかくほど考える

2018年9月7日

 

今朝の表参道周辺は、少し小雨の降るどんよりとした空気に包まれている。ただ、少し前の肌にまとわりつくようなじっとりとした湿度からは解放されている、確実に秋の気配が近づいている。午後から松本に戻る予定だが、その温度感、湿度感はより一層感じるのであろう。 夏の暑い時期は、早く涼しくならないのかと感じるが、いざ秋の気配を感じると寂しさを覚えるのは私だけであろうか。

前職のキャリアの後半は、人事を離れて、経営管理や事業戦略に関わる仕事をしていた。この時期は、10月から始まる下期方針大会の場に向けて、戦略の進捗と新たに直面している事業課題について、体系的に整理する時期でもあった。かなり集中した時間を長くとり、基本的な事業の構想設計や詳細設計を関係する方たちと、論理の筋道が正しいかを何度も何度も繰り返し、全体に伝える為の物語を練り上げた。驚く方も多いかもしれが、一日中、深夜まで、特別に確保された集中検討の為の会議室に閉じこもっていた。その時に時間を共有した方たちのことを思い出す。ほぼ1カ月、この方針大会の為だけの時間と向き合う。

日常の業務の中の一つ一つの業務を、効率よく回転させていくことはとても重要である。その一方で、集中して考えることはロジックの整理に加えて、新しい発想の扉を開く行脚でもある。

新たな気づきは、突然ひらめくものではなく、経験上、深く、継続的な思考の連続の中にあるような気がする。 ある経営学の教授の研究室の壁に貼ってあった言葉が印象に残っている。「脳に汗をかくほど考えろ」。 中途半端な思考が脆弱で、芯のない計画や施策を生み出す。

結論の品質を厳しく自分自身に問いただすことが、時には必要である。品質管理の基本動作の中に、「なぜなぜを3回繰り返せ」という格言がある。思考を止めず、奥深くまで掘り下げていくと真理に近づく。

自らのキャリア設計も経営戦略と似ている。自分自身のキャリアドメイン(領域)を設定し、自身が積み上げたコアコンピタンス(強み)とキャリアコンペティター(キャリア上の競争相手)との対比分析を重ね、目標を定め、達成シナリオを描く。できれば定量的に分析するといい。膨大な時間がかかるし、とても面倒な作業であるが価値があるのだ。

大学の講座のキャリアデザインのプログラムは、自ら体験した事業戦略策定プロセスを重ね合わせた内容である。良質で時には胃の粘液を吐き出しそうな苦しみの中から、自ら取り組むべき目標が見えてくる。 今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

(お知らせ)

9月より都内のオフィスを九段から表参道(〒150-0002東京都渋谷区渋谷1-1-7 セントラル渋谷246 9階)に移転しました。青山学院大学の向かい側、青山通り沿いになります。

都内にて 竹内上人

 

 

天秤(てんびん)が示すキャリアの選択

2018年8月24日

 

早朝の都内は暑い雲に覆われ、雨と強い風に包まれている。台風の接近とともに大雨になる予報である。大きな被害もなく、恵みの雨になればと願う。

『人生は天秤みたいなものさ、
過去という小皿に重みがかかると、
未来という小皿は自然と天に届く』

乱雑に食卓の上に積み上げられた高校生になる長女のノートの表紙に書かれた詩に目が留まる。
「誰の詩?」、「わからない、でもいいでしょう」、「いいね」、中学生の時から、ノートの表紙に書き移してきているという。

“Future Leader Incubation Program” 前職の人事部に在籍していた時に、次世代の経営幹部を育成するプログラムの設計と運営に5年ほどかかわった。自分自身が経営に関して、また経営者のあり様について、深く考える時間であった。
ある時、日本で重鎮と評される経営学者との会話の中で、深く脳裏に刻印された言葉がある。「竹内君、経営戦略は漠然とした願望ではなく、過去の積み重ねの延長線上にあるものだし、あるべきものなんだよ」と。
経営戦略は、将来のなりたい姿、到達目標を描いて、そこに向かう為の変革シナリオではないのかと考えていた自分にとってこの言葉の意味を理解するまでかなりの時間を要した。

また、人事屋の私のとってこの助言は、キャリアデザインと経営戦略の策定プロセスは、同じ道程を踏まえるべきだと考えるようになったきっかけにもなった。

若いころは、確かに小皿におかれた、試練と艱難を乗り越えた経験の重りは軽いであろう、ただ、歳を積み上げるごとにその重さは増していく、その「重り」の粒子のひと粒に願望も溶け込まれている。その「重り」の積み重ねにより、自らが選ばなければならない方向性は自ずと明らかになる。その選択がもっとも自然の理に適ってるのだ。

この「重り」を濃密な経験を通じて形成したい。良質な葛藤の塊にしたい。空洞だらけの軽石だと、もう一方の小皿が天に向かない。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

(お知らせ)
都内の本社オフィスを九段から表参道に移転しました。9月から本格稼働の予定で整備しています。青山学院大学の向かい側、青山通り沿いになります。

都内にて 竹内上人

 

 

大学の成績表と人事評価の設計

2018年8月17日

早朝の松本は涼しい朝を迎えている。毎年お盆休みを過ぎると朝夕の気温が一気に下がる。ポロシャツでいると冷気が身体に染み込んでくる。今朝の美ケ原の山頂付近は少し雲がかかっているが、その向こうには青空が控え、もうすぐ強い太陽の陽ざしを迎え入れる。王ケ頭のあたりの気温は何度であろうか。おそらく10度前後、もう少し低いかもしれない。

このお盆休みの松本駅は、帰省する人に交じって、同じくらいの登山の身支度をした人で溢れかえっていた。これから山登りだという挑戦者としての風貌を携えて、意気揚々と改札を出る。彼らにとって、松本駅の改札は出口ではなく、北アルプスの登山口でもあり、入り口なのだ。上高地から涸沢を経て穂高や槍に登るのか、燕岳から、常念に向け、表銀座を縦走するのか、それぞれ、綿密に立てた登山計画で彼らの表情は期待で溢れている。この時期まで登山の計画が立てられなかった自分にとっては羨望の姿である。

お盆休みを利用して、授業をもっている2つの大学の春期(前期)課程の採点に頭を悩ませた。春期講座の生徒は、横浜国大で2講座、東北大学で3講座ある。東北大学はほとんどが留学生で、横浜国大は留学生と日本人学生の混成で、約4分の3が留学生である。妻は高校教諭なので、採点や通知表づくりに悪戦苦闘してる様子を無責任に眺めていたが、いざ自分が担当すると難しい。

会社の人事評価も同じだが、人に対して定量的・定性的に評価をする難しさを痛感する。出席率は、数値化されているデータだが、出席率が高ければよいのかと、そうではない。できるだけ多面的にと、最終授業のプレゼン発表には360度評価の要素を加えている。

しかし、客観的な評価のプロセスの精度を高めるだけでいいのかという漠然とした悩みが取り除けない。なぜ評価をするのか、何を評価項目とすべきか、どのような評価プロセスを取り入れるべきかのイメージが難しい。

一方で会社の人事評価はその答えが明快である。会社の評価の人事的な狙いは組織目標に適合する人材を長期的に育成、誘導することにその重きが置かれている。公平感(fairness)は組織倫理の観点から外せない視点だが、それ以上に賃金体系の設計やその運用の意図の拠り所は長期的な事業戦略の実現に寄与する人的資源開発におかれている。また組織価値やブランドのクオリティを維持する企業理念の実践者を励まし続けるところにある。

ここまで書きながら、気がついた。日本の伝統的な企業で長年にわたり人事屋として実務を担っていた自分の大学における提供価値は、将来、日本の組織に多数入り込んでいく学生が、どうすれば組織適合能力を身につけることができるのかという命題に対して、授業設計を行い、その習得度を評価に内在化させていくことなのだと。
日中の暑さで燃焼不良をおこしつつあった後期の授業設計に取り組むモチベーションも喚起された。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

(お知らせ)
都内の本社オフィスを九段から表参道に移転しました。9月から本格稼働の予定で整備しています。青山学院大学の向かい側、青山通り沿いになります。

松本にて 竹内上人

 

 

蚊取り線香とキャリアの希少性

2018年8月10日

早朝の伊勢はとても涼しい気温に包まれている。この週報を書き上げる時間は、陽もまだ上らず過ごしやすいので、外に置かれたベンチに腰掛け、思案しながら文字を重ねる。陽が差す前の空は、うす青く、いくつかの薄い雲が横たわる。

昨夜、屋外で夕涼みをしている時の何気ない会話で、今年の夏は蚊に悩まされないという話になる。連日の猛暑が原因とのこと。蚊が活発に活動する気温は26度から32度で、35度を超えると活動できなくなるのだという。今年は夏の主役の蚊取り線香の出番も少ないのだろう。

愛知にある実家では、今も伝統的な「金鳥(KINCHO)」の香取線香を使っている。馴染みのある緑色のもので、寝る時に火をつけ、朝まで煙を醸しだし、蚊を寄せ付けない。老夫婦の暮らしなので、電気式のものでもいいものかと思うが、やはり煙が出ないと効かないと信じている。

この金鳥の蚊取り線香、これは登録商標である。生産会社は、大日本除虫菊株式会社という。金鳥のシンボルマークに描かれている鶏は古の言葉の「鶏口となるも牛後となるなかれ」に由来する。小さな存在でも大きな組織に飲み込まれず、特徴を出し先頭を目指し、必要とされ続ける存在になるのだという意味が込められている。

個人のキャリアも、企業の戦略も、希少性が大切である。必要とされる価値に注意深く神経を割き、他に簡単に代替されない存在価値を探し出し、それを研ぎ澄ませることで価値を増大させる。

大学の講義の中でも時々、その希少性を暗示する「1万人分の1」になることの大切さを学生につたえる機会をもつようにしている。では、どのようにして、1万人分の1の存在になるか。

たとへば経理の専門家で1万人分の1といった希少性を発揮するには、相当な努力が必要だ。一方で、経理の専門に加え、語学が堪能であるとその希少性は高まる。ひとつの専門性や得意分野だけで最高峰を目指す方法もあるが、複合的な掛け合わせによってその希少性を高めることができる。
経理の専門家で1万人分の1位になることは難しいが、100人中1位相当であれば手が届きそうだ。同様に語学も100人分の1を目指す。この掛け合わせ「100×100」で、1万人分の1になれる。

自分の目標となるキャリアの領域で、必要とされる複数の専門性を有することで、「鶏口」を目指すこともできるのだ。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢郊外にて 竹内上人

 

 

 

縄文人の魅力と柔軟性のあるキャリア

2018年8月3日

今朝の都内は、日中の熱気がまだまだ健在で、湿度の高い空気に包まれる。都内と松本を行き来していると朝夕の温度がかなり違うことに驚く。松本も日中は暑いのだが、朝夕は過ごしやすくなってきた。

八ヶ岳への登山口である美濃戸口から,茅野市街に続く街道沿い、標高が1000mほどに、尖石(とがりいし)遺跡という縄文時代の遺跡があり、そこに茅野市尖石縄文考古博物館がある。先日、機会があり訪問した。
ここには、「縄文のビーナス」という国宝指定された土偶と、同じく平成26年に国宝指定された「仮面の女神」という土偶が陳列されている。考古学にロマンを感じる方には魅力的な聖地である。

縄文時代は、その後の農耕文化が栄える弥生時代と比べて、狩猟が中心で定住せず、自由に居住地を移っていた。自然と共生している感覚が強い。

縄文的な生き方ができればと時々感じる。ニュースで心を痛める事件を知るたびに憂鬱になるが、そうした事件が、縄文時代は少なかったそうである。農耕文化が始まり、田畑の所有権が定まった弥生時代から、利権を巡っての事件が発生する。

日本の産業構造が大きく変わり、価値を生み出す産業軸が多様に変化し始めている。働き手もどこで、自らの力を発揮するのが最適なのかと考える時代でもある。弥生時代のように、その地にとどまり、積み上げていくことも大切な価値であるが、恵みの可能性が多そうな機会にむけて積極的に移動していくことの価値も高まる。

労働を考える時に、従来のしがらみに縛られ過ぎずに、柔軟に活躍の場を選択する機会が多かった縄文的な働き方は、キャリアを設計する上で大切な価値観だと、はるか遠い長い年月を経てきた「縄文のビーナス」と対面しながら考える。

熱心に土偶をみていると、博物館の案内の方が説明をしてくれる。「縄文のビーナス」と「仮面の女神」は頻繁に出張があるとのこと。全国の企画展示の場に招かれ忙しい。

出張中は、レプリカがその役割を担う。土偶のみなさんも、この平成の世になっても定住せず、全国を飛び回って働いる。
時には経験を活かしながらも、住み慣れた土地を離れ、新しい可能性に挑戦するのも刺激的である。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

 

コンプライアンス 抑止力としてのキャリア自立

2018年7月27日

今朝の松本の外気温は例年の信州の朝に感じる心地よい冷気に包まれる。美ケ原の王ケ頭の山頂も薄い霧に覆われ、ひんやりとした空気の中にあることが、ふもとから眺めても体感できる。

ロータリークラブ(国際ロータリー 第2600地区)の職業奉仕事業の一環で長野県にある松本大学で「出前講座」の機会を得た。松本大学は松本市街地から車で10分ほど、上高地へ向かう道の途中にある。立地柄、観光ホスピタリー学科や人間健康学部などをユニークな課程を有する。

地域のロータリークラブの会員が全15コマの講義を分担する。私が与えられたテーマは、「企業のコンプライアンスとモラル」であった。人事屋の私はサブタイトルを「コンプライアンスに向き合うキャリアのつくりかた」とした。

コンプライアンスに起因した企業倒産は東京商工リサーチの調査で、毎年約200社に上る。それぞれの企業は、企業統治(コーポレートガバナンス)や内部統制(インターナルコントロール)を強化している。

問題になる領域は、不正会計(粉飾決済)、品質偽装、不正受給、労働環境の脱法行為や過重負荷労働の強制、食品衛生問題、個人情報流出など多岐にわたる。マスコミに取り上げられ、それぞれ記憶に残る。

発覚の発端は内部告発によるケースも多い。インターネットの普及とともに組織内と組織外との垣根が低くなり、情報が流動化しやすくなった環境変化も影響する。

内部告発で明るみに出るころには事態の深刻度は致命的なところまできていることが多い。もう少し早く、組織内で修正機能が働いていればと思う。現場では極めて良心的な「働き手」が、組織の論理や上司への過度の忖度により、冷静な判断を喪失し是正タイミングに後れを取ってしまう。規定やルール化など制度的な規制には限界がある。最後は人間系の抑止機能が正常に働くか否かにある。

こうしたことを考えると、働く一人ひとりが深く考える習慣を持ち、キャリアの自立性が高ければ、客観的で倫理的な判断が組織のあらゆる階層で正常に機能し、組織にとって致命傷にならずに未然に自浄作用が働くかもしれない。
「働き手」にとっても良心の呵責に耐えながら、偽装や不正を看過することなく正しく上層部に意見具申ができる。倫理観を内在するキャリアの良質性や自立性を促すことは、組織にとっても有効な戦略につながる。

講義ではこうしたことを、わかりやすく伝えることを試みた。回収した100枚ほどの講義レポートを採点しながら、20歳前後の学生が卒業後、組織人になり、自らこうした事態に直面した時の身の処し方の糧になればと願う。

最後の一線を踏み外さない倫理観の形成は知識の絶対量でなく深い教養による。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

 

 

キャリアの羅針盤 Business I (ビジネス アイ)

2018年7月20日

今朝の松本は、周囲の山が靄に覆われ、北アルプスも王ケ頭も眺望することができない。その分ひんやりとした外気温に包まれた朝を迎えている。日中の予想気温は高いので、この靄にできるだけ長く浸っていたいと願う。

大学の前期(春季)講義では、学生に自分自身をひとつの事業と見立てて、「Business I(ビジネス アイ)」 という事業計画書を策定するプログラムを取り入れている。7月の終わりの最終講義で、10の項目で構成される内容を生徒それぞれが立てた自身のキャリア計画として発表し前期講義が終了する。

自分のキャリアを事業に見立てて、自身のコアコンピタンス(自己の経験や強み・弱みは何か?その強化策と克服策は?)、業界や職種などのキャリアドメインと役割の選択(どこで、なにをするか?)、リーダーシップのスタイル(どのように組織で立ち居ふるまうか?)、困難な局面に向き合った時、人に良質な影響力を投げかける行動原則やパーソナルブランドについて考え、整理する。

学生の段階から自身のキャリアビジョンを明確に持ち、その目標に向けての活動計画を持たれている生徒もいて、感心することが多々ある。すでに自身の取るべき道をしっかり見据えて着実に歩みだしている。

生活や仕事において、自分にとって不都合なことも多くある。晴天の時もあれば、大荒れの天気の時もある。仲間との関係で誤解も生じる。そうした環境変化に直面し、進むべき視界が悪い時も、自分自身が歩むべき目標とそれを達成するための羅針盤となる事業計画書をもっているだけで、迷いも少なく前に進むこともできるのではと願う。
会社経営にとっても、個人のキャリアにとってもビジョンと長期的な計画は大切なことだと学生の発表を聞きながら改めて感じる。

キャリアにおける羅針盤を持つことは、いくつになっても遅すぎることはない。与えられた歳に応じて、進路を明確に定め、そのための準備を繰り返し繰り返し練習を積み重ねながら航海を続けることができればと思う。

残り50年の航海も、10年の航海、5年の短い航海も、それぞれのライフスタイルに応じて最も適したキャリア上の羅針盤をもつことは、日々の生活自体を確実に良質なものにする。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

 

キャリアにおけるリスク

2018年7月13日

 

今朝の伊勢は青空が広がり、今日もまた暑い一日になることを疑いもなく予感させる。

4月から始まった春季課程も瞬く間に学期末を迎える。この4ケ月間、ふたつの大学で5講座を担当した。それぞれの講座でとても素晴らしい生徒に恵まれた。

プレゼンテーションや映像を使った成果発表では、私の学生時代とは異なり彼らのITを駆使した表現能力は卓越している。

自分自身の職業戦略を定める「キャリアデザイン講座」を2講座、感情能力を磨き上げる「EQ講座」、最適な企業選択のプロセスを考え、インターンシップの計画準備を行う「Internship Preparation 講座」、留学生が日本の企業文化、職場慣行と規律を学ぶ「留学生の為のキャリア実践講座」、どの講座も良心的で前向きな学生に恵まれた。なによりも私自身がそれぞれの講座で学生との交流を通じて多くを学んだ。

特に印象深いことは学生自身のパーソナルブランドの定義化で示された言葉であった。そこには、ある学生の『悩まず、ためらわずにやってみたらいい、死にはしない!』ということが記され、l can’t のn’tの前にハサミが入れられ、l can を示す写真が挿入されていた。

よくある言葉かもしれないが、私にとってはとても新鮮で背中を押される言葉であった。

年を重ねる毎に思慮深くなり過ぎ物事に躊躇するようになる。無思慮に変えることは避けたいが、今までの行動範囲を広げ、可能性を引き出す自分自身へのイノベーションは意志をもって問いかけ続けるものなのだと20歳前後の学生の言葉に勇気づけられる。

5年前、安定したサラリーマンから自ら事業を行うことのリスクに不安を覚えていた私に大学の先輩からアドバイスを頂いた。「竹内君、あのね、リスクをとっている時が、一番リスクが少ないんだよなぁ」と。すぐに意味を理解できなかったが、だんだんとわかってきた。リスクとは、現状とその状態を失ったと時の差である。リスクを取り続けるとその差が最小化する。

果たすべき仕事や役割に常に前向きな工夫と積極性を持ち続ける姿勢を大切にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

伊勢にて 竹内上人

 

 

 

働き方改革について 職場における人間性尊重

2018年7月6日

今朝の都内はどんよりとした雲に覆われている。西日本から関東甲信越に至るまで大量の降雨が続いている。今日もじんわりと肌にまとわりつく暑さと格闘する一日となりそうである。

昨日は京都にいた。毎年この時期、国際産業関係研究所(同志社大学内)の定期総会と記念講演会(猪木武徳先生 大阪大学名誉教授)に出席する。7月初頭の京都は学生時代の記憶を強烈に呼び戻すほどの暑さと重い水分で満たされた空気が肌にまとわりつく。

配布された機関誌の巻頭言は、石田光男先生(研究所長 同志社大学教授)によるもので、「働き方改革の歴史的意義」と題されていた。「歴史的意義」の問題意識は、世間をにぎやかにしている働き方改革の主な論点は、どちらかと言えば労働者保護政策である。こうした労働者保護的な日本の雇用政策の中心軸が左派政党や労働組合によってなされず、なぜ、保守政党や経営者団体に頼らざる得なくなったのかという問いに向き合うのことにその背景があるのだと。

日本の多くの働く人が、どうして報酬としてのパイの分配の仕方にこだわりを持たず、本来、経営者の関心事項であるパイを大きくする為の活動に意識が傾斜するのか、むしろ積極的に支持してきたのかというの根拠を解きほぐさないと働き方改革の一丁目一番地とされる長時間労働の是正にはたどり着けないのだと感じる。

職能給的な賃金体系が、職務定義を曖昧にし、仕事の制限意識を希薄にするという論点だけでは長時間労働の方程式は恐らく解けない。そして、仕事の範囲を明確にする職務給に移行するという施策は反って日本企業の競争力の源泉の持ち味を棄損する可能性が高い。働く職場を「人間的に居心地がいい場」としての大切な共有財産にする感覚は労働倫理性を高め、組織生産性を堅牢にしてきた。多くの経営者自身の意識もこの感覚の齟齬は少ない。

明治維新から150年を迎える。この近代国家の創成期に当時の支配階級で国家建設の仕事に奔走したのは、封建時代において分断化された藩政の下層士族がその原動力になった。彼らは、列強による植民地化に対する脅威に怯えながら統一した国家の建設に向き合った。個人を超えて、民族としての共通資産を守り高める為の「国民」の形成に苦心した。その過程の中で長期にわたって醸成された共同体としての国民意識と胎内に記録されたDNAの符号を短期で書き換えることは容易ではない。またその変革の副作用も大きい。パイの極大化に関心が向く背景にはこうした「個人」を超えた「共同体」の尊重の積み重ねの歴史がある。

一方で、高い労働倫理性を有する職場共同体の美徳と競争力を温存しつつ、働き方改革で最も注意して取り組むべき緊急度の高い対象課題はもう少し別なところにあるのではないだろうか。それは、少し強い言葉の使用を許されるなら、職場内の人間的な尊厳を傷つける行為を、罪の意識を感じずに横暴に振る舞う行為の成敗に尽力すべきことだと経験的に感じている。職場で起こる悲しい出来事の多くは、長時間労働そのものより、こうした横暴を許してしまうことにより起因していることが多い。

学生時代を過ごした大学で雇用に関する研究所の総会とそれに続く講演会を聞きながらこうしたことをぼんやりと考えていた。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

恩師から届いた葉書 100歳の労働

2018年6月29日

今朝の伊勢は青空と雲のコントラストに覆われている。朝方に雨が降ったのであろう、路面が少し水に打たれている。今日も日中は梅雨の湿度と暑さを楽しむ一日となりそうである。

今週のはじめ、自宅に大学時代の恩師から葉書が届いた。官製葉書の白い紙面に万年筆で綴られていた。達筆な文字が続き、何度も読み直す。しばらく体調を崩していて、年賀状を出せなかった経緯とこれからの勉強に向けた目標について書き記されていた。先生のお年は1920年生まれであり、もう100歳に近いが、勉強に取り組みたいと書かれた文字に気骨な生き方と研究者としての職業意識の不屈の志を感じる。

先生は太平洋戦争を海軍の軍人として戦い、戦後人事・雇用領域の研究者になり、京都にある同志社大学で産業関係学(Industrial Relations)の専門課程をゼロから立ち上げた。産業社会は人々の様々な形態の雇用・相互依存関係に基づく労働によって成立している。その関係が良好な社会が良い社会に違いないと話されていた記憶がかすかに残る。

『おい、地獄さ行ぐんだで!』(蟹工船:小林多喜二著)、『五時ごろに雇われた人たちが来て、1デナリオンづつ受け取った』(ぶどう園の労働者のたとえ 新約:マタイ20)
私が、大学の進学先を苦慮していた時に進路の選択に影響を与えた言葉である。若いながらも、労働と賃金(貨幣の配分)の仕組みに興味をもった最初の体験である。蟹工船は、過酷な労働現場の風景であり、ぶどう園の農夫のたとえは、貨幣分配ルールの価値観を問われる言葉であった。不思議な錯覚に吸い込まれるように「働くこと(雇用と労働)」を主題にした勉強をしたくなり、恩師が立ち上げた産業関係学を学ぶ道を選んだ。

入学した大学時代は、先生と親しく交わることができる規模と企業調査など実践的な学習スタイルが自分に合っていた。卒論の主題になった八幡製鉄所の賃金調査の時に、当時の書記次長の方からの強烈な教訓も刻印された。先に葉書を頂いた恩師が尽力された立教大学との交流も思い出深いし、先生には当時の労働組合のナショナルセンターの京都同盟でアルバイトの仕事を紹介していただき労働運動の現場を経験できた。また論文のタイプ打ちを通じて、「社会科学の研究者とは、こうした文章を綴るのか」と学んだ。

恩師が立ち上げた産業関係学の組織は次の世代の研究者に引き継がれているが、100歳に迫る葉書に綴られた勉強に取り組みたいという言葉は、最後まで与えられた自らの領域と格闘していく気迫を通じ、私自身の与えられた場でのこれからの働きを問いかけているのだ。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

 

人間関係を良好にするための処方箋 EQ(感情的知性・能力)

2018年6月22日

 

みなさま

今朝の都内は澄み渡る快晴である。ガラスに覆われたビルの側面から反射する陽の光が強い。
今夜の列車で自宅のある松本に戻り、週末は山に囲まれた空間に自身を置くことが待ち遠しい。

職場の人間関係に関わる紛争は身近な悩みでもある。上司と部下、同僚との間、取引先など、仕事を通じて様々な相互関係の中で苦労が絶えない。また、仕事場から帰宅した安息の場となる家庭の中でも同様に配偶者との間や親や子供との関係に精神を消耗してしまうこともある。

仕事を通じて様々な企業関係者やご自身のキャリアの転換を考えている方とお会いする場で人間関係に関わる相談を伺うことが多い。私の同僚からもキャリア講座を開催し、人間関係を良好にするための処方箋について、表題のEQ(Emotional Intelligence Quotient:指数)について取り上げてほしいという声を聴く。来月予定しているマッケンキャリアアカデミーの講座ではEQについてのセッションを行う。

そう考えていた折、届けられた最新号(2018年7月号)の「DIAMONDハーバードビジネスレビュー」を開くと巻頭の論文が、感情的知性(EI:Emotional Intelligence)について掲載されていた。そこには、「なぜ働いても働いても不安が尽きないのか」、「仕事で幸福をつかむには感情的知性(EI)が不可欠である」と記されている。

人間関係だけでなく仕事自体に向き合う人たちの多くに共通する疲弊感の正体はなにか、どこのその悪性ウイルスの伝染経路が潜んでいるのか、人事に携わる自分にとっても取り組まなければならない領域でもあるし、それ以上に自分自身そのものにも同様に問いかけられる深刻で反省を繰り返す課題でもある。

仕事を通じて感じる「不幸感」、職場や家庭の中で日々精神の糧をそぎ落とす居たたまれない悪性の人間関係、働き手も企業経営者もその処方箋を探し続けている。自分自身が意図せず発信する悪性のウイルスの制御力やシャワーのような連続的な病原菌の放射に耐えうる感情的・精神的な耐久力を持ちたいと願う。

身体的な堅牢性、優れた体幹力や柔軟性を有するには良質な運動と食事、休養が不可欠であり、適切なトレーニングプログラムの存在が前提である。感情の領域でも同様のことがあてはまる。感情能力の卓越性を促す適切な訓練や練習を積み重ねることによって、良好な人間関係や仕事と向き合う建設的な思考や安心感を意図的に内部に引き込む能力を身につけることができる。感情をパーソナリティー(人格や人柄)に起因する不可避的な要素だけでとらえてしまうと、治癒しない奈落に落ちる。治癒できること、健康的に活用できる可能性があると信じることが希望の出発点になる。

感情を正しく理解し、感情を効果的にマネジメントし、感情を生産的に活用する、こうした基本的な技術について考える週末にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

 

教育プログラムとしての映像制作と芝居

2018年6月15日

 

みなさま

今朝の伊勢は、厚く、そして低く雨雲に覆われている。昨夜からの雨もまだその勢いが変わらず降り続く。神宮の方角にある山裾は低い雲なのか霧なのか深い緑に白い帯が薄く覆う。市内には食べ物や穀物を司る豊受大神宮(外宮)と天照大神が祀られ総氏神である皇大神宮(内宮)がある。伊勢の方は神社の束ねである社を伊勢神宮と言わず、束ねである敬意を示し「神宮」と伊勢をつけない。

「キャリアデザイン」の講座と「EQ (Emotional Intelligence Quotient心の知能指数)」講座の2つの講座を横浜国立大学と東北大学で、留学生を対象にした講座で担当する。4月から進めてきているので、学生間の交流も深まってきている。留学生が中心だが、日本人学生も交じり、異文化、言葉の壁を乗り越えて積極的にグループワークなどに取り組んでいるが頼もしい。

春季課程でのEQ講座は、秋季のEQ基礎講座のアドバンス講座としての位置づけとして映像を使用したグループ活動を試みている。EQ概念の理解を深める為にグループで3本の短編のビデオ映像を作成する。

今週、第2作目の映写会を行った。㈰上映前の監督・主演俳優・女優の舞台挨拶、㈪上映、㈫上映後の映像解説と続く。どんな内容になるのか期待が半分、不安が半分であったが、結果は予想をはるかに上回るものとなった。私自身が学生たちの力量の高さに驚愕する。EQで定められた各々の定義化された8つの感情能力(EQコンピテンシー)の機能をユニークな物語を通じて示し、それらを高める為の開発プログラムを紹介する。映像作品は、秋季講座のEQ基礎講座の教材としての活用も期待できる。

講義でEQの概念を学ぶことも大切だが、基本概念を理解した学生が、その内容を自分のアイデアで映像という作品を仲間と相談しながら創り上げる効用も高い。実際の理解浸透の評価は彼らの日常生活への応用動作に刻み込まれたか否かに委ねられるが、 学生の意気揚々として取り組んでいる顔をみると、この形式を試みて良かったと安堵する。

30年以上前、私自身の学生時代、芝居で、専攻で学んだことを舞台化した経験がある。「能力主義人事制度導入」に対する労使交渉をテーマにした。労使のそれぞれの視点で人事評価の理解が深まったし、芝居を創り上げる過程で人間的な関係ができた。私は脚本担当だった。当時の労働組合の執行委員長役は、今は大手企業の人事部長、青年部長役兼舞台監督は、朝ドラや大河ドラマにも頻繁に出演する俳優になった。
学生の優れた映像作品の映像を見ながら私自身の学生時代のその場面が鮮明に蘇る。映像や芝居は座学の効用を超える。そして作品自体が「次の世代の教科書」に変容する

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人

 

 

操典

2018年6月8日

 

みなさま

今朝の都内は、どんよりとした雲とその隙間の透き通った青空のコントラストが際立つ空模様になっている。これから週末にかけて天候は予測通り崩れていくのであろう。

大学の春季課程の講義では、EQ(感情のマネジメント)とキャリアデザインの講義を並行して進めている。キャリアデザインの講座では、生徒が理想とする職業的な将来設計図面を描く。6月に入りキャリア計画書の到達点を考察する段階に入る。

一人ひとりの生涯の職業における歩むべき道筋を選択、決定する時、成り行きで考えるのではなく、計画して歩みを進めるべきであると繰り返し伝える。キャリアを設計する力は後天的なスキルである。一定の手順を踏むことにより、良質で筋が通った図面を描写できる。逆に手順を踏まないとわき道に迷い込み奈落に落ち込む。進むべき方向に迷った時、登山と同じように無謀な突進を避け、立ち止まり、引き返す勇気が必要だ。

生徒の職業選択の選択肢欄をのぞき込むと、恐ろしく突飛な記述に出くわすが、まだ出立前の準備運動の段階なので、ほほえましく感じる。
その一方で、経験を積み上げた段階で転職を考える方や、定年の年齢前後で新たな職業上の選択をしなければならない方で、本当に脈略のない選択をしようと試みている場面に出くわすと、なんとか物語性のある道筋を再考してもらえないかと思案する。様々な事情で窮地に立っていると、その選択の瞬間のエネルギーは博打の様で、周囲の冷静な声もかき消され耳に入らないのであろう。

「操典」とは、軍隊における用語なのだが、各兵種・兵法の教育及び戦闘における典拠書を示す。日常、緊急時において、取るべき行動の根拠、拠り所になる。

ひとり一人の日常生活における操典の備えの可否と良質さが、その人の異常時の立ち居振る舞いの鮮やかさを形成し、鍛錬を繰り返し、進むべき方向を堅持した安定感あるたたずまいを醸し出す。そうした空気をもつ人に人間は吸い込まれていく。

良質な決断をするためには、良質な思考の積み重ねが必要である。どのような過酷な局面に遭遇した時も優れた立ち居振る舞いを保つ自らの経験と思考の積み重ねで練り上げられた「操典」が不可欠なのだ。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

 

図書館のコーヒーラウンジ

2018年6月1日

 

みなさま

今朝の都内は、とびぬけて強い日差しを感じる朝になっている。気温も一気に上昇するのであろう。

今日は、6月1日、日本経済団体連合会の定めた「採用選考活動開始時期」にあたる。人事担当者も就活の学生も重要な節目となる。実質上の内定日とも言われるが、内定をもらっていない学生もそれほど悲観することはない。自分のキャリア設計は納得いくまで描き直し、実践し続けることが何より大切なのだと思う。

【経団連 採用選考に関する指針】
広報活動 : 3月1日以降
選考活動 : 6月1日以降
採用内定 :10月1日以降

私が就活をしていた1985年は8月1日がこの日だった。真夏の日に最終的に志望企業を選択し、都内大手町にあるサンケイ会館の講堂に居た。人事の方から本社所在地の長野県の魅力を学生ごとのグループをつくり発表した記憶が鮮明に残っている。長野県には県歌「信濃の国」があり、長野県出身学生から教わり歌った。

限られた期間で就職先の企業を決定することに戸惑いを感じる学生も多いだろう。それは日本人学生だけでなく、私が講座をもっている大学の留学生にとっても相当な困難な経験でもある。彼らも日本人就活生に交じり言葉や文化の壁を乗り越え日本で働きたいと格闘している。

東北大学での講義の後、図書館のコーヒーラウンジで1時間だけ自主的で自由なキャリア懇談の場を行うようになった。日本でビジネスを経験したいと考える留学生の多いことを実感する。「多言語対応できる留学生に就業機会を提供する仕組み」や、「理系留学生に特化したインターンシップを仲介する仕組み」など学生ならではのアイデアを熱心に語る。

講義中の留学生が、コーヒーラウンジで自分がイメージするビジネスモデルを語る時、その想いの強さから、人間の体温の上昇の瞬間を感じる。その急上昇する体温を前に、私は彼らの考える留学生としての特異性を活かしてた日本での実践体験の挑戦を支援したいという衝動に駆られる。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

池袋にて 竹内上人

 

 

線香の煙と信頼

2018年5月25日

 

みなさま

今朝の都内は、少し雲がかかりどんよりした日となっている。私にとってはこの5月の後半は夏に向けての期待が膨らむ時期でもある。今年こそは、昨年断念してしまった夏の登山計画を実現したいと強く念ずる時でもある。

京都のお線香を家業とするお店の家訓に目が留まり、その言葉が脳裏に沈殿している。私にとって、思考が空白になった時に思い出される言葉でもある。企業のありかただけでなく人としての立ち居振る舞いにも通じる。

『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)

家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。
この言葉が、「働く人」のキャリアの積み重ねの在り方と重ね合わせられる。いくつかの企業の研修を受け持つ。多くの働く人が、自分自身のこれからの働き方の基本デザインをどのように描いていけばいいのかを考える。普段使わない思考なので戸惑いながらでもある。現在を肯定しつつも、これから先、このまま歩んでいけばいいのか、普段は表に出すことをためらうこの厄介な難題を研修の場によって、物置小屋の奥から引っ張り出される。

私は、ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考えている。正しい経営戦略を有している会社は、市場からも求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、また働く人たちの職業倫理も高い。
個人が向き合うキャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとってより頼りにされる卓越した人材になるのだと。

そしてこれは、持って生まれた素質ではなく、あきらかに後天的に習得できる技能なのである。企業経営がそうであるように、活動の沈滞を市場や顧客に転嫁した瞬間にその組織の自律性は劣化する。成長を急ぐあまり、論理の飛躍した経営判断をすることによって手痛いしっぺ返しを食らう。生身の人間のキャリアも他社にその自己の不活性化の原因を転嫁した瞬間に輝きを失ってしまうし、論理的にストーリー性がない職業選択をしたとたんにキャリア上の脱線をしてしまう。混沌とした職業環境に落ち込んで途方に暮れている方の救援活動も行いつつ、こうした気づきや学びの場を提供したいとも思う。

線香であるから、おそらく香りが伴うのであろう。良質なプロセスで創り上げられた線香の香りは、多くの支援してくれる仲間を引き付ける。そして変わらない香りを醸し出し続ける信頼観が長い時間の積み重ねとともに揺ぎ無く築かれる。

企業も人も。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

採用面接 痛恨のエラー

2018年5月18日

 

みなさま

昨夜から伊勢を訪れている。早朝の伊勢は、穏やかな天気を予感させる空模様である。早朝でも肌に感じる空気は夏の湿った感覚を覚醒させる。

5月も半ばになると実質的な就職活動の折り返し地点になり、すでに早々と内定を決めた学生がいる。大学で学生と接するようになって3年半が経ち、横浜でも、仙台でも自分が関わった学生たちから内定したという連絡を受けることが増えた。そうした声を聞くと我が事のように嬉しく感じる。これからどのような残りの学生生活を過ごし、どのような心持ちで入社式に臨むのかと想像する。

その一方で、自分の志望する企業の切符を入手することができずに悪戦苦闘している学生もいる。先日、地下鉄のホームでパンをかじりながら不安そうにスマートフォンの画面をチェックしている明らかに就活中の学生を見かけた。しっかり食事をしてるのかと思うほど細い体つきでもあった。その瞬間、胸に絞られるような感覚が蘇る。

新卒の採用において、私には今でも悔やまれる痛恨のエラーがある。若い頃、採用担当で地方の工業系の大学院大学の男子学生を不採用にした。彼はとても成績も良く優秀な学生であった。さらに人柄もとても好感が持てた。ただ幼い時に難病認定された重い病を経験した履歴があった。今では完治し、再発は無いだろうと主治医から言われていることを面接の時にはっきりと私に話してくれた。研究が好きで遅くまで実験を繰り返していると言う。だから心配しないでほしいと。会社に入ってもしっかり働くことができると語ってくれた。

しかし私は彼の採用を見送った。私は再発を恐れ、できれば実家から通える企業に就職したほうがいいと判断した。あの時の判断は間違っていたのだ。採用担当者としての失敗を恐れ、できるだけ無難な人材を採用しようとしていたのである。

パンをかじりながら懸命に就活をする学生の姿を見てあの時の男子学生は今どうしてるかと思う。25年以上も前の話なので今は50歳位になっているはずだ。きっとどこかの会社か研究機関で優れた技術者になっているのだと確信する。

必死で就職活動をする学生を前にして、失敗を恐れ無難で保身的な判断をした当時の自分を後悔する。きっと今でも私の体の中には保身の種子が眠っているのだ。それが再び繁殖しないように、人間が持つ可能性に目を向け続けるべきだと自分自身に言い聞かせる。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

伊勢にて 竹内上人

 

 

レコードに気づかされるキャリア設計の構造

2018年05月7日

 

みなさま

今朝の松本は早朝に少し雨が降り肌寒い。美ヶ原高原の先端にある王ケ頭にも雲が迫っている。
毎年この時期、登山の体慣らしのために三城牧場から茶臼山経由で美ヶ原を歩き王ケ鼻まで登る行程を何度かするのだが今年は天候が悪く控えている。今年もその行程途中の「広小場」にある桜は満開なはずだ。

妻の実家にある古いレコードを聞く。レコードのジャケットには「MISSLIM /YUMI ARAI 」と記されている。
1974年、今から44年前のレコードである。久しぶりにアナログの音感を感じる。その歌詞の新鮮さに驚く。
さらに驚嘆したのは、44年前に作詞をした本人の年齢が18歳であるということだ。時代の変化を越えて、彼女の持つ本質的なメッセージは私の弛緩しきってしまった感情に強烈に突き刺さる。

キャリアもその核となるところは半世紀前の時代でも今でも大きく変わることがないのであろう。働き方のバリエーションは確かに変化をしているが仕事に対して人が持つ感情は今も昔も変わらない。同様に人事制度改革に関わるファッショナブル(流行的)な言葉や改革論議が飛び交っても、人事労務管理の本質は変わらない。

それは、働く人たちが所属する組織の指揮官や同僚との信頼関係、自らの職務に精勤努力することを自分の成長として前向き感じ取れる感覚を肯定する就労環境であり就労ルールの良質性に起因する。流行する言葉の裏側にある背景を冷静に読解する力が私たちに求められる。

慌てて表面的な対応をしないことが肝要だ。制度やルールを変えなくても現在の制度やルールの価値をもう一度紐解き丁寧に読解し、運用の可能性を探りきることによって突破口が開けることが多い。

レコードを聴いていてもう一つ感じた事がある。曲を気ままに飛ばして聞いたりすることができないことだ。レコード自体の曲の組み立てに物語がある。この組み立てにより作者のメッセージをより端的に聴き手に伝える。
このことは一人ひとりのキャリアの履歴にも同じことがいえる。自分自身のたどってきた職務上の履歴をもう一度振り返ってみると、これから取り組むべき到着点を読み取れる。

学生であっても経験を積んだ働き手であっても同じだ。キャリア設計の基本的な考え方は過去の冷静な歩みの振り返りにあり、そこからその根底に流れている自分自身の本質的なメッセージを読み取り、次に向かっての曲目を決める作業の繰り返しなのだ。

デジタルに麻痺した感性を覚醒するには、時にはアナログに触れることも貴重である。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人

 

 

日本的雇用の有効性 三種の神器

2018年04月27日

 

みなさま

今朝の都内は少し薄曇りで、半そでだと肌寒さも感じる。午前中都内で仕事をし、午後は松本の自宅に戻る予定である。

大学での講義も第3週目に入り、受講登録も確定する。担当する講座で、日本的雇用についてのトピックスを人事の視点で取り込んでいる。

1958年にアベグレン氏の「日本の経営」(訳者:占部都美氏Urabe Kuniyoshi)が示した日本的雇用の特徴として、「終身雇用」、「年功序列」、「企業別組合」について、授業のディスカッションテーマとして活用している。
これらは、1972年に松村正男氏(当時:労働事務次官)が「OECD対日報告書」で3つの特徴をまとめて日本的雇用の「三種の神器」という卓越したネーミングで広く日本の経営者、人事の人たちに刷り込まれてきた。
海外の研究者が日本の競争力の源泉を指摘し、またこの効能を神的なネーミングで企業現場に浸透させたことによって、企業現場でその機能に更に拍車がかかった。

最近では、これらのシステムは既に日本企業には定着しておらず、過去のものになり、日本の企業競争力を棄損している負の遺産になっているといった論調が一般的でもある。
ただ、一方では、日本の雇用現場の意識の中では、長期雇用を前提とした人材育成、年齢にともなう賃金上昇期待欲求、組織共同体としての職種別の賃金差を排除する同質性は根強く沈殿しているし、その効用も否定できない。

講義では、終身雇用(Lifetime commitment)、年功序列(Seniority (wage) system)、企業別組合(Company based union)のひとつ一つのテーマについて、5人〜6名のグループで、このシステムを採用するか、否かについて議論し、その決定と理由を全体で発表する。グループ討議は活発になり、全体共有セッションも真剣な空気を感じる。日本人学生は英語力の差もあり、少し押され気味だが、積極的に議論と格闘する。

学生のこれらの仕組みのとらえ方は、ことごとく否定的である。それぞれの効用である雇用の安定性、企業内秩序、共同性・一体性についての関心は低く、より競争的な関係性、個人成果に連動した処遇体系、職業機会の流動化を志向する。

こうした若年層の意識の変化に対して、企業は人材確保に対して自らを変容する課題に直面する一方で、従来の仕組みに慣れ、既得権益としての意識をもつ企業内熟練者のルール変更に伴う抵抗との間に立ち、組織内調和の葛藤の中、明確な旗印を掲げづらい立場に追い込まれる。

恐らく学生たちも単純に競争的な関係や職業機会の流動性自体を求めているのではなく、彼らが感じる公平観のある就労環境や人間的な尊厳を否定されない組織を求めているのであろう。人間である以上、こうした概念は若年層であっても、経験豊富な人にとっても本質的には同質である。組織として両者の力を積極的に引き出すため、その一致点を探ることが企業人事に課せられた課題であり長期休暇を控え、この融和の最適変革シナリオの策定案作りが人事屋として自分自身の宿題でもある。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人

 

 

 


選ばれる側ではなく選ぶ側

2018年04月21日

 

みなさま

今朝の都内は肌寒さも感じるが穏やかな一日を予感させる。日中は薄着でも快適に過ごせる季節となった。

4月からの新学期の講義の後に多くの留学生が日本の就職活動についての難しさを訴える。日本で学ぶ留学生にとって、日本の企業で働くことの壁は相当高い。新卒で同時期に同じプロセスで一斉に活動することに馴染めないこと、また公表されている選考スケジュールと実際とが大きく乖離していることも戸惑いを最大化させる。特に難敵なのはWEBによる適性検査と企業へ送るエントリーシートである。

日本語の壁があり時間内に適性検査をやり遂げることに頭を悩ませる。本当に自分の書いたエントリーシートを企業の人たちは読んでくれるのであろうかという不安も積み重なる。

日本企業が留学生採用を積極的に取り組めない理由は3つある。ひとつは過去の経験から短期で離職してしまうという恐れである。人事担当者は、3年から5年という短い期間で退職することに対する費用対効果が伴わないと感じ躊躇する。ふたつめは、企業内の社内システムやマネジメントが日本語対応であり、英語化するためのコストをかける余力をもてないという現場の消極的な悩みである。そして最後は、留学生は組織としての協業行動に適合しないという誤った前提認識である。企業の人事担当者も配属先職場からの都合の良い要望に一貫して弱腰でもある。

多様な人材を動機付け組織の目標に向かって適切にマネジメントすることは高い組織の力量である。その卓越性を持つ組織は留学生だけではなく、女性や障害者の活用も極めて柔軟に受け入れ活用できる組織でもある。
絶対的な生産人口が減少する日本において労働力を長期にわたって確保することは困難である。しかし、この課題への対応力をつけることの取り組みにスピード感をもって踏み込めないていないことも事実である。

就活に直面し、必死にもがく留学生の質問を聞き続け、対処療法を話す自分自身の言葉が現状を肯定した上での表面的な対応を学生に求めているのではないかという罪悪感をもつ。留学生にとって大切な事は自分たちが選ばれると言う意識を持つだけでなく、自分たちにとって将来的なキャリアパスを描ける良質な変化対応力を許容する企業や組織、仲間を選ぶ側にあるということを認識してもらうことである。そこから自分を取り戻した信念に基づく主体的な活動が始まる。

留学生と一緒にそうした企業を選ぶ支援と仕組みづくりができればと願う。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて

 

 

 


新入生の涙

2018年04月13日

 

みなさま

 

今朝の都内は薄日が差す穏やかな朝を迎えている。日中は、上着を脱ぎ、半そででも心地よい季節である。速足で歩くと少し汗ばみ確実に季節の変化を感じる。

 

今週から、横浜国立大学、東北大学での講義も始まった。春になると大学に新入生が入ってくる。私の講座は主に海外からの留学生が中心で構成される。講義の内容はキャリア設計、リーダーシップ、チームビルディング、EQ(感情能力)を基軸におき、それぞれの講座のテーマを交差させながら構成する。

 

最初の講義は、とても楽しみでもある。受講する学生の数も気になるところであるが、どんな学生と7月までの4ケ月間を過ごすのかと期待もする。私の講座は、学生がグループディスカッションなどを通じ、主体的に参画しながら理解を深めていく方法をとっているため、クラス自体が一つのチームになる。

 

チーム内の融和が進めば進むほど、相互の情報交換が活発になり、お互いの考えを通じ、刺激を交差しながら主体的な気づきを誘発する。基本となるコンテンツは提供するが、私の想像を超え学生たちの中で新しい価値に昇華する。学生の変化から私も純粋に多くのことを学ぶ。

 

新入生が授業に出席する時期になると思い出す出来事がある。ある講座の最初の授業が終わった後にひとりの日本人女子学生が真剣な表情で次回もこの授業を受けたいのだがどうしても自分の考えていることを英語で表現することができないと訴える。講義は英語で行うために日本人の学生の受講自体は少数ではあるが毎回何名かの学生が受講をしてくれる。

 

悔しくて歯がゆくてどうしようもない気持ちを抑えきれずに涙を流す。学年を聞くと1年生だと言う。高校を出て間がないこの時期、毎日、新しい出来事と格闘しているのであろう。18歳の多感な彼女にとって新しく交流する留学生との意見のぶつけ合いはこれからの大学生活をどう過ごすか真剣勝負でもある。悔しいと言葉にすればするほどとまらなくなる涙を拭わずに来週も出席してもいいかという問いに、もちろん大歓迎だと伝える。

 

同様に企業でキャリアをスタートする新入社員、馴染みのない職場環境に適合しようとする転職者にとっても、自分の思い描く理想と現実とのギャップに打ちひしがれる時でもある。対岸にどうしたら渡河できるか。濁流に流されそうになる身を鼓舞し、あらゆる手段と方法を考える。逃げ出したい思いを断ち切り、その間を埋めようともがく。

 

私はそうした格闘を好意的に受け止めている。きっと涙が出るほど悔しい思いはその間を埋めるための大きな原動力となり、真摯に向き合うことにより自己成長する可能性となる。新しい生活が始まる大学生、転職で新しい職場に赴く社会人、そして私自身にとって、心地よい悔しさと葛藤に前向きに向き合う季節であればと願う。

 

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

都内にて 

 

 

 


入社式の思い出 新入社員諸君

2018年04月7日

 

都内の桜も瞬く間にそのその潔さを見せつける。私が週末暮らす松本城は梅と桜が同時に満開になり、市内の桜前線は、少し高台の城山公園に移っている。さらに1週間後はもう少し標高が高いアルプス公園に伝わり、4月末には、美ケ原高原への登山口である三城牧場から少し上った広小場にある二本の桜の木にたどり着く。毎年恒例の私の桜前線でもある。

 

【The Spirits of Youth】

 

少年であることの条件、それは純粋であること

未知なるものへの好奇心、実現に向けてのあくなき希求

私たちは開発型企業として、少年の心をビジネスの基本においています。

 

このフレーズは、私が大学を卒業し、企業に入ったときに最初に仕事らしい仕事をした会社案内の冒頭に掲載した文章である。

 

年齢を重ねていくと、好奇心のエネルギーそのものが低下する。それは、年齢を重ねても持ち続けることができるのか。

今年のサントリーの4月2日の入社式に合わせた伊集院静さんの文章は、「高く、広く、大きな夢をもて」だった。好奇心は、将来への希望や展望がその源泉になっているのかと共感する。

 

海の遠くの方には、何があるのだろうか、地球は球形だと学校で習ったのだから、坂道をおりるような感じで、下っていくのだろうか、反対側にたっても逆立ちするような感じはしないのだろうか、「プロ野球選手や飛行機のパイロット」という子供の時代に感じた「純粋さ」の想いを思い出しながら、何度も読み返す。

 

私が入社した1986年の「新入社員 諸君」の激励文は、“ゆっくりゆっくり”というものだった。その当時は山口瞳さんが執筆していた。そこには、長いサラーリーマン人生、ヒットも打つこともあるし、エラーもすることもあるが、お酒の一気飲みのようなことはせず、君たち、目の前の仕事に関心を持ち、落ち着いて、着実にやるものだ・・ということが書かれ、とても共感したことを思い出す。今でも失敗の数は限りなく、人を励ますこともできずに後悔を重ねる。あの時、こうしておけば、との自責の念に駆られる。

 

そうした時に、「エラーをしてもヒットも打つこともある」というフレーズは今でも心の支えになっている。大切なことは、地道な練習を怠らないことだ。そしてチームを信頼することなのだ。

 

仕事において転機を迎える方が多い時期でもある。私がキャリアの支援した方も新しい挑戦に向き合っている。

純粋な気持ちで、人や仕事と向き合い、「高く、広く、大きな夢」をもって、スタートしてくれればと願う。

 

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

 

都内にて 

 


年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず:経験から学習する

2018年03月30日

 

みなさま

驚くほど暖かな一週間であった。都内の桜もすでに満開を過ぎ、新しい芽が息吹きだしている。桜並木の歩道に掲げられた商店街の桜まつりの案内版も来週からの予告であり、今年の桜の開花が例年以上に早く到来したことを語っている。

都内で咲き誇る桜をぼんやりと眺めていると毎年のように思い返す風景と言葉がある。
私は、今から35年以上前、京都にある大学に入学した。新しく始まる学生生活に期待していたし、初めて経験する独り暮らしの不安もあったと思う。
入学して間もなく、新入生を対象にした説明会に参加する為、修学院離宮の近くにある関西セミナーハウスという研修施設を訪れていた。そこには咲き誇る桜を有する素晴らしい庭があった。

そして、桜を見ると必ず思い出す言葉がある。
「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷 りゅう きい )の詩の一句である。

恩師である中條毅先生(現同志社大学名誉教授)から新入生に語られた言葉であった。今でも覚えているのが驚きでもある。先生が私たちに語りかけたかったことは、毎年毎年、桜の花は変わらず咲き、その美しい姿を示してくれるが、人は年とともに老いを重ねていくものである。凡庸としていると瞬く間に人の一生は老いにたどり着いてしまうから、与えられた一日一日、一時一時を大切に生きなさい。ということであったと思う。

人は、多くの苦難と試練に向き合う、その時の向き合い方が大切である。できれば避けて通りたい出来事から、何かを教訓として学び続ける人と、記憶から抹殺する人では、同じ出来事でも人間としての風味風合いに違いが生じる。人が向き合う苦難や試練は、大切な将来の機会に繋がっていると考えると希望ももてる。

キャリア理論で示される 「経験から学習する」 である。

歳を重ねて変わっていくのであれば、目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。今年も変わらず美しく咲き誇る桜を眺めながら想う。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人


 

熱処理とキャリア

2018年03月23日

 

みなさま

 

今朝の都内は、曇り空から春の日の強い光が差す。天気は回復し、桜の開花も進みそうで楽しみである。

ロータリークラブの会合で熱処理の会社を伺う機会を得た。熱処理とは金属に急激な熱を加え真っ赤な状態にした後に再び急激に冷却させることによって強くしなやかな鋼材へと『変態』させることである。この作業を繰り返すことによっていっそう強くてもしなやかな材質に変わっていく。

工場の中で熱く熱した鋼材が急激に冷やされ、黒光りした鋼材へと変わっていく様を眺めながら、人がしなやかに力強く成長していくこともこうしたことの繰り返しなのかと考えていた。

順風満帆なキャリアだけだと逆境になった時に対処する力量を持ち合わせないことがある。職業生活において精神的にも身体的にも耐えうる一定の範囲の職務上の試練を段階的に経験することによって、その人の職務遂行能力の労働品質は格段に向上していく。
上司となる管理職は部下の一人ひとりに課す仕事経験を冷静に見守りながら成長を計画的に促していくことが役割でもある。

おそらく上司と部下の人間的関係だけでなく、人の集合体としての組織の強靭化プロセスも同様なのであろう。職場や会社そのものが強くなっていくプロセスには難解な経営課題を幾度も経験しながら個人の成長と組織の成長が促される。

人は、そのリアルな困難に対面すると時々逃げ出したくなるような感覚に襲われたり、他者に責任を転嫁したくなる衝動にかられる。
人間の心情としてもっともなことなのであるが、困難な機会を良質な修養の場として前向きに格闘しながら向き合うことができればと願う。

企業の人材育成でも家庭の子育てでも形態や程度の差こそあれこうしたプロセスの繰り返しの中で人は細かな年輪を重ねていくのであろう。
年輪の多さと年輪そのものの良質な経験からくる重厚さがかけがえのない価値となる。暴風雨でもそうした年輪を有する樹木は簡単に倒れない。

苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むという古の言葉が脳裏に覚醒する

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人


 

就活 企業を選ぶ力量

2018年03月16日

 

みなさま

 

今朝の松本は、小雨交じりの空模様である。ただ、肌で感じる気温は暖かく、これから時々寒い日が来るにしても、確実に春は近い。松本城の梅も少しずつだが息吹を感じる季節となっている。これからが楽しみである。ポットに熱燗を忍ばせ、お城の公園のベンチで、春の気配を感じながら悟られずに喉を潤わせたい。

今週は、信州大学の留学生を対象にした春季合宿に参加した。信州大学はご存知の方も多いと思うが、長野県内に学部によって、松本市、長野市、上田市、南箕輪村にキャンパスが分かれている。私にとって、信州大学で講座をもつのは今年からであるが、私自身の居住地が松本にあるので、親しみが深い大学でもあり、機会を与えていただいたことを嬉しく感じている。

多くの留学生が長野県の東御市の研修施設に集合し、宿泊型のキャリア講座を行った。ほとんどが、工学部(長野市)と繊維工学部(上田市)の学生だった。

すべての留学生が日本で働きたいと願っている。その熱意は彼らの若さのエネルギーとともに教える側の私の体に突き刺さる。誠実で前向きな学生ばかりである。
日本の特異な新卒採用スケジュールのリアルな実態と日本でのキャリアをどのように構成、組み立てていけばいいかということ、グループ面接やグループディスカッションといった新卒採用試験の模擬体験など、就職活動で体験するすべてのプロセスを共有する機会でもあった。文化背景が異なる彼らにとって、日本の就活は未知との遭遇である。一泊二泊の集中研修では自分自身の職業観の気づきと、就活の実態を知ることによって明らかになる「本当に日本人学生と混じってやっていけるのだろうか」という戸惑いも感じたであろう。

講座を通じて、私が伝えたかったことは、なぜ日本に留学し、学び、将来その経験を社会や他の人たち、そして母国の為に活かしていくかを体系的に整理し、独自のキャリア観を確立して欲しいということである。自分は何者で、何をしようとしている人間かを知ることが出発点であり、他者との信頼関係を気づく第一歩である。得体のしれない人間に人は心を許さない。そもそも自分自身を知ることなく、他人に理解してもらうことはできない。

大学生だけでなく、定年を目前としてキャリアの選択を余儀なくされる方も同様である。私の本業は経験を積み上げてきた方のキャリアの助言と具体的な働く機会の提供であるが、私より大先輩の方たちにも同じことを話していることに気づく。自分を確立し、外に向かって働きかけることの難しさは永遠に続くことかもしれない。

就職先に自分はどう評価されるか、どのようにしたら選んでもらえるのだろうかと悩む学生の言葉を聞く。やりきれないような本音であろう。
それでも彼らに伝えたい。就活は企業がみなさんを選ぶだけでなく、皆さんが企業を選び抜くことだということを。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


 

インターンシップ

2018年03月10日

 

みなさま

 

今朝の松本は、厚い雲で覆われ、雨が降り続いている。ただ、気温自体は、ひところの冷気を感じさせない質感である。確実に春の気配が近づいている。

私の講座の二人の留学生が、今週月曜日から都内で一週間のインターンシップを行っている。中国から東北大学で学ぶ留学生で、一人は大学院工学研究科(情報工学)の院生、もう一人は心理学科の学部生である。
今日が最終日、一週間のインターンシップの成果を職場で発表する。今回は、インターンシップ先の企業の深い配慮もあり、適切に組み上げられたプログラムに基づき、学生の知識や経験が活かされる内容である。
毎日、その日のインターンシップが終了すると学生から電話が入る。企業の方にあたたかく受け入れられ、課せられたテーマに取り組んでいる様子が臨場感をもって伝わってくる。一日の終わりにその連絡を受けると、安どする。彼らも毎日、慣れない職場で奮闘努力しているのかと励まされる。4月からの新学期では、取り組んだ課題そのものではなく、インターンシップという体験を通じて、日本企業の働く現場の実体験を通じて気づいた働き方、チームワーク、風土について同じ講座の留学生と共有し、日本におけるインターンシップの「場」で何が学べるか、学ぶべきか、また、準備はどうしたらいいかを考える題材としたい。

日本の生産人口が年々減少する中で、多様な価値観を有する留学生の活用は、従来の企業組織に新しい仕事の価値創出やイノベーションを誘発する。また、働き方自体が、画一的だった日本の伝統的な職場秩序にも変化を促すのだとも思う。それも相互の絶え間ない歩み寄りから産み出される。

一人でも多くの留学生に日本の働く現場の姿を丁寧に伝えていきたい。一人でも多くの留学生に日本で働くことの意義や可能性を感じてもらいたい。そして一社でも多く、留学生を活用していこうという企業の輪を広げていきたいと願う。企業訪問をする度に、人事の担当者の方に留学生のインターンシップの可能性について話をするようにしている。私がお会いする多くの人事担当者が前向きに反応してくれていることに勇気づけられる。

先日、外資の人事の方とお話をする機会があった。昨年、横浜国大で私が担当した留学生をインターンシップとして受け入れてくれた方である。職場のモラールの良質化に留学生の存在が大きく寄与したとのこと。仕事に真摯に取り組もうとする留学生がそこで働く人たちに与える人事的な効用について想いが合い嬉しく感じた。

焦らず継続して取り組み続けることが大切かと思う。時間をかけて、継続して築きあげることから得られる果実の風味や熟成度は格別なものになるはずだ。今日の二人の留学生の留学生の発表が、価値ある機会になることを願う。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2018年03月02日

独りで渡れ

みなさま

今朝は伊勢で朝を迎えている。昨日の早朝は突風と雷で迎えたが、今日はおだやかな日になることを望む。

3月に入り、受験も就職活動も大切な時期を迎えている。受験生も就職活動の学生も進路に悩み、限られていく選択肢に希望と恐怖を感じながらの時間が積み重なっていく。新聞の切り抜きを整理していた時、前回の週報で取り上げた数学者の寺田文行先生の記事と一緒に保管されていたもう一枚の切り抜きがあった。当時京都大学で教鞭をとられていた数学者の森毅先生によるエッセイである。こちらも今から30年も前の骨とう品だ。

『京都の東山三条に古風な宿屋があって、そこに一匹の老犬がいた。彼は、旧国道一号線の自動車の間を縫って悠然と横断するのであった。なるべく見通しのよい場所、遠くから渡る姿勢の明らかなのがよい。迷っているそぶりを見せないことだ。急いではいけない。最初から急いでいたのでは、万一のときでも、それ以上急げない。自動車のほうは見ない。じつはひそかに気にしていても、まったく気にしないように見せるのがよい。世の中に自動車など存在するはずがない、そんな気分である。
これは絶対にひとりでないといけない。世の中に、そんな変なのが二人もいるはずがないと思われてしまう。それに、二人でいると、おたがいが注意しあうはずだと、安心されたりする。世間だって、ひとりで渡る気になれば、案外にあぶなくないものだ。むしろみんなでわたるほうがあぶない。みんなで渡ればこわくないと、などと言っているうち、手をたずさえて地獄への道を歩んだりもする。・・・(中略)・・・それでも幸運の女神とともに、受験生に呼びかけたい。ひとりで渡っている気楽さこそ、幸運の女神をひきつける。こわくても、それほど危なくない。』

昨日は、大学の合同就職セミナーの場にいた。工学部が主な対象のセミナーだったが、着慣れていないリクルートスーツに身を包み、明らかに不安そうな表情で、さて自分はどこの企業ブースを訪問しようかと、傍らの友人と会話を交わしている。
受験と同じように最初の就職活動も人生において自分と対峙するとても大切な時間である。自分はどのような職業に向いているのであろうか、果たして、自信をもって仕事を続けていかれるだろうか、職場の上司にこっぴどくしごかれたりしないだろうか、悩みは尽きない。

反面、こんなにも自分について考える機会はそうそう直面するものでもない。どうか、真っ向勝負で自分と対話してほしい。自分の中で端正のとれた論理を構築する絶好の場である。深く考え抜いた人間の言葉は、採用面接でも重厚な空気を面接会場に引き寄せる。そして相手に全体重と体温を通じてその思いが伝わる。私の長い人事屋として経験から比較的短時間で相手の人柄を感じるのはこうしたことが背景にあるのかと思う。

深く自分と対話をする時は、私も独りになった方がいいと思う。雑音がない環境で、可能であれば、だれもいない図書館、森や自然の中で思考することだ。自分の意思で決断した道は苦しくても味わい深い。そして、きっと力強く凛として歩むことができる。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人


2018年02月18日

マイペースで進むこと

みなさま

今朝の松本市内は、少し厚い雲に覆われている。寒さは弱くなったように感じられるが、春はまだ少し先にある。

受験生は、センター試験が終わり、自己採点の結果に喜び、悩みながら前期・後期日程の受験計画に向き合っている頃だと思う。私の大学受験は今から凡そ40年程前に遡る。若いころの記憶なので今でも当時の心境は鮮明に覚えている。

『友人の読んでいる雑誌、参考書が気になることがあります。友人の受験対策の方が優れているように見えることもあります。また友人に提示された数学の難問にこだわって、貴重な時間を費やしてしまうこともありうることです。それは夏休み頃までなら、それなりの収穫もありますが、「河中に馬を変えることなかれ」という諺があるように、いまここで今まで君のたどってきた勉強方法を変えてはなりません。「A君は難関校に入った、よくやったな」という話を耳にしたことがあるでしょう。そして、自分の進路を選ぶとき、つい難易ランキングを気にしてしまうものです。大切なことは何大に入ることではなく、大学で何を学ぶかということです。そこに、自分が生涯拠り所にする専門分野がどんな形でおかれているかも大切です。人それぞれに性格も違いますし、そこから発する持ち味も違うものです。日本の社会が貧しかった頃はともかく、今後の社会で、君たちの幸福は学歴だけでは決まらない。私はそう思います。・・・(中略)・・・受験への道はひとりで行く道です。他の人と比べるのではなく、マイペースで一歩ずつ進みましょう。』

これは、当時、ある新聞に掲載された数学者の寺田文行先生(早稲田大学 故人)のコラムである。40年たった今もその切り抜きをとってある。私が通学していた高校は自宅から片道2時間以上かかる田舎にあった為、塾などには通うことができず、受験勉強はもっぱら「大学受験ラジオ講座」に頼っていた。寺田先生は数学を担当していた。参考書も「寺田の鉄則シリーズ」というとても分かりやすい参考書を執筆していた。早朝5時、雑音が入る放送をカセットテープに録音し、その後、何度も繰り返し聞いた。後で知ったのだが、私がラジオ講座を聞いていたころ、重度の障害をもったご子息が亡くなった頃と重なる。寺田先生は、その時期、ラジオ放送の数学講座を通じ、受験生を勇気づけ、力強い言葉を発していたことになる。

私は職業を選択する岐路に向き合っている方々の支援をする職業に携わっている。これから実社会に出ていく大学生であれ、企業で豊富な経験を積んだ方に対して、少しでも人事屋としての経験に基づいた支援ができればと思う。こうした方と向き合う時に、寺田先生の言葉にある他に人と比較することなく、自分自身の進むべき道を考え、選択することの大切さが染み込んでくる。就職や転職の先にある、それぞれの方にとって大切な何かを一緒に考えながら、勇気づけられればと願う。マイペースは自分の意志に基づく具体的な行動でもある。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2018年02月09日

成績表をつけながら気づく仕事の意義

みなさま

今朝の伊勢は本当に晴れ渡った空が広がっている。寒さは引き続き続くのかと思うが,太陽の光の強さが緩和しそうである。

大学の秋季課程(後期課程)も今週で終了し成績表をつけている。妻は高校教諭なのでいつも、採点や通知表づくりに悪戦苦闘してる様子を無責任に眺めていた。しかし、いざ自分が担当すると難しい。

秋季課程は、横浜国大と東北大を合わせて5講座を担当した。その多くが海外からの留学生である。会社の人事評価も同じだが、定量的・定性的に評価をする難しさを痛感する。出席率は、もともとも数値化されているデータだが、出席率が高ければよいのかと、もちろんそうではない。できるだけ多面的にと提出レポート、授業での参画度なども加えて評価の客観性を試みる。しかしながら、学生に対して、なぜ評価をするのか、何を評価項目とすべきか、どのような評価プロセスを取り入れるべきか毎回悩みが尽きない。

企業の人事評価はその答えが明快である。評価の人事的な狙いは組織目標に適合する人材を長期的に育成、動機付けすることに重きが置かれている。実際の職場では、上司の主観的な判断や,「好き嫌い人事」があるのも現実であるが、企業人事担当の心意気は、もう少し異なるところにある。業績評価に対する公平感(fairness)は組織倫理の観点から外せない視点だが、それ以上に賃金体系の設計やその運用の意図の拠り所は長期的な事業戦略の実現に寄与する人的資源開発におかれている。また組織価値の品質を維持する企業理念の実践者を励まし続けるところにある。

私が多くを受け持つ留学生の実態に再び目を移してみると、文科省は、東京オリンピックが開かれる2020年には、留学生30万人計画を打ち出している。現在、留学生の日本就労率は、30%と低いが、絶対数の高まりとともに、確実に職場に異文化の人材が流入する。日本の雇用環境から、労働人口の絶対数の減少を多国籍人材で補わざる得ない実情もある。

こうした留学生の今後の推移を考えると、企業における人事屋として実務を担っていた自分の大学における役割に気づく。将来、日本の組織に多数入り込んでいく留学生達が、どうすれば組織適合能力を身につけることができるのかという命題に対し授業設計を行い、その習得度を評価体系に内在化させていくことにその答えがあるのだと。4月から始まる春季の講義設計に取り組むモチベーションも刺激される。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人


2018年02月02日

キャリアデザインにおける相手の目線

みなさま

今朝の都内先週に続き雪が降りつづいている。都心はそれほどの積雪ではないようなのだが、八王子などの郊外はニュースを見る限り相当な積雪である。

東北大学では新しく留学生にとって日本での雇用の機会をどのように実現すべきかの講座を秋季から取り組んでいる。彼らの前に立ちはだかる就職にあたって最初の関門であるインターンシップ、留学生にとってインターンシップをどのように対処したらいいのかはとても悩ましいところであえい、その選考過程で企業が求めるエントリーシートやSPIなどの適性検査は日本人学生と同じように課せられその対策に苦闘する。

当然のことながら選考プロセスでの記述のテクニックや、適性診断の対策はしたほうが本人たちの安心感にはつながるであろう。

だが企業人事の実務担当の目から見たときに最も知りたいのは、留学生がなぜ日本で学ぼうと思ったのか、なぜ日本企業や国内で事業展開をしている会社に自分のキャリアを委ねようと考えているのか、将来的にどのようなキャリアを思い描いているのか、日本の雇用慣行をどのように捉えて自分はどこまで折り合いがつけられて、どこは許容度を超えてしまうのか、そうした人間的な側面を知りたいのだ。短期での離職の可能性を最も危惧する。

学生が具体的な企業を選択する時のプロセスでは出来る限り合理的なプロセスで絞り込みできるように支援している。企業が抱えている現在及び将来の事業戦略の方向性と自身が持つ経験や見識学んだ領域そして自分自身の将来キャリアとの一致性をきちんとストーリーとして描きあげることができれば留学生にとっても長期的な視点でのキャリアを覚悟できる。

このことは留学生に限ったことではなく、転職を試みている経験豊富な方もご自身の希望が優先してしまい自分がチャレンジしようとする企業の置かれた環境や長期的な事業計画に関しての視点が欠落したまま一方的な押し売りのような思いで面談に挑まれるケースが多々ある。

キャリアを考えるときには自分自身の強みやビジョンも大切なのであるが相手の視点に立って考えることも同じくらい重要なのだ。

どのような経営課題に人材という経営資源に対して期待しているのかということを応募者自らが深く考え、調和できる物語を描きあげることができれば相互にとって良い組み合わせの機会となる。新しい講座では、留学生に出来る限り自分目線だけではなく、相手の企業の目線でどういった人材が事業戦略の計画の中に盛り込まれているのかを探求するところから物語を組み立てていくことを勧めている。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人


2018年01月26日

良質な影響力を発揮するための起点

 

みなさま

 

今朝はスケジュールの関係から週報に向き合う時間が早く、今日がどのような天候になるか判断できないが、気温はかなり低いのだと感じる。都内も日が当たらないところなどは残雪が残っている。

1月の中旬になると大学の講義も最終段階にはいる。秋学期は、東北大学の講義が先行していたので今週から講座の総括としての個人別のプレゼン発表になった。秋学期では、「Internship Preparation」、「Global Leader」、「留学生の為のキャリア実践」の3つの講座を担当した。すべての講座で留学生が主たる対象となる。

今週最初のプレゼン発表の講座は、「Global Leader」の講座であった。この講座では主としてリーダーシップを発揮するためには知識やスキルといったいわゆるIQ(知能指数:知的能力を示す指数)に属する能力だけでなく、どのように他者を理解し、自分を律し、周囲にいる人々に良質な影響力を発揮することができるかをEQ (Emotional Intelligence Quotient 心・感情の知能)という概念をグループワークの機会を通じ習得する。

自らの感情をどう理解し、どのように活用すれば人々に良質な影響力を与える卓越した立ち振る舞いができるかという自身のあり様を深めていく実践的なプログラムである。
秋学期は履修者が多かったので、今週と来週の二週に分けて発表の計画をたてた。限られた時間の中でも学生たちが授業を通じて内在化されたメッセージを私自身が受け止める事はとても大切な時間である。

また他の学生にとっても同じことを学んだ仲間が、それぞれの受け止め方で表現することに接することは、自らの考え方に新たな気づきや深みを与えてくれるのだと願う。履修者が少し多くなり、一人当たりのプレゼンの時間に制約条件が生じたとしても出来る限りこうした場を工面したい。

何人かがプレゼンをし、あと残り少なくなった頃、欧州からの留学生の発表で、表現したのがドラッカーの理論であった。彼は適切なことを、他者を通じて成すことにリーダーシップの要諦があり、そのリーダーシップを発揮する為にEQの能力が不可欠であると語った。個人で成し遂げる事は限られる。他者をどう動機付け、励まし、信頼を得ていくか、そこにマネジメントの本質があると。その起点を他者に求めるのでなく、常に自らに厳しく課すことが大切なのだと。自分の言葉になっていると感服する。

来週から、横浜国大でも最終講義に向けての発表の場が続く。どのような気づきを彼らが得たのか、私自身が深く学ぶ大切な一週間が続く。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人


2018年01月19日

集団としてのキャリア

 

みなさま

 

今朝の都内は青空が広がり、高層ビルとビルとの頂上をつなぐ一筋の細長い雲が横たわっている。少しづつ日の出と日没の間隔が光の側に傾いてきているのを感じる。

企業研修を自分でも講師として研修の現場に立つ。大学とは異なり、職業によって生計を立てている人たちとの会話は自分自身の仕事に対する感性を磨く上で不可欠な機会でもある。学生との対話では感じられない仕事と様々な葛藤を抱きながらも真摯に対峙する働き手のリアルを体感できる。

そうしたキャリアに関する研修を行いながら自分の中でも考えが深まることも多い。ここ数回連続してキャリアに関する研修の場でメッセージの中核においたことがある。
それは、自己の能力蓄積を個人のスキルや知見・見識だけに止めるのではなく、如何に周囲の力を借りることができるかという総合的な可能性をひとりの人間がどれだけ持てるかということである。

単に多くの人を知っているということではなく、ひとり、ひとりの方と信頼関係の絆で結ばれているかどうかということが問われる。

極論をすると、仕事はひとりでは完成し得ないのだ。たとへ職人であっても、研究者であってもモノや価値を生み出す過程においては、有償無償の形態は様々であるが誰かの援助が必要である。

自分の力量を超えた仲間の絶対量がその人の可能性を広げていく。そこには経済的なやりとりを超えた世界がある。

誰かが自分に仕事を頼む時、その人個人が持っている経験や能力だけではなく、その人につながる多くの良質な仲間の存在を無意識のうちに感じて信頼を寄せていく。
自分を支えてくれる仲間を得る源泉は、損得勘定や経済的な恩恵の有無だけでなく、それ以上にその人とつながることが、第三者にとって将来のキャリアの可能性を広げてくれるという予感からくる。あるいは何か自分が困った時に必ずこの人が手を差し伸べてくれるという安心感による。それは、組織における階層的な上下関係を超える。

良識な集団としてのキャリアの関係性を構築するためには仕事に向き合う覚悟が求められる。それは、一つ一つの仕事が自分以外の第三者にとって価値があるかということを問い続けながら仕事を積み重ねることによって得られていくのだと思う。

こうして考えるとキャリアを学ぶ基礎になることは、人間としての在り方に行き着いてしまう。
その答えを探すには自分自身と対話する機会と時間を持つことしか得られない。時間がかかる地味で面倒な作業でもある。しかしながら自分自身との対話の時間が多い人は、人に対する思いを寄せることができるのだと思いを深める。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内 飯田橋にて 竹内上人


2018年01月12日

独りになること

 

みなさま

 

寒い日が続いています。東北地方では大雪とのこと。今朝は都内で朝を迎える。
今週の初めの成人の日、私はこの成人の日に掲載される伊集院静さんが執筆しているサントリーの企業広告を毎年楽しみにしている。かつては山口瞳さんであった。

今年のメッセージは、「独りで旅に出なさい」と記されていた。
私が特に心を奪われたの箇所は、「…私の提案は、旅だ。それも若い時に独りで旅に出ることだ。日本でも、海外でも構わない。1番安いチケットを買いなさい。金がなければ、君の足で歩き出せ。自分の足で見知らぬ土地を歩き、自分の目で、手で、肌で世界に触れることだ。…」
『金がなければ、君の足で歩き出せ。』と言うフレーズは、現在の自分自身に対しても自戒をこめて強烈に迫ってくる。

キャリアを考える時に人間の成長はその環境に大きく依存する。自分に創造的な変化を要求する環境に身を置くことは、自己成長や鍛錬の場を与えてくれる。人間的な成長や感受性の高まりもそこから得られる。
ただ、その機会をどうやって連続的に獲得していくことができるかということが難題でもある。

組織集団の中に埋没していくと時々自己を喪失し、他の影響の中だけで時間を積み重ねていくことがある。それはある意味居心地が良いのだが、成長のための機会を他人に委ねてしまうことになる。

大学の受験で悶々とした日々を過ごしていた時、当時京都大学の教鞭をしていた森毅先生のエッセイが今でも心の中に沈殿している。そこにはこう書かれてあった。「京都三条大橋の近くに1匹の老犬がいる。老犬は悠然と通りを横断する。車の往来をまるで全く気にしていないかのようにゆったりと。おそらく彼は鋭敏な神経を研ぎ澄まして周囲に気を配っているのだろう。そんな不安をその姿から感じ取る事をさせず悠然と歩いている。独りで渡ることは集団で渡るよりも安全なのだ。」表題も「独りで渡れ」だった。

私たちは大人になっても、どんなに歳を重ねても、順境な時も、逆境の時も自分のキャリアの選択を自らの責任で行い、そこから何を学び、何を感じ取るかを自分自身の心で捉えていく前向きな努力を時々は試みたほうが良いと思う。その時、時には独りになった方がいい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人


2018年01月05日

ビジネスアスリート(Business Athletes)=職業競技者について

 

みなさま

 

新年あけましておめでとうございます。新しい年が、皆様にとって豊かな年となりますことを祈念いたしております。

ビジネスアスリート(Business Athletes) と言う言葉を数年前から考え続けている。仕事を通じ「働く人」の視点と「経営者」の視点の相互理解の一致点としての概念として最も適切な言葉を探し続け、この言葉にたどり着いた。言葉の意味するところを直接的に訳すのであれば、「職業競技者」となる。

今年も年始のイベントである東京箱根間往復大学駅伝競走の中継を見ながらその思いはいっそう深まる。陸上競技、特に長距離走を目指す関東の大学生にとって箱根駅伝は大きな舞台である。この日に向けて練習を積み上げる。そこには強固なトレーニングだけではなく精神的な練達や身体的な鍛錬が求められる。

また駅伝というチーム競技から来るチームメイト間の「切磋琢磨による健全な競い合い」や「友愛に満ちた相互の励まし」によりチームとしての純度が高まる。
試合に向けて普段から仲間を気遣い、自らを律し、自己鍛錬し、次の学年への継承(技術や知見)に心を配る。その姿に、企業人・組織人としての職業意識が重なる。

私の大学時代のゼミの担当教授(石田光男 同志社大学)が、人事評価制度の究極的な到達点として、スポーツの世界における爽やかさをいかに持ち込むかということを熱心に語っていた。
その絶妙なバランスの中に良好な労使関係が築きあげられるのだと主張する。ゼミの後、卓球センターに行き実践指導も受けた。そこには未熟な技術への叱責と向上に向けた指導、賞賛と励ましが混ざり合った現場でもあった。

当時学生だった私にとってはその理解が不十分であったのだが、30年以上も企業社会で働き、人事屋の現場にいるとその意味するところがよく理解できるようになった。

今年一年.私自身、悔いのない「職業競技者」としての日常生活を送ることができればと新しい年の起点に立ち強く思う。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年12月29日

良い年をお迎えください Best wishes for the new year

 

みなさま

 

今朝の松本は飛びぬけて透明感があるほどの快晴。北アルプスの山並みもまじかに、強い太陽の光に白く反射してくっきりそびえたっている。

今年も瞬く間に時間が過ぎた一年でした。本当に多くの方にお世話になったとのだとしみじみと振り返る。逆にできなかったこと、不義理をしてしまった後悔もその数倍も積み重なってしまった。新しい年は、少しでもそのお世話になった方への感謝と後悔したことへの挽回を心の糧にしていきたいと思う。

連用日記について
3年連用にするか、5年連用にするか悩んだ挙句に、新しい連用日記は、3年にした。たくさんの想いを書きこむぞと期待が膨らむ。

今日一日が良い一日となりますように、困難に向き合っている方に励ましがありますように。穏やかな年末年始になりますように。また、新しく始まる一年が皆様にとって、豊かな年となりますように。

良い年をお迎えください
Best wishes for the new year

松本にて 竹内上人


2017年12月22日

キャリア設計の手順書

 

みなさま

 

今朝の都内は澄み切った快晴で、身が縮む寒さも心地よい。

都内にこんなに静かな空間があるかと思うほど落ち着いた空気が流れるところに質素ではあるが圧倒的な存在感を示す建物があった。長い年輪を刻んだ樹木の中に囲まれている。建物の前の案内版には、乃木館と記されている。日露戦争で二百三高地攻略の指揮をとった乃木希典元帥の名にちなんでいる。実際に彼は、学習院大学の院長として、彼が歩んできた経験の全てを学生と一緒に寄宿し全人格的教育に尽力した。

今週、同じように組織人事の研究と教育に真摯な時間を積み重ねている学習院大学の守島基博先生のご厚意で、講義をする機会をいただいた。200名ほどの講座なので普段私が大学で行っているワークショップスタイルではなく講義形式でお話しした。とても礼儀正しく熱心に聞く姿勢に私の学生の頃と比較して立派だと感じた。

講義の内容は、日本の雇用構造の推移と将来の雇用環境の現実。その前提で自分自身のキャリアの設計手順について、企業人事の経験と、現在のリアルな転職の現場で日々感じていることを踏まえて伝えた。

キャリア設計のプロセスは、企業活動でいうところの事業戦略策定プロセスの手順に近い。多くのキャリア研修講座が自分探しの域で留まってしまうことに一抹の不安がある。

キャリアにおいても、需給構造からの就職先としての顧客要求仕様の明確化が求められる。そこにはキャリア上の競合分析も不可欠である。更に実際の能力蓄積には綿密に詳細計画も必要なのだ。
整理検証する項目は多々あるが、手順に沿って取り組めば必ず良質なキャリア設計図が完成する。

あとは人間力である。個人一人で持つ能力は限られる。その人の周囲に幾人の協力者がいるかという総力戦なのだ。信頼を得られる人間になるためには精神の鍛錬も必要である。

乃木希典が院長の要職にあっても学生と寄宿し、自身の生き様を通じて人の育成に取り組んだことにその意義と重みを感じる。

今日一日が良い一日となりますように、大切な方を失い、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

車中にて 竹内上人


2017年12月15日

留学生キャリア カフェ Ryugakusei Career Cafe

 

みなさま

 

都内はすっかり身が縮む寒い気配の朝を迎えている。今週末は、家族で軽井沢を訪れようと計画している。この時期の軽井沢はイルミネーションで飾られているはずだ。

今年も残すところわずかになり、大学の講義も1月末に向けてどのように最終段階に持っていくか思案する日々が続いている。秋学期は、特に東北大学で留学生の為のインターンシップやキャリア実践教育のプログラムが新たにスタートした。横浜国大においても、留学生のキャリアプログラムの内容は積み重ねられ、定期的に首都圏の大学を越えた「留学生キャリアカフェ」の開催にその留学生の力を借りながら開催できる段階に進んできた。
同じような基盤が仙台でもできればと願う。

彼らとの率直な交流はとても興味深く、少子高齢化が加速度を増す日本の雇用環境の中での輝く原石を産み出す可能性の源泉であるとも感じている。丁寧に、丁寧にその良質なメカニズムを育て上げていきたい。

これからは、留学生の良質な就業体験の機会を提供できるように企業の人事の方とその実現の可能性について駒を進めていきたい。できるだけ、体裁だけ整えたインターンシッププログラムではなく、留学生にとっても、企業にとっても価値ある機会にしたいと考えている。それが人事屋の私の仕事でもある。

また、大企業だけでなく、地方にありながらグローバルな視点でその活路を見出そうとしている優良な企業に対してもその可能性を探りたい。きっと留学生にとって経営の根幹を実践体験するよい機会になり、それはまた新たな事業成長の可能性を模索する企業経営者にとっての非日常的な刺激になるはずである。

少し面倒でも一歩踏み出すと新しい可能性に遭遇する。また、思いもかけない人と出会うことがある。そうした自分自身に起こる化学反応の機会を楽しみたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

飯田橋にて 竹内上人


2017年12月08日

相田みつおさんの言葉

 

みなさま

 

今朝は、ホテルの窓からは青空が予感がする明るい空の色を感じることができるので、いい天気になるのだと思う。

仕事の関係で、足利市に滞在し、朝を迎えた。宿泊しているホテルのロビーにあった地元の商工会議所のパンフレットの中に相田みつをさんの言葉が目に止まった。そうか、相田みつをさんは足利市の出身の方だということを思い出す。

私は、前職の会社に入社後、すぐに関連子会社の腕時計の会社に出向した。最近は見ることがなくなったALBA(アルバ)ブランドの時計を生産していた。そこでサラリーマンとして、人事の仕事につくことになる。

人事部の居室の近くにある社長室の壁にかかってあった額の中にある言葉にいつも目がとまった。そこには独特なユニークな毛筆文字で、

『花を支える枝 枝を支える幹 幹を支える根 根は見えねんだなあ 相田みつを』

と書かれてあった。

何かの機会に社長に尋ねたことがある。その時の答えは、記憶が確かではないがおおむね次のようなことであった。ものづくりにはいろいろな人が関わっている。しかし仕事をしている人の中では、商品企画や開発設計など、比較的、周囲に注目され脚光を浴びる仕事をする人もいるし、地道に自分に与えられた仕事を丹念に行い続けている人もいる。いろいろな人の手を通じて腕時計は作られているのだとと初老になるつつある社長は笑みを携え、とても大切なことを仕事に就いたばかりの私に伝えようとしていた。

当時の私は、その地道な仕事を丹念に行い続ける人のイメージを製造現場にいる人のことだと感じていた。

入社後半年間、腕時計工場の中で実習をしていた体験からそう感じたのである。
工場の中はとても居心地が良かった。何しろ毎日やることが明確で、やるべき作業の質をいかに高めていくか、また昨日よりもより多くの加工品を作り出すことができるかという素朴な目標を立て作業をする楽しさがあった。一方で時々、工場の中だけの空間にいると世間から隔離されたような感覚にも陥った。身体を作業用防塵コートで身を包みながら仕事をしていると外界との関係を断ち切られたような焦燥感にも駆られることもあった。

だから社長は常に自分の心に周囲に普段接することができない人たちのことを考えていくことが大切であるということをその額の中の文字を見るたびに思い起こしたのではないかと感じた。それは、ひとつの象徴的な行動でもあった。

相田みつおさんの額が社長室にがかかっていることを製造現場の管理職の方は見る機会があったに違いない。そこで彼らは社長が自分たちのことを忘れていないのだと確認し安堵する。そして製造現場の仲間にその安心感を持ち帰る。良質な人間関係が組織の隅々まで届く。日常的に接点がない人たちの気持ちを考え続けていくことが組織のリーダーの役割だと感じた。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

足利にて 竹内上人


2017年12月01日

来た時よりも美くしく...リズム感がある職場

 

みなさま

 

今日から師走にはいり年と共に時間の速度が加速していることを感じます。今朝の九段の周辺は小雨が降る朝を迎えています。

愛知県にある自動車関連の製造会社が運営する技能研修所を訪問した時、教室の正面に貼ってあった標語に目がとまった。
そこには、「来た時よりも美しく」と黒い毛筆で書き記されてあった。学園長の方に尋ねたところ「仕事の基本ですね、基本的な所作の心の拠り所でもあると言ったほうがいいかもしれません」と温和ではあるが、確信に満ちた語感で話された。施設内のあらゆるものは工場の現場で使われていたものを再利用されていたが、教室や実習室の清掃が行き届いているばかりでなく、一つ一つの備品の置かれ方も整然としている。長く使い込まれた一つ一つの什器類や工具 事務用品の陳列は、芸術品を鑑賞している錯覚に陥る。

製造業でよく言われる3S(整理、整頓、清掃)や清潔、しつけを加えた5Sの徹底はものづくりの現場の基本中の基本である。

そんなことを思って学園長の話を聞いていると、大学を出て、人事に配属され、間も無く任された会社紹介ビデオを撮影していた時の風景が急に脳裏に蘇ってきた。映像撮影のディレクターの方から「良い工場ですね」と言う言葉に続き、「優れた工場は、職場がきれいなだけでなく、リズム感があるんですよ。働いている人が楽しそうに踊っているようでしょう」と入社2年目ほどの私に語りかけてくれた。

この「リズム感」という言葉が30年たっても記憶の中に沈殿している。良い職場には、リズム感があると言うすこぶる抽象的な言葉が映像の現場を長年経験者されてきた方の端的な表現方法なのだ。

整理・整頓をしたり清掃したりといった教義的なスローガンの本質はどこにあるのかと思う。それは仕事をするときに自分のためだけではなく他者にとっての最大限の気遣いであり、思いやりの実際的な行動なのであると今になって気づく。そうした職場は仲間に対する敬愛の念に基づいた優れた立ち居振る舞いを一人一人が基本作法のように身につけている。
他者に対する敬意を持った気遣いがあれば、職場の中のコミニケーションは良質なものになるに違いない。働く一人一人が、そうした概念まで磨き上げられた時に職場の完成度は頂点を極める。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年11月24日

バレーボールとコミュニケーション

 

みなさま

 

仕事の都合で、静岡県の浜松で朝を迎えた。朝焼けのオレンジの光がビル街のそれぞれの建物の外壁を染めて、きれいな色彩の朝を迎えている。

先日、横浜国大で、私が担当するビジネスコミュニケーションの講座を受講してる留学生と留学生センターの講義棟の建物の前庭でばったり会った。男子学生と女子学生の二人だったが、手にはバレーボールを持っている。とびきりの明るい声で、「先生、こんにちは」と声をかけられる。まだ授業までに少し時間があるので、二人でバレーボールをするという。しばらく二人が楽しそうにトスをしながらボールがお互いの手を行き来するのを眺めていると、会社に入社した頃の風景が浮かぶ。

今から30年前の当時、会社の建物の通路脇や前庭で、先輩社員がキャッチボールをしていた。最近はそうした光景を会社の中で見ることが少なくなってきた。そもそも、都会の企業では、そのような場所も限られるのかもしれない。植木等さんを有するクレージーキャッツが出演する昔の映画では、屋上で輪をつくってバレーボールをしている光景が撮りこまれていたが、屋上がそうした場に今もなっているとは今は想像できない。

会社の中で、仕事と少し異なる身体的活動を通じた社員交流の時間は、働く人たちの気持ちを企業人から普段の生活を楽しむ人間へ一瞬であるが切り替える時間である。

現在は、お昼休みの使い方が大きく変わったのだと思う。昼食をとる時間も限られたり、仕事のメールだけではなく、プライベートなSNSを通じたやり取りに忙しくなり、職場の同僚と身体を動かしながらコミュニケーションをとるという余裕がないのかもしれない。

お昼休みに行うバレーボールやキャッチボールはゲームではないので、あくまでボールを渡す側は相手が受け止めやすいボールを出すことに気遣う。一歩間違うと、ボール自体が側溝に落ちたり、道路に飛び出してしまうからなおさら注意深く相手が受け取りやすいボールを投げる。相手もそれを理解しているから安心してボールを待つ。競争や勝負ではなく、できるだけ長くボールを交互に交換しあうことを目的とする身体的活動は、精神にもよい影響を与えるであろう。

仕事におけるコミュニケーションもこうした良好な信頼関係の上になりたっていれば、お互いが発信する情報も好意的に受け止められ、円滑な業務に繋がる。

普段、自ら発信する電子メールが、相手の立場や状態を配慮して投げかけられていればいいのだと願う。
一方的な自己本位の考えや想いでは困難な課題や複雑な問題は解決しずらい、良質で誠意あるボールを投げ続けることにより相手の気持ちも融和し、協業的な環境が整う。
仕事はいかなる場合でもチームで行われる。人間的な信頼関係があるからこそ、良い仕事ができる。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

浜松にて 竹内上人


2017年11月17日

障がい者雇用支援の構想案

 

みなさま

 

都内はすっかり身が縮む寒い朝の気配の朝を迎えている。今週末は、長野県の松本の自宅に戻り、自動車のタイヤを冬用のものに取り換える時期だと気づく。

先日、障がい者雇用に関して、特例子会社(障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社)でご尽力されている方と将来の雇用の在り方に関して、どのような取り組みをしていけばいいのかという可能性について考え方を交わす機会があった。

私自身、現在のビジネスを行うにあたって、障がい者の方に向けた雇用促進のインフラを構築したいという想いが起点にありながら、その構想の具体化に思考の中でもがき続けて3年が経っている。

障がい者の雇用と関わったのは今から25年前で、前職の人事部で障がい者雇用の担当になった時からである。様々な障がい者雇用の就労環境づくりをする中で、社会的な環境として、企業内部にある「仕事」を障がい者雇用施設に循環するためのインフラの構築とその雇用創出の為に企業が外部に仕事を循環させた貢献度を法的(障がい者法定雇用率)に換算保証する法改正の必要性を感じた。

多くの小規模障がい者雇用施設がある一方で、必ずしも潤沢で安定した条件の業務の機会に恵まれていない施設も多い。一方で、大企業を除き、単独の中堅・中小企業が障がい者雇用に直接的に取り組むことにも限界がある。仕事と雇用を結びつける仲介のインフラが必要だと。

仕事を障がい者雇用施設に循環するインフラの構想は、当時の労働省に障がい者雇用施策を企業担当者として進めたことで表彰された時に提言したレポートに書き綴ったアイデアである。くたびれかけた提言レポート書籍の中に掲載され、今も本棚にある。何度も開くので、綴りひもがほどけてしまって、ページが散在しそうな状態になっている。そして、25年たってもその言葉の実現に向けての最初の一歩も踏み出せずに今日まできている。

多くのキャリアを考える方と企業の人事の方との接点がある現在のビジネスで、お会いする方と機会があれば、この構想を話題に出す。出しながらも言葉だけで実行が伴わない焦りだけが積みあがる。転職を希望する方に、逆に私自身の相談事を持ち掛けられても困るであろう。
ただ、時には、支援の言葉を頂くことがあり、その構想の想いの糸が切れずに今日まできた。

在職中、人事の上司から、「あのね、仕事は、何をしたかということではなく、何をしようとしてきたかということが大切なんだよ」という言葉を掛けられた。今日できることを精一杯することだと自らを鼓舞する。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年11月10日

留学生の悩みと中堅・中小企業の活路

 

みなさま

 

都内は穏やかな秋の気配の朝を迎えている。オフィスの前の桜の樹木は多くの葉が落ちて、冬への装いに衣替えしている。葉を落とすことで、多くの光を路面に届けてくれる。夏になるとまた葉が生い茂り、私たちを暑い日差しから守ってくれる。このバランスのよい衣替えは自然の恩恵なのだと感謝する。

東北大学では、留学生を対象としたキャリア実践講座が後期課程から新たに加わった。この講座は、インターンシップのみならず、日本で就労したいという意思がある学生が履修している。
講義の中で、日本の企業において、なぜ、海外からの留学生の採用が拡大していかないかというテーマでグループディスカッションをした。私は彼らの答えに感心した。よくわかっているのである。

理由の上位には、どのグループも「短期的に出身国へ帰国してしまう心配」があげられていた。この心配は日本企業の人事担当者の共通の心配事でもある。3年から5年くらいで転職をされてしまうと、初期の人材育成投資が終わり、これから実践的な活躍をしてもらいたいというタイミングで貴重な人材を失うことになる。

逆の立場で視点を移すと、日本企業はプロモーションもなだらかなカーブを描き、30歳前後では、責任あるポジションにつくには早すぎ、彼らのモチベーションリソースを満たすことができない特質もある。また、長く勤めるにはあまりにも組織が同質化しすぎていて、彼らにとって、居心地がよくないのであろう。

日本は今後少子高齢化が進み圧倒的に若年労働力が不足する。要員不足を定年延長で補い高齢化した要員構造では、グローバル競争で諸外国の活力ある企業と伍していくのは至難の業だ。特に日本の産業構造の中で主力の中堅・中小企業では問題は深刻である。今後10年から15年の時間軸では、限界集落のような若年者がいない限界企業になりつつある会社が多く存在する。

欧州で第二次世界大戦の時に男性は戦地に送られることで、職場の要員不足が決定的になった。その時に女性が急激に職場に入り、女性の雇用機会が急速に拡大した。女性活用は構造的な労働力不足から支えられた。

日本の雇用市場は、男性女性も含めて総就労人口自体が経済規模と比較して圧倒的に不足する。その解決策は、高度に教育された良質な多国籍人材を企業の組織の内部に取り込むことである。あるいは彼らを取り込めるだけの就労環境を仕組みや、職場の仲間の良質な交流(コミュニ—ケーション)能力を高めることで整えていくことである。

大企業は、優秀な人材を新卒採用市場でも優位的に確保できるので切迫感は低い。中堅・中小企業は、そこが機会でもある。早く組織内部の様々な環境を多様化・多国籍化に対応できるようにしていくことだ。必ず良質な外国人が吸い寄せられる。その時、大企業よりグローバル競争では中堅・中小企業の方が優位に立つ。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年11月03日

「リーダーシップ」と「フォローワーシップ」

 

みなさま

 

早朝、美ケ原の山頂の空は、今まで見たことがないほどアーティスティックな朝焼けになっていた。赤いキャンパスに横縞の細い筋雲が描かれた背景に、王が頭の山頂が圧倒的な存在感で支えている。こうした景色を眺めながら、今週の出来ごとに思いを寄せる。

今週、ひとつの講座で、授業の時間が過ぎてもいつも出席する留学生の生徒がいない。何故なのかと少し心配になりながらも、そうか、今日はハロウィンなのだと気づく。きっと渋谷かどこかの街に繰り出し、日本で独特に昇華したイベントを楽しもうとしているのかと思いし、微笑ましくも感じ、授業を進める。

この講義は、昨年よりスタートした「チームビルディング(Team Building)」を主題に置いた講座になる。日本企業、外資系企業の事例をベースにどのような組織マネジメントが「働く人たち」のモチベ—ションを高めていくのかをそれぞれ企業の仕組みを紐解きながら考え、最終的に自身が経営者になり、理想の組織を構築する場合、どのような組織体制やシステムを組み入れるのがもっとも適しているかを考案する構成にしている。

昨年度で、講義の基本シナリオは完成させたものの、10月よりスタートして、1ケ月が経ち、自分の中でまだ講座の完成度に物足りなさを感じながらの講義が続いている。教える立場の迷いが、生徒の授業に対するモチベーションにマイナスの影響を与えてしまい、渋谷のスクランブル交差点のハロウィンの誘惑に凌駕されてしまったのかと反省もする。

普段のように講義が終わり、学生が退室した後、教材の整理をしていると、欠席した生徒たちが教室にひょこり姿を現す。大学の構内に居たのかと少し驚く。話を聞いてみると、履修必須科目の取得の指定が変更され、私の講座は来年にするよう指示されたとのこと、そのことをわざわざ伝えにきたのだ。この授業を楽しみにしているので、来年は必ず履修したいということを話しに来た。その瞬間、自分は彼らに受け入れられているのかと安心する。

組織が信頼関係に基づく良質なコミュニティになるには、健全なリーダーシップだけでなく、相互に尊重しあうフォローワーシップも大切な要素になる。良いリーダーになろうという意識は持ちやすいが、よいフォローワーになろうという気づきは失いがちである。相互のちょっとした気遣いが、上司と部下の信頼関係を強固にしていく。
今回は、生徒の思いがけない気遣いが、私自身にエネルギーを与えてくれた。

大学の近くのバス停にとぼとぼと向かう道すがら、欠席したと思った留学たちが、ハロウインを楽しむ為に街に繰り出してしまったのかと大きな思い違いをした自分の浅はかさを反省する。立派な生徒たちに自分も支えられていることに嬉しさもこみあげる。無条件の信頼が信頼を呼び寄せ、よいチームになるのだということを改めて深く胸に刻む。相手を思いやり、言動に移すことは、実はなかなか面倒である。それでも、勇気を振り絞り、面倒がらずに、ちょっとした相手を気遣う言葉をかけるこを心掛けることが、良質な人間関係の基礎となる。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年10月28日

何もしなければ、何も起こらない

 

みなさま

 

中央線で松本に向かう列車から遠く望む北アルプスの山々はすっかり雪で覆われていた。それに向き合う美ヶ原の山頂も同じように白い姿になっていた。冬は確実に近づいてきている。

ある場所で、日本人の海洋冒険家の方のお話を聞く機会があった。その方は、VENDEE GLOBというヨットで世界一周をするレースにチャレンジをしている。しかも単独でどこの港にもよらない無寄港、無補給という厳しい条件の中でのレースに向き合っていた。

出発地は、フランスの港でそこから南アフリカを回り、オーストラリアと南極の間を抜け、南アメリカの最南端を抜け、再びフランスの港に戻ってくるというレースである。前回のレースでも途中でヨットの生命線ともいえるマストが暴風の中でその風圧に耐えきれずに折れてしまい南アフリカのケープタウンに引き返すことになった。言葉で表すことができない悔しさであろう。彼が言葉にした、
「何もしなければ、何も起こらない」、と言うメッセージがいつまでも脳裏に刻まれている。

何度も生命の危険と向き合いながら積極的に究極のヨットレースに立ち向かい続ける姿から発せられると、この重みはかけがえのない至高の言葉となる。何かに真剣に取り組み格闘している人からのみ感じられる言葉の重みである。

リーダーシップを考える時にとても大切になことは、その人が持っている知識の絶対量ではなく、とてつもない情熱のエネルギーに裏付けられた実践の積み重ねである。自分自身と格闘することによってのみ得られる「力の源泉」である。第三者の引用ではなく、その人の実体験に基づく言葉によって、人は合理性の限界を超えた影響力を感じ、その人についていこうという衝動に駆られる。このことは冒険家であっても、研究者であっても、実務家であっても全て同じである。何かに真剣に向き合い続けることによってのみ行き着く場所があるのだ。

「何もしなければ、何も起こらない」

キャリアにおいても自分を失い、周囲の空気に流され、漠然と漂流し続けるのではなく、自ら舵を握って、風をとらえ、自分の内面からくる言葉を羅針盤として、駆け抜けていくことが、自らを鍛錬し、人を勇気づけることができる。
今日もそうしたことを少しでも実践する一日でありたい。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年10月21日

限界集落と限界企業

 

みなさま

 

今朝も早朝から冷たい雨が降り注ぐとともに、体に感じる冷気も一層、秋を感じさせる。

10月も第三週に入り、大学の後期課程も生徒が履修科目を確定し、彼らの表情も落ち着きをとりもどしつつある。後期はインターンシップや日本でのキャリア形成を念頭に置いたキャリア開発やチームビルディングのテーマで授業を進めていく。

主題のひとつとして、EQ(Emotional Intelligence)という感情能力の開発に重点をおく。人間の持つ感情を、可変的、開発可能な能力として捉え、自分の感情を知り、それをうまく使いこなしていく、さらにその感情を他の人たちの為に積極的に活用していくことにはどのようにしたらよいのかを学ぶ。

また、グループアクティビティを通じたリーダーシップスタイルのレビューチェックも多面的に行う。企業内の人事屋としての経験と、転職市場でリアル雇用の現場で学んだ経験をフル活用していきたい。
加えて、組織における役割を正しく演じるために、「Leadership」 と「Followership」の2つの主機能と「Manager(管理・監督者)」 ,「Organizer(調整者)」, 「Co-worker(仲間・協業者)」, 「Missionary(伝道・教育者)」 という自己に内在する4つの役割要素の理解と活用を組み合わせてチームビルディング力を考え鍛錬していく。

今回、東北大学では、後期課程からインターンシップに焦点を置いたより実践的な講座を新たにスタートさせた。留学生個々のキャリアプランを策定し、大学卒業後の日本での就労を実現するための実践的な個別指導プログラムである。高い就労意欲を持った留学生を日本の企業や組織が積極的に活用していくための動きにつなげていきたい。
人事屋としての深い反省として、留学生が日本の組織慣行を学ぶことも必要だが、日本の企業も自ら多様な人材を招き入れる自己変革も必要であることを痛感している。

限界集落(1991大野晃)という概念がある。人口の50%以上が65歳以上の高齢者になって冠婚葬祭など社会的共同生活の維持が困難になっている集落を指す。

日本は、少子高齢化の人口構成の深まりが避けられない。就労人口は、年を重ねるごと高齢化し、若年労働力は、明らかに減少しその速度は速い。そして、絶対数の減少以上に高齢化比率のもたらす影響は大きい。(15歳〜64歳の生産年齢人口は2009年:8,149万人⇒2030年:5,561万人となり比率で約3割減少。:国立社会保障・人口問題研究所調査)
特に大手企業に大量の学卒新卒者を奪われてしまう中小中堅企業ではその状況は顕著である。このままの状態が続けば、企業内に働く手がいなくなり、体力的に衰えが避けられない高齢者比率が高まるのは明らかである。絶対数が減少した日本人の労働力を奪い合うのではなく、外国籍を含めた多様な人材を積極的に組織に招き入れる準備をできるだけ早急に取り組む必要がある。

地域社会と同様に企業も定年延長や高齢者の就労促進の工夫だけでは企業の体力を劣化させる。多様な価値観と充ち溢れるエネルギー豊富な若い人材を受け入れる為に企業自身が変容しなければならないことは多い。その為の準備の時間はそう長くはない。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年10月13日

 

「掲示物」が働きかける動機付けの価値

 

みなさま

 

松本市内は早朝から静かな雨が降り注ぎ、秋の風景に染まりつつある街路樹にしっとりとまとわりついてる。本物の秋の雨なんだと感じる。澄み渡った青空もいいが、こうした細かな霧雨のような中に包まれるのも心地よい。暖かい飲み物が、より体内に染み込む。

先日、国際産業関係研究所(同志社大学内)の定例研究会に出席した。今年度は、きちんと勉強をしようと心に決め、総会から欠席することなく出席できている。継続することによる達成感も定例会出席へのモチベーションにつながる。

大学の講義でも私の成績評価の25%は出席率にしている。毎回、「自己紹介カード」に小さな丸円のカラーシールを貼る。ひと学期15コマから16コマあるが、生徒のカードに毎回異なる色合いのシールが並べられていく。出席することによる小さな達成感が、学習意欲につながるモチベーションリソースになる。後期は、生徒数が少し増えたこともあるのだが、シールをカードに張り付ける作業を本人に任せている。自分で出席のシールを貼るという単純な作業を他者に任せないことも大切な動機付け要因だと前職(セイコーエプソン)で学んだ。

取り組んでいることの可視化は、人間の動機喚起にポジティブな影響を与える。日本の製造業の現場には極めて巧みな「掲示物」が張られている。工場内や社員食堂に掲示されている様々な「掲示物」には、個人の業績以上に、職場工程ラインごとの歩留まり率や改善件数の実績推移、合理化効果のコストダウン額の寄与度など、本当に工夫された「掲示物」が張られている。これが作業チームや工程単位での競争意識を鼓舞するかの様に描かれている。これが日本のモノづくりの現場の優れた生産性と、品質向上のマジックなのだ。成果の認知プロセスを個人からチームへバランスよく配分することにより、組織としての良質な情報の交流を促す。

単に『見せかけの掲示物』と『苦労の積み重ねによる掲示物』はその輝きに圧倒的な差異を放つ。

査定や昇格昇進という個人評価の反映物としての個別動機付けも大切であるが、働く仲間と工夫して、小集団の価値を高めていくことを認知していく試みは、職場の秩序や倫理観、優れた組織活性化の原動力になる。

工場長や経営者、管理職のやるべきことは、そうした「掲示物」の前を通る時には、常に立ち止まり、思慮深い表情をしながら真剣に向き合う所作を欠かさないことだ。その風景は鮮明に働く人の脳裏に刻印される。

私も生徒から授業の後に返されるカードを指さし確認しながら、注意深く扱うよう心がけたい。その行為自体が、生徒の為というより、私自身が講義に向き合う意義と責任を心に刻みこむ大切な訓練の場なのである。

今日一日が良い一日となりますように、特に悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年10月06日

キャリアにおける日の名残り

 

みなさま

 

都内も冷気を感じる朝を迎えるようになった。セーターでもそろそろ引っ張り出した方がいいのかと思案する。

10月に入り大学でも新しい学期がスタートした。今週は、東北大学で秋学期の初めての講義を行う。私は留学生を中心とした講義を担当しているので、講座によっては、この10月入学の生徒を受け持つことが多い。日本での初めての授業に向き合う学生たち、異国の地で、文化や慣行も異なる環境に直面して彼らはどのような気持ちでいるのであろうか。

東北大学では、後期課程から3講座に講座数が増えた。ひとつは、3年前から継続しているグルーバルリーダーの為のプログラム。前期が「キャリアデザイン」、後期が「EQ(心の知能指数)」にフォーカスをあて15回の構成で授業を行う。
また、この秋から、日本企業におけるインターンシップを念頭においた講座が新しく2講座増えた。ひとつは「Internship Preparation」という日本企業の雇用慣行、雇用システムの理解と、どのようにそのシステムと自分を調整していくのかというところに焦点をおいた講義である。そしてもうひとつは、「留学生の為のキャリア実践教育」というインターンシップを行う上でのより実践的な指導を行う為のプログラムである。こちらは留学生にとってだけでなく、留学生をインターンシップとして受け入れた企業自身が、彼らを通じて、ダイバシティーマネジメントに覚醒し、グローバルな視点での組織マネジメントを行う上での起点になればと、理想は高い。(※末尾にシラバスの要旨を付記したので、関心のある方はご覧ください)

最初の講義は、彼らの不安そうな顔が痛いほど感じられる。それもそうだろう、1年生は18歳~19歳なのだから、まだ高校を卒業して間がない。自分の娘とたいして変わらない年齢で、彼らにとっての精神的には世界の辺境で、学習をスタートする最初の授業であるのだから。

私は、大学で講座をもつようになって3年になるが、その経験で身に着けたことは、講座の初期の段階は、できるだけアクティビティを伴った内容を中心に授業運営を行っている。履修する学生間での親和性を高める様々な仕掛けを身に着けた。チームビルディングがとてもその後の講座の内容を学習する上で大切であることを私自身が学習した。形式的なレクチャーをしてはいけないのだ。
時々自分は芸人か手品師なのかとも思う時がある。

コミュニケーションが成立するためには、信頼関係の構築が前提になる。いくら良質な情報をもっていても信頼関係が不在であると、コミュニケーションは成立しない。それでは、信頼関係を構築する上での前提はなにかというと、自分自身をできる限り正直に、誠実に相手にさらけ出すことから始まる。人は得体のしれないものには警戒するのが常である。となると、コミュニケ―ションの技術を身に着けるという最初のプログラムは自分は何者かということを自分自身が正しく理解し、それを第三者にどのように伝えるかという手段を学ぶことなのだ。

私自身、残りのキャリアの終盤戦、いうなればキャリアにおける夕暮れ時の最後の淡い日の名残りを感じながら、「自分は何者であるか」ということを自ら振り返り、歩んできた自分自身の道程を味わうことができることはとても豊かな時間である。
不安そうに日本での生活をスタートさせた学生たちにどう笑顔を引き出そうかと、次の授業まで考え続けよう。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人

 

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<参考 講座シラバス 要旨>

-Course Objectives- コースの目的
日本で事業展開する企業(日系企業及び外資系企業)においてインターンシップを行う前に実践的な就労準備を行うプログラムになります。
特に東北地方・仙台市内で事業展開する企業の就労環境を事前に調査した上で、企業と学生の双方にとって相乗効果を引き出すための総合的なカリキュラムになります。
実際のインターンシッププログラム(留学生の為のキャリア教育実践講座)と連動させ、学生の実践的な就労スキルの習得だけでなく、企業における雇用体制の課題点の明確化、グローバル化やダイバーシティマネジメントの環境整備に向けた提言やコンサルテーションにつながるように地域企業や行政機関との連携を行いながらプログラムの品質を段階的に向上させていきます。
この活動を通じて、学生の視点で、地域中核企業がグローバル化し事業成長を果たせるように支援いたします。そして、学生の主体的な参画により強固な事業基盤づくりに貢献していきます。

-The goal of program- プログラムの目標
留学生が日本の企業や組織を深く知り、日本におけるキャリアの選択を促す契機となるだけでなく、日本企業で就労することを通じて、特に地域経済の活性化とグローバル化を飛躍的に向上させるための東北地域における推進エンジンになることを目指します。
このプログラムを通じて、留学生の日本での就労率の向上と地域企業の活性化・グローバル化を目標とします。
最終的には地域におけるグローバル人材の主要機能としてのひとつの役割を担うことを目指します。

Goal of Study - 講義の到達点 –
– Learning through program – プログラムで習得できること

1.日本企業や組織における組織マネジメントや意思決定の全体像と対応力を習得できます
2.長期的な視点でのキャリア設計を描きあげることができます
3.様々な局面に適切に対応できるリーダーシップ力を身に着けることができます
4.より良い人間関係を構築する能力を身に着けることができます
5.ビジネスにおける問題解決の基本的な手法を身に着けることができます

Content and Course Schedule – 主要な内容とスケジュール –
講座内容とスケジュール
Schedule of the Class
授業回数:15講座

プログラム1:(講座:1-3)
「日本企業の人事・組織風土の理解」
・日本的な雇用慣行の理解

プログラム2:(講座:4-6)
「日本企業の評価の仕組みの理解」
・採用・昇進昇格・組織管理の仕組み

プログラム3:(講座:7-12)
「自己のキャリアデザインの策定と面接・就労スキル」
・日本の標準的な選考面接の模擬訓練

プログラム4:(講座:13-15)
「どのように組織に自分を売り込むか」
・信頼され、期待される人材になるために必要条件の理解と習得

竹内上人


2017年09月29日

自分の感受性くらい

 

みなさま

 

一気に秋の気配を感じる冷気に包まれた朝となった。確実に季節は弛緩した身体を引き締めていく。

九段のオフィスの壁に新聞の切り抜きがピンでとめられてる。時々仕事の合間にぼんやりとその存在に目を向ける。ピンを外して読み直すときもあるし、自らが身を乗り出し、眺めることもある。
その切り抜きは、3年前に事業を始め間がない時に掲載された地方新聞の一面の最下部にある「斜面」という表題で日々掲載されるエッセイである。
朝日新聞の「天声人語」のようなものである。「天声人語」であれ、日経新聞の「春秋」であれ、時々、気になるエッセイは、私のデスクの横にしばらく張られるのだが、いつしか自分の中で整理され外されていく。
だが、なぜかこの切り抜きだけ、役割を終えずそのまま残っている。

『31歳の女性は夫の暴力を受け離婚した。事務仕事などで9歳の長女を養うが、手取りは10万円。娘の夢をかなえてやりたいが、この生活から抜け出せる方法がない。「私の元に生まれたせいだ。申し訳ない」子供を見つめては涙ぐみ、心の中で謝る。』

厚労省の平成27年の調査ではひとり親家庭の相対的貧困率は、54.6%に達する。相対的貧困率は、国民生活基礎調査の貧困線では年収122万円(2012年)と定められている。また、この層では約40%が非正規雇用となる。絶対的水準が低いことに加えて、雇用安定性も喪失している。

身の回りで起きる私たちの心を痛める現実に向き合うことは難しい。先日、オフィスへ戻る道すがら、コンビニエンスストアの前の歩道の横にうずくまっている女性がいた。気分が悪そうで、ハンカチで口元を抑えて静かにしていた。声を掛けようかどうかと迷いながら、その瞬間のためらいのまま、他の通行人と同じように心中謝罪しながら通り過ぎる。

私は時々山に登る。もし、登山の途中で、同じ場面に遭遇したら、間違えなく声を掛ける。日中のビジネス街の歩道と、登山道の山道の違いは何なのかと問い直す。同じ趣味を持ち、登山における危険を共有する仲間であるという感情がある限り、そうした場面では、必ず声をかける。

社会でも職場でも、声を掛けるべき仲間は、自らの周りにいる。、日常の営みを通じて、仕事を通じて、自分以外の人の痛みを感じられる感受性くらいは、持ち続けたい。ばかものになってはならないのだ。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

注)表題について、茨木のり子氏の詩のタイトル『自分の感受性くらい』を引用。

九段にて 竹内上人


2017年09月22日

品質保証と品質管理 キャリアに求められるもの

 

みなさま

 

今日は午後から天気が崩れる予報となり、今朝の都内もその兆候を受けたかのようなどんよりとした薄暗い朝を迎えている。

ある打ち合わせの場面で品質についての話題になった。その話題は、私自身が事業会社に在籍した時に、品質保証体系と連動した機能・組織業務分掌体系の策定プロジェクトでの苦労の記憶を覚醒させた。

組織の外に向けて、商品やサービス、あらゆる付加価値を提供する時、それぞれに対する出来栄えの目標を定めて、継続的に供給することが求められる。人間はその安定した時間の積み上げによって信頼感を寄せる。この会社、この組織、この人から出される「何か」は安心して受け入れることができるという感覚を形成する。その時間軸が長期化すればするほど、信頼度は加速度的に増し、絶対的なブランドとして競合の追随を許さなくする。伝統的に裏付けられたブランドにはそうした努力の積み重ねが世紀を超えて蓄積され、ブランドがもつ価値に対する基調となる思想が昇華し受け手側の脳裏に刻印される。

「品質」には二つの視点がある。受手が期待する品質水準(目標品質)を定めることと、その品質水準が目標幅から逸脱しないように管理し、機動的・自律的・主体的に修正プログラムが発動されるように「仕組み化」することである。
その目標品質を定めるプロセスの起点は受け手の期待値、商品やサービスでいえばお客様の期待値となる。顧客の期待に無頓着な独善的な提供価値は淘汰され、やがて消滅する。注意深く、わが身を振り返り、知ろうとする継続的な努力が不可欠なのである。
多くの企業で、品質に関する大義名分は高尚であるが、実際の資源や経営者がとる時間配分を観察すると、二次的、補完的な処置がとられていることが多い。人事的にも品質に卓越した人材が組織経営の重責を担うケースに出逢うことが少ない。
最終的に人づくり、組織風土に連鎖し、ブランドを対外的に認知させていく機能でありながら現実的な取り扱いは異なる。起こるべくして発生した品質トラブルに対して、事後処理の作業を行いながら、消極的な反省を繰り返す。

キャリアに関しても類似している。それぞれの人がもつ職種や役割における提供価値の目標水準を定めることなく、漠然と時間の流れに身を任せていると、他からの信頼感を喪失していく。
組織における品質保証や品質管理の話題は、自分自身が社会に対して担うべき役割について真摯に向き合い、その言動や立ち居振る舞いにおける良質さを常に向上させ続けるための内在的なメカニズムを面倒がらずに保守、鍛錬する大切さを思い出すきかっけになった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年09月15日

45年のキャリアが問いかける意味

 

みなさま

 

今朝の松本は一層、秋の気配を感じさせる心地よい冷気に包まれている。あいにく天気は悪くなる方向に向かうようだが、季節の移り変わりのシグナルは着実に身近にある。台風の接近と北方からの飛来物の情報で不安な朝でもある。

少し前にニューミュージックの世界でデビュー以来45年のキャリアを積んだ人のコンサートに久しぶりに行くことができた。彼女は年齢もすでに還暦を過ぎ63歳になっていた。
それでもその人のステージは年齢を感じさせないエネルギーと若さを観客に投げかける。身体的な若さだけではなく精神的な若さの象徴である純粋さと常に向き合って活動していることがそのステージの空気から鋭く私たちに問いかけるような感覚で、年齢を超えた特殊なオーラを放っている。キャリアが放つ合理性の限界を超えた影響力のリアルであろう。会場にいる観客もそれぞれ45年の共有した時間の積み重ねからくる一体感を持ち、それはそのまま彼女への絶対的な信頼感へとつながる。

同じ業界で同じ専門性のキャリアを17歳から還暦を超えてまで継続することの凄さがここにある。日本の伝統工芸を担っている匠と言われる職人にも同じような時間の積み重ねから放たれる独特な影響力がある。

キャリアの悩みに直面している方とお話をする時、会社を変わり、今の仕事とは全く別の領域に移り住みたいという切実な悩みに向き合う。それでも私の唯一のアドバイスは業界と専門性の2つのマトリクスのうち少なくともひとつは自分の懐から離してはいけないと引き止める。特にキャリアの後半の方にはその説得の必死さは増していく。

これからの日本の雇用システムは、総額人件費管理のやりやすさとグローバル化への組織的服従の影響が強まることにより、職能給から職務給への傾斜の圧力が強くなる。評価の基準が人から仕事に変換した時に行わなければならない「職務評価」を、日本の経営や人事の方は組織硬直化の回避と、おそらく現実的な問題として手が回らなくできなくなる危惧も持ちつつこの変化を冷静に見守り、対処していきたいと思う。
同じようなムーブメントが昭和三十年代に起こったが、経営者や人事は冷静さを取り戻した経緯がある。
私は同じ仕事でも、その人が放つ影響力の違い(全人格的影響力)は人によって圧倒的に異なるという現実をいかに人事評価の世界の中に組織の論理と折り合いをつけていくか、これからも格闘することになるだろう。

45年のキャリアを持つ彼女のコンサートから私自身へ問い掛けられたメッセージであった。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年09月08日

留学生キャリアカフェ〜日本でのキャリアを考える

 

みなさま

 

今朝の都内は、雲に厚く覆われ、湿った空気に包まれている。ひところの耐えられないような強烈な暑さは感じられない。確実に季節は変わりつつある。

先日、都内で「留学生キャリアカフェ」を開いた*1。10名の異なる大学の留学生が集まった。2時間程度の短いセッションであるが、日本の典型的な採用面接をシミュレーションしながら自分自身の表現方法、人事担当者の採用基準について、実践的に体験できる構成にした。

大学の教室でやる雰囲気とは全く異なり、少人数でソファーが置かれたリラックスした空間で、コーヒーやチョコレートを楽しみながらキャリアを考えることはとても貴重である。セッションの冒頭、卒業後は日本で働きたいか尋ねた。半分の学生は日本の企業で働きたいと不安な目をしながらも答える。注目すべきは、『きっと私は、日本の会社の規則やルールは窮屈で耐えられないと思う』と答えた学部3年生の女子学生の言葉である。

私もそう思う。たしかに日本の会社は、なぜ、こんなにも窮屈なのかと。自分の個性を封印すれば、それなりに安楽な場所なのであるが、純粋に自らの個性を表に出しすぎると、周囲の抵抗と介入に直面する。

多様性やイノベーションを大切にしたいというメッセージはどの日本企業も高く掲げている一方で、同質性を問う。それは、均質化され高品質の商品・サービスを効率的に大量産出する環境においては有効なマネジメントのエッセンスであったと思う。

このキャリアカフェでは、日本企業や組織において具体的な人事規定や賃金規則の仕組みを理解し、日本の雇用慣行のエッセンスを考える場にしたい。ルールの探索を通じ、ルールが何を求めているか、制定された背景は何か、ルールの公平感の基準はどこにあるのかを考える機会にしたい。そして一歩踏み込んで自分たちで日本の雇用慣行の中でどのようなマネジメントに関するルールをつくるべきかを自らの思考の中で設計する段階に誘いたい。単純に現在のルールの迎合ではなく、これから日本が直面するグローバル化、産業構造の転換、労働力人口の減少、雇用流動化を踏まえ、どのように働く人が変わらなければならないかを誘発する新しいタイプのルールを学生視点で考案し、企業に逆提案できる留学生コミュニティーを醸成できればと願う。

私は、実はあまり、先の女子学生の悩みについては心配していない。なぜならイノベーションを起こそうとしてる優れた日本企業のトップは、自らの組織を窮屈なものにしたくないと心から願っており、彼女の入社を願っていることを知っているからである。窮屈でない会社を、自分たちで発掘し、創出することの後押しをしたい。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年09月01日

障がい者雇用

 

みなさま

 

今朝の都内は、秋のような心地よい空気に触れる感覚である。一週間前の金曜日と比べるとまったく異なる季節の匂いに包まれている。

今から25年前のこの時期、私は、長野県の松本市内にある事業所で行っていた知的障がい者雇用の説明会の会場にいた。前職のセイコーエプソンで新たに設立を試みた知的障碍者の方の雇用を拡大する為の専門クリーニング工場(クリーンルームで着衣する防塵着のクリーニング)設立について御親族や支援団体の方々で構成する「長野県手をつなぐ親の会(現在:長野県てをつなぐ育成会)」の方々に新しく取り組みを始める事業の概要をと採用選考の手順についての説明をしていた。
民間企業は、社員雇用において、一定数の障がい者を直接雇用することが法律で定められており、その一環で当時のエプソンも様々な雇用拡大の取り組みを行っていた。

【民間企業や公共の行政機関は従業員の規模に応じて一定数の障がい者を雇用しなければならないことが法律で定められている。民間企業は常用雇用労働者に対して現在は2.0%、来年からは、その率が2.2%に引き上げられる。更に平成33年には、2.3%になることが確定している。】

私が人事部に在籍し、障碍者雇用に取り組み始めた時、実務的にも、精神的にも支えになった特例子会社があった。博報堂DYアイ・オーとリクルートプラシスというそれぞれ、広告業界、人材ビジネスの業界で事業展開を行う会社が設立した特例子会社である。
先日、四半世紀も前に自分が取り組んだこの障がい者雇用の促進に関して、この博報堂DYアイ・オーと所縁のある方と偶然お会いした。九段の私のオフィスにも来てくれた。当時のことを思い起こすきっかけともなった。

前職の会社にも特例子会社があったが、当時の心境を素直に表現すると、静かに保護され、自らの存在を積極的に外に示していくという空気を持たない立場にあった。
しかし、私がこの東京にある特例子会社を訪問した時強い衝撃をうけた。同時に何かをしなければならないというエネルギーを輸血されたような感覚になった。マネジメントを行う管理監督者の方も、働く障がい者の方も、社会に対してとても強いエネルギーとメッセージを積極的に発信していたのである。
「どんな仕事が適切でしょうか」という当時の私のおぼつかない問いかけにも「何でもできますよ」と返ってくる。次の質問がとても恥ずかしくなるような力強く、笑顔で。

知的障がい者雇用の雇用説明会の現場にあって、出席されたお母様からの質問で、『やはり採用の基準は重度障がいの手帳をもっていても、作業効率が高い軽い障害の方だけなんでしょうか?』という問いに対して言葉につまってしまった。ご両親からすると切実な気持ちが伝わる。
説明会の際、隣に座ってくれていた当時の手をつなぐ親の会の代表の方が、説明に戸惑う私を助けて言葉をつないでくれた。『この地域に合って大きな企業が知的障がい者の為の働く場をつくってくれること自体が、私たちの希望の星です。みなさんでこの希望の星を大切に育てていきませんか』と。私は横でその言葉を聞いていて、気持ちを平静に保つことが難しい状況になった。設立に向けて、その時まで重度障害者多数雇用事業所の複雑な適用申請や認可プロセス、クリーニング事業を行うためのクリーニング生活衛生同業組合や近隣の河川環境保護団体からの同意書の取得、また、そもそも、当時のエプソンとしては初めて知的障がい者の雇用に踏み込むこともあり、社内説明と支援・理解の時間の積み重ねが走馬灯のように脳裏を駆け回った。

本当に気持ちが沈んだ時には、自分を励ましてくれた人のことを思うとよい。いくらそれが遠い昔のことであってもきっと、前に進む勇気だけでなく、これから、何をしなければならないかをやさしく思い返してくれるはずだ。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年08月26日

古事記

 

みなさま

 

ホテルに備え付けの机の引き出しの中に「古事記」が置かれている。このとてつもなく古い物語には、天照大御神(あまてらすおおみかみ)や須佐之男命(すさのおのみこと)と一度は耳にした覚えのある神様の名前が書き記されている。その数がとても多いことと、どのように読みあげていいのか見当がつかぬ漢字の配列に後ずさりする。
ただ、よくよくあらすじだけを読み流すと、物語の中に登場する神々の極めて人間的な面に触れ、その意外さに驚く。先の二人の神様が姉弟であることも初めて知る。天照大御神が姉であることも。

この二人は、ある時、仲たがいをして、兄の天照大御神が怒ってしまい、天の岩屋戸(あまのいわやと)という洞窟に入り込み、神々が暮らす高天原(たかまのはら)が闇に包まれる。困った八百万の神(やおよろずのかみ)達は相談し、洞窟の前で祭りを行い、その喧騒に気を取られ外をのぞいた隙をみて、天照大御神は、外に引っ張りだされ、二度と洞窟に入らぬようにその入り口にしめ縄を張られたとのこと。おかげで、高天原にも明かりが戻ったという。

神様の世界もとても人間的な味わいがあるのだと、冒頭の部分だけを読みながらその「古事記」という書物の面白さに触れる。

普段の私たちの生活の中も、人間的な営みの連続である。毎日の中に楽しみや喜びがあったり、落胆するような出来事や深い悲しみに遭遇もする。いがみ合ったり、嫉妬をしたりといったことも、最近の目まぐるしく変わる天気のように周期的におとづれ悩まされる。おそらく今日もいつもと同じような様々なことが身に周りに起こるのであろう。
それでも、神様ですら、兄弟げんかをし、引きこもりのような行動をするのだからと、この「古事記」の物語に触れて自らの小心さに安心したりもする。

週報が古事記のほんの冒頭のあらすじの紹介になってしまったが、歳を重ねても知らないことは多く、なにかに主体的に触れ興味を持つことで新しい視点に気づく。新しい何かに触れた時に、感じ取れる純粋さと、謙虚さをもつことも大切だと。そして、その精神の柔軟さがある限り、人生の楽しさも増してくる。

時間とともに朝の陽ざしも強くなってきた。今日は久しぶりに天気が回復するのかと安堵する。太陽の神である天照大御神のご機嫌もよさそうだと考えると、この強い日差しの感じ方もほほえましくなり、気分も前向きになる。気持ちの持ち方が変わると物事の見方や接し方も変容する。新たな小さな出会いを長く続く価値ある出会いに変換することも可能だ。そうしたちょっとした心の持ち方で、人生が大きく変わっていく。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

伊勢にて 竹内上人


2017年08月19日

成績表と人事評価

 

みなさま

 

都内は早朝から充分すぎる水分がまとわりつく朝を迎えている。今日も熱風と湿度と格闘する一日となるであろう。

今年の夏は予定が重なってしまったこともあり、講座をもっている2つの大学の春季課程の採点に着手するのが遅れてしまった。大学の事務局の方には大変な迷惑をかけてしまっている。妻は高校教諭なので、採点や通知表づくりに悪戦苦闘してる様子を無責任に眺めていたが、自分が担当すると難しい。
私の講義はキャリアデザインの講座を除くと、チームで様々なワークショップを行いながら課題の理解を深めていくプロセスの為、よく生徒を観察しなければ、個人の評価は判断しがたいという悩みがある。

会社の人事評価も同じだが、人に対して定量的・定性的に評価をする難しさを痛感する。出席率や小テストは、数値化されているデータだが客観的な評価のプロセスの精度を高めるだけでいいのかという漠然とした悩みが取り除けない。なぜ評価をするのか、目的に合致した評価項目や評価プロセスをどのように取り入れるべきかの設計が難しい。

一方で会社の人事評価はその答えが明快である。会社の評価の人事的な狙いは組織目標に適合する人材を長期的に育成、誘導することにその重きが置かれている。実際の職場では、個人の成果判断や,言葉を選ばず実態を述べるとすると、上司部下の人間的組み合わせによる恣意性が残ってしまうことも現実である。
しかし、多くの企業で働く人事屋の心意気は、そうした現場の実情を超えたところにある。公平感(fairness)は組織倫理の観点から外せない視点だが、それ以上に賃金体系の設計やその運用の意図の拠り所は長期的な事業戦略の実現に寄与する人的資源開発にある。また組織価値や企業ブランドのクオリティを高める実践者を励まし続けるところにある。人事には、将来に向かってのメッセージが織り込まれなければならない。

企業で長年にわたり人事屋として実務を担っていた自分の大学における提供価値は、日本の組織にこれから参入する学生達が、どうすれば組織適合能力を身につけ、ひとり一人が活き活きと活躍できるのかという命題に対して、授業設計を行い、その習得度を評価体系に内在化させていくことにその答えがあるのだと思う。

横浜国大の私の講座の生徒の幾人かは、都内のクライアント企業の人事の方の好意により、インターンシップで働く機会を得られている。10月からは、東北大学でも留学生のインターンシップを推進する新しい試みの講座もスタートする。親しい人事の方に留学生の就労機会の可能性を頼んでいきたいと思う。暑さで燃焼不良をおこしつつあった秋季の授業設計に取り組むモチベーションも始動し始めた。

今日一日が良い一日となりますように、悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年08月12日

キャリアデザイン

 

みなさま

 

早朝の松本は涼しい朝を迎えている。昨夜の22時に松本駅に到着する新宿発「特急あずさ」からは、お盆休みを利用して帰省する人に交じって、同じくらいの登山の身支度をした人で溢れかえっていた。これから山登りだという挑戦者としての風貌を携えて、意気揚々と改札を出る。彼らにとって、松本駅の改札は出口ではなく、北アルプスの登山口でもあり、入り口なのだ。上高地から涸沢を経て穂高や槍に登るのか、燕岳から、常念に向け、表銀座を縦走するのか、それぞれ、綿密に立てた登山計画で彼らの表情は期待で溢れている。

講座をもっている大学で、最終発表会があり出席した。留学生が中心のプログラムで春季課程講義で学んだことを振り返りながら発表する。最終学年の学生は、卒業論文の発表の場にもなる。
私は春季講座では、長期的なキャリア設計のクラスとEQ(こころの知能指数)の二つの講座を担当した。
私自身、学生から多くを学んだ4ケ月間でもある。

人事屋として、長く企業人事を経験し、また現在の仕事を通じ、キャリアの節目に直面している方とお会いする度に、キャリアの計画の有無や品質は、「自己の棚卸し」、「リスクや機会の抽出」、「キャリア(職業)計画の立案」、「進捗管理」の繰り返し作業の絶対量の相異によるところが大きいと痛感する。
無意識のうちにこうしたサイクルを習慣化している方は、常に自己の立ち位置と向かうべき方向を持ち合わせている。物事に向き合う姿勢も主体的である。

20歳初めの学生の段階から、自分のこれから進むべきキャリアのシナリオに関して推敲を重ねることによって、それぞれの人生の物語の出来栄えは良質なものに必ず変容する。キャリアは生き方でもあるので、自分との対話も深まる。自分との真摯な対話の総量が多い方は、他人に対しての理解力も優れてくる。

手順を学び、地道にこのサイクルを凡庸に繰り返すことが大切である。どの年代でも遅すぎることはなく、あきらめずに直ぐに着手することが大切なのだ。経験値は必ず身についている。経験値を形式知化することによって、新たな気づきや、夢も浮き出てくる。50歳からでも、還暦まで、喜寿、そして米寿までのキャリアを前向きに考えてみることは素敵な興奮を覚えるはずだ。
願わくは、その年代の方には、自分自身の為だけのキャリアではなく、「他人に分かち合うキャリア」の視点も加えてほしい。きっと前向きな気持ちになる。

今日一日が良い一日となりますように、避けられない悲しみや困難に向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年08月07日

宮沢賢治

 

みなさま

 

週報と言いながら、3週間もお休みをとることになった。毎週金曜日に一週間を通じて感じたことを言葉にすることを試みたのだが、想いはあるのだが、文字にすることがなかなかできずに、今朝も書くことができないと、焦燥の念で断念する金曜日の朝が続いた。

気分転換に東北旅行で花巻を訪れた。訪れた日の気候が、どんよりとした曇り空、時より小雨が降るといった塩梅で、なんとなく、イギリスの北部を旅行した時のような感覚と重なる。私にとって、花巻はいつか訪れたい特別な地でもあった。

少し肌寒く、どんよりとした厚い雲に覆われ、湿度を感じる気候、時間の進み方が明らかにゆったりしている。こうした空間は、自らの関心を内へ内へと誘い込む。この空気感で育ったことが、宮沢賢治の独特な世界を産み出しているのかと現地に滞在して思った。

日常を超えて、深く何かを考えたり、想像したりする時には、人間は喧噪を離れないといけないのだと。

宮沢賢治で頭に浮かぶのは、「注文の多い料理店」、「銀河鉄道の夜」などの物語であり、あの「雨ニモマケズ」という散文である。

その重厚で思慮深い言葉の流れの中で、私が心を引き付けられるのは、後半である。

『・・・東ニ病気ノコドモアレバ 行ッテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ッテソノ稲ノ朿ヲ負ヒ
南ニ死ニサウナ人アレバ 行ッテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクヮヤソショウガアレバ  ツマラナイカラヤメロトイヒ ヒドリノトキハナミダヲナガシ サムサノナツハオロオロアルキ・・・』

30年以上経験した企業の人事の仕事を離れ、現在の職業に就いてから、キャリアにおいて節目と向き合っている多くの方と会う。本当に深刻な場面に直面してる方も多い。
多くの場面で、力量不足の為にその方の窮地を救い出すことができずにいる。そうした時に、この宮沢賢治の後半の文章が私の脳裏を静かによぎる。
だから、その地に行きたかった。どのような空間でこのような文字を書くにいたったのか肌で感じてみたかった。

この散文は小さな手帳に数ページにわたり、丁寧にという感じの文字ではなく、気持ちに任せてという勢いの文字で書かれている。そのバランスの悪い文字の形が、切実さを感じた。

自分でできることは限られている。限られている中で、できるだけのことをする。
花巻の旅行はそうした慰めと少しの勇気を与えてくれた時間であった。
等身大以上のことは、無理が生じるが、せめて等身大のことは愚直にやり続けたい。

今日一日が良い一日となりますように、避けられない悲しみに向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内にて 竹内上人


2017年07月08日

夏目漱石

 

みなさま

 

昨日(2017年6月29日)、マッケン・キャリアコンサルタンツ株式会社の第16期(2016年7月1日~2017年6月30日)における事業報告と7月1日からスタートする第17期の事業計画及び新たな中期計画(3ケ年)の方針を共有するキックオフミーティングを行いました。

2014年7月1日に事業を担い、瞬く間の3年間でした。この3年間で、多くの方のご支援と励ましを頂き、貴重な時間を積み上げてこられたこと、本当に感謝しております。
また、一方で民間企業での人事の経験しかない自分が、人材に関する実ビジネスの経営を行うことに対して十分な価値を提供できなかったことを振り返ります。それらの出来事、経験が深く自分の中に沈殿した朝を迎えました。

この3年間、転職・キャリアの転換に直面している皆様、クライアント企業の皆様、特に私と同じ人事の職務で組織課題に向き合っている方々、今まで縁のなかった大学で講座を担うことを励まし支援してくれた方々、授業を受けてくれた学生の一人一人、私の人事屋としての経験に声を掛けてくれた経営者の方々とその会社で共に仕事をしている同僚、そして、事業理念に共感し、一緒にビジネスを進めてくれているコンサルタント、パートナーの方からたくさんのことを学びました。

『・・・あせってはいけません、頭を悪くしてはいけません 根気づくでお出なさい、世の中は、根気の前に頭を下げることを知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまでおすのです。決して相手をとらえてそれをおそうなどと思ってはいけません。相手はあとからあとから我々の前に現れ、そうして、我々を悩まします・・』

夏目漱石が、療養先の修善寺から、芥川龍之介に送った手紙の一節です。35年以上前、受験生の時、現代国語の問題集の巻頭か、巻末に掲載されていて、それ以来、深く自分の脳裏に刻印されています。

今後も、事業を始めるにあたって自ら課した事業理念と向き合い、多くの方の助けを素直に借りて、急がず、しっかりと牛のように歩みを進めたいと考えております。
皆様のご支援、ご指導を賜りたく、なにとぞよろしくお願いいたします。

今日一日が良い一日となりますように、避けられない苦難と悲しみに向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内 上野にて 竹内上人


2017年06月27日

取扱説明書とチビ太のおでん

 

みなさま

 

今朝の西三河地方は、青空が広がっている。空と同様に、この地域は、見渡す限り平坦な土地で愛知県の中でも農業としての土地基盤整備の進んだ水田率の高い地域である。温暖な気候と矢作川を水源とする明治用水などの水利条件に恵まれ、農業生産は昔から盛んなのだ。幼い時の教科書には日本のデンマークと称されていた。

電化製品やAV機器、またコンピュータやその周辺機器には、取り扱説明書が付属している。最近の特徴はその取扱説明書が薄い。特に市場を凌駕しているスマートフォンに至っては、がっしりと梱包された箱の中にはそういった類のものを探し出すことはできない。製品自体の利用価値が、補足説明を要する必要がないほど操作性に優れている。この段階に至るまで様々な試行錯誤が繰り返され、使い手側の状況を想定した設計がされるのであろう。すこぶる多くの新技術が凝縮された製品であるので、設計詳細は極めて高度で複雑な仕掛けの塊であるのにもかかわらず使い手側はその価値を自然に堪能している。

その風景は自動車でも同じである。自動車販売員の簡単な説明はあるにしても、説明書を読んで運転をする方は稀有である。それほど製品としての完成度が高い。製品の提供価値や目的が何かを突き詰めた結果出来上がった代物だからである。

転職を考えている方の履歴書や職務経歴書から仕事の変遷で苦難を積み重ねてきたことが痛いほど読み取れることがしばしばある。本人にとってあまりにも過酷な苦労があると、働き手としての職業価値が分かりづらいことがある。経験やスキルの特徴や強み、転職先に対しての提供価値が曖昧になり、自分自身を表現するストーリー自体も迷走する。こちらが質問すればするほど、本人は自信喪失してしまう。

私はそうした状況に陥っている方のキャリアにおけるアドバイスとして、「チビ太のおでん」の話をする。チビ太のおでんは、3つの具(コンニャク、ガンモ、ナルト)が串にささっている。
一つ目の具は、「なぜ現職を離れたいのか」、二つ目の具は、「なぜこの会社を応募したのか」、最後の具は、「この会社でどのような貢献ができるのか」、これらの具が一本の串で筋の通った物語性、論理性があるか否かを問いかけることにしている。最初にこの質問に対する答えの多くは、それぞれの具についてきちんと考えが整理できている方でも、一貫性がない方も多い。味付け、風味もバラバラである。
受け手からすると、買い求めにくい「おでん」である。履歴書や職務経歴書を丹念に読み返し、その人の持つ価値が何であるかを精査する手間を有することになる。

人のキャリアと商品の扱いやすさを同じ土俵で評することは、ためらいもあるが価値交換の構造には違いがない。

最近は、「チビ太のおでん」というと馴染みがない方が多くなっているのも悩みである。最初に、「チビ太のおでん」って知っていますか。と尋ねる。笑顔とともに知っていますよという答えだけで、今日の私の説明の大かたは伝わるだろうと安堵する。誰か代替となる適切な例えのアイデアを教授してほしい。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

三河高浜にて 竹内上人


2017年06月09日

共同作業による効用

 

みなさま

 

今朝は大宮で朝を迎えた。どんよりとした雲に覆われているので、日中も重たい水蒸気の塊に抑圧されるのかと覚悟する。湿度も日を重ねるごとにその水分量を増している。私は、海の近くで生まれ育ったためか、どちらかというと夏の暑い日、耐えがたいような蒸した気候の方を好む。夏が苦手な方には申し訳ないのであるが、これからの季節は楽しみでもあり気持ちも高揚してくる。

横浜国立大学で取り組んでいるEQ(Emotional intelligence Quotient:こころの知能指数)の応用段階の講義は、私自身はじめてとなる映像を活用している。今週は、6グループに分かれて2回目の上映会であった。想像した通り、一回目の時よりも映像の品質が格段に向上している。ストーリーの構成もEQの要素を巧みに組み込み丁寧に組み立てられているのがわかる。更に随所に笑いを誘う独創的なアイデアが取り込まれている。

EQの概念理解も、自らが作業を行う時間が多くなる分、学生たち自身に内在化する。 少しずつ映像の中に取り組む要求品質を上げて実践的なEQの理解を深めていけるプログラムを開発していきたい。
こうなると、回を重ねるごとに昇華した学生たちの作品をどこかで紹介したいという欲求に駆られる。この講座のクラスは、留学生と日本人学生の人数バランスが非常によい。双方が多面的に映像制作を通じて、相互理解と相互学習が促されている。多様性を学ぶ良質な場でもある。

先日、こうした外国人留学生と日本人との組み合わせのアイデアについてとても興味深い機会を得た。東北大学の先生とお話しをしていて、斬新な良い発想で難問に向き会おうとしている試みを聞き、共感したのと同時に、人事屋の視点で、現場での応用展開のリアリティーを感じた。その試みは、日本人学生と留学生のチームでインターンシッププログラムを行おうとするプランである。

この思想の発展性は、企業の中での応用編としても現実的である。外国籍社員の立場、職場管理職の立場、人事主管部門の立場のそれぞれで、受け入れインフラが脆弱な日本企業の現実の人事システムにおいても負担の軽減と学習効果の最大化を図れると感じた。日本人と留学生の新入社員との一体化した職場配属と支援プログラム、成果蓄積インフラの整備は今の日本企業にとって現実的な策である。入社2-3年目のOJTリーダーとの組み合わせもでもよい。

留学生に適切なプロセスで日本企業、あるいは日本でオペレーションをしている外資系の企業で働きたいと感じさせるためには、留学生だけでなく企業自身の取り組み動作も強く求められる。
留学生と日本人学生が高いモチベーションで一つの映像作品を楽しみながら創り上げる現場に立ち会って、かつて抱いていた私自身の古い人事屋としての固定概念も溶解した。共同作業は、多様性の壁を容易に乗り越える有効な武器である。

今日一日が良い一日となりますように、避けられない苦難と悲しみに向き合っている方に励ましがありますように。また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

大宮にて 竹内上人


2017年06月02日

就職活動

 

みなさま

 

昨夜の松本は、雨も激しく打ちつける嵐のような夜であった。何度か、雷の響きに覚醒してしまったのだが、起床してみると雨は峠を越したようでおさまっている。どんよりとした雲も残るが、青空が広がり美ケ原高原の先端の王が頭の山頂付近は、太陽の光で稜線のコントラストを際立させているし、背後に厚い雲の塊を背負っているものの北アルプスの山並みもその威容を誇っている。

都内のいたるところでリクルートスーツに身を包んだ学生の集団に遭遇した。就職に向けて活動している多くの学生にとっては、昨日、6月1日が実質的な内定先企業を確定し、試行錯誤した就職活動に終止符を記す節目となる。面接解禁日が、内定日となる傾向は昔から変わらないが、5月に入ると、その名の通り五月雨式に内々定を口頭で告げられた学生が安堵しながら、次は、どの内々定先に最終的に入社先を決めるのか悩む期間でもある。まだ活動中の学生にとっては焦りは募るばかりであろう。

人事担当者にとっても、内々定辞退がどの程度になるかひやひやしながら見守る日々もいったん終了する。
経団連に加盟していない企業の多くは、より早期に内々定をだすが、主要企業の選考活動が終了する節目となるこの日にならないと、本当に予定していた学生が自社を選んでくれたかどうか安心できないのもこのためでもある。
こうした新卒学生の選考スケジュールは、若干時期は変わるが、仕組み自体は、私が企業に入社し採用担当者として日々を過ごした30年以上前と全く変わっていない。

企業を選ぶ側の学生も、学生を選ぶ側の人事も、長い神経戦を繰り返すのであるが、学生にとってキャリアの意識の中には、どうしても「職種」の概念が欠落する。どの産業を選ぶのか、どの企業を選択するのかというところに神経のほぼすべてを注ぎ込むので仕方がないのであるが、入社後も、基準となる職業観をもつことなく、受動的に付与された専門的な経験を積み重ねることになる。幅広いローテーションの中で、人材育成を行い適材適所を突き詰めていくことが応用動作と思考に長けた人材育成にすこぶる有効であることは確かであるが、願わくば、基準となる専門領域を鏡にし、多様な職種と格闘することができればその経験の質は一層深いものになる。

「就職」という言葉が構成される本来的な意味は、やはり生涯歩むべき「職業」に就くという意味が語源としてあるのであろう。たとへ、本来の思考や想いと異なる職業についていたとしても、意識として自分の基軸となる職業は何かということを考え続けることが大切なのだ。

さもなければ会社を離れざる得なくなった時にキャリアにおける自己のアイデンティティーを失うことになり、途端に迷走する。企業にとっても単に年齢を積み重ねてしまった職業観に乏しい依存体質の人材を抱え込むことにもなる。

自らが寄って立つ職業観をもつことが、悪路が続いても、キャリアに卓越した操縦者になる。キャリアを深く考えるということは、生き方を考えるということでもある。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年05月26日

年功賃金

 

みなさま

 

今朝の九段の周辺は重い雲に覆われ、小雨が降っている。靖国神社の境内の裏側は、遊歩道の様に周囲を散策できる。都心の中でも深い森の中にいるような錯覚に陥る。境内のちょうど裏手には、日本庭園と茶室がある。小満のこの時期、暦通りの梅雨の走りのような重たい湿度を感じながら歩くのもいい。

3週間前、グローバルに展開する外資系企業人事の友人と食事をした。会話の中で話題になった「ノーレーティング(No Rating) 人事評価の廃止」という言葉が頭から離れず、この間、自分の中でどのようにかみ砕くべきか考えが行ったり来たりしていた。
実は、私はこの言葉をこの時、初めて聞いた。昨今の人事マネジメントの中では話題なのだということだ。自分なりにあれこれと調べてみる。巨大なグローバル企業も長年提唱してきた人事評価システムの「9ブロック(業績×能力:Valuesのマトリクス評価)」を手放し、ノーレーティングに移行している。

ノーレーティングは、昇給原資の配分を現場マネジメントに委ね人事評価の裁量権を大幅に委譲するというものである。極端に表現すると、職場の昇給原資の総額(キャッシュ)を管理職に渡し、金額配分自体を職場に委ねるということである。確かに刺激的である。

従来の人事評価制度における大きな枠組みは、人事部門が査定区分や視点を全社的に標準化し、その枠組みの中で相対評価を促すものであった。

とてつもなく手間がかかるMBO(目標管理)の硬直的な目標設定とライブ感のないフィードバック面接、人事部門による中央集権的な評価分布のガイドラインの強制による弊害は、企業人事に長く携わってきた私も深い反省とともに理解できる。

内部調整コストが肥大化して、企業価値を産み出さない管理工数に四苦八苦させられている評価システムの閉塞感や、MBOによる目標設定自体が賃金に直結してしまうことを恐れ、その制度の意思と反しチャレンジングな目標をためらう惨状は打破しなければならない緊急の人事課題である。

一方で、現場のマネジメントによる「人の評価の脆弱性」にも何度も遭遇した。配置や上司部下の組み合わせによって、評価が180度変化することがしばしば起こる。

本質的な観点で、人を評価する仕組みの意味は何かと考えさせられる。「年功賃金」という古ぼけた日本古来の評価制度が散々な目にあって肩身が狭い思いをして久しい。
多分に誤解もある。「年功」とは、もちろん年齢給ではなく、歳を重ねるとともに、働く人の技量が高まっていくことを前提としている。
つまり、組織や上司は、歳とともに部下ひとり一人の経験・技量を高めていく人材育成の重い責任を負わされる。
「人事評価」を働き手を区分する思想で使うのか、働き手を育てることを前提に組み立てるのかによって、組織における査定会議で交わされる会話の質も変わるのであろう。

私が人事を続けていたら、日本企業にもますます広がる「ノーレーティング」の導入のトップからの問いかけの意向にどう向き合うか、おそらく忖度せず、嫌がられながらも抵抗の立場をとるだろう。
その反面、残骸化した既存の評価システムを早急に断捨離し、経営にとって良質な代替案の導入をいそがなければならない。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年05月19日

映画製作

 

今朝の愛知県西三河地方の天気は快晴。日中はだいぶ気温が上がりそうな空気感になっている。

「キャリアデザイン」講座と「EQ (Emotional Intelligence Quotient心の知能指数)」講座の2つの講座を横浜国立大学と東北大学で、主として海外からの留学生を対象にした講座カリキュラムの中で担当している。4月から進めてきているので、クラス学生間の交流もだいぶ馴染んできている。留学生が中心になっているが、日本人の学生も少人数だが交じっていて、異文化、言葉の壁を乗り越えて積極的にグループワークなどに取り組んでいるが頼もしい。

春季課程でのEQ講座は、昨年の秋季課程で行った基礎講座のアドバンスコースとしての位置づけになる。映像を使用したグループ活動を初めての試みとして組み込んだ。EQの概念の理解を深めるために3~4本の短編のビデオ映像を作成する。

今週、第一作目の映写会を行った。①上映前の監督・主演俳優・女優の挨拶、②上映、③上映後の映像解説とプレゼンテーションは続く。どんな内容になるのか期待が半分、不安が半分であったが、結果は予想をはるかに上回るものとなった。私自身が学生たちの力量の高さに驚愕を覚えることとなったのだ。

今回のテーマは、感情を正しく理解する能力と、習慣的な(癖となってしまう)感情反応のパターンをマネジメントする能力の2つのEQ Competency(感情能力)を取り上げて、5分間の映像化を試みた。一つのグループ(講座では映画製作会社)は、概ね5名から6名の学生で構成され、監督、助監督、俳優などのキャスティングを予め設定して制作する。最初だったので、脚本シナリオの展開のフレームワークだけは提示した。

講義でそれぞれのEQの概念を学んでいくということも大切だが、基本概念を理解した学生たちが、その内容を自分のアイデアで映像という作品に仲間と相談しながら創り上げていくことの効用も理解を促す。実際の理解浸透に関する評価は7月の最終プレゼンに委ねられるが、 学生の意気揚々として取り組んでいる顔をみると、この形式を試みて良かったと安堵するとともに、楽しさを通じて実効的に理解が深まる為の仕掛けをこれからの講座に中にどのように織り込むべきかという責任も感じる。

30年以上前、学生時代、映像ではないが演劇で、専攻で学んだことを舞台化した経験がある。「能力主義人事制度導入」に対する労使交渉をテーマにした。労使のそれぞれの視点で理解が深まったし、芝居を創り上げる過程で人間的な関係ができた。私は脚本担当だった。社長役は、今は大手企業の人事部長、青年部長役兼舞台監督は、朝ドラや大河ドラマにも頻繁に出演する俳優になった。

映像加工に多彩なアイデアを織り込み、編集ソフトを駆使する学生の卓越した力量が企業組織で活かせる経験として学生一人一人が内在化できるように精一杯苦労したい。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

愛知県三河高浜にて 竹内上人


2017年05月12日

連用日記の効用

今朝の松本は、青空が広がっているのだが、北アルプスの稜線は、かすむような湿り気で覆われ、気温がこれからぐんぐんと上がっていくことを予感させる。昨夜の最終列車で、新宿から松本に戻ってきた。深夜に到着した松本駅は、もう冷気を感じない。確実に夏に向かって季節は移り変わっている。

昨夜、友人と食事をしている時に、友人がしばらく前に仕事において大変な時期があり、そうした耐えがたい時間をどのように乗り切ったのかという体験談から、「連用日記の効用」の話になった。
私自身はもう30年にわたって連用日記をつけている。現在の日記は、3年連用である。日記をつけ始めたころは、5年連用の日記を使っていたのだが、一日の余白が少なく、書き足りない事態に陥る日もあり、余白が少し広めの3年連用の日記に変えた経緯がある。日記は毎回、「高橋書店」出版のものに決めているので、構成の体裁が同じで使うにあたって都合がよい。

日々の振り返りだけではなく、その日に気づいた「言葉」を記録として書き足している。また、読んだ書物の「覚書き」や「引用文」が書かれている。

時々読み返すと、数年前の同じ日に、何をしていたのかということに目が留まる。その時の心境が瞬く間によみがえる。過去の連用日記を3、4冊同じ日を開き見比べることもあり、記憶が10数年前まで蘇る。
仕事やキャリアにおいて自分自身が困難な局面に向き合っている時に、どのように受け止め、どう乗り越えようと苦心しているかの手がかりがそこに切実な言葉になって残されている。その当時の苦悩ぶりが鮮明によみがえるが、その艱難に自分自身がどのように立ち居ふるまったか、また、どう対処したらよかったのではないかという指南書のような存在になっている。

書物から学ぶ対処法も良いが、リアルな自分から学ぶ知恵も代えがたい。

連用日記の効用に実利的なものもある。一年のサイクルの中で、日常的な営みで規則的に行うことを記録していくことによって、忘備録のような機能も果たしてくれる。加えて、翌年度、また3年後の日付の欄にどのようにしたら良いかを、予め書き込んでしまうことが極めて有用であることに気づいた。日常生活において学習する作業を連用日記の中で個人的に繰り返している。

日記を買い替える時にたくさんの余白がある1年タイプのものに惹かれることがあるが、きわめて個人的な事情の過去と未来をマネジメントしてくれる連用日記の効能が優先する。先週の週報で触れた「計画(プラン)」を過去の経験の蓄積を踏まえて自分自身に課すことができる。これは窮屈なことではなく「未来への牽引力」になる。

今年は、連用日記の最終年度なので、暮れには新しいものを買い求める必要がある。今の悩みは、その連用を3年連用にするのか、5年連用にするのか、自分の視界の広さと密度との葛藤が暮れまで続く。たかが日記なのだが、連用なので購入後の後悔が3年、5年も続いてしまうのがやっかいだ。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人


2017年05月05日

計画(プラン)について

この連休は、天候も良い日が続いている。今朝の松本も快晴を確信させる雲一つない空が広がり、王が頭の山頂の稜線がくっきり浮かびがる。この2日間連続で麓から登っているのだが、今日もまた、あの山頂に登ったら、北アルプスの稜線の鮮やかな須姿を同じ目線の高さで堪能できそうで、早々にこの週報を書き上げ身支度をしたくなる衝動に駆られる。

書棚に一冊の古ぼけた文庫本がある。何度となく持ち出され、旅行の時の気まぐれで鞄の中に放り込まれ、道中に付き合わされるので、そのくたびれ方も悲哀が漂う。

「学生に与う」と題された河合栄治郎氏の著作である。河合氏は当時の東京帝国大学の経済学部の教授であり社会政策・労働経済研究の第一人者でもあった。すでに絶版されているようで大きな本屋でも、ネット書店でも探し出せず、かろうじて中古本で求めるしかない。学生にこうあってほしいという氏の願いを込めたものでもあるが、広く働く人にも絶賛された書籍でもある。

この本は、1940年6月15日に日本評論社から出版された。戦時下の統制が厳しくなる中、河合氏は1942年に一切の文筆活動を禁止され、43年には出版法違反にて有罪判決、翌44年に亡くなっている。

私は長い休暇の時期なると無性にこの本を想う。その中の第二部「私たちの生き方」の中に組み入れられている「日常生活」の項を読むのが好きだ。

そこに綴られている印象のある言葉にとらわれる。『・・・何よりも大切なことは一定の計画(プラン)を立てて規則正しく生活することである。プランをたてるなどとすると、縛られて窮屈だという人があるが、自分のプランで動いていない人は、多くは他人のプランで動かされているものである。・・・』と冒頭から手厳しい。その後一日の模範的な生活の組み立て方に続く。暴飲暴食をしてはなぜいけないかとか、スランプの時にはどうしたらいいかということにも触れている。経験則に従ったきわめて実用的な手引きなのである。

生涯の仕事をどどのように積み重ねていけばよいか、キャリアを設計するということもある意味で窮屈な事でもある。しかしながら誰にも拘束されずに自らの意思をもって歩むということはすこぶる「自由」でもある。自らに課したプランや原理原則に従うことは、実は他人に自由を奪われないということである。窮屈なことも自分を感じる大切な時間でもある。

今から75年ほど前、国家のプランにも屈せず、言葉で自由を全うし、学生に語りかける愛情ある責務を全うするために信念をもって格闘した研究者の心意気に深い敬愛の気持ちを感じる。連休の後半、かつて河合栄治郎氏という人物が存在し、53年間の生涯を彼のいうところの自由を堅持し、生き抜いたことに励まされ、これからの自分のプランをどのように描き、周囲と調和をとりつつも守り抜くかということを少しでも考えられる時間として過ごしたい。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人


2017年04月28日

学ぶ機会

 

みなさま

 

早朝、オフィスの向かいにある靖国神社の周辺を歩くと、少し前までふくよかな勢いを競っていた桜の姿はなく、新緑の濃い緑に覆われてきている。今朝の九段の周辺は、少し曇天ながらも、上着を羽織ることなく、歩いても少しばかりの冷気が身体に心地よい。

4月も半ばを過ぎ、大学の講義の履修者も確定して、春季の講座がスタートする。事業をスタートしたと同時に、お世話になった方の縁でお声を掛けていただき、横浜国大と東北大学の二つの大学で授業をもち瞬く間に2年半がたつ。人事の実務家として30年超にわたって民間企業で「人」や「組織」に関して格闘した経験や体験を再整理しながら、次の若い世代の方たちに伝えることができる機会を得られたことは自分自身の職業人生を振り返る意味でもとても意味深い。

英語での講義の為、受講生の大半が留学生になっている。毎回、多国籍の20歳前後の学生の持つ想像力やエネルギーと、それ以上にとても礼儀正しく、良心的な生徒の存在に感謝している

この3月から、最初に担当した講座のスイス人の男子生徒がインターンシップとして再来日し、私の仕事をサポートしてくれている。日本で学ぶ留学生や日本で就労したい外国の方にとって、長期的な視点で働く場を考え、探す良質なコミュニティのインフラをSNSなど駆使して構築してくれている。
驚くことは、仕事に向き合う姿勢が、とにかく誠実なのである、物事に対して純粋に好奇心を示し、行動する。この純粋なエネルギーは、今の自分が年齢を重ねていく度に格段に劣化していることに警告を促されているようである。
彼らにとって学びを得られる良質な会社組織を探し出し、つなげていく責務をそのたびに痛感する。

履修登録の生徒からの確認のメールに添えられた言葉にも勇気づけられる。

I am enjoying your class! I’m a little bit scared for the next class because of the mock job interview but I’ll try my best. Hope to learn a lot from you again, this semester. Have a great Golden Week.

いやいや、学ぶ機会を頂いているのは、私の方です。

春季講座は、キャリアデザイン、リーダーシップ、EQ(心の知能指数)の活用を、日本の雇用慣行・雇用体系の実例を踏まえて考えていく。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

九段にて 竹内上人


2017年04月21日

年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず

 

今朝の松本は、薄い灰色の雲が満遍なく空を覆っている。美ケ原の先端にある王が頭(2034m)のあたりを眺める限り寒々しい色合いである。

寒い日が続くと思うと、急に暖かい日が続いたりと、4月の天候は松本でも目まぐるしい。
その影響なのか、自宅の近くにある松本城の桜は、今年は不思議にまだ散っていない、荒れた天候を耐えて多くの桜がその華やかさを残している。
松本はおおよそ標高が600メートル弱である。市の中心部にある松本城の天守閣の最上階が620メートルなので、松本を訪れ、お城に上るとちょうどスカイツリーのてっぺんの高さにいることになる。

市街地から100メートルくらい登ったところに城山公園という市民公園がある。松本城の桜が散るとこの公園の桜の見ごろになる、また更にその奥にあるアルプス公園は、標高が800メートルで、城山公園の桜が散りかけると、アルプス公園の桜が見頃になる。松本に住んでいると4月中は絶え間なく桜を楽しむことができる。

さらに美ケ原高原への登山道の途中にある「広木場」(1580m)には、一本の桜がある。毎年登山シーズンの初めに体を慣らすために5月の連休にこの登山道を登るのだが、ちょうどそのころ桜が満開になっている。
美ケ原へは、多くの方が車で簡単に出掛けることができる。わざわざ、麓から登山道を登る人も稀である。誰もいない山の中の少しばかりの広場にある凛として咲き誇る一本の桜の様子を毎年見て、一年の無事を確かめる。5月の初旬まで私の花見は続く。

一年を通じて、私たちの周りでは、さまざまな事が目まぐるしく起こる。良いこともあれば、つらいこともある。意に反して人の期待を裏切ってしまうこともあるし、心なく裏切られることもある。

桜の時期なると「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」(唐代詩人 劉希夷)の詩の一句が蘇る。今から35年以上も前、京都の修学院離宮の近くにある関西セミナーハウスで、恩師である中條毅先生(現同志社大学名誉教授)から新入生に語られた言葉であった。今でも覚えているのが驚きでもある。詩の意味するところは、凡庸としているとすぐに人の一生は老いたどり着いてしまうということである。目まぐるしくわが身に起こる出来事を、願わくはすべからく滋養として取り込み、しなやかに生きる糧にしたい。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本市にて 竹内上人


2017年04月14日

しなやかな強さの生み出し方

今週から、大学の春季課程が始まった。担当する2つの大学のキャンパスには新しい学生が入ってきて若さの浮揚感が強烈である。また自分が担当した講座の生徒が、インターンシップとしてスイスから来日して、日本で学び、働く留学生や外国人のための就活の仕組みづくりに力を貸してくれる。新しい年度の始まりの様々な出会いに感謝である。

九段のオフィスの向かいには靖国神社がある。付近の北の丸公園や靖国神社の境内をしばしば仕事の合間に歩く。その靖国神社の境内の中に遊就館という博物館がある。少し前になるが、優れた日本刀の企画展が催されていた。日本刀のつくり方の映像が映しだされ興味深く見入った。日本刀というのは、鉄の塊を叩き、平たく延ばすものかと考えていたのだが、そのプロセスは極めて手の込んだものであった。熱し、急冷し、叩いて砕き、重ね合わせ、また叩く、そうした骨の折れる作業の連続であった。こうして手にかけた結果、優れた日本刀が生み出される。その映像を観ながら、人が成長する過程を考えていた。

苦難や試練の連続の中で、人は時間を積み重ねていく。その過程を通じて、人間的な厚みが出る。外見は同じでも、厳しい局面に遭遇した時に立ち居振る舞いに歴然とした違いが出る。発する言葉から私心を感じさせない。苦難や試練の歴史は、その人の心の中に積み重ねられ沈殿していく。
法隆寺・東大寺の宮大工の西岡常一棟梁の話し(伊丹敬之2007)に木を削る「かんな」の紹介がある。刃には「甘切れ」が大切だと。私は、いまだにその語感が持つ意味をつかみ切れていない。硬すぎては木と衝突し、刃が折れてしまうし、柔らかすぎると、削るという機能自体を喪失してしまう。木それぞれに合わせた「しなやかさ」により、良い削りができるということなのかと。

そうしたしなやかな強さは、その刃をつくり方と日々の丹念な仕事の後の手入れの繰り返しの時間の積み重ねから生まれてくるのだと件の日本刀の打ちあげる過程をみて感じた。人もたくさんの苦難と試練に向き合う、その時の向き合い方と手入れの仕方が大切なのである。できれば避けて通りたい出来事から、何かを教訓として学び続ける人と、記憶から抹殺する人では、同じ叩かれ方をしても人間としての風味風合いに違いが生じる。人が向き合う苦難や試練は、実は大切な将来の機会に繋がっていると考えると希望ももてる。

今日はキリスト教の教会歴では、Good Friday(聖金曜日)という日にあたる。そして3日後の日曜日の復活祭(Easter)に続く。キリストイエスが群衆の前に罪人として引き出され、十字架につけられた日である。私はなぜ敬愛してきた弟子にも裏切られながら十字架につけられた出来事にGood Fridayという言葉が冠されたのかがしっくりこなかかったのだが、少しわかったような気がした。試練や艱難は、もう一つの側面として次にしなやかに歩むべき機会を意味しているのだと。

今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

愛知県高浜市にて 竹内上人


2017年04月07日

働く人の官位相当表

今朝の松本は、どんよりとした雲に覆われ、小さな雨粒が降りてきたり、やんだりと、はっきりしない降りかたを繰り返している。松本城の公園の桜は、まだまだ先で、やっと紅白の梅が、その役割を果たしたという感じである。

春は、多くの会社や官公庁で人事異動の時期である。新たな役職に任用されて、心が励まされる方もいるし、少し不本意な期待に意気消沈している方もいるかもしれない。ただ、働く人にとって比較的に現在でもドラステックに賃金が大きく振れるケースが少ないのも日本の伝統的な賃金体系の良さでもある。以前の週報でも触れたが、日本組織管理に根付いている職能資格制度の恩恵でもある。

何気なく、高校に通う長女の高校の国語のガイドブックのページをめくっていたら「官位」に関する一覧表を解説するページがあった。
なかなか興味深いものだと感じ入った。官位については、深い知識がなく、「大納言」とか、「中納言」などの言葉の意味合いを知らずに今まで過ごしてきた。別に知ったからといって、この時代になにか役立つこともない。

そのページには両面を使って、「官位相当表」というマトリクス表で解説が加えられていた。これが人事屋の立場でみるととても面白い。
そもそも職能給制度に裏付けられた、戦後日本の賃金制度は、担っている仕事の種類によって支払われるものではなく、それぞれの働く人の能力によって位置づけられた職能資格に対して処遇されるものであり、組織の中での異動、再配置、人材育成の為のローテーションを個人が持つ賃金額にそれほど手を加えずに組織の都合によって配置できるといった卓越した仕組みを作り出したのだと事あるごとに感心してきた。

しかしながら、この「官位一覧表」をみて愕然としたのである。すでにはるか平安時代以前の古から、日本は職能給だったのだと。つまりこうゆうことである。官職としての「太政大臣」は、資格としての「位階」は「正一位」か「従一位」の位階をもつ人材が任用される。それでは、「少納言」はというと、少し下がって、「従五位の下」という位階を持つものが任用される。軍事を司る近衛府の「少将」という官位を担う位階は、「正五位の正」が相当する。

学生時代、さまざまな会社の賃金体系の歴史を紐解きながら、日本の労使関係のエッセンスを探ろうとしていたのだが、そもそも、その原型は、この官位任用の仕組みにあったのだということを知り、その歴史の長さと人々の意識の根底に与え続けた価値基準の重さを痛感した。

この春、新たに任じられた役割は、自分を鼓舞するものであったり、少し意気消沈させるものであったりするかもしれないが、自分の経験からも、第三者的な評価は、冷静に受け止めながらも、自分自身の価値基準と将来展望を堅持してほしいと思う。自分自身で、客観的にオリジナルな官職と位階を付与することが、予測不能な悪路を安定的に進む知恵なのかとも思う。この一年、頑張って、自分で定めた原理原則を厳守し、自分だけの為でなく社会や家族、自分以外の人の為に少しでも役に立とうという意思を持ち続けた方は、立派な官職や位階を自分自身で与えもいいのだ。

この週末は、天気が思わしくなさそうで、桜を鑑賞するには少し残念な天気になりそうですが、また長く桜を楽しめる時間も先に延びるという余裕も得られそうである。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年03月10日

高校入試と大相撲

今朝の松本は、深い霧に覆われている。美ケ原高原を支える山辺の谷は全く見通せない。遠く眺めると薄い雪で白く覆われている。あの雲は、いつもなら松本市内に降りてきて、同じような粉雪をもたらすのかもしれないが、この濃霧は経験上、今日の透き通るような快晴を確信させる。

今週のはじめ、都内へ向かう松本駅でいつもと異なる空気感を感じた。まず駅員の方が多い。なにか列車の事故でもあったのかと不安になったが、すぐに気づいた。同じように制服を着た中学生の集団も駅員にまして多いのである。複数の集団に分かれて友達を改札の前で待っている。友人を見つけ出すと不安な表情が笑顔になる。その集団ごとに着ている制服が少しずつ異なる。そうか、公立高校の入学試験なのだ。そうしてみると、駅員も出陣する不安に満ちた中学生を応援するかのような気持ちが入っている表情である。

同じように40年前にツメ入りの学生服を着こんだ自分自身の高校の入学試験の光景が鮮明に脳裏を横切った。試験というものは、人生の中でこうも記憶に刻み込まれるものかと驚く。
人によっては、中学への入学の段階で受験する方もいるだろうし、その後大学へ進学する人は大学入試に直面する。社会に入る時にも同じように入社試験や、公務員試験などと人生は試験の連続である。

試験は、企業に入っても私たちを悩ませ、入社後は昇格試験に続く。多くの企業で昇格試験を通じて処遇(賃金)と連動した「格」の評価を行う。毎年あるものではなく、概ね「係長」や「主任」といったリーダー的な役割を担う位置づけの段階と、「課長」などの管理職として経営の補佐層として職場をマネジメントする立場になる時に行われるのが一般的なタイミングである。
企業によっては、役職自体を給与体系上の「格」として処遇体系にダイレクトに連動しているケースもある。それぞれの体系に関しては企業がおかれた経営環境に応じるので、お互い利点も、課題点も内在化する。

次の日曜日から大相撲が始まる。スポーツの世界は企業社会以上に厳しい。前場所の成績によって、新しい場所の格が毎回変わる。その明確な選別が力士の絶えない緊張感と応援するファンの期待を引き出す。それによって、相撲自体の内的な活力を刺激し続けるのであろう。降格する力士も、降格によって自らの鍛錬の欠落を振り返り、返り咲きを誓う。年とともに力量が落ちつつも一つ一つの立ち合いに真摯に向き合い、降格していきながらも「相撲道」という道を究めていく。こうした心根、とらえ方ができれば試験や組織の中の評価も価値があるように感じる。なかなか凡庸な企業人にはそうした気持ちには至らないのであるから力士の精神性は貴いのであろう。

来週には長野県の公立高校の入学試験の発表がある。どのような結果でも将来の人生の糧になって欲しいと願う。40年前の私自身のその時は、悔しくも不合格であったが、その経験から多くの学びを得たと思う。

週末は、春の気配を感じさせる予報です。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年03月03日

武相荘 プリンシプルについて

今朝の松本は、刺すような寒さは感じられない。ただ、北アルプスは、深いグレーの雲でしっかり覆われている。3月3日、暦の上ではひな祭り、もう春も近い。今日は健康診断の予約を入れている。一年間の不摂生の指摘を反省する日でもある。

東京都町田市にある白洲次郎氏が暮らした「武相荘」に友人と訪問する機会を得た。長い間、その場所で空気感に触れたい場所の一つであった。

白洲次郎氏に関する書物を幾度か触れるたびに、また数年前にNHKで放映された長編のドラマを観た以降、たびたび登場するこの「武相荘」という場所がどんなところか直接訪れたいという衝動にかられていた。
白洲氏は、戦後処理に吉田茂首相の側近として、GHQとの折衝に携わるのであるが、GHQ側からの印象は、「従順ならざる唯一の日本人」と称された人物である。
特定の個人なので、人によって評価は様々なのであろうが、私の心情には、「格好の良い人物」の最右翼として位置づけられている。
白洲氏は、物事の判断基準に彼自身の定めたプリンシプル(Principle)を大切にしていた。 プリンシプルとは、「原理・原則」、「公理」、「行動の基準」、「根本方針」の意である。
時として、周囲の空気に迎合して、平凡なる日常生活を過ごす身からは、なかなか厳しい指摘である。あいまいな空気の中で、時流に流され判断して深い思慮に欠ける行動をとってしまうことが幾度かあり、その折々に自分自身のプリンシプルの脆弱さとあいまいさに後悔を繰り返す。

些細な日常生活の所作にもこのプリンシプルは息づくのであろう。日常の所作に配慮を欠いた弛緩した生活を続けていると、大切な判断の時にその実行が危ぶまれたりもする。
そうした日常訓練もともなうのかと思うと、なかなかこの「プリンシプル」を追求することはやっかいでもある。

キャリア(仕事)の選択におけるプリンシプルも同じように大切な基準である。何故この仕事を選択したのか、仕事に対峙する時にどのような原理原則で立ち居ふるまうのか、仕事を通じてどのような価値を創造し、他に対して何で貢献するのか。仕事と生き方は切り分けられないところがあるし、連続した時間の流れの中で分断してしまうと自己矛盾を起こす。できれば一貫したプリンシプルが欲しい。

この週末は、件の「武相荘」で買い求めた数冊の白洲次郎氏や白洲正子氏の書籍を、雛あられをほおばりつつも、進みつつあるわが身の老眼と格闘しながら時間を過ごそうと思う。

少しずつですが、春の訪れの気配も感じます。週末にむけては少し天候も崩れかけてくるようですが、お身体ご留意ください。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本にて 竹内上人


2017年02月24日

線香の煙とキャリデザイン

 

みなさま

 

あたたかくなったり、急に冷え込んだりと寒暖の差が身体の体温調整機能を活性化してくれる。九段のあたりも少し肌寒い朝を迎えている。今日は首都圏のクライアント訪問があり都内にとどまっている。

京都のお線香を家業とするお店の家訓に目が留まり、それからしばらくその言葉が脳裏に沈殿している。

『細く 長く 曲がることなく いつも くすくす くすぶって あまねく 広く 世の中に』
(京都 松栄堂 家訓)

家訓であるから、その家の家業をどのようにマネジメントしていくかを、先代が後世の継承者に戒めをもって伝えたい言葉なのであろう。

それ以来、この言葉が、「働く人」のキャリアの積み重ねの在り方と重ね合わせられる。今月は、いくつかの民間企業の階層別研修を受け持った。比較的若い世代の方々を対象にしたキャリア研修と題されたプログラムである。多くの働く人が、自分自身のこれからの働き方の基本デザインをどのように描いていけばいいのかを感じる機会でもある。現在を肯定しつつも、これから先、このまま歩んでいけばいいのか、普段は表に出すことをためらうこの面倒な宿題を研修の場によって、物置小屋の奥から引っ張り出されることになる。

私は、ひとり一人のキャリアの設計も、企業の戦略策定の描き方と類似性があると考えている。正しい経営戦略を有している会社は、市場からも求められ続けられ、社会に不可欠な価値を提供し続ける。当然のことながら組織のモチベーションも高く、また働く人たちの職業倫理も高い。
個人が向き合うキャリアの設計図も同じようなことがいえる。極言すれば正しい手順と描き方で、キャリアデザインという自分自身の職業計画書を策定し、日常管理のプロセスで自己マネジメントを適切に行えば誰でも社会にとってより頼りにされる卓越した人材になるのだと。

そしてこれは、持って生まれた素質ではなく、あきらかに後天的に習得できる技能なのである。企業経営がそうであるように、活動の沈滞を市場や顧客に転嫁した瞬間にその組織の自律性は劣化する。成長を急ぐあまり、論理の飛躍した経営判断をすることによって手痛いしっぺ返しを食らう。生身の人間のキャリアも他社にその自己の不活性化の原因を転嫁した瞬間に輝きを失ってしまうし、論理的にストーリー性がない職業選択をしたとたんにキャリア上の脱線をしてしまう。
混沌とした職業環境に落ち込んで途方に暮れている方の救援活動も行いつつ、こうした気づきや学びの場を提供したいとも思う。

線香であるから、おそらく香りが伴うのであろう。良質なプロセスで創り上げられた線香の香りは、多くの支援してくれる仲間を引き付ける。瞬く間に過ぎていく2月の終わりに、自分自身の線香の煙の空間へののび方と香りがどのようなものであるかを想像することも楽しい。

風も強く、花粉に悩まされる方も多いかと思いますが、どうぞ、お身体ご留意ください。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内九段にて 竹内上人


2017年02月17日

自分の成績表

今朝の九段周辺の空気は、肌に心地よい冷たさである。いつも週末を迎える松本の刺すような冷気は感じられないので、私にとっての都内の朝は一層暖かいと感じるのであろう。依頼された企業で入社5年目の社員を対象にしたキャリアデザインの研修を行うため都内にとどまっている。

今週は、大学の秋季課程の学生の成績評価をつけるのにあれこれ悩みながらの一週間であった。当初定めた大学のシラバスという私の授業計画書では、①出席率25%、②レポート25%、③授業での参画度25%、④プレゼン発表25%という構成で成績をつけることにしている。
授業の構成がグループワークに基本をおいているので③の「授業での参画度」を組み込んでいる。どのようにグループワークに積極的にかかわったのか、まとめ上げる時に傍観者にならずに協力的なスタンスを維持し続けることができたか、結果を急ぐあまりに乱暴なまとめ方をしていなかったかなどという観点で観察してきた。
民間企業の人事評価でいうところの「プロセスの評価」である。そうなると、①の出席率は出勤率、②のレポートや③のプレゼンテーションは実績・成果に該当するのであろう。

先日、大学の同窓と久しぶりに会った。伝統ある日本の製造業で人事部長になりたててであった。話を聞くと、人事考課をまだやっているという。専門的な話になるのだが、「人事考課」とは、能力、業績、勤務態度・意欲を客観的に数値化したものである。その数値データは、昇給や賞与査定、昇進・昇格に反映させる。人を評価する仕組みが二階建てになっている。人事の流行は「人事考課」は廃止し直接、MBO(Management By Objectives) といわれる目標管理に基づき結果成果に着眼した評価や、「役割評価」という職責をかなり細かく定義・市場価格と整合をとり「職務」をベースに評価することが一般的になりつつあると思っていたが、「態度」や「意欲」などの「全人格的評価」に目を向け、かたくなに続けている会社があるのかと感銘をうけた。

企業のブランドは最終的には「私」を超え、「組織という公(おおやけ)」のために上司が見ていないところでも職業倫理に基づき勤勉に働く、良質な人の集団が存在するか否かである。小売りの現場においても、良質なお客様は、かならず販売員の心根の透明性を見抜くものである。そうした、たたずまいのある組織の実現に真剣に向き合っている人事の方に勇気づけられもした。

組織が「働く人」を評価する意味をよく考えてみたい。公平に評価し、適正に賃金を配分するということが基本ではあるが、別の側面は、人に組織が深い関心をもち、「働く人」を勇気づけ、仕事に対するモチベーションを促し、前を向いてもらうように支援していくというメッセージを伝える貴重な場でもある。

大学の事務局の方からメールをいただいた。まだ成績結果が登録されていませんので急いでくだいさいというものであった。大学の授業の評価は一方的で、なぜこの評価をしたのかという個人個人にフィードバックをする機会がない。そんなことはおそらく学生は求めていないのだが、私はとてもやり残し感があるまま成績をつけることに申し訳ない気持ちを感じる。納期に提出できていない言い訳でもあるのだが。事務局の方には本当に申し訳なく、私の今期の評価は納期を守れない点で「不可」なのだと猛反省である。

週末は天候が少し崩れてくる予想ですがお身体ご留意ください。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

都内九段にて 竹内上人


2017年02月10日

レッカー車の到着を待ちながら考えたこと

今朝の松本は氷点下1度、それほど気温は下がらなかった。雪を覚悟していたのだが、道路にうっすら白く湿度がない粉雪が覆う程度。時々週報をみて、長野の大雪の様子を心配される方から便りをもらうのだが、長野市と私が住む松本市の天気はたいてい異なる。雪の降り方も全く違うのである。どちらかが大雪の時は、どちらかは何ともないことが多い。

企業研修のプログラムの打ち合わせをする機会があり、グローバルコミュニケーションで必要な要件は何かということについて考える機会があった。グローバルという冠がついているので、そこには言語(端的には語学力であり、英語の力量を指す)の問題と、多様性(Diversity)を受け入れる能力が思いつくのだが、コミュニケーションを担う力という観点で考えてみると、そんなに問題は簡単ではない。

私は、コミュニケーションが成立するには、3つの要素があると思う。ひとつめは、「伝える力」である。これは件の企業研修のプログラム設計において、海外にある販売・製造現地法人とのビジネス上のコミュニケーションや、ガバナンスを行う上で「英語力」が日本の企業人には決定的に欠けているという切実な危機意識からくる。もっともな話で話せなければ、話にならない。また、敬語も含めた話し方や表現力もこの「伝える力」に入る

2つめは、相対する人間関係における「感受性」を受け取り、自己の感情を最適な状態にマネジメントする能力である。相手の心の変化を瞬時に且つ的確に読み取り、自己の心情をコントロールし、適切に対応させることができる感情のマネジメント力である。こちらは幾度か大学での講座の内容を通じてご紹介しているEQ (Emotional Intelligence Quotient:こころの知能指数)の卓越性に裏付けられる。EQ以外にもMBTI (Myers-Briggs Type Indicator) のように性格を16タイプに分けその違いと特徴を理解し活用するといったものもある。どれも適切に取り入れ活用すると「感情の優れた使い手」になることは間違いない。

3つめは、外交的関係性(Diplomatic Relationship)を理解し構築する能力である。相手にとって自分が有益な存在になるような関係性を演出する能力である。自国の首相も苦戦しているのであろう。3つのコミュニケーション能力の中で最も難易度が高い。①相手の困りごと、立場を理解し、同じ視点で考えること、②相手の期待値に適合する価値を提供できる要素を自己の保有能力や関係資本(人脈・ネットワーク)から抽出し提供すること、などである。前職で次世代リーダー育成のプログラム担当をしていた時に一橋の組織論の先生が「ディプロマシー:Diplomacy」というボードゲーム(第一次世界大戦前の緊張した関係にあるヨーロッパを舞台にした覇権を巡って争うボードゲーム)をプログラムに取り入れていた意図を今更であるが理解した。

昨日、夏のセミナーの会場施設の下見で軽井沢に向かった。軽井沢駅でビジネスパートナーの方と待ち合わせ、セミナーハウスに向かう。その方から道路の状態を配慮され、自分が乗っている4WDの車で一緒に行きませんかと誘われたが、長野県在住の気のゆるみもあり大丈夫です、とそれぞれの車に分乗して向かった。中軽井沢の別荘地区に入ると結構な坂の連続。案の定、私の車はセミナーハウスにもう一息のところで、アイスバーンと急こう配に妨げられ立往生。一瞬の相手から発する空気を的確に読み取っていれば、同乗し無難にセミナーハウスに到着できるはずであった。しばらく、レッカー車―を呼び寄せる時間を動かなくなった車中で、自分のコミュニケーション力のなさを悔やむこととなった。それもEQを教えていながら、「感受性の力量」の欠落であったので、恥ずかしい限りである。

まだまだ寒い日が続きます。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新 しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人


2017年02月03日

パイは焼いてから食べよう

今朝の松本は氷点下6度、冬の快晴の朝を迎えている。王ケ頭(2024m)の背後から強い日の光を浴びる。瞬く間に節分の日を迎え、暦の上では立春を迎える。少しずつだとは思うが、日の長さを感じ、日中の暖かさを感じる時間も多くなるのだと嬉しくもなる。

二つの大学の講義も今週で終わった。後期の講義はリーダーシップとEQ(こころの知能指数)をテーマに構成したものと、チームビルディングの要素を加えたものである。最終講義は、後期15回で学んだことを、自分自身で12枚程度のスライドでまとめ上げ発表する。またリーダーシップとチームビルディングの講座は、4~5名程度のグループで理想的な組織をどのように組み立てていくかをまとめる。

今期の学生の発表はとても卓越したものであった。学生なりに読み解き、考え、創造したスライドは目を見張るものだっし、発表も堂々としていた。

チームビルディングの講座の発表で事件が起こった。チーム発表のプレゼンを最終的にまとめ上げる役割の学生が、インフルエンザで出席できなくなったのだ。チーム発表の順番を最後にしたのだが、件の学生からの応答は途絶えている。本人は、メールで送ったようなのだが、うまく受け取れていない。
そこからチームの緊急対応が始まった。この日のチームメンバーは欠席した男子留学生を除き、一人の日本人の男子学生と3名の女子留学生で構成されていた。私は教室の後列で、他のチームの発表を聞きながら、スライドを失ったチームの様子を観察していた。他のクラスメートのチーム発表を聞きながらも、相互で俊敏に打ち合わせをしている。自分たちの発表の順番の少し前に彼らの顔つきに安ど感と明るさがよみがえった。

発表は、部分的に分担して手元に残っていたスライドをプロジェクターで投射しながら、足りないところをメンバーが交互に表現豊かにスライドなしで発表した。危機に直面した組織でありながら、団結心とスライドなし表現するために、個々の表現はとても熱のこもったものになっていた。

授業が終わった後、そのチームの雰囲気はとても一体感があった。危機を一緒に乗り越えたことからくる利益共同体としての仲間意識が醸成されていた。組織には、「リーダーシップ(Leadership)」だけでなく、それを相互に支える「フォロワーシップ(followership)」の良質さも不可欠である。そして、何よりチームとして何かを成し遂げる一体感、「メンバーシップ(membership」にたどり着く。その時に「私(わたくし)の利益」は薄くなり、共同の利益を享受する。

友人と食事をしながら、「パイは焼いてから食べよう」という話で盛り上がった。パイ生地をこねている時に焼けてもいないパイの取り合い合戦や、身の丈を超えた大きさのパイをこしらえようとする滑稽さを思いながら、「その話はまず焼いてから・・と」、チームとしての成果を最優先して活動するメンバーシップの大切さを再認識した。チーム一体で成し遂げたら、パイの分配も冷静になるものだ。
ちなみにこのパイとは、どのようなパイであろうか・・私のイメージは労働運動発祥の英国の伝統的なお菓子の定番のアップルパイなのだが。みなさんのイメージは。

今日の節分、後片付けに困らない程度に豆をまき、厄を払いと招福を願いたい。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。

松本の自宅にて 竹内上人


2017年01月20日

大政奉還から150年

早朝の都内は曇り空で、今日は天気が徐々に崩れてそうな気配や湿感である。この時間、麹町界隈を歩くと外気温も低く、コートの中に滑り込んでくる冷気を感じる。

先々週の週報で、日本における雇用現場の実情が行政機関が発行する資料などから、失業率は3.4%で良好な水準にもかかわらず、非正規雇用比率は37.5%(対全就業者)、賃金格差も正規雇用比較で、1.4倍(25~29歳)の差、2.3倍(50~54歳)の差に広がっていること。
さらに世代を超えた影響として、子供の相対的貧困率も16.3%(2012年)に増加し、ひとり親世帯の相対的貧困率は54.6%の高水準という状況となっていることに触れた。

雇用の現場における不安定化・脆弱化、働くことの不安と焦燥感、世代を超えた労働力再生産機能の劣化が踏みとどまれず深刻な状況になりつつあることに改めて気づかされる。こうした状態が長く続くと、ひとり一人の働く人の日常生活を想像するに、さすがに日本の強みである人的資源競争力の優位性にも見劣りが出てくるという危機感を感じる。

大政奉還をした年は、1867年である。2017年の現在からちょうど150年前の出来事である。まだ、それくらいの年月しか経っていないかとも感じる。幾多の困難に直面しながらも、資本主義と民主主義を希求してきた時間でもある。豊かな環境を社会構造的に得てきた半面、この期間に徐々に高まってきた労働コストと年金・医療・地域行政維持のための社会保障費の拡大スピードに、付加価値の増殖の速度が追いつかなくなってきたことも、雇用現場に厳しい現実が問われた背景でもある。

薫陶を受けてきた人事を専門とする先生と民間企業で人事の立場にある方とお会いしながら、大企業の良質な人材の過剰雇用と圧倒的多数の地方企業や中小企業における人材不足について話をした。良質な打ち手は必ずあるはずである。

社会インフラのコストを抑制することは、家計のやりくりと同様なかなか難しい、低コストで維持できる循環型社会を意識しながらも、積極的に付加価値を増やすことを考え続けなければならないのであろう。そのための労働資源の将来成長に向けた機動的な最適配置の環境整備は急務でもある。

150年という期間のスピード感に驚きながらも、その10分の1の15年で、自分自身が「古希」という年齢になることに驚く。その前に、「赤いちゃんちゃんこ」を着させられる「還暦」まであと5年、こちらも一層驚愕する。それでも、良質な一日一日を、丁寧に積み重ねていくことが大切なことかと・・・。

今日は天候も下り坂で、寒い日となりそうです。今日一日が良い一日となりますように、また、良い週末をお過ごしください。新しく始まる一週間が皆様にとって、豊かな一週間でありますように。特に重い病に立ち向かっている方に励みが与えられますように。

都内 麹町界隈にて 竹内上人

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